最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる   作:のこのこ大王

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第20話 VS最新式多脚戦車『スパイダー』戦

 

 

■side:霧島 アリス

 

 

 

 

 

 相変わらず最新式蜘蛛型多脚戦車『スパイダー』が、頭部センサーを使ってウロウロと周囲を索敵している。

 

 こいつの欠点は、そのセンサーの弱さだ。

 他の多脚戦車だと高性能なサーマルセンサーやソナーセンサーを搭載しているが、スパイダーに関しては通常カメラによる識別センサーが主体で、温度や音に関するセンサー類は最低限のものしか搭載していない。

 まあ完全なAI行動だと温度や音で敵か味方かを識別出来ないのだから、カメラで識別するというのは間違いではない。

 しかしそのおかげで今、私達の動きに気づけていないというのは何とも皮肉なものである。

 

 ただコイツ、良い所も多い。

 流石、G.G.Gの最新式だけあってとにかく硬い。

 歩兵用装備では、まずダメージらしいダメージが入らない。

 藤沢先輩のミサイルですら、ほとんど効果がないだろう。

 それこそグングニルでも使わない限り正面からの破壊は不可能だ。

 

 そして多脚戦車の長所はそのままで閉所や悪路でも問題無く動き回るし、脚を使って器用に砲撃体勢も取れる。

 更に本体後方のお尻には巻取り式の巨大ワイヤーが5本ついていて、先のアンカーを撃ち込むことで高所からぶら下がることもゆっくり降りることも出来る。

 さながら蜘蛛の糸だ。

 それに従来の戦車を超える重武装。

 何処の誰がこんなものをぶっこんできたのか知らないが、素晴らしく殺意が高い。

 前世では色んな所から恨まれ何度も暗殺を仕掛けられたが、残念ながら生まれ変わってからはここまで恨まれるような記憶が無い。

 まあ、どちらにしろいい迷惑だ。

 

「霧島ちゃん。こっちは、配置についたよ」

 

「アリスさん。こっちも配置についたわ」

 

 実行犯をどうしてくれようかと悩んでいるうちに、次々と通信で配置についたと報告が入る。

 

「配置に就いた人は、そのまま見つからないように。まだの人は急がず、慌てず、ゆっくりで良いから確実に動いて。返事は、不要」

 

 指示を出した後、予想外の事態に備えてスパイダー君を監視する。

 最初は、大雑把だった索敵も次第に丁寧に行うようになっていた。

 恐らく『学習』しているのだろう。

 厄介な話だ。

 

 そうしているうちに、最後の配置に就いたという通信が聞こえてくる。

 その言葉を聞いて、大きく深呼吸を1回。

 

「さて、じゃあアレの解体作業を始めましょうか。全員、順番は覚えてる?いざって時の行動も忘れてない?」

 

「だいじょ~ぶ」

「問題ない」

「忘れてませんわ」

 

 みんな軽い口調で返事を返してくる。

 なので私も軽い感じで仕掛ける初手を担当する彼女へと声をかけた。

 

「安田千佳さんへ。

 アナタに全員の運命が託されました。

 スパイダー君が、今丁度良い位置に居ますのでお好きなタイミングで仕掛けて下さい。

 

 P.S:絶対に外さないで下さいねっ♪」

 

 と、小さな子供が目の前の両親に向けて読む手紙のような感じで冗談っぽく言ってみれば『酷いなぁ』とか『意地が悪い』などと、みんなから苦笑交じりの酷い評価が聞こえてくる。

 

「じゃ、じゃあ、いいいい、行き、ますね」

 

 ガチガチに緊張した安田 千佳の声に思わずため息が出る。

 

「今までの試合。確かに一度も撃破を取れてないけど、何発かは当たってたじゃない。それは、アナタが努力してきた結果でしょ?それをアナタ自身が否定するの?」

 

「で、でも……」

 

「そんなに緊張しなくても、あの巨体相手にどうやって外すのよ。逆に外す方が難しいぐらいだわ」

 

