かいたいに悩む指揮官   作:詠むひと

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衝動に任せて書いたので薄味


かいたいに悩む指揮官

「では解体するしかないな。」

 

 

上官に言われ、頭が真っ白になった。

俺がこの基地に赴任してからの付き合いの彼女。

 

初期艦として俺を支えてくれた彼女。

前任が戦死して、無念に多数の艦船少女が沈んだ。

唯一戦闘可能な状態で生き残った彼女。新任で勝手も分からず右往左往する俺を支え、共に居てくれた相棒。

 

「もう戦えないなら解体するしかない。」

 

艦船少女達は建造された後、強化の為に他の艦船少女を融合し強化される。

「融合」文字通り融けて合わさる。知識や記憶経験を素体となった者を強化する為の材料にする行為。

 

俺は正直、強化が嫌いだ。

ヒトガタで心を交わせる少女を材料にするなんて倫理に反すると、嫌悪感が湧く。

だから材料にするのは建造後、魂の定着前に凍結処置した艦船だけだ。魂が宿る前なら人形と同じだと自らに言い聞かせ、凍結処置を行ってきた。

偽善者の俺が行う偽善的な行為。反吐が出るな。

 

 

だが、耐用限界を超えた艦船少女は材料にも出来ないと上官は語る。

 

知識や記憶、経験は申し分無い。だが艦船として限界なのだ、言い方は悪いがスクラップを材料にする様なものだと。

 

 

艦船少女達は解体を酷く恐れている。

解体されるくらいなら戦って沈むか強化材料にされて姉妹達の力になる方が良いと言う少女達が多い。

 

解体を受けても死ぬ訳でもない。だが力を失い戦場はおろか二度と海に立つ事は出来なくなる。本来の艦船として生まれた時から出来る事が出来なくなる、そして仮初めの魂を宿し再び戦うと決めた自身をも否定する行為。

ある種の付喪神でもある彼女達にとって自らのアイデンティティーを失うに等しい行為、恐れるのも当然か。

力を失い、庇護が無ければ生きられぬ弱者となるのだ。

 

 

このご時世だ、軍も余裕が無い。

削れるコストは削りたい、それは理解出来る。戦えない者を養うくらいなら戦える者に資材を投入すべきだと。

マイナスになるくらいなら二束三文になってでも解体し資材を得るべきであると。

解体後は後方で何らかの事務職に就く事が多いと聞く。

そう思うと有りなのでは?俺にはそう思えてくる。

 

 

「解体した場合は君が彼女の後見人となるのだが、君の経済状況なら問題ないな。」

 

 

後見人?ああそうか、俺が彼女の庇護者になれるのか。守られてばかりだったが、今後は俺が守れるのか。

 

「本人の承諾も必要だから後程二人で出頭してきなさい。それまでに必要な書類を用意しておこう。」

 

 

上官の執務室を出た。指揮官として任命され訳も分からず最低限の教育を受けて、この基地に来た。

この横須賀には多数の指揮官が着任しておりそれぞれが複数の艦隊を指揮している。

ここ横須賀は旧時代とは一線を画す巨大な軍港都市になっている。

セイレーンに破壊された後、復興の名を借りた再開発で巨大な軍港と広大な演習場歓楽街を含む巨大ショッピングセンターを内包し、あらゆる必要な施設を内側に持つ横須賀要塞。

要塞化された一角に横須賀基地はある。

司令の庁舎を出て各指揮官毎に割り当てられた隊舎に向かう。広いとはいえ限られた敷地である為艦船少女と指揮官は同じ建物内で寝起きし、執務室や各人の居室も同じ建物内にある。

食堂だけは共同で複数の指揮官隊舎が時間を分けて使用している。

 

 

そんな事を考えながら彼女の居室の前まで来た。

 

緊張してきた。

これから俺は彼女に艦船としての終わりである解体処置を告げなければならない。

説得し同意を取らなければならない。

胃がキリキリ痛む、脂汗が止まらない。だが、必要なのだ。彼女はもう戦えない、もう戦わせたくないんだ。彼女の癒えぬ傷痕、震える手足が脳裡を巡る、それでも気丈に明るく振る舞う彼女の笑顔。俺は彼女をもう戦わせたくない。

 

