この世界とは異なる世界の
世界線を越え、似て非なる歴史を歩むこの世界に生まれ変わる前の記憶。
ナルヴィク海戦が私の最期。
ノルウェーのオフォトフィヨルドにあるナルヴィクを占領するためにディートル少将の第3山岳兵師団第139連隊を分乗させ、
私達は吹雪の中で戦いノルウェー海軍の海防戦艦2隻を撃沈し、攻略部隊を上陸させてナルヴィクを占領した。
本来であれば2隻の油槽船による給油を受け、ナルヴィクを離れる予定だったけど1隻しか辿り着けず給油が大きく遅れた。
そのせいで翌日オフォトフィヨルド侵入したにイギリス海軍の駆逐艦5隻に奇襲攻撃を受け、この戦いで2隻を沈没させたけど、残りの3隻には逃げられちゃいました。
この戦闘で指揮官のボンテ代将が戦死したので、最先任のバイ中佐が残存艦の指揮をとることになったけど、こちらの被害は惨憺たるものでした。
Z21とZ22が魚雷を受けて爆沈し、Z22の付近に居た
Z17は砲撃により不動となり浮き砲台としか使えず、Z2は船体と機関に重大な損傷を受け、砲2門と火器管制システムは修復不能なうえ弾薬庫浸水。
Z11は船体の損傷とボイラー1基が使えないため航海に耐えられない。
この戦いの被害は沈没2大破3中破1小破1。
甚大な被害状況と深刻な燃料不足で給油の終わっていない艦が多いうえに、弾薬の補給の目処も立っていなくて私達は窮地に立たされた。
その後、給油の終わったZ9とZ12にはナルヴィクを離れ本国に帰還するように命令が下ったけれど、敵巡洋艦を発見し脱出を諦めて引き返してきた。
私達はオフォトフィヨルドに閉じ込められ身動き出来なくなりました。
その3日後、戦艦ウォースパイトに率いられ9隻の駆逐艦が攻め込んで来た。
損傷を受け、燃料弾薬も不足した私達と準備万端の敵艦隊。絶望的と言っても良いほどの戦力差です。
当時私達は知らなかったけど、湾外には2隻の巡洋戦艦、空母が控え私達を完全に閉じ込めていました。私達が生き残る道は既に閉ざされていたのです……。
開戦しZ13はウォースパイトに撃沈されZ19は追い詰められ陸へ乗り上げ、遅れて出港したZ12は敵駆逐艦から集中攻撃を受け撃沈されZ17は攻撃を受け大破炎上し乗員の手によって爆破され、Z2も損傷を受け艦長の判断で座礁させ乗員を退避させた。
こうして私達は包囲され袋叩きにされて全滅しました。
ここで私達の戦いは終わりました。私達は沈んで終わり。
でも、退避して生き残った水兵さん達の戦いは終わりではないんです。
生き残った2600人程の水兵さん達は陸にあがり、ナルヴィクの武器弾薬貯蔵庫から押収した制服武器弾薬を身に付け海軍歩兵となり、先に降りていたナルヴィク攻略部隊と合流し地上で戦い続けました。
その後一度ナルヴィクは奪い返されたけど、敵艦隊の撤退後に再びナルヴィク攻略部隊が占領しました。
私達は敗れ、沈みました。
でも、
負けた事は悔しいです。
でも、私を墓場として水兵さん達を巻き込むことなく生きてくれた事が嬉しいです。
指揮官、思い出話が長いって思ってますか?
でも大事な事だから、ちゃんと聞いてくださいね。
生きていたら次があるんです、死んだらそこまでなんですからね。
人間、死んだら終わりなんですから。貴方達指揮官は人類の希望なんですよ。
希望を届けるのが
最悪、私達を囮にしてでも逃げてくださいね。艦隊の全滅は戦術的には敗北でしょう。
でも、指揮官達さえ生きていれば戦略的には負けじゃないんです。
今の私達はキューブという不思議な物体から建造されるんです。次の私は私じゃない私だけど、大元は同じです。私達艦船は替わりが居ます、でも指揮官には替わりが居ません。
人間は死んだら終わりなんですから。
今は
いいえ、姿形は変われど変わらないんです。こうして新たな身体を得て新たな戦いが始まりました。
でも、変わっていませんよ。私達は守るべき人達を守る為に戦っているんです。
戦争は政治の一つです。限られた資源を巡り自国の繁栄と未来を勝ち取る手段に過ぎません。
今度はセイレーンというよくわからない敵から人類を守り、人類の未来を守るんです。
今の
今度は自分の意思で戦いたいんです、守りたいんです。
だから、無茶するのはやめてください。
貴方が居なくなったら、悲しいです。だから、指揮官は
指揮官、スマイルですよ。笑顔は恐怖への処方箋ですよ、例えどんなに恐くっても無理にでも笑ってくださいね。
もし私が沈んでも、次の私を笑って出迎えてくださいね。いま私達が居るこの国には「笑う門には福来る」だなんて諺がありますから、笑ってください。
