最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる   作:のこのこ大王

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■霧島 アリス:最強の女傭兵と呼ばれた前世の記憶と経験を持つ本作主人公。
■白石 舞:周囲に振り回された結果、自分を見失っていた天才少女。現在は前向きになりつつある。


第49話

 

 

 

 

 

■side:U-18女子日本代表 白石 舞

 

 

 

 

 

 ずっと疑問だった。

 あれだけ圧倒的な技術を持ちながら、それを誇示しなくなったことに。

 逆転など容易にも関わらず、まるでサイコロを振るが如く運任せな行動に出ることに。

 時折見せる……その不満そうな顔が、その嬉しそうな顔が。

 

 まったく関係の無い大きなお世話だと理解している。

 だが、あの頃の……周囲の声を気にしていた頃の自分と同じように見えて気になってしまう。

 だからこそ、私は動くことにした。

 

「……で?呼び出した理由は何?」

 

 その日の夜。

 VRの練習部屋に彼女を呼び出した。

 

 時間通りに現れた彼女は、とても不機嫌そうだ。

 

「ちょっとアナタと話したいことがあってね」

 

「それは昼間や直接ではダメなのかしら?」

 

「装備込みで呼び出した時点で解るでしょ?」

 

「さあ?私にはさっぱり?」

 

 まるでこちらを挑発するかのような仕草をするアリス。

 昔ならその仕草にイラっとしていたが、疑念を持ってからはワザとそうしているのではないか?と思うようになった。

 

「U-15以降からチームプレイがどうとか言い出してるらしいけど、それって嘘よね?」

 

「LEGENDは、チームプレイですよ?知らないんですか?」

 

「そういう建前で、アナタは手を抜いている。どうしてかしら?」

 

「手を抜いてるなんてそんな―――」

 

「誤魔化せると思わないで。これでもアナタのことは色々あって見てきたの」

 

「……」

 

「もう一度聞くわ。どうして手を抜いているの?……それともどうして勝利にこだわらないの?と聞いた方が良いかしら?」

 

「それが気に入らないっていう話なら、監督に言ってはどうですか?別にそれでメンバーから外されても文句なんて言いませんよ?」

 

「そういう問題の話をしてる訳じゃないわ」

 

「なら別に構わないのでは?そもそもそちらに関係無い話ですよね?」

 

「大きなお世話だってことは解ってるわよ。それでもこうして声をかけた。その辺をもう少し考えて貰えないかしら?」

 

「こちらにまったく関係無いのに?」

 

「ええ、そうよ」

 

 アリスは、これ見よがしに大きなため息を吐く。

 

「そこまでして何が望みなの?」

 

「事情があるなら話してみれば?話すだけでも違うかもよ?」

 

「……事情なんて無いかもしれませんよ?」 

 

「それならそれで、何かしらあれば多少は心の折り合いも付くでしょ?」

 

「う~ん……断ると言ったら?」

 

「そのためにコレを用意したんだけど?」

 

 そう言って私は地面を指す。

 

「かなり強引で一方的な大きなお世話ですね」

 

「正直、アナタ相手だと最終的にこういう方法じゃない限りダメなんじゃないかと思って」

 

 そう言いながらライフルを構える。

 

「はぁ……。良いでしょう」

 

 アリスは、ゆっくりと距離を取る。

 

「もうスグ試合開始のアナウンスが鳴る設定にしてあるわ。それでスタート。こちらが勝てば大きなお世話を受け入れて貰う。負けたらこれ以上何も言わない」

 

「はいはい、さっさと初めま―――」

 

 

 ―――試合開始!

 

 

 アナウンスが鳴るタイミングを知っていた私は、その瞬間に引き金を引く。

 しかし引いた直後に既に相手が横に大きく飛び込んでいたのが見えたので、私も引き金から指を離すことすら惜しんで同じく横に大きく飛ぶ。

 開幕奇襲を避けただけでも凄いのに、避けながらこちらに発砲してくるなどあり得ない。

 咄嗟に飛んだおかげで助かったが、動作が遅れていれば危なかっただろう。

 

 スグに体勢を立て直しリロードを行う。

 ここからは、互いにゲリラ戦になるだろう。

 比較的狭くて障害物が少ない練習部屋を選択したつもりだ。

 

「……あっちは大丈夫かしら?」

 

 などと気にしていても仕方が無い。

 今一番危ないのは自分なのだから。

 

 スグにこちら側にスモークグレネードが投げ込まれる。

 慌てて逆側に逃げようとして罠であることに気づく。

 そのためスモークの中であえてやり過ごす。

 

 やがてスモークが消えてくる。

 この時点で一気に最初の方向に走って飛び出す。

 そしてスグ近くの障害物で一旦止まった振りをして、スグに次の障害物へと移動する。

 その瞬間、発砲音が聞こえて近くに着弾音がしたが気にしない。

 スグ姿勢を低くしながらライフルを構えて相手を探す。

 だが見つからない。

 一瞬しか見れなかったがこれ以上は危険と判断して隠れると、隠れた瞬間覗いていた場所に弾が飛んできた。

 この時点でかなり不利だ。

 相手はこちらの位置を把握していてこちらは相手の位置を知らない。

 

