最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる   作:のこのこ大王

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■川上 律子:U-18女子監督。元プロ。黄金世代全盛期とも言えるU-18の強さに驚いている。
■ジェシカ・ラングフォード:去年U-15リーダー。今年U-18に全てを賭けて挑むも残酷な現実を突きつけられた不遇な少女。普段は冷静で戦術的な指示を出すリーダー気質でありながら最前線ストライカーとしても戦える優秀な選手。


第52話 U-18女子世界選手権 準決勝 対アメリカ

 

 

 

 

■side:U-18女子アメリカ代表 ジェシカ・ラングフォード

 

 

 

 

 

 U-18女子世界選手権・準決勝。

 今、まさにそれが始まろうとしていた。

 

 スタートポイントでスタンバイ状態。

 あとはアナウンスが鳴ればスタートだ。

 

「……さあ来い、さあ来い!」

 

 

 ―――試合開始!

 

 

 待ちに待ったスタートコール。

 皆が一斉に飛び出す。

 

 特にアタッカーは、最低でも中央ラインを引かなければダメだ。

 開始直後に何かを恐れてラインを下げたなど論外である。

 私は、両肩ミサイルに大型ガトリングという重装備でありスタートダッシュが少し遅れた。

 まあ私の役割は、完成して撃ち合いが始まったラインを押し込むこと。

 今度こそ、私は勝つのだ。

 

 前に進むほど銃声が大きくなっていく。

 さあ、ここからが始まりだ。

 

「―――な、何よ!コイツッ!!」

 

「馬鹿ッ!早く止めろッ!」

 

「攻撃が効かないッ!?」

 

「来るなッ!来るなぁぁぁぁーーー!!」

 

 突然全体通信で叫び始める仲間達。

 何が起こったというのか。

 気づくとログが更新されていた。

 

 

 ◆キル

 × アメリカ:マリリン・クリフトン

 〇 ジャパン:アリス・キリシマ

 

 

 一瞬、狙撃か?とも思った。

 だが―――

 

「ば、化け物……ッ!!」 

 

「何よ、あの動―――ぎゃぁぁぁーーー!!」

 

 

 ◆キル

 × アメリカ:エステル・バウマン

 〇 ジャパン:アリス・キリシマ

 

 

「とにかく止めろッ!!」

 

「きゃあっ!……くそっ!くそぉーーー!!」

 

 

 ◆キル

 × アメリカ:スザンヌ・パネッティーア

 〇 ジャパン:アリス・キリシマ

 

 

「来ないでッ!来ないでよぉぉぉーーー!!」

 

 

 ◆キル

 × アメリカ:カトリーナ・スタンフィールド

 〇 ジャパン:アリス・キリシマ

 

 

 次々と撃破ログが流れていく。

 通信も大混乱だ。

 リーダーも『下がれッ!!』と叫ぶだけ。

 

 私が何とも言えず困惑している時だった。

 少し前の曲がり角から味方ストライカーが倒れる姿が見えた。

 そして同じ場所から現れた敵側のストライカー。

 しかもログを見る限りあのストライカーは、恐らくアリスだ。

 まさか彼女がストライカー?という疑問もあったが、それよりも驚いたことがある。

 

「……ガーディアンッ!?」

 

 そう、あの呪われた装甲。

 あの事件……直前認可事件以降、様々な理由で選手達から敬遠されデータも信用されず軍からの採用も見送られた装備。

 いつしか誰もが避けて使わなくなったもの。

 私達を地獄に叩き落とした例の装備だ。

 

 それがフルセット装備で前に立っていた。

 しかも専用の大盾に、ストライカー用接近武器の大型警棒を手に持っている。

 それがこちらを向いた。

 

「―――ひぃっ!」

 

 あまりの迫力に思わず小さな悲鳴を上げてしまった。

 

 ―――アイツが原因だ。

 

 スグに解った。

 この混乱は……ログは全てアレのせいだと。

 

「死ねぇぇぇぇーーー!!」

 

