最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる 作:のこのこ大王
■side:京都私立青峰女子学園2年 一条 恋
ミーティングルームは、活気に満ち溢れていた。
それはそうだろう。
高知代表の点数をとばす圧倒的勝利で堂々の決勝戦進出だ。
全員が『今年は優勝だ』という気持ちになっていた。
しかしそんな中、一部あまり喜んでいない連中も居る。
私もそんな一人だ。
理由は単純。
例の琵琶湖女子の試合を見てだ。
初出場だった熊本代表が勝つとは思わなかったが、あそこまで瞬殺されるとも思っていなかった。
元々予選の段階からやたら強さが目立っていた。
今年に入って一度練習試合をしているが、あの時とは全くの別人レベルで。
それに関しても相手の差があるから余計にそう見えるのでは?など色々とあったが決勝トーナメントでそれも吹き飛んだ。
あの熊本との試合を見てなお『相手との差があって余計に強く見えた』などと言う奴は、LEGEND選手ではない。
もし選手であるなら今すぐやめてしまえというレベルである。
そしてそんな色々とおかしなことになっている琵琶湖女子。
その琵琶湖女子と東日本最強と称される東京大神との試合をこれから見学することになっていた。
適当に席に座ろうと思った所で見慣れた背中を見つけて声をかける。
「よっ」
「ああ、先輩じゃないですか」
鈴の奴が『なんだ』といった感じで振り返る。
「ずいぶんと気の無い返事だねぇ」
「先輩も知ってるでしょ、琵琶湖女子の件」
「ああ、何か練習試合の時とは比べものにならなくなってるってやつ?」
「私も熊本との試合を見ました。……アレ、まともじゃないですよ」
「ははっ、確かに」
「でしょう?」
「でも戦わない訳にはいかない……でしょ?」
「そりゃそうなんですが……」
鈴が反論しようとしたところで監督が入ってきた。
全員で立って挨拶をする。
「監督!お疲れ様です!」
「まぁ、全員とりあえず座ろうか」
監督の合図で全員が座る。
「これから見て貰うのは事前に説明したように琵琶湖女子と東京大神との準決勝だ」
そう言いながら監督が全員の見える位置に立つ。
「私からはあえて何も言わない。とりあえず試合を見ろ。話はそれからだ」
いつになく真剣な表情の監督が、そう言って端に置いてある椅子に座る。
すると記録映像が再生された。
…………………。
……………。
………。
試合が終わって映像も終わる。
監督が前に出てくると口を開いた。
「さて、お前達。今の試合を見てどう思った?」
監督の言葉。
いつもなら誰かが手をあげて答えていただろう。
だが今回はそれがない。
いや……誰もが『当てられたくない』とばかりに監督から視線を逸らしているぐらいだ。
確かに東京大神は強かった。
東日本最強と呼ばれるだけはある。
でも。
琵琶湖女子は、もっと強かった。
今年の練習試合で見た顔も多く、どこまで成長したのかと思えば……異常だった。
前の時とは比べものにならない動き。
私が対峙した宮本とかいう素人ストライカーは、本当に別人クラスだ。
まるで世界戦で会ってきた強豪国のストライカーに負けない動きで晶を圧倒していた。
最後は晶が意地を見せたが、まさか晶が圧倒されるとは。
梓の奴も最後にドジッて道連れにされたが、それまでの動きは前よりも数段磨きがかかっている。
他にも素人っぽいのが何人か混ざっているのが琵琶湖女子の弱点だったのだが、それが綺麗に無くなっていた。
連携もまともに出来なかった連中が、どういう訳かLEGEND歴の長い選手のような動きになっている。
そして個人の技量も大幅に上昇している。
何か騙されているのではないか?と思いたくなるような状態だ。
「……まあ、そうだろうね。私もこれを見た時は何が起こったのかと思ったよ」
監督が苦笑しながらそう口にする。
それに対しても誰も何も言えない。
「でも、これが現実さ。いいかい?これが現実なんだ!」
いきなり机を叩かれ、私を含めて全員がビクッっとなる。
「琵琶湖女子の連中。どういう訳か、前よりも馬鹿みたいに強くなってる。まずそれを認める必要がある」
そう言いながら監督が全員を見渡すように部屋内をじっくりと見る。
「慢心を捨てな。傲りを捨てな。前に勝っただなんて結果も捨てな。……何もかも捨てて挑まなきゃ勝てない相手だ!」
監督の真剣な雰囲気に誰もが呑まれる。
「―――返事はどうしたッ!」
「は、はいっ!!」
返事を求められ、誰もが一瞬遅れるも返事を返す。
「高橋ッ!」
「ひゃぃ!」
リーダーの高橋先輩が呼ばれるも、その返事が何とも言えないものだった。
「……お前なぁ。リーダーがそんな状態でどうするッ!!」
「も、申し訳ありません!」
「はぁ……まあいい。これから琵琶湖女子への対策検討会を始める!高橋は司会だ!」
「はいっ!」
その日は夜遅くまで全員で対策を検討し、実際に紅白戦で試したりなどの練習が行われた。
■side:東京Go!Go!ガッツ 白石 舞
プロは何かと忙しい。
特にシーズン中は、試合が何度も入ってくる。
そこにファンサービスや個人の仕事など色々ある。
そんな中でも戦績を落とせる訳もなく日々の練習も必須だ。
更にたまにアリスに呼び出されたりして、本当に今年は忙しいのだ。
「ちょっと先輩聞いてますか!?」
「え、ええ。聞いてるわよ」
「こっちは桂子と誠子が突っ込んでくると思ってた所ですよ!?何あの意味不明なの?避けれるかって話ですよ!なのにマスコミは延々と『警戒してなかったのか?』とか『回避出来なかったのか?』とか無責任なことばっかり!そりゃリーダー殺しって一部で言われてるのぐらい知ってますよ!?でもアレはないでしょ!あんなミラクルどうしろっていうのよ!なのに最近鳥安まで『先輩がもうちょっと粘ってくれれば』とか言い出すんですよ!?お前があの安田をちゃんと仕留めてりゃ良かっただけだろクソ鳥!」
かつては私のせいで迷惑をかけたこともあった。
でも色々あって今ではちゃんとした先輩後輩の関係になれたと思っている。
だけど―――
「―――なのに谷町では不安だなんだと勝手に言いたい放題!ならお前らならあの安田のショットをどうにか出来たのかよ!って話ですよ!大体あの―――」
香織から連絡が来たと思えば、既に1時間ほど愚痴を聞いている。
まあ気持ちは解らなくもない。
私もそういう声に悩まされた1人だから。
でもまあ一言だけ言いたいことがある。
「……えっと、私もそこまで暇じゃないのだけど」
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