最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる 作:のこのこ大王
■side:U-18女子日本代表指導コーチ 霧島 アリス
「うん、知ってた」
事前情報として送られてきた資料を見て、私はそう口にした。
まあその内に来るだろうとは思っていた。
しかしまさかこのタイミングだとは思ってもみなかった。
それはまともな関係者なら誰もが思うはずである。
まさか世界大会の予選に向けて世界中の代表選手達が調整に入っているであろう中。
信じられないことに、また企業連と国際LEGEND協会がやらかした。
このタイミングで企業連が行う『新製品発表会』を開催するという。
昨年から何も学んでいない。
そう思われても仕方がない状態だ。
しかも日本では現在、日本LEGEND協会を含めて既に一度大炎上していた。
そこにこれが投入されればどうなるのか?
子供でも解るでしょう。
しかも地味にルール改正も付くのである。
本当に馬鹿なのか?と言いたい。
今回追加されるのは、これだ。
◆『クイックチェンジ』をリーダーに追加。
◆今年行われる全企業合同の新製品発表会にて登場予定の全兵科各種新装備は、発表会の日時より使用可能とする。
◆近接武器に関しての条件変更を行う。
*詳細に関しては『新製品発表会』にて各社が説明を行う
◆交代に関する条件を撤廃し、新たに以下のルールとする。
1:交代した選手が再度交代前の選手と交代する際は60秒間の待機時間が発生する。
2:交代した選手は『30秒間交代不可』という制限が発生する。
4つだけだと思えばマシだと……思える訳がないでしょ。
新武器が登場するとなれば大きく全てを見直さなければならない。
この時点で馬鹿なの?って思うのに、更に交代制限の事実上の緩和である。
今まではそこそこ色んな交代制限があったが、撤廃されたことで交代し放題となった。
まあ追加されたルールだけは少し残るようだが。
簡単に言えば
A選手 ⇒ B選手 に交代する場合、今までだと30秒の交代時間が経たないとB選手が出撃出来なかった。
もしこの時、A選手が既に誰かとの交代で出ていた場合。
C選手 ⇒ A選手 で A選手 ⇒ B選手となる場合は60秒間、B選手は出撃出来ない。
A選手 ⇒ B選手 ⇒ A選手でも同じく60秒待機だ。
この辺からジワジワと規制が厳しくなり、気軽な交代が出来なくなっていった。
それを今回、全て撤廃した。
つまり交代に関しての待ち時間が無くなったのだ。
こうなるとまた気軽に選手交代が可能となる。
ただA選手 ⇒ B選手 ⇒ A選手の場合には60秒の制限が残るみたいだ。
まあそりゃそうでしょう。
交代してスグ切り札を使ってスグまた選手交代など、都合が良すぎるからね。
そして30秒間交代出来ないというのもそうだ。
A選手 ⇒ B選手 ⇒ C選手という繋ぎ方でB選手が登場して、即切り札を切って交代というのを防止するため。
しかしそれ以外の待機時間は基本的に無くなったのだから、これからはまた交代による様々な戦術が現れるかもしれない。
……まったく厄介なことをしてくれたものだ。
それに最大の問題として『クイックチェンジ』というものが登場する。
これはリーダーのみが1度限り使えるもの。
それは『その場で登録装備と瞬時に交換可能』というものだ。
リアルではまず無理なVRならではのシステムでしょう。
簡単に言えば、装備品の交換は開始地点や軍事基地などでしか行えない。
装備をロストした際なども、ここで再び補給という形で受け取る。
しかしこのクイックチェンジは1度限りとは言え『その場で瞬時に変更』出来てしまうのだ。
つまり装備を失った場合に即補給可能。
もっと言えば遠距離特化の装備をしているリーダーに接近戦を挑んだ瞬間、目の前で近距離特化仕様に換装されるなんてことが起きる可能性も十分ある。
1度限りでも非常に使い勝手が良く、特に戦闘中に弾切れや盾を破壊された場合に即チェンジで補給可能というのが酷い。
間違いなくリーダーを強化しようという感じでしょうね。
そして最後に武器の仕様変更。
何で新製品発表会で説明なのか。
現物か何かを交えて説明しなきゃダメな案件なのか。
どちらにしてもロクでもないことだろう。
「あ~、馬鹿だわ。ホントに馬鹿だわ」
どうしてこう変なタイミングでこう変化が大きいものを持ってくるのか?