「そうだよ、千佳ちゃん。ここ最近ずっと毎日遅くまで頑張ってたじゃない。千佳ちゃんなら、きっと出来るよ」

 

 不安がっている安田 千佳に

 宮本 恵理が会話に参加して励ますように声をかける。

 

「恵理ちゃん……」

 

「だから大丈夫。自分を信じて」

 

「……うん。ありがとう、恵理ちゃん」

 

 そう答えた安田 千佳は、深呼吸を始めたようで通信越しに呼吸音が聞こえてくる。

 

 2度、3度と繰り返した後

 

「じゃあ、行きます」

 

 ハッキリとした口調でそう宣言した。

 彼女の堂々とした言葉に、全員の緊張が一気に高まる。

 

 数秒ほどの静寂の後、ライフルの発砲音と共に

 スパイダーから『カンッ!』という何かが装甲に当たって弾かれた音がした。

 その瞬間、スパイダーは急激に安田千佳が居る方向へ向き直る。

 

 スグに逃げようとした安田千佳だが

 スパイダーのあまりの反応の速さと、そのプレッシャーに

 足を絡ませて倒れてしまう。

 

 そんな安田を敵と認識したスパイダーは、30mmチェーンガンを迷うことなく撃ち始める。

 

「させないッ!!」

 

 そこに宮本恵理がマシンガン付きの大盾を突き出し

 安田の前に出て彼女を庇う。

 何とか安田が逃げる時間を稼ぐと、一瞬でボコボコになり

 もういつ貫通するかも解らない産廃同然になった盾を捨てつつ

 彼女も必死に逃げる。

 

 スパイダーが宮本恵理に追撃をかけようとした瞬間。

 スパイダーの横からショットガン独特の連射音と共に弾が連続して浴びせられた。

 通常の拡散弾による連射では、ただ装甲に弾かれるだけ。

 それでも飛び出した大場先輩は、囮役としてスパイダーのヘイトを稼ぐ。

 

「ほらほら、こっちだよっ!」

 

 本来なら、宮本と大場先輩の出番は無かった。

 何故ならこの2人は『誰かが失敗した時の保険』だからである。

 まさかそれを早々に使うハメになるとは思わなかった。

 それにもう作戦を開始した以上、最後までやらなければ

 逆に他のメンバーが危なくなる。

 

 安田と宮本が逃げる時間を稼いだのを確認すると

 本来の流れに戻すために、三峰と杉山先輩が大場先輩と逆方向から出てきて

 攻撃を開始する。

 もちろんダメージなど与えられるはずもない。

 だがこれも必要な行為だ。

 

 2人の攻撃にスパイダーは、方向転換をする。

 その間に大場先輩は離脱した。

 

 三峰と杉山先輩がスパイダーから逃げようとすると、スパイダーは3連ミサイルを2人に向ける。

 その瞬間、近くに隠れていた晴香が着発グレネードを投げる。

 ランチャーのカバーが開きミサイルが発射される瞬間、そのミサイルにグレネードが正面から命中しミサイルを巻き込んで大爆発を起こす。

 

「よっしゃ~!ど~よ、この完璧な投―――ひゃぁ!」

 

 発射するタイミングを見切っての見事なグレネードを決めた晴香が調子に乗って騒ごうとした瞬間、120mmが発射され晴香のスグ横を通り過ぎてはるか後方に着弾する。

 

「晴香ちゃん、調子に乗ってると危ないよ?」

 

 京子ちゃんが別の場所から晴香を援護する形で飛び出す。

 その間に三峰と杉山先輩は、後方に離脱した。

 

 更に反対側から新城先輩も出てきて攻撃を開始するも、スパイダーは晴香をより大きな脅威と認識したのか、援護に出てきた2人を無視して晴香を追い回す。

 

「ふざけんなぁ~!!」

 