いつかきっと良いことが起こりますよ。ね?ほら。笑って笑ってー。
夢を見ていた。
いつかの夢を。まだ皆が居た頃の。
涙が止まらない。
次から次へと涙が溢れ、枕を濡らす。
夢で見たあの時からしばらく経って、
それは起こった。
多数の艦隊での大規模な作戦。危険を承知で前線に司令部を開設した。
多数の艦隊が参加し、それぞれの指揮官の艦隊が司令部の護衛に就いていた。
結論から言うと、司令部が釣り出され敵の強襲を受けた。
セイレーンの大規模な部隊が集結しつつあるのを発見し、それを撃破するため大規模作戦が立案された。
基地からそれなりに距離が有るが、敵の集結を阻止しなければ大軍が押し寄せ物量で擂り潰されるのが目に見えていたからだ。
前線司令部が開設され、敵の集結を睨みつつこちらも戦力を集結させつつあった。後発の主力艦隊が出撃後、司令部を多数の敵潜水艦隊が襲った。
敵は水上戦力を囮とし、潜水艦を主力にして司令部を強襲。奮闘虚しく撃破されていく護衛艦隊。
当時ほとんどの艦隊は水上戦力向けの装備に重点を置いていました、対潜装備を持つ駆逐艦は哨戒や輸送船の護衛に就いていてこの場には少ししか居ません。
司令部を撤退させる為に、哨戒に出ていた艦や後発の主力艦隊が引き返し時間を稼ぐも多勢に無勢。
敵潜水艦からの一方的な雷撃により次々被弾し、沈んで行く味方。
本土からも複数の艦隊が司令部の救出の為に向かっていた。
何隻も潜水艦を沈め、他の艦隊と協力して掃討を進めていたけど、数が多すぎる。
少しずつ被弾も増えていき、焦りが出始めます。残りの弾薬も心許なく、周りは敵だらけ。
状況こそ違えど、要素はナルヴィクと似ています。
味方は満身創痍、燃料弾薬は残り少なく周囲は敵に包囲され、守るべき人達はまだ逃せていない。
どのくらいの時間が経ったのかもわかりません。今の私に出来る事は攻撃を避け続け敵を引き付ける事です。
時折浮上してくる敵潜水艦を味方が砲撃したり、駆け付けた駆逐艦が爆雷投下して撃沈していますが終わりが見えません。
それから少し経って、やっと指揮官達の乗った輸送船が本土から来た艦隊と合流したという報告が来ました。
それから敵が目に見えて減り、疲労と損傷で少し警戒が疎かになってしまい致命弾を受けてしまいました。
私ではなく、すぐ隣に居た
気が付き沈みゆく
目の前で妹が沈んで行くのを見ているしか出来ませんでした。
生まれ変わってもまた、多くの姉妹が沈んで行くのを見ている事しか出来ず力のない自分が嫌になります。
もっと強くなりたい。ずっとそう思い、訓練してきた。でも私にはまだまだ力が足りない。指揮官と一緒ならいつかきっと。
でも、そのいつかが遠い。今この時に間に合わないなら、私は何の為に……。
また私の手から大事な物がこぼれ落ちて行く。
その後、残存の艦は敵の襲撃を警戒しながら最寄りの基地へ向かい補給を受けました。
私達が寄港したのは東京湾要塞。
この国が重桜と名乗る前、幕府の眼前へ不粋な黒船が乗り込んで来た。
そして永い夢を見ていたこの国を砲声により無理矢理叩き起こした。
眠気眼をこすり、永き太平の眠りから醒め国が開かれた。
遥か彼方より来る南蛮の国々から帝都を防衛すべく、海を人の手により埋め立て作り上げた人工島。
幾度もの改修を受け、今は遠征に出る艦隊の補給基地となった。
私達は誰がどこの所属なのかも確められず、とりあえずで押し込められた。
航行の為の最低限の補給は済ませたものの、艤装の損傷や負傷もそのままに肩を寄せあって眠った。
翌日も司令部の混乱は解消されず、私達は具体的な指示もなく放置された。
損傷の少ない艦は哨戒に出る事になったけど、私は損傷が多く弾薬も残っていなかったので待機する事になった。
不安が募る。待機中に要塞内を歩き回ったけれど、私の艦隊の仲間の姿が見えない。
別の要塞や基地に行ったのかも知れない。
けれど、私の胸には嫌な予感がしていた。
どんな時も笑顔で。
それが私の信条だけど、無理に笑う事も出来なかった。
周りでは、同じ艦隊同士の娘達が再開を喜ぶ声が聞こえる。私の焦りは強くなる一方、一向に仲間が見つからない。
何度も往復したけど、どこにも居ない。
もしかしたら哨戒に出ているのかもと思い、桟橋で哨戒に出た艦達を待った。
哨戒から帰って来る艦を見て、その中に仲間の顔を探す。
居ない。哨戒に出ていた艦に聞いても、居ないと言われた。
要塞内には他の私や他所の姉妹達が居た。でも私の姉妹達は居ない。
私の姉妹達はどこ?
シャルンホルストさんやティルピッツさんはどこ?
私達の指揮官の護衛に就いていた精鋭達はどこ?
どこにいるの?どこ?どこなの?