 気づけば私は、叫びながら両肩ミサイルをフルバーストしていた。

 アリスはミサイル攻撃を確認すると背中のブースターを吹かして高速で通路に出る。

 

「―――ッ!?」

 

 そしてそのまま通路の壁を蹴って少し浮き上がると更にブースターを加速してそのまま横回転しつつ空中を駆け抜ける。

 ミサイルは、そんな相手のあり得ない機動についていけず虚しく通り過ぎていった。

 相手は大盾を構えたまま空中を飛び、そしてこちらめがけて突っ込んでくる。

 

「がぁっ!!」

 

 いくらVRで痛みなどほぼ無いからとはいえ、高速で突っ込んできた鉄の塊に思いっきり吹き飛ばされ地面を転がって壁にぶつかるのは精神的に辛い。

 上半身を起こして相手を見ると既にこちらに歩いてきていた。

 

「うわぁぁぁぁぁーーー!!!」

 

 私は座ったままガトリングを構えると、必死に叫びながら撃つ。

 だがガーディアンとその大盾はあの時と同じように攻撃をまったく受け付けず弾を弾いていた。

 そしてそのまま相手は盾を構えたまま前かがみになると、ブースターを使用して一気に目の前まで迫る。

 その場で軽く飛び上がりながら大型警棒を上段から落下と共に振り下ろす。

 

「いやぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

 

 ◆キル

 × アメリカ:ジェシカ・ラングフォード

 〇 ジャパン:アリス・キリシマ

 

 

 思わず叫んだ私は、いつの間にか復活カウント待ち状態であることに気づくとシートに倒れ込む。

 

「なんで……なんでなのよっ!?」

 

 溢れ出る涙と感情を抑えることが出来ず、私はただ泣き崩れるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

■side:U-18女子世界大会 監督 川上 律子

 

 

 

 

 

 最初にそれを聞いた時は、それを正しく理解出来なかった。

 だがそれをどうしてもやらせろという霧島アリスは、周囲を説得してそれを実現させた。

 

 もはや誰もが忌諱する装備、『ガーディアン』。

 それを使用した高機動強襲攻撃。

 

 開幕直後、突然ガーディアンフルセットで追加装甲まで装備した大盾持ちのストライカーが突っ込んで来たら誰でも驚くだろう。

 更に大型ブースターによって一気にそれが目の前まで迫ってくるのだ。

 そして『シールドバッシュ』で相手の武器を弾いたり相手を吹き飛ばして体勢を崩した所に大型警棒を思いっきり叩きつけて倒す。

 LEGENDでこんな接近戦を誰が想定しただろうか?

 この前のブレイカー同士の接近戦が『新しいLEGENDの幕開け』などと言われていたのにだ。

 それを超えるような衝撃的な運用方法に開いた口が塞がらない。

 

 相手も突然の出来事に対処出来ず、ただひたすらに迎撃を試みるしかない。

 しかし彼女が装備しているのは『ガーディアン』である。

 様々な理由により誰もが見向きもしなくなったものではあるが、性能は未だに最高ランクだ。

 特に防御面は素晴らしく、それなりの威力の銃弾でも無効化するほど圧倒的な防御力を有している。

 それを更に専用の追加装甲と専用シールドで補っているため、アタッカーのアサルトライフルやサポーターの腕部ロケットなどではダメージがほとんどない。

 大型マシンガンや大型ガトリングならダメージがある程度期待出来たかもしれないが、それは全て大盾や追加装甲により阻まれる。

 しかも大きな武器ほど『シールドバッシュ』の餌食だ。

 簡単に体勢を崩されたり武器を吹き飛ばされ無防備になってしまう。

 そこに大型警棒を上段から振り落としてきて一撃で頭部などを破壊してくる。

 

 まさに圧倒的。

 破壊神とでもいうべき暴れっぷりである。

 