それでもノックをしようとして、動けずにいる。

 

そうしてどのくらい経ったのだろうか、不意にドアが開かれた。

 

「指揮官。どうしたんですか?指揮官、笑顔を忘れちゃってますよ。今、お茶を入れたところなんですよ。お茶とお菓子とハンスちゃんの笑顔をいっぱい召し上がれっ!」

 

 

そう言い、彼女は俺の手を取り室内へと招き入れた。

 

「ハンスの部屋に来るのは久しぶりだな。」

 

近頃は仕事に追われ執務室に缶詰だったな。

 

「そうですよ、何度もお誘いしてるのに仕事ばっかりで全然来てくれませんでしたね。」

 

ハンスは俺に紅茶を注いだ。

 

「でもせっかく来てくださったんだから、今日はハンスちゃんの笑顔とお菓子でちゃんと休憩して行ってくださいね......それに、大事なお話。あるんですよね?」

 

「ああそうだ。大事な話なんだ。」

 

しばし、沈黙する。

 

ハンスの服装はかつての露出の多い元気いっぱいな服装ではない。消えなくなってきた傷痕を隠すように露出を下げる服装に俺が変えた。

 

「ハンスちゃんはもう、ダメ?なんですよね。こんな傷だらけの身体なんて指揮官も見たくないですよね。」

 

涙が滲み声が震え出す。

 

「戦えないからもう、一緒に居られないんですか?」

 

「違う!その傷痕だって俺達を庇ったせいだ。それは俺の責任だ。戦えなくたっていい!戦わないでくれ。」

 

前線視察として俺と他の指揮官が艦隊に同行した時、奇襲を受けハンスがその身体を盾にしたせいだ。これは指揮官である俺の力不足なんだ。

 

「じゃあ、私はハンスちゃんは......もう、要らないんですか?」

 

やはり泣かせてしまった、これも俺が至らないせいだ。

 

「違う、違うんだ。」

 

懐から手のひらに乗る小箱を取り出した。

 

「もう、戦わないでくれ。これからは俺とずっと一緒に居てくれ。」

 

箱をハンスの目の前で開ける。

 

「受け取って欲しい。仮なんかじゃない。死ぬまで俺と一緒に居てくれ。」

 

結婚システムの指輪じゃない。彼女の髪色に近い金色のリング。俺は日溜まりで笑う彼女と一緒に居たいんだ。

 

「指揮官......。私でいいんですか?」

 

ハンスは手を伸ばすが、手に取る直前で止めてしまう。

 

「ハンスがいいんだ。」

 

恥ずかしさなどどっかに行った。右往左往する俺を支えてくれたこと、お互い艦隊の事で知らない事を一緒になって調べたり勉強したこと、休日に日溜まりの中一緒に散歩した笑顔、苦しい時も仕事で発狂しそうになった時もハンスの笑顔が俺を救ったこと。いつもいつも、笑顔で俺と一緒に居てくれたこと、辛い事も悲しい事も乗り切ってきた君が好きだと。

 

 

「ぁぅ、指揮官。ぇとその。」

 

顔を真っ赤にして何か言いたげにして指を伸ばしたり握ったりするハンス。

そっと手を箱に近付け、リングを手に取る。

 

「ぅれしぃ。」

 

リングを左手薬指に嵌める。その左手を右手で覆い胸元に引き寄せた。

 

「嬉しいです。指揮官。私は......ハンスちゃんは今、絶対にこの艦隊の誰よりも幸せですよ。」

 

涙の後が残るとびきりの笑顔を俺に向けた。

この笑顔こそが、俺の力になるんだ。

 

 

 

 

「解体は......はい。わかりました。でも後方になんて行きませんよ、いつだって指揮官の傍はハンスちゃんの居場所ですよ。」

 

今俺はハンスを後ろから抱き締めて座っている。

小柄なハンスは腕のなかにすっぽり収まり顔をこちらに向け微笑んでいる。

 

 

「そろそろ行こう。」

 

そう言うとハンスはもぞもぞと動き俺に前向きになった。

 

「もう少しだけこのままが良いです。だめ、ですか?」

 

 

ああ可愛いなぁ、もう。ダメなわけないだろ。そのままハンスの頭を撫で続ける。もうちょっとだけ、もうちょっとだけな。

ハンスも俺を抱き締めて頭を擦り寄せてくる。

 