不安に押し潰され、私はへたりこみ泣いている。
泣いている場合じゃない、探さなきゃ。
でも、足が言うことを聞いてくれない。視界が涙でボヤける。
そっと、誰かが抱き締めてくれた。
思わず抱き返す。
見えなくてもわかる。姉妹達だと。
私じゃない私の。
私じゃない私も居る。
私同士だけど違う私。違う経験を積んだ私同士。私だけど私じゃない、私じゃないけど私。
笑顔は恐怖への処方箋ですよ。今のあなたが笑えないなら私が替わりに笑っていますから。
あなたは一人じゃないです。私達が一緒に居ますから、一人じゃないですよ。
私じゃない私は、私よりも多くの経験を積んだのかもしれません。今は、甘えさせて貰います。
その夜から彼女の姉妹達と過ごしました。
いつか、あなたがまた笑えるようになったらあなたの笑顔を見せてください。だって私達は笑顔が一番似合うんですから。
記憶があやふやで何日経ったのか分からないけど、各所属艦隊毎に帰還する事になり彼女達と別れました。
少し寂しいけれど、悲しくはありません。
生きていれば、また会えますから。
次があります。
生きてさえいれば……。
Z18、君の艦隊は君を残して全滅した。
頭の中が真っ白になりました。
僅かな希望を持っていましたが、完全に打ち砕かれました。
私の希望を打ち砕いたのは、私の指揮官ではありません。基地司令自らの口から伝えられました。
そして、君の指揮官は。
名誉の戦死を遂げた。
名誉って何ですか?他の指揮官を逃がす為に殿になったって。
死んだら終わりなんですよ、指揮官。
指揮官まで居なくなったら、私はほんとうに独りぼっちじゃないですか。
泣き崩れて気絶して、気が付いたら医務室でした。
どうやら、司令のお手を煩わせてしまったようです。軍医さんによると、司令が私を抱き抱えて医務室まで運んだそうです。
後でお詫びに行かなきゃと言うと、軍医さんからは暫く安静にするように命令されました。司令の事はその後で良いと厳命されました。
いいんですかね?いいらしいです。
何も考えられません。
漠然と何かしなきゃって思うのですが、何をしたらいいんでしょうか。
私にはわかりません。考えがまとまらなくて、ふわふわして忘れていってしまいます。
軍医さんに何も考えなくていいから眠りなさいと言われとりあえず目を瞑りました。
あの日の光景が目に浮かびます。
目の前で沈む
手を繋ぐ事も出来ず見送るだけ。
キュンネが手を伸ばしているのを見ました。
でも、私はその手を取れず見送るだけ。
きっと私を怨んでいるでしょう。
私が警戒を緩めてしまったから。
生真面目なキュンネはきっとあの時も油断せず警戒していたんでしょう。
疲労なんて、ただの言い訳。
警戒を緩めた私の責任。
私がキュンネを殺したようなもの。
いえ、私がキュンネを殺した。
私のせいで。私がもっと強ければ、妹を守れたはず。
私がもっと早ければ、私が盾になれたはず。
そうしたら、妹は死ななかった。
私が、私が、私が。
場面は暗転する。
私が避けた魚雷が輸送船に当たり、輸送船が炎上する光景。
あり得たかも知れない光景。
私は避けるのに集中していて、魚雷の行方は見てない。
私が避けたせいで魚雷が輸送船まで届いてしまったのかもしれない。
私が替わりに沈めば防げたのかも知れない。
私が死にたくないから、避けたせい。
私が臆病だったから。
私が守るって……。
お前が、俺を守るって言ったんだろ?
お前が死にたくないから俺を身代わりに殺したんじゃないのか?
嘘だったんだな。
俺だって死にたくなかった。まだまだやり残した事がいっぱいあるんだ。
替えの効くお前と違って俺は死んだら終わりなんだろ?
自分が可愛かっただけなんだろ?
そうなんだろ。
違う。
違う。私は。
違う?ほんとうに?
違う。私は。
今度こそ守りたかった!
でも、口だけじゃ意味がない。
結果が全てだ。
お前は何も守れなかった。
お前には何も守れない。
様々な人達の声が私を責める。私は違う、違うと繰り返す。うわ言のようにただ繰り返すだけ。
っ!
目が醒める、早鐘の様に鼓動を刻む。
苦しい、息が出来ない。虚空に手を伸ばす。
私は誰に手を伸ばしているのか。私の手を取る人達はもう居ない。
みんな沈んだ。
ほの暗い水底へ。
誰かが私の手を取る。
常夜灯の頼りない明かりでは誰なのか分からない。
でも、大きくてゴツゴツした暖かい手。
「今は眠りなさい。」
優しげな口調で私に語りかけ、もう片方の手で私の頭を優しく撫でました。
「私がここに居るから、ゆっくり休みなさい。」
手の温もりに安心し、また強い眠気が私を襲い意識を手放した。
「彼女に鎮静剤を打ったのかね?」
「ええ。酷く混乱していましたし、心身の消耗も大きい様子でしたので。」
暗がりで会話しているのは、軍医と司令官。
「無理も無かろう……。彼女だけを残し全滅か。他の艦隊も被害が大きいが他は複数の生き残りで支えあっていけるが、独りきりではな。」
沈痛な面持ちで語る司令官。
多数の艦隊が壊滅半壊し再編が急がれる状況ではあるが、心を持つ者であればその意思を蔑ろにして再編成した所で統率は取れないだろう。
「正直、手詰まりだ。人も船も物資も全部足りん。」
指揮官だけでなく司令部の要員として同行していた人員も負傷者及び戦死者多数、KANSENにも欠員や心身の消耗者多数、前線司令部の放棄による物資の破棄や作戦での消耗。補給艦や各種艦船も損傷や沈没など大きな損害が出ている。
「引退したくなったわい……。だが交替要員は居らんしな。」
多大な精神的負荷で急速に老け込んだかのような司令官。
「代わりは居ないんですから踏ん張ってください。彼女達はどうするんですか?」
「しばらくは心身の休養だ。戦う意思のある者は復帰、そうでない者は事務職でも何でも活用しろ。人手が全然足りん。」
「了解しました。彼女が希望してくれたら
「リハビリも君の仕事だろう?方法は任せるさ。」
医務室を出た司令官は人気の無い廊下で呟く。
「どうにもならんな、幼い子供の見た目をしていると娘や孫と重ねてしまう。戦いになど出したくない、ましてや悲嘆に暮れる姿など見たくは無いのだ。どうにもならんな。」
セイレーンが人類を襲う限り戦わねばならない。兵器で有りながら心を持つ少女達を戦地に向かわせねば成らない立場。
赦されるのならば全て放り捨てて、自らが戦地へと向かいたい。
だが人の作り出した兵器ではセイレーンに有効打とならず、徒に犠牲を出した過去がある。
今の人類に頼れるのは彼女達KANSENだ。
その姿に心を痛める者は多い。幼い少女や若い女性の姿をした彼女達。
平行世界で戦闘艦として戦い、人々の意思や未練、恨み苦しみ。様々な感情が混ざり合い自我を作り出した。
キューブという未知の物質と心が融合し産まれたのが彼女達KANSEN。
人間と同じ様に感情を持つ彼女達を、どうして兵器として見れようか。
この重桜においては八百万に魂が宿ると言い伝えられている。
艦船の付喪神たる彼女達、人と共に在る道具であり人々の意思が混ざり合い誕生した存在。
人に重ねるな、というのが土台無理な話だ。
心に折り合いを付け、他の軍人と同じ様に扱うのが限度だ。
まるで息子の様に思い、気に掛けていた指揮官達が死んだ。
娘や孫の様な年頃の少女達が死んだ。
彼等や彼女達を頼むと同行させた戦友が死んだ。
「俺のような老いぼれが生き残るだなんてよぉ。」
最善は尽くした。
本当に?