 30mmチェーンガトリングx2の雨の中を叫びながら全力疾走で逃げ続ける晴香。

 それを逃がすまいと方向転換しつつ追い回すスパイダー。

 そのスパイダーの目の前に何かが飛んできたかと思えば、軽い爆発を起こす。

 

 一瞬だけスパイダーは怯んだが、スグに投げ込まれた先を探し出す。

 

「やっぱ歩兵用のスタングレネード程度じゃ、止まらないか……」

 

 そう、投げ込んだのは傾いている廃ビルの中に居る私だ。

 廃ビルの入り口まで高速で移動してきたスパイダー君と目が合う。

 そしてご自慢の30mmをこちらに構えた瞬間

 

「行きますわよっ!!」

 

 スパイダーの後ろから藤沢先輩がミサイルをフルバーストし、そのままスグに逃げ去る。

 後方からのミサイルに気づいたスパイダーがその場で素早く反転するが、ミサイルは全てスパイダーには当たらない。

 通り過ぎたミサイルは、全て廃ビルの支柱に命中する。

 後ろを向いたスパイダーに廃ビルから退避しつつライフルを撃ち込むが、スパイダーはこちらを無視して逃げる藤沢先輩に120mmを構える。

 しかしそこでようやく何かに気づいたスパイダーは、頭部センサーを上に向ける。

 

 その瞬間。

 

 ミサイルによって支柱を破壊された廃ビルが崩れ落ちる。

 それに気づいたスパイダーだが、砲撃体勢に入っていたこともあり動くことすら出来ず、そのままビルの倒壊に巻き込まれた。

 スパイダーが乱入してきてから設定が書き換えられたのか、障害物を潰せるようになっていることに気づいた私は、それを全員に説明してこれを狙ったのだ。

 

 物凄い音と崩れたビルが巻き上げる粉塵により周囲がしばらく見えなくなる。

 しばらくしてそれらが落ち着いたあたりで通信を入れる。

 

「全員、無事?」

 

「新城、宮本ちゃんは無事!」

「大場も無事だよ~!」

「こちら杉山、三峰共に問題なし」

「藤沢花蓮、無事でしてよ」

「南、無事です」

「千佳、無事だよ~」

「はぁぁ、大谷、何とか無事」

 

 全員の無事を確認すると、改めて崩れた廃ビルを見る。

 見事に思いっきり倒れスパイダーが完全に埋もれてしまっていた。

 流石に潰れただろう。

 そう思っていると

 

 ガンッ!!

 

 突如、崩れたビルの中から巨大な二本のアームのようなものが飛び出す。

 

 ―――スパイダーの脚だ。

 

 足は、折れ曲がりながらビルの破片にめり込むと本体を瓦礫の中から出そうともがき出す。

 

「はぁ…しつこい」

 

 思わずため息が出る。

 私は、歩いて廃ビルの瓦礫の山を登っていく。

 

 スパイダーは、何とか頭部だけを瓦礫の中から出すと

 折れ曲がって使い物にならない30mmチェーンガトリングをパージする。

 そして頭部センサーカメラをこちらに向ける。

 

 だが遅い。

 スパイダーの頭部を足で踏みながら零式ライフルを真下に構える。

 

「どうせ覗き見してるんでしょ?

 どう?負けた気分は?」

 

 私は、ライフルの引き金を引く。

 頭部センサーカメラが音を立てて壊れ、スパイダーが急いで這い出ようとする。

 しかしかなりの量の瓦礫に埋もれた状態では、スグに出ることなど不可能だ。

 

 もがくスパイダーを気にせず次弾を装填し、また真下に構える。

 

「せっかくの良い試合も台無しになって、いい迷惑だわ」

 

 そして引き金を引く。 

 今度は、壊れたセンサー部分から弾が内部に侵入し内部の電気系統を破壊する。

 スパイダーは、壊れたロボットのようなカクカクした動きで暴れようとするが、瓦礫の山から出ることが出来ない。

 そのまま私は再度弾を込めると、ライフルの先端を穴の開いている壊れたセンサー部分に差し込む。

 

