最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる 作:のこのこ大王
■side:東京私立大神高等学校 元リーダー 白石 舞
本当に、どうして私がここまで動かなければならないのか。
いや、解っている。
全てアリスにハメられた私が悪いのだと。
あれだけ優勝にこだわっていたこともあった世界大会。
ようやく優勝して祝福された時は思わず思いっきり泣いた。
そんな恥ずかしい思い出も、きっと今後の人生で笑い話になるのだろう。
空港に到着し、ファンやマスコミの多さに驚いたが、それ以上に記者会見などが物凄かった。
異常な食い付きとでもいうべきか、時間が過ぎたのでと司会者が終えようとしても質問が終わらない。
移動する先々で待ち構えて隙あらばコメントを狙うその姿勢は、ある意味仕事としては立派ではある。
しかしやられる側からすれば怖くなってくる執念だ。
かつてあれだけ望んだ『ファンやマスコミに囲まれる』という光景は、やはり幻想だったのだろう。
そして今回、アリスや馬鹿鳥が居るにも関わらず、何故か私への質問などが一番多い。
もちろん、あの馬鹿げた高機動重装甲ストライカーなどを生み出したアリスにも質問は飛ぶが、彼女はまともに答えないことで有名である。
どうでもいい質問などは、徹底して聞こえないふりをするぐらいだ。
なので、マスコミもそれを理解している所は、律儀に答える私に集中しているようだった。
「いや、それもあるけど最多KDだからでしょうね」
「それはアナタが一騎討ちなんて応じていたからでしょう。それが無ければそっちが最多だったはずよ」
「それはない。調整したもの」
「……アナタまさか」
「日本は勝った。舞は最多KDで評価される。私は必要以上に騒がれない。みんな得」
それを聞いて頭が痛くなった。
恐らく彼女は『あえてキル数を抑えた』のだ。
しかも試合中に何度か思った通り『こちらに譲る形』でだ。
実力差があるのはもう嫌というほど理解しているが、世界最強の壁の高さを改めて思い知らされた気分である。
それと同時にハメられた気分だった。
「……でもそろそろ面倒だからアレを盾にするか」
「アレ?」
「MVP取って調子乗ってるハイエナクソバード」
「その言葉で何となく誰の事を言っているのか解るのが微妙な気分だわ」
それから何度もアリスは、インタビューに全て答える馬鹿鳥に何かあると全てを押し付けた。
もてはやされることに慣れていないのか、それともそういう性格なのか。
嫌がるどころかにこやかにマスコミと話し込む彼女を見ていると『それでいいや』と思えてきた。
なので途中から私も馬鹿鳥に全てを投げてアリスと同じく逃げることにした。
その後もお祭り騒ぎに参加させられたり学校行事などで取り上げられたりと無難に面倒な出来事を挟む。
そしてそれらが一段落した所で、LEGEND部では3年生の引退式が行われることになった。
もう公式試合は、ほぼ無い。
受験生も居れば新しい環境への準備に忙しい子もいる。
だからこのタイミングで3年生は引退するのだ。
全てが引き継がれリーダーも無事1年の谷町香織が引き継ぐことが決定する。
U-18女子日本代表として予選でとはいえ、リーダーを務めたことがあるのだ。
誰も反対などしなかった。
引退後、私は進路で悩むことになる。
少し前までなら予想していなかった。
何故なら今、スカウトの数が凄いからだ。
プロ・大学全てのチームから条件が提示されている。
似たような条件もあれば独特なものまで色々だ。
まさか自分がここまでの選手になるとは思っていなかっただけに感慨深いものがある。
そんな中、電話がかかってきた。
大阪日吉のリーダーでありU-18女子日本代表でもリーダーを務めた堀川茜だ。
「ちょっときぃ~て~なぁ~!」
開幕から愚痴を語り出す茜に思わずため息を吐く。
要約すると『アリスに【大阪日吉は冬季大会出るんでしょ?出ますよね?出ないなんてないですよね?】と散々言われたらしい』ということ。
しかもそれに『参加する』と答えてしまったらしく、その後アリス達の琵琶湖女子は出場辞退するということを知ったみたいだ。
それに対する抗議も『私は出るとは言ってない。大阪日吉応援してる』と返されたと悔しそうに言ってきた。
何故私がその2人のやり取りを聞かされなければならないのか。
出ると言ってしまった関係で引退した3年生から出場したい人を集め直す所から始めなければならず大変だと延々愚痴が止まらない。
最終的には『大神は出場するよな?』と謎の確認をしてきたので『引退した3年か引き継いだチーム次第でしょ』と返したが、納得出来ないらしい。
ずっと『大神は冬季大会出るやろ?出るやんな?出ぇへんとかないよな?』とあまりにしつこかったのでそのまま電話を切った。
私は私で今後の人生の選択に関して悩んでいるのだ。
遊んでいる場合ではない。
そう思っていたのに、今度は香織から連絡が来る。
『冬季はどうすべきでしょうか?』と。
自分で決めればいいじゃないかと言いたかったが、結局その相談にも乗るハメになった。
その後、この不満をどこにぶつけるべきかと考えてアリスに電話をかける。
そして電話越しに『こっちにまで迷惑をかけるな』と言うと『茜は、面白いぐらい遊べる。舞はもっと茜を見習うべき』などと言いだした。