限られた物資と集められる限りの情報は精査した。
最善のはずだ……。
後から後から、疑問と後悔が出てくる。
「今は過去を振り返るのはやめよう。明日からの計画を練らねば。」
司令官は頭を振り去っていった。
夢と現実の境界線が分からない。
みんな沈んだ。
私だけが生き残った。
司令官はそう言った。
でも私の前には、みんなが居る。
「ハンス、どうしたんだ?ぼーっとして。まだ寝ぼけてるんじゃないのか?」
ニヤニヤしながら私の頭を撫で回す指揮官。
いつもいつも、私の髪をぐしゃぐしゃに撫で回すのを辞めてくれないひと。
いつも私を子供扱いするひと。
いつだって笑いながら「お前ら全員俺の妹みたいなもんだわ」って言いながらガハハって笑ってるひと。
見た目通りの年じゃないって言っても「この世界じゃ俺の方が歳上だ。ほーら高い高いしてやろうか?」だなんてからかってくるひと。
ちょっとだけ、ちょっとだけ高い高いして欲しかった。
悪乗りしたオイゲンさんが「私でも高い高いしてくれるの?」だなんて聞いてタジタジになってたひと。
私の目の前には私が居る。
私の思い出。
もう、思い出の中にしかみんなが居ないなら。
もう、思い出だけでいい。
何も出来なかった私なんて、きっと必要じゃない。
役立たずなんて必要じゃない。
逃げているって?
そうだよ。
逃げ出したい。
きっともう戦えない。
何も守れなかった私に価値なんてない。
もう、いい。もういいや。
私は眺めるだけ。
私がこの世界に産まれてから、あの作戦の前までを何度も何度も繰り返し見ているだけ。
飽きなんてしない。
私の全部は
繰り返す繰り返す。ずっと同じ。変わらず同じ。
私が夢に籠ってどれだけ経ったかは分からない。
現実の私は衰弱して死ぬかもしれない。
きっと無様で情けない死に方だと思う。
でも、現実なんてどうでもいい。
みんなや指揮官が居ない現実なんて要らない。
ずっとこのままここに居よう。
終わりが来る日まで。
「彼女は目覚めないのかね?かれこれ1週間経つぞ。」
先日
鎮静剤の量を間違えたのかと何度も確認した。見逃した負傷でも無い。軍医曰く夢を見ているとの事。
「夢から覚めないと?」
容態は安定している為、点滴を打ちながら観察するしかない。KANSENには解明出来ていない部分も多い。経過観察するしかないと。
KANSENも夢を見る事が有るのは知られているが、記憶のメカニズムは我々人間とは異なる。過去の艦船時代の夢を見たり、沈んだ他の個体の夢を見ると聞く。
彼女の見る夢が何かは分からないが、せめて安らかな夢であるのを願うばかりだ。
変化があれば逐一連絡するように伝え、医務室を出る。
「醒めぬならば、戦場に出る事もなかろうよ。」
こんな形で叶うなどクソッタレだが、深く傷付いた彼女に戦場に出て欲しくないのも本音だ。
「とりあえず適当な言い訳でも考えんとな。」
上を納得させる言い訳を捻り出せなければ、彼女の意思を確認もせず退役させろと言いかねん。
なんとかせねば。
季節は巡る。
彼女が昏睡して約半年。
徐々に衰弱していると報告を受けたのは、しばらく前。
春は出会いと別れの季節。
こんな別れはクソッタレだ。
目覚めてくれ、このまま別れが来るだなんてあんまりだ。
春は出会いの季節であってくれ。もう少ししたら指揮官候補生達が着任してしまう。物悲しい別れから始まる春などいらん。
最近は毎日
弱っていくのが顕著だ。このままでは……。
最近は再編成や人事異動も落ち着いて余裕が出てきた。
先日挨拶に来ていたのは異動してきた鉄血の駆逐艦を中心にした艦隊。
その中には別の個体の
彼女は昏睡中のZ18と面識があった。例の作戦直後に出会い励ましたそうだ。彼女があれからどうなったのか尋ねられ、言葉に詰まった。
彼女達を医務室に案内し現状を説明した。
重苦しい沈黙が医務室を支配した。
昏睡するZ18にすがり付く彼女達を残して私はその場を去った。
すすり泣く声とZ18に呼び掛ける声が聞こえる。私はここには居られない。だが、何も出来る事はない。
立ち去るしかなかった。
翌日、Z18達の指揮官が私の元に来た。
彼の艦隊の鉄血艦達から申し出があったそうだ。
昏睡中のZ18の世話を自分達でしたいと。姉妹艦が多く所属している事もあり独りぼっちの姉妹をこのままにはしておけないと。