「スパイダーが壊れれば、データはこちらに残ったまま。どこの誰だか知らないけど、必ず見つけてあげる」

 

 言いたいことを言い切ったので、そのまま引き金を引いた。

 中で小さな爆発音がしたと思ったら、黒煙が出てきてスパイダーの動きが完全に止まる。

 

「はい、鉄くずの完成っと」

 

 淡々と通信でそう呟くと

 

「やったぁぁぁぁぁぁーーー!!!!」

 

 仲間達から一斉に歓声が上がり、彼女らはあちらこちらで抱き合ったり泣いたりと感情を爆発させていた。

 すると突然、消えていた点数表示版などが再起動し始める。

 

 

 ―――試合終了

 

 

 突然、思い出したかのように会場に試合終了の合図とアナウンスが鳴り響く。

 それと同時に会場の歓声まで入るようになる。

 

「みんなっ!聞こえてるっ!?」

 

 通信からも監督の声が聞こえてきた。

 

「聞こえていますわ、監督」

 

 リーダーの藤沢先輩が通信を受け、みんなの無事を知らせている。

 監督の通信が一旦切れたかと思えば、VRから現実世界に戻された。

 

「あ~、疲れた」

 

 起き上がるのが既に面倒だと思えるほど精神的に疲れた。

 外に出るとみんな抱き合って喜んだり泣いたりしている。

 それに監督も混ざっている感じだ。

 

 そんな中、ベンチと会場が接続される。

 すると大歓声と共に救急隊や警察などが一斉に駆け込んできた。

 私は、先ほど抜き取ったデータをコッソリ仕舞ってから合流する。

 一応、おかしな状況のVRの中に居たということで検査をすることになり、結局全員病院に行くことになった。

 

 『最新式多脚戦車乱入事件』

 

 のちにそう呼ばれるようになった事件は、国内だけでなく海外でも大々的にニュースとなる。

 世界でも屈指の技術力を持つ日本のシステムが乗っ取られたという側面もあったが、何よりその多脚戦車が軍人でもない少女達に倒されたことが話題となった。

 そしてあの時の戦闘の動画が何処からともなくネットに流れ爆発的な再生数となる。

 

 今回事件に巻き込まれた青峰女子は全員意識を失った状態でVR装置の中に居たため、救助隊が装置のドアを破壊して救助し病院に運ばれた。

 3日後に全員目覚めるも、メンタル面で不安定になっている者が多く、精密検査なども含め全員1か月ほど入院することになった。

 ちなみに琵琶湖女子は、1日検査入院しただけで済んだ。

 

 入手したデータはある程度こちらで解析した後、祖父に渡した。

 すると祖父は即座に専門家チームを結成し、僅か1週間で犯人を特定。

 それを元に犯人逮捕となった。

 祖父は、『色んな所に貸しを作れた』と上機嫌で顛末を語ってくれた。

 

 犯人は、元G.G.G社の役員。

 『U-15女子世界大会直前認可騒動』によるG.G.G社転落の責任を取らされた1人。

 最新式の多脚戦車と企業秘密だった荷電粒子砲のVRデータを持ち出し、それを使えば成功しようが失敗しようがどちらにしろG.G.G社はタダでは済まない。

 そう、完全に私怨である。

 そんなものに私を巻き込まないで欲しい。

 

 そして全国女子高生LEGEND大会だが当初は中止も検討された。

 青峰の選手は、全員最低1か月は入院状態。

 とてもではないが再戦が出来る状態ではない。

 

 そんな時、青峰側は『今回はウチの負けだ』と声明を出してこちらに勝ちを譲ってくれた。

 そして琵琶湖女子は、被害らしい被害も無く全員無事。

 更に決勝相手の東京私立大神高等学校側も『出来れば決勝をやりたい』と言っていたこともあり、騒動から3週間後。

 

 東京私立大神高等学校 VS 私立琵琶湖スポーツ女子学園の決勝戦を行うことが決定した。

 

 

 

 

 

 

 




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