それが解らない。
「……とりあえず情報流しておかないとマズいわね」
ため息と共にそのデータを持って出かける準備をした。
■side:U-18女子日本代表監督 芳川 浅子
「はぁ……本当に、どうしてこうも馬鹿が多いのか」
私は思わず大きなため息を吐く。
霧島の孫娘が持ってきたデータを見れば、誰もが同じ感想を持つでしょう。
「……ところでこれは、どこからのデータなんだい?」
「国際LEGEND協会に知り合いが居て、そこから。それなりの立場なので情報の信頼性は高いですよ」
「普通の女子高生にそんな伝手は無いんだけどね」
思わず苦笑する。
国際LEGEND協会のそれなりの立場の奴から情報を受け取れる時点で、日本LEGEND協会の役員なんて話にならないほどのコネだ。
流石あのジジイの孫娘と思えばいいのか、女子高生に負ける日本LEGEND協会に呆れればいいのか。
「いや~、流石に酷いですね」
「戦術の根本からやり直しですよね、確実に」
谷町と杉山も呆れ顔だ。
まあ普通の常識を持つ人間なら誰でもそうなるでしょうよ。
「ちなみにまだ確認中ですが、新武器もかなり色々出るらしいですよ」
霧島の言葉に思わず再び大きなため息を吐く。
本当に企業連も馬鹿なんじゃないのか。
「どうせなら選考会前に出して欲しかったですね。これじゃ選手も余計に納得出来ないでしょう」
谷町の台詞はもっともだ。
新武器に適応出来た選手などは『これがあれば違った』と、どうしても思ってしまう。
そして新武器登場によってもしかしたら各国のエース達の戦闘スタイルまで変化するかもしれない。
つまり今までのデータが完全にアテにならなくなる可能性が高い訳で。
「ちなみに霧島のジジイはこの件を知ってるのかい?」
「一応、情報は渡してます」
「……解った。じゃあ今日は申し訳ないけどこれで終了とさせて欲しい。後日もう一度集まる機会を作るから、その時に詳しく話をしましょうか」
せっかく集まったのにこれのせいで何を話し合えばいいのか、振り出しに戻ってしまった。
本当にロクでもないことしかしない連中だよ、まったく。
そして3人を見送った後、私は空中に操作盤を表示する。
電話機能を利用すると、とある場所にかけた。
「ああ、久しぶりだね。……そうかい。まあいいさ。電話の用件は解ってるだろ?……そう、その件だ。今からそれで日本LEGEND協会に行くつもりさ。で、アンタも来な。『スポーツ振興大臣』としてぜひとも意見を聞かせて貰わないとねぇ」
それから数日後。
突如として記者会見を開いた国際LEGEND協会会長は、一連の流れに関して謝罪を行った。
新ルールや武器追加に関しては『今からの撤回は難しい』としたが、それについても10分間ほど謝罪文を読み上げた。
今まで一切謝罪などをしたことがない協会の……しかもそのトップがである。
更に今回の関係者を一掃したと宣言し、協会の自浄能力をアピール。
今後は選手目線での競技発展に尽力するとした。
この発表により、また再燃しかけていた批判やデモなどは会長への称賛の声へと変化する。
そしていつの間にか『今回は仕方が無かった』や『これでようやく協会もまともになる』などと言った声ばかりとなり、予想されたデモなどは一切起こらなかった。
これに関して『日本の関係者が関わった』という話が一部で出たが、日本は所詮『LEGEND途上国』である。
そんな日本が関わったなどあり得ないとして一笑されて終わり。
結局、いつも通り『真相は闇の中』としてこの話は終わりを告げた。
またまた愉しいタイミングでのルール改定です。
企業連からすれば『全ての製品が出揃ってから』と思うでしょうが、選手達からすれば最悪のタイミングです。
更にルール改定まであるとなれば、また暴動ものでしょう。
しかし一連の流れを早々に終結させた会長のおかげで今回は暴動なんて起こらないでしょうね。
ついに待望の新武器・新環境はどうなるのか?
それが世界戦にどのような影響を与えるのか?
アリス達の悩みは増える一方でしょう。
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**お知らせ**
またまた本作品の二次創作SSを書いて頂けましたので、ご紹介いたします。
如月遥 様
波乱の代表選出~特集・U-18日本代表一覧~
ハーメルン様サイト
ttps://syosetu.org/novel/258040/2.html
1人の記者視点でU-18女子日本代表選考等に関しての話が雑誌風に書かれています。
2年目のU-18代表選手達の簡単な情報一覧もあるので、これからの世界戦を読む上でのお供に便利そうですね。