昨日の光景が目に浮かび、私は快諾した。せめて、姉妹艦達と居れば少しは寂しさも和らいでくれるだろうかと思う。
花も綻ぶ季節だ。桜はまだ咲かないが梅は咲いた。
彼等の居ない春はこんなにも寂しいものだったか……。
こんなにも静かな春は初めてだ。
永遠に続く繰り返しの日々に変化が訪れた。
突然、指揮官と目が合った。
今までは、思い出の中の私を見ていた指揮官が思い出の外に居る私を見た。
いつも指揮官は私を見ているけど、思い出の中の私を見ているだけ。
今の私を誰も見てくれない。思い出だから当たり前だけど寂しかった。
どんな形でもいいから、もう一度私を見て欲しかった。
「指揮官……。寂しいです。」
思い出の中の指揮官は今の私を見て、こちらに向かって来た。
そこには壁がある。私が思い出に入れないように、思い出は不変だからと。
でも指揮官は……、
「おい、
壁をすり抜けて私の腕を掴んだ。
私がどうやっても越えられなかった壁を簡単に越えて来た。
このひとは、いつだってそう。
このひとの前に壁は無い。
思い出の中の私は居なくて、私が代わりにそこに立った。
「
「どうして。」
思い出は不変のはず。
「どうしてって、仲間が独りぼっちなのを気付け無くて悪かったよ。許してくれよ。」
私の頭をいつもみたいにぐしゃぐしゃに撫で回す指揮官。
「どうして……どうして。」
涙が溢れる、困惑と歓喜。やっと私を見てくれた、やっと私を見付けてくれた。でもどうして。
「泣くなって。あー、まだ勘違いしてるか。俺はお前の思い出の中の登場人物じゃねえぞ。こいつ等もだ。」
「???」
「夢はあの世とこの世が混線する時があんのさ。夢枕に立つって言ってよ、死んじまった奴が夢に現れる事があるんだよ。」
「だからあの世と夢が混線して、俺達はいじけてるお前を見付けたんだ。」
この世?には不思議な事があるんだって知った。
「不思議そうな顔してんな?お前らの方がよっぽど不思議な存在だろうが。今更幽霊が出たくらいで驚くなよ……。」
そう言えば
「どうした、ってのは聞かんでも分かる。悪いな、お前だけ残して死んじまってよ。いや、死ぬ気はなかったんだ。いや、まあうん。読み違えたんだよ。」
指揮官は私を抱きしめて泣きなが言った。
「ごめんな、ごめんなぁ。ハンス。お前だけ残して逝っちまってごめんな。寂しさも苦しさも悲しさも全部お前だけに残しちまってごめんな。」
「ごめんなさい。ハンスちゃんがもっと強ければ、きっとみんなを助けられたかもしれないのに。何も出来なかった、キュンネが目の前で沈むのを見ました!ハンスちゃんが弱かったせいです!もっと強ければ、敵も引き寄せられたんです。ハンスちゃんが……ハンスちゃんが弱かったせいです。」
「お前がいつだって一生懸命で全力だったなんてみんな知ってる。お前が悪い事なんて何にもねえよ!」
「でも、それでも。」
「ハンス。」
聞き間違える事なんて無い。私の妹の声。
「キュンネ、ごめんなさい。ハンスちゃんがもっと強ければキュンネを守れたのに。」
キュンネが
「えいっ。」
「痛った!」
デコピンを放った。
「これで良いよ。ハンスが手を抜いたなんて思って無いし。あの時は私もフラフラで避ける余裕なんて無かったから。あの時、ハンスが泣きながら手を伸ばしてたのも見た。私こそ、ごめん。届かなかったからこんなにもハンスを悲しませちゃったね。」
だから、これでおあいこ。そう言ってキュンネは笑った。
「私はハンスが生き残ってくれて嬉しい。だから、思い出の中で終わって欲しくない。」
指揮官が私から離れた後、キュンネが私に抱き付いて耳元で言った。
「私達の分もいっぱい思い出を作ってきて。全力で生きて全力で思い出をいっぱい作って、いつか終わりが来たらハンスの思い出を聞かせてよ。」
「だから、死んじゃダメ。生きて。」
「キュンネ……。わかりました。キュンネや指揮官やみんなの分も思い出を作って来ます。」
思い出の中で終わろうとしたけど、やらなきゃいけない事が出来ました。
「お、話はまとまったな。今までサボってた分もしっかり働いて来いよ。司令のオッサンがストレスでハゲが進行してっから、労ってやれよ。それともうすぐ指揮官候補生とやらが着任するらしい、ガキのお守りになるかも知れんがうちのベテランとして恥ずかしくない働きを見せてやれ。」
候補生?