 開幕僅か数十秒で次々と相手が殴り殺されていく。

 逃げ腰になりながらも必死に迎撃しようとする相手の攻撃などまるで気にせず正面から突っ込んで撃破する。

 両肩の大型ミサイルを撃ったストライカーも居たが、壁を蹴りながらブースターによって空を飛びながら回避するなど誰が予想出来るというのか。

 しかもそのまま大盾を構えて相手にタックルを入れて吹き飛ばすなど、もう別のスポーツを見ている気分だ。

 最後まで必死に抵抗したミサイルを撃った子も、無慈悲に振り下ろされた大型警棒で頭部を破壊され粒子となって消えていく。

 

「い、今よ!そのまま押し込んでっ!!」

 

 準々決勝に続きリーダーを任せていた飯尾さんが状況に気づいて指示を出す。

 それを聞いて次々とみんなが動き出した。

 

 ……気持ちは解る。

 あんなもの見せられて冷静に動ける訳がない。

 

 結局残った相手選手は、こちらに数で押しつぶされるか霧島さんに襲われて潰された。

 それによりがら空きになった司令塔へ流れ込むことになり、試合はまさかの超短期決戦で終了することになった。

 

 勝利出来たことは喜ばしいのだが、まさか試合よりもマスコミ対応の方が忙しくなるとは……。

 この試合で、世界中が騒ぎになった。

 大型ブースターによる高機動は出た当初から注目されていたが、それをまさか格闘戦に使う人間が出てくるとは思わなかったからだ。

 

 『大型ブースターの新たなる可能性』

 

 そう呼ばれるようになった突撃接近格闘は、世界大会後に世界中の選手達に拡散して各地の公式戦に登場するようになる。

 その圧倒的な瞬発火力は対処するのが難しい反面、それを扱う側にも相当の技量が求められた。

 だがそれでも各地で使用されたそれらは粗削りながらも可能性を感じる動きが多く、ストライカーが更に人気になる一因にもなった。

 そしてそのブームに便乗すべく各社一斉にストライカー用の接近装備を開発。

 

 その中にあった大型の日本刀『FUJISAWAブレード』は、特にAC版プレイヤー達の心を鷲掴みにした。

 大型ブースターとFUJISAWAブレードのみという装備構成で戦う『ブシドースタイル』は世界的な人気となり、AC版は何度目かの世界的ブームを迎える。

 また暗黙のルールなども出始め『ブシドー同士の勝負は一騎討ち』や『小型接近武器の二刀流』など様々なものを生み出した。

 

 そしてこのブームで再度注目されたのが『ガーディアン』だ。

 一度は様々な理由で歴史の闇に葬り去られた装備だったが、今回の件で再び評価されることになった。

 何よりその圧倒的防御力は、突撃型ストライカーには無くてはならないものだ。

 徐々に使用者が増え、売り上げが伸び始めて軍からも試験的にという名目で装備が売れ出す。

 

 これを好機と見たG.G.G社長はスグに記者会見を開き、今まで強く否定しかしてこなかった過去の騒動全てにおいての説明をした。

 しかも内容は『自分達が配慮出来なかったせいだ』と遠回りに責任を取って謝罪である。

 そして『選手達に責任は無い』として大々的な謝罪キャンペーンを開催。

 全商品を割り引いたり、お金が無く装備が買えないような貧乏な学校などに寄付をするなど積極的に活動した。

 それが功を奏して一気に業績が回復し、倒産の危機を何とか脱出することに成功する。

 また今回G.G.Gが全ての責任を背負ったことで、騒動に巻き込まれた元U-15アメリカ代表の少女達へのバッシングは嘘のように消えたそうな。

 

 ―――世界選手権から1ヶ月後。

 私立琵琶湖スポーツ女子学園の女子寮にアリス宛ての国際便が届いた。

 それを開封したアリスは、中身を見て呆れた笑みを浮かべていたという。

 

 中には『アリスのおかげで業績が回復した』というG.G.G社の感謝の手紙。

 そしてG.G.G社が販売している全ての装備データ一式が入った専用スティック。

 更にはどこかで見たことがあるような、G.G.G版の『名誉会員証』が入っていたそうな。

 

 

 

 

 

 

 




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