本当にもうコイツは、年上の私達を何だと思っているのか……。
■side:東京私立大神高等学校2年
これはチャンスだ。
私は素直にそう思った。
『冬季大会開催』という情報は、大多数の選手達からは歓迎された。
それはそうだろう。
プロへのアピールチャンスが増えるということなのだから。
だがあまりにも急な開催は、その情報が遅れたことにより3年生の引退や世界大会勢がまだしっかり休息を取れてない点など問題を多く抱えていた。
そのためか、いくつかの中学・高校が出場辞退という話になった。
これをチャンスと取るか残念と取るかは人それぞれだが、協会や大会運営関係者は騒然となった。
何故なら特に高校生LEGEND大会の方で、優勝校の琵琶湖女子と準優勝の大神のどちらもが出場辞退を選んだからだ。
どちらも理由が『選手のしっかりとした休息のため』である。
それはそうだろう。
どちらも主要選手が世界大会で優勝してきたのだから。
しかも世界大会後、政府・協会・マスコミと誰もが彼女らを引っ張りまわした。
ようやく本格的に休めると思った段階で大会と言われても……である。
なので琵琶湖女子とウチに何度も関係者が説得に訪れるという珍しいことになった。
その話し合いの結果『出場したいという選手だけのエキシビションマッチ』をやることになる。
要するに、大会予選の開会式の後に琵琶湖女子VS大神というカードで模範試合を行うのだ。
だが琵琶湖女子は選手が少ない。
そのため特別ルールとして、5 VS 5のAC版ルールでのマッチとなった。
それが決まってから引退した3年生を中心に出場したい人を選ぶことになったのだが、予想外に出場したいという選手が居なかった。
結果は4人だけ。
残り1枠をどうしようという話から、何と私が選ばれた。
これには驚いたが、ようやく巡ってきたチャンスだけにやる気が出てきた。
「ここで戦績を示せば来年、スタメンも夢じゃないかも……」
そうしてエキシビションマッチまで猛練習をし、ようやくその日を迎えた。
*画像【AC版:初期】
マップは、もちろんAC版マップの一番シンプルな所だ。
一番人気もあるらしく、AC版と言えばこのマップと言われるほどらしい。
まあそんなことは、この際どうでもいい。
ここで私は自分の実力を示すだけ。
……思えば長かった。
ずっと最前線ストライカーを目指していたが、才能が無いのかレギュラーどころか補欠にすらなれない日々が続いた。
その内、監督などから『転向』を言い渡され、支援特化や大盾装備に砲撃など様々試すも結果が出ない。
そしてアタッカー、サポーター、ブレイカーと兵科まで転向したが、どれをやっても上手く行かなかった。
そうして雑用ばかりをする日々。
夢は所詮夢なのだと言わんがばかりに嫌というほど現実を突きつけられた。
私は結局『その他大勢』でしかなかった。
そう思っていた時だった。
ある日応援で見ていたU-18女子日本代表。
白石先輩を始めウチから何人も出ていた世界大会で、私は出会った。
『高機動重装甲ストライカー』
のちにそう呼ばれることになった新しいストライカーの形。
霧島アリスという世界最強エースとまで呼ばれる選手が編み出したもの。
それを見た時は、思わず興奮して叫んだ。
圧倒的な防御力と機動性で相手に何もさせずに撃破していくその姿に憧れた。
そして次の日。
私は全ての練習を『高機動重装甲ストライカー』につぎ込んだ。
貯めていたお金でスグに『ガーディアンフルセット』と『大型ブースター』に『専用シールド』や『大型警棒』を購入する。
全て使い切ってしまったが、後悔などしていない。
これでダメなら私はLEGENDを引退する気だったからだ。
私にとっての最後の挑戦である。
何度も何度も何度も何度も映像を繰り返し見ては、練習モードで動きを練習する。
正直ブーストに振り回されるだけで制御など不可能だった。
周囲は私が無謀なことをしていると思ったのか、声すらかけてこない。
まあ部内の底辺選手が何をしようが興味などないだろう。
ひたすら練習をした。
暇さえあれば練習をした。
暇が無くとも時間を作って練習した。
そしてその日がやってきた。
冬季大会開催決定の話が出てきた頃。
部活内では、2軍と3軍の紅白戦が行われていた。
そこで交代による途中出場で3軍側として参加することになった私は、高機動重装甲ストライカーで出撃する。
まだ霧島アリスのような動きなど出来ない。
だが、ある程度ブースターを制御できるようになった私は、単独突撃から次々と相手を撃破。
気づけば5K0Dという、初めての大戦果で3軍側の勝利で終わった。
試合が終わってリアルに戻った瞬間、VR装置の中で思わず泣いてしまった。
今まで何をしても結果が付いてこず補欠にも入れなかった自分が、2軍選手相手にこの戦果である。
ようやく自分の努力に対しての結果が出たような気がして思いっきり泣いてしまった。
その試合後、監督に呼び出された私は今回の試合に出るようにと言われた。
その時もまた思いっきり泣いてしまい、監督に『よく諦めずに頑張ったな』と慰められた。
そうして今、私はこの場に居る。
他の先輩方からすれば引退記念試合みたいなものだろうが、私からすれば次へのチャンスだ。
絶対に勝利で終わらせてみせる。
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