「詳しくは分からん。だが、子供が上の思惑の犠牲にされるのは胸糞悪い。ハンスの配属がどうなるのかも知らんが、子供は未来の希望だ。お前が守れ。出来る限りでいいし、クソガキならぶん殴ってでも更正させろ。」
クソガキてっそれじゃあ。
「まるで指揮官みたいなクソガキって事ですよね?」
私の指揮官はクソガキのまま大人になったみたいって言われてるし。
「っち。ああ、そうだよ。俺みたいなのが着任したらぶん殴ってやれ。ああ、痛かったなぁ。昔ビスマルクにぶん殴られたぜ。教育的指導って奴だ。」
頬を擦り顔をしかめながら言ってるのが少しおかしくて笑ってしまう。
「何笑ってんだよ、ったく。じゃあ、気ぃ付けて行って来い。土産話待ってるからな。」
ニヤリと笑って私を見送る指揮官、私は指揮官に向かって笑顔で。
「行ってきます!指揮官っ、天国からハンスちゃんの大活躍を見ててくださいっ!」
夢はいつか覚めるから、夢なんです。
でも、夢を夢で終わらせる気はありません。
夢を現実にしに行ってきます。
もうすぐ、目覚めの時が……。
まぶしい。
凄くまぶしい。
シャっと音がして眩しさが和らぐ。カーテンかな。
そっと、目を開ける。
「!!」
目の前には私。
ああ、まだ夢か。
「ああっ待って目を閉じないで!起きて!」
目の前の私が慌てふためく。この感じ覚えが。
「目は覚めた?自分が誰か分かる?私の事は覚えてる?」
矢継ぎ早にされる質問に目を白黒させていると。
「あっ、ごめん。混乱してるよね。」
こほん、と一つ咳払いして目の前の私じゃない私は自己紹介し出した。
「私は
覚えてる、独りぼっちで泣きじゃくる私を抱き締めて励ましてくれたひと。
「覚えてます。独りぼっちで落ち込んでた時に会いました。」
「よし!覚えてるね。じゃあ、今の状況の説明からするよ。」
今はあの作戦から半年経って、半壊した艦隊同士を寄せ集めたり異動して再編成が終わったらしい。目の前の私の艦隊も他の基地から異動して来てこっちの半壊した艦隊を吸収して再編成したそうです。
私はずっと昏睡していて、最近
目が覚めるまではこの艦隊の預りで、目が覚めたらリハビリと軍医の面談だそうです。
「というわけで、今日は私もお休みしまーす。」
何故かと言うと、寝たきりで弱りきった私はろくに身動きが取れないからです……。その介護の為に彼女は艦隊の仕事を休む事になったのです。
「ご迷惑お掛けします。」
ほんとうに申し訳ないです。迷惑を掛けてばかりです……。
「気にしないで、私はあなたが目をさましてくれて嬉しいんだから。ずっと点滴だったからまだ物は食べられないけど、何か飲む?」
飲み物か。
「コーヒー牛乳が良いです。砂糖たっぷりで。」
甘党の指揮官が作ってくれたあまーいコーヒー牛乳が恋しくなりました。
「ちょっと待っててね。」
彼女は私の部屋から出て大声で叫びます。
「キュンネー、ハンスちゃんが起きたからちょっと手伝ってー。あとコーヒー牛乳が飲みたいみたいなんだけど、砂糖どこだっけー?」
「お砂糖なら赤いビンです。それより彼女が起きたってほんとですか?」
「そうだよー、身体を起こすのも辛いみたいだから手伝ってあげてー。」
「わかりました。」
ドアノックが聞こえた。
「どうぞ、開いてますよ。」
扉が開いて入って来たのはZ19ヘルマン・キュンネ。姉妹艦で私から見て妹にあたる、はず。なんとなく私の妹のキュンネよりも大人びて見える。記憶が確かなら、この艦隊の姉妹艦達はみんな大人びた雰囲気だったような……。
「目が覚めたんですね。良かった。」
ふわりと優しく微笑むキュンネはなんだかお姉さんのよう。やっぱり経験の差かなぁ。
「ハンスがコーヒーを作ってるので少しお待ちください。」
「あの、ありがとうございます。あの時も今もありがとうございます。」
「どういたしまして。艦隊は違っても姉妹艦なんだから遠慮しなくていいわ。」
私の額に手を当て熱が無いか計りながら優しく微笑む。
「なんか、お姉ちゃんみたいです。」
思わずそう呟くと、Z19がクスクスと笑いだした。
「ふふ、お姉ちゃんにいっぱい甘えてもいいんですよ。それに私の方が色々な経験を積んでますから。」
手が離れるのが少し残念に思えます。
「熱は無いみたいですね。目が覚めたとはいえ軍医さんとの面談は明日以降です。こんなに弱ってる状態では行かせませんよ。」
「わかりました。お言葉に甘えさせ貰います。」
正直身体が重い、声も途切れ途切れです。少し話すだけで息が切れます。こんなにも弱ってしまったんですね。
「今は休んでください。私達がお世話しますから。今までだってお風呂や着替えもぜーんぶ私達でやってましたからね。」
そう言って少しだけニヤリと笑ったZ19。ちょっと恥ずかしいです……。でも動けないからされるがままですね。
「お待たせー。コーヒー牛乳出来たよ。」
「飲みにくいかと思って少しぬるめにしてるけど良いかな?」
「はい、ありがとうございます。」
目の前の彼女は私と同じ見た目だけど、何処と無くボーイッシュな雰囲気を感じた。
「ん?なんか変かな?同じ見た目だけど性格が違うって思ってる?」
「変ではないけど、そうですね。」
あははーと軽く笑って彼女は答えます。
「双子みたいなものだと考えればいいんじゃ無いかな。同じように育てば同じような性格になるかもしれないけど、全然違う環境なら性格だって変わって来るさ。」
彼女は太陽みたいにキラキラした笑顔で続けた。
「でもさ、変わらない物だってあるさ。私達は笑顔が一番似合うよ。ほらあなただって一緒でしょ?ほら、笑って笑ってー!」
そうでしたね。私達は。
「笑顔が一番ですね。」
「そっ!辛くたって悲しくたって笑顔を心掛けてるよ。辛いからこそその気持ちを笑顔で追い出すんだ。笑顔は恐怖への処方箋だよ。」
私もこんな風に笑えるようになるかな。ううん、笑うんだ。私も笑おう。
「さてと、冷めちゃわないうちに飲んだ方がいいよね。飲める?」
身体が起こせないと言うと、ベッドをリクライニングされ上半身が起こされた。
「これで良いね。ストローも持って来て正解だったね。」
とても久しぶりに飲んだ甘いコーヒー牛乳はいつものとは少し違うのが、少し寂しく感じたけど同時に心が暖かくもなりました。
私を心から心配していた姉妹達が居て目の前の姉妹達も私を思ってくれているのを感じました。
「なんだか、眠くなってきました……。」
安心したら眠気に襲われました。
「ゆっくり寝てて良いよ。私がずっと一緒に居るからさ。」
目の前の私の優しげな声を聞きながら意識が遠退いて行きました。
「また寝ちゃったね。」
「うん、でも次はちゃんと目覚めるさ。今までとは違ってね。」
今までは覚めるか、衰弱が先かと危険な状態でした。今日からは少し安心出来るようになった。
「じゃあ私は指揮官に報告に行くよ。ハンスは彼女に着いててね。」
「もちろん。あと何か摘まめる物も宜しくね。」
「はいはい。この子用にチョコか何かも持ってくるね。」
キュンネが部屋を出るのを見送りハンスは呟く。
「私はもう、君には戦って欲しくないよ。君がどうするのかは分からないけど、君は余りにも多くの大切なモノを失ったんだから。」
静かに寝息を立てるもう一人の自分を見て悲痛に言葉を紡いだ。
ぐっすり寝ました。起きたら夕方!