 どう立て直すのかを考えつつ立ち上がっておく。

 姿勢を低くしたままでは、奇襲があった時に動けないからだ。

 それにここの障害物は立っていても問題が無いほど大きい。

 

 少ししても状況が動かないなと思っていると、さっさと動けというリボルバーによる催促が始まる。

 だが私は動かない。

 ブレイカーは、冷静さを失った瞬間に終わるからだ。

 それは私自身を含め、この世界選手権で嫌というほど見てきた。

 

 相手が挑発を止めると、またも不気味な無音状態が続く。

 流石にこれ以上、この場に居るのはマズイと判断して後ろに下がる。

 後ろの障害物から右回りで移動しようとすると、進行方向にスモークグレネードが投げ込まれた。

 ……いつの間に補充したのやら。

 

 そのスモークで一瞬動きを止めたのがダメだった。

 発砲音と共に足を撃たれる。

 耐久値が4割ほど減った。

 咄嗟にスモークの方へと走る。

 だがスモークに入る瞬間に腕を撃たれた。

 更に耐久値が4割減って残り耐久値が2割になる。

 

 スモークの中からおそらく居るであろう方向にスモークを投げる。

 そしてそのスモークに隠れるように元居た方向に戻る。

 ある程度戻った所で、身を隠す。

 私がそのまま進んで距離を離したと思わせて逆に背後を取るつもりだ。

 

 しかし一切、音がしない。

 そこまで遠い位置だったのか?

 それとも相手はまだ動いていないのか?

 

 しばらく待っても何も音がしない。

 時間にして僅か5分。

 だが今の私には、その5分は30分以上に感じていた。

 このまま動くべきか?

 それともまだ待つべきなのか?

 下手に動けば今度こそアウトだろう。

 

 ふと思い立って腰にぶら下げているハンドガンを手にしてそれを障害物からチラりと出してみる。

 

 その瞬間―――

 

「―――ッ!?」

 

 発砲音と共に手に衝撃が走り、ハンドガンが大きく吹き飛ばされた。

 思わず障害物の後ろで更に身を小さくする。

 

 スモークで完全に動きは見えなかったはずだ。

 音もスモークの噴射音の方が大きかった。

 しばらく身動きもしなかった。

 にもかかわらずアリスは、こちらの位置を正確に把握して顔を出す瞬間を狙っていたのだ。

 この時、初めて私は彼女が『圧倒的天才』などと呼ばれる理由が解った気がした。

 

 嫌な汗が出てくる。

 このままでは一方的に負けるだけだ。

 それでは意味が無い。

 

 何度か深呼吸をして落ち着く。

 とりあえず目の前に見えている開始地点に滑り込むことが最優先だ。

 彼女なら必ずやってくると信じて零式ライフルだけ顔を出す。

 

 するとやはりライフルだけを狙撃してきた。

 撃たれた衝撃が手に伝わった瞬間、ライフルなど気にせず一気に飛び出して走る。

 そしてそのまま安全地帯である開始地点にスライディング。

 スライディングをする瞬間に発砲音が聞こえ、近くに着弾した音もしたが当たっていないので問題ない。

 

 開始地点に到着するとスグに耐久値を回復させながら装備をもう一度全て揃える。

 そして開始地点だからこそ出来るスモークグレネードを投げては補給し、また投げるという無限ループで周囲に圧倒的に濃い煙幕を展開。

 それを利用して開始地点から離れた。

 この時、流石に相手からの狙撃は無かった。

 

 それから移動を繰り返すも一向にアリスが見つからない。

 そこまで障害物が多い訳でも入り組んでいる訳でもない。

 なのにこちらが一方的に撃たれる。

 

 先ほどから進行方向の足元に何度も弾が撃ち込まれる。

 まるで遊んでいるようにも見える行為だが、今はそれでいい。

 瞬殺されてしまうことの方が問題だ。

 プライド的に思うことが無い訳ではないが、相手の方が圧倒的格上なのはこの戦いだけでも十分理解出来る。

 だからこそ、私はあの高みを目指して努力し続けているのだ。

 

 何度目かの挑発とも取れる狙撃で、ようやく相手の居る位置を見つけた。

 ゆっくりと距離を詰める。

 下手に遠距離で撃ち合う方がダメだ。

 それにこちらの方が何かと都合が良い。

 

 またもお互いにらみ合うような形で時間が過ぎる。

 しかし相手が出てきそうな気配が伝わってきた。

 勝負を決めようというつもりだ。

 

 緊張の時間が続く。

 

 そんな時だった。

 一瞬遠くで何かの音が鳴った瞬間―――

 

 お互いに飛び出し、そして同時に引き金を引いた。

 

 

 

 

 




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