鎮まれ俺の理性!ずーっとこのままで居たいが行かないといけ、可愛い可愛い可愛い。ああもう。

 

「あと5分だけな。」

 

「はぁーい。」

 

 

その5分は俺は蕩けさせるには十分過ぎた......。

 

 

 

「よし、行くぞ。」

 

二人で部屋を出て司令の執務室に向かう。昼間だから皆仕事中で通路を出歩く者は少ない。

 

「指揮官の手って男の人なのに細くてスラッとしててキレイですよね。」

 

今、手を繋いで歩いている。

 

「事務仕事がほとんどだし、日中も外に出ないからな。」

 

ほんとは男らしいゴツゴツして太くて節くれだった手に憧れている。

 

「でも~、ハンスちゃんは指揮官の手が好きですよ。」

 

好きなら、まあいいや。

 

 

話ながら司令の執務室に着くと部屋に入りハンスと俺は司令と共に応接室に入る。

 

司令は色々な書類を机に広げ説明していく。

軍だけでなく役所に提出する書類もあり煩雑だ。最後に手に取った書類は......。

 

「これが最重要と言ってもいい。」

 

 

「懐胎処置同意書?」

 

はて、懐胎とは?字面から見ると意味は分かるけどなんで?

 

「何を呆けておる、さっき懐胎処置の説明はしただろ。」

 

「え、いや解体の方じゃないんですか?」

 

え?え?え?

 

「お前は何を士官学校で習って来たんだ?ううん?各種処置内容は必須カリキュラムの筈だぞ。促成指揮官と言っても教わっとるはずだ。」

 

あ、やっべ。忘れた。

 

 

司令はやれやれと言いつつ説明した。

解体は通称で正式名は退役。力を失い力と艤装は資材と艤装の強化パーツに分解される。その為、通称解体と呼ばれる。

 

懐胎処置とは。艤装は分解されるが完全に力を失う訳ではなくある程度戦力を保持したままで退役する事。反抗を防ぐ為の抑止力という意味で懐胎、つまり妊娠させられる。指揮官との間に子を作ることで母性を刺激し反抗を防ぐという処置。また独身者だらけの指揮官への救済措置という側面もある。

 

「どうだ、思い出したか?Z18は知ってるだろう。」

 

「はい。知ってます。だから指揮官から懐胎処置の話を聞いて嬉しかったんです。」

 

「まあいい、君は懐胎でも退役でもZ18と一緒に居る気だったんだろう。」

 

 

書類を書きその場で提出した。後は司令がやってくれるそうだ。身辺整理を含めて休暇を貰った。大所帯である横須賀だからこその余裕ともいえる。

 

 

「これで指揮官とずーっと一緒ですね。」

 

「ああそうだ。これからはずーっと一緒だぞ。お前が嫌だと言ったって離れないからな。」

 

「はい!ハンスちゃんも絶対に離れませんよ。」

 

 

その日の艦隊終礼でハンスの懐胎処置を伝えると歓声が上がった。

やれやっとくっついただの、お幸せにだの、子供が早く見たいだの。お前ら俺の親と同じ事を言いやがるな。

 

ともあれ、艦隊にも10日の休暇を与えると発表するとさっきまでとは比較にならない大歓声が上がる。

 

やれやれ賑やかな事だ。

 

「ハンス行くぞ。」

 

「はーい。」

 

明日からの予定を話し合う為に執務室に向かう。

忙しくなるだろう、早めに寝ないとな。

 

「指揮官、今日からは一緒に寝るんですよね。その、頑張ります。」

 

懐胎処置ということはそういう事だったな。あー、えーと。これからはハンスとそういう事をするんだったな。あー、何にも考えて無かった......。

 

「指揮官も初めてなんですか?だったらいつもと同じですよ。ハンスと一緒にゆっくり進めばいいんですよ。ねっ?」

 

「そうだな。いつもと一緒だな。これからもよろしくなハンス。」

 

「はいっ!指揮官。」

 

 

不安だらけだが、ハンスと一緒ならきっと悩みながらも笑顔で乗り越えて行けるだろう。

 

 

 




指揮官はロリコンではない。
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