寝すぎましたね。ベッド横の私はというと私の膝横辺りに突っ伏して寝ています。
こうして隣に居る別の私をじっくり見ると、少しずつ外見の違いがあるのがわかります。根源が同じでも異なる人生を歩んだ双子の様なものでしょうか。
しばらく観察していると小さく唸って彼女は目覚めました。
「おはようございます。」
今度は私が彼女の目覚めを見守る番です。
「ごめん、寝ちゃってたわ。うーん、と、まだ夕食まで時間もあるね。」
そう、まだ夕暮れ時で日は落ちきっておらず遠くの山に真っ赤な夕陽が隠れそうです。
真っ赤な夕陽が、炎を連想させ少し落ち着きません。以前は指揮官と綺麗な夕陽を眺めるのが好きでしたが、今は……。
「俺は朝起きるのは大嫌いだが、朝焼けや夕陽は好きだ。新しい朝がやって来て気分が良いし、夕陽は今日の課業は終わりだ!って気分にさせてくれる。」
だなんて言って笑ってましたね。隣に居たあの人は居ない。何だか心にぽっかり穴が空いた様な気分になり、涙が一筋流れていきます。
つい、ぼーーとしてしまい。隣に居る
指揮官と約束したからにはこんなんじゃいけませんね、でも……。
それから夕食を取りました。まだ出歩けませんから、ベッドの上でお粥よりもっと水気の多い重湯?かな?ほとんどお湯みたいなのを飲みました。
食欲が無さすぎるって自分でも思いますが、出された量の半分くらいで満腹になってしまいました。
ごはんを残すのってどうしても罪悪感があるのですが、身体が受け付けてくれません。まだ点滴が繋がっているので栄養分は足りているそうなので、今は身体を慣らす為だから別に完食しなくても良いと言われました。
なんだか瞼が重くなって……きた。まだ会ってない他の姉妹とも話したい事も有ったし、指揮官さんにお礼も言えて無いのに……。
「あ、寝てる。」
眠りについたZ18を見て小声で言った青年。
Z18の世話をしている艦隊の担当指揮官は彼女が起きたと聞き執務を終わらせ様子を見に来ましたがタイミングが悪かったようです。
童顔で背が低く、まるで少年の様な指揮官。例の作戦では一部の艦を派遣し、本人と主力艦隊は留守になった艦隊の担当海域の防衛に当たった為、作戦には不参加でした。
彼にとってもあの作戦では、何人もの同期や先輩や教官達を喪いました。彼の艦隊からも戦死者が出ています。
そんな彼にとって、自分以外の全てを喪った彼女の悲しみは計り知れないと。でも、寄り添う事は出来る。そう思い彼女を自らの艦隊に迎え入れようと思いました。
艦隊を再編したとは言え、どこも人手不足に悩まされています。
戦うだけがKAN-SENの居場所ではない。
整備や補給等後方支援の道も有るし、艦隊の事務職も有ります。それにKAN-SENにしか出来ない事はたくさん有ります。彼女が戦場に立たなくても良いように、そんな提案をしに来た所でした。
「あー、明日にしようか。」
小声でそっと呟きZ18の様子を見ます。ずっと魘されていたのが嘘の様に安らかな寝顔です。きっと明日は彼女の元気な姿を見られるでしょう。
指揮官は執務室に戻り、少し残業をしていましたがそんな彼の元に基地司令がやって来ました。
「ああ、敬礼は要らん楽にしていたまえ。」
上官への敬礼は最早条件反射になっていた彼にとって中途半端に上げかけた手を下ろすべきかそのまま敬礼してしまうべきか数瞬迷いつつも、言葉に従い下ろす事にしました。
「なに、業務連絡ではなく世間話とでも思って聞いてくれ。」
とは言われても、執務を続けながらでは流石に失礼になると思いました。
「いえ、今日はここまでにしますので大丈夫です。」
本心を言えばキリを着けたかった所ではありますが……。
「そうか、そういう事にしておこう。話と言うのはだが。」
予想はしていましたがやはりZ18の事でした。
目を覚ましたという報告を上げていたので何らかの連絡が来るとは思っていたが、まさか基地司令自らが来るとは思っていなかった。
司令曰く数日は休養を取らせ軍医の診断を受け、出歩いても良い状態になったら今後の事について面談をするという内容でした。
身体は癒えても心は癒えない。だが立ち止まり続ける事も出来ない。彼女の進退を決めねばならないと。
司令の権限により経過観察という事で判断を伸ばし伸ばしにしていたが、それも限界が来ているとの事。資材も人員も遊ばせておく余裕は軍にはありません。
「司令、その事ですが。彼女をこのまま私の艦隊の事務員として配属していただけませんか?」
実際、人員不足ではあるし経歴を見る限りベテラン手前と言ってもいい。艦隊の事を分かっている者が事務に着けばより円滑に仕事が進むだろう。
しかし、司令は首を縦には振らなかった。
「君の意見も分かるが、先ずは本人の意思確認が先だ。それに上層部からとある計画の人員を抽出せよと指示もある。」
「分かりました。ですが、計画とは?まさか本当にあんな事をやるというのですか。」
風の噂で聞いた、嘘か本当か真偽不明という事になっている。
戦災孤児の中から素養の有るものを促成で教育し、指揮官候補生として配備する。
正規の指揮官が揃うまでの時間稼ぎ、つまり使い捨ての指揮官。そして……。
「作戦で傷付いたKAN-SENと使い捨ての指揮官で、消耗前提での前線への配備。ですか。」
噂で有ってくれと、嘘で有ってくれと願うしかなかった。一体何の為に戦ったんだと。未来を作る為に戦っている筈なのに、未来を作る子供を人柱にするなど。
「……。ああ、そうだ。指揮官候補生という名の人柱だ。だが!死なせん。とは言え真っ向からは逆らえん、あの作戦を生き延びた者と組ませれば少しでも生存率は上がるはずだ。」
やっぱり上層部は人でなしだ、知ってたけど。人の命を数でしか見てない。
「その為に、全てを失ったKAN-SENを犠牲にするんですか。」
彼女だけではない。所属艦隊の壊滅や退役で行き先を失ったKAN-SENはそれなりの数が居る。再編成で溢れた者も居る。あの作戦に参加したKAN-SENはそれなりに実力の有るものだけだ。その生き残りなら確かに戦力にはなる。
心を無視すれば。
「彼女達の心は?彼女達には人間と同じ様に心が有るんです、ご存知ですよね。」
僕に言われるまでもなく知っているだろう。むしろ僕よりもずっと付き合いは長いはずだ。上層部との板挟みなのは理解してる、でも言わせて貰おう。
「それでもだ、それでもやらなければならない。私は地獄行きだろう。子供を人柱にしてでも彼女達を生け贄にしてでも、戦力を揃えなければ早かれ遅かれセイレーンに凪払われるだろう。幾千幾万の屍の山を築こうと前に進まねばならん。」
分かってる、分かってるけど。割り切れない。でも僕達が割り切れないから、司令は自らが悪役となってでも前に進もうとしている。
「分かってます。ですが、いや。先任の指揮官として彼等が配備されたら指導させて貰います。上がどうであれ現場では連携の出来ない者は足手まといです。連携が取れる様に先任の我々が指導します。良いですよね?」
上が使い捨てにするつもりでも僕達にとっては後輩であり同僚だ。連携を取れない様では話にならない。促成の教育がどこまでやるのか知らないけど、せめて足を引っ張らない様に指導するのは邪魔して来ないだろう。
「ああ。連携が取れるまで前線には出さん。当然試験をする、とびっき難しい試験を作ってやれ。」
落第させ続け、出来る限りの訓練を施そう。これが僕達に出来る精一杯の抵抗だ。
夜も更け司令は帰った。
「指揮官候補生を前線に出さないのは当然だけど、傷付いたKAN-SENのリハビリになるようにメニューを考えるべきだな。」
戦場に立って欲しくはない。でも無理やりにでも立たされるなら僕達が支えよう。彼女達が一人で前に進める様に。
「あー、願わくば素直な子が良いなぁ。」
数日休養を取ったので
今日は基地司令との面談です。
「君には選択肢がある。退役か新たな任務に就くかだ。」
退役はちょっと……。指揮官との約束もありますし。新たな任務について聞いてみたらなんと!新たに配備される指揮官候補生の指導と艦隊運営だそうです。
夢で指揮官が言ってた奴です。アレ本当だったんですね、いえ疑ってたわけじゃないです。ほんとです。
「新たな任務に就きます!」
夢で指揮官が言ってたと伝えると、まさかという顔をされました。でも本当なんですよ。
「
こうして
そして
ここから先は
私にとっての指揮官はあの人のままですけど、私にとって一緒に歩んでいく人は
だから今度は
ずーっと一緒です。子供や孫に囲まれて、いつかこの世を去るその時まで。
Z18の回想
前任指揮官
士官学校卒業の正規の指揮官、エリート、何故か鉄血艦ばかり出る人。ハーレムを夢見てビスマルクに鉄拳で修正された。ロリよりもお姉さん系が好き、主に重巡とか軽巡。ケーニヒスベルクは苦手。
もう一人のZ18
建造されてからの期間がハンスちゃんよりも長く少しお姉さん風な空気感。Z19も何処と無く大人びて、幼いハンスちゃんから見てなんとなくお姉さんに見えた。
指揮官候補生
前話の指揮官、KAN-SEN達から少年とか色々呼ばれてる。何知らずいきなり艦隊運営させられる指揮官。チュートリアルのアマゾンの位置にハンスちゃんが居る。
次話で指揮官候補生の話を書きたいけど、正直死ぬほど忙しい。過労死ラインと言われる残業時間で仕事してるのでいつ書き上がるか不明。