最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる 作:のこのこ大王
■南保 珠:去年U-15。攻撃型サポーター。プライドが高い。
■安東 春枝:去年U-15。防御型サポーター。三島を格下(アリスと比べてしまい)に見ている。
■山梨 綺羅:新潟田所の2年リーダー。ブースターによる高速移動と新武装であるロケットランチャーを組み合わせた独自進化したストライカー。
■side:新潟県立田所高等学校1年
我が母校のLEGEND部は、いつもの練習風景とは違い緊張感に包まれていた。
「それ本気で言ってるの?」
目の前に居るのは、3年生の引退に伴いリーダーを引き継いだ2年生の『
背中まである茶色で長い髪をハーフアップにしている大人な感じの女性。
そんな彼女が驚いているのか、それとも呆れているのか判別出来ないような微妙な顔をしていた。
彼女が何故そんな顔をしているのか。
その原因となった出来事は、少し前にさかのぼる。
それはいつもの練習風景の中で起きた。
私が紅白戦でKD狙いで撃破を重ねて試合が終わった後。
去年私と同じくU-15女子日本代表でありながら今年招集されなかった『
「流石はU-18日本代表。そして優勝選手だわ」
この何気ない嫌味に私は反応してしまった。
「何が気に入らないのか知らないけど、そういうのやめてくれる?」
確かに私達U-18女子日本代表は優勝した。
でもさすがの私も『私のおかげだ』なんて言う気はない。
精々私が堂々と言えるのなんて全体の1割ぐらいだろう。
むしろ私は世界の大きさを知って、その壁の高さを実際に感じて軽く萎えている所だというのに。
「別に。ただ褒めただけじゃない」
それを嫌味だって言うんだよと言いたかったがあまり喧嘩をしても意味がない。
というか原因は解っている。
単なる嫉妬だ。
彼女ともう1人、元U-15で一緒に戦った『
それはもちろん私だけU-18女子日本代表になったからだ。
ただ、言わせて貰うなら私はブレイカーというなり手が少ない枠だったからこそ選ばれただけである。
そして何かあるたびに『霧島アリス』『白石舞』と比べられる気持ちなどお前らには解らないだろうよと。
だが彼女らはそんな世界の高さを知らないし、いつまでもU-15気分で文句を言われても困る。
そこでこの件を監督に説明した。
ウチの監督は元プロでプロチームの監督をしたこともある人だ。
説明を終えると監督は苦虫を潰したような顔をしながら『困ったもんだな』とため息を吐く。
そして『こういうのは自分達より格上に一度叩きのめされないと解らないものだ』と言いつつも、『だからと言ってプロを呼べば【相手はプロだから】と逃げ道になってしまう』と苦笑していた。
『出来れば同じ高校で強豪校が良い』と言っていたので、ふと琵琶湖女子を思い出して一番話しやすそうな南に声をかける。
するとそこからドンドン話が進み、やがて監督同士の話し合いから一度練習試合をすることになった。
それを今、伝えたという訳だ。
先輩が微妙な顔になるのも解らなくはない。
ウチは予選敗退。
相手は、優勝校。
とてもではないがレベルが違う。
しかし監督が『そろそろ生意気な鼻っ柱を叩き折らなければな』と妙にやる気であったため、先輩も諦め顔で承諾した形だ。
それから数日後。
練習試合が確定し日時が伝えられると、あの2人は『実力を示す良い機会だ』とばかりにやる気を出していた。
まあ一応来年度のスタメン争いという側面もあるので、そうなるのは当然かもしれないが……。
向こうも『冬季大会』を辞退した関係で、そろそろ一度練習試合をしたかったらしいのが幸いだったとも言える。
ウチも辞退したが、あの2人を中心に煩かったので今回の試合で良い感じに大人しくなってくれることを期待しよう。
ちなみに冬季大会は、大阪日吉が優勝した。
まあ当然だろう。
あそこ以外でまともな強豪校など栄女子ぐらいだったのだから。
その決勝も、最初から大阪日吉が集団突撃をして一瞬で勝負が決まるという残念さ加減。
ネットでも『冬季大会は本当に必要か?』などとさっそく言われる始末である。
*画像【地下通路:初期】
今回のマップは、地下通路。
かなりインファイト気味なマップであり、無駄に上下と連携も取れやすいため総力戦になりやすい。
逆にこういうマップはブレイカーには少し厳しいが、文句を言ってもマップが変わる訳でもない。
全体の作戦説明をしている先輩は最初から勝てると思っていないらしく、『良い勝負になるようにしましょう』と言っていた。
そこで『勝ちましょう』というのがリーダーだと思うのは私だけだろうか。
その時、ふと思い出した。
U-18の時にアリスに言われたことだ。
『手数重視はとにかく狙って撃つまでを最速にする必要がある。当たるかどうかを考える必要などない』
『アナタは狙い過ぎている。だから手数重視なのにその手数を叩き込めない』
『外すのが怖いなら、狙いを定めるのが止められないなら、一撃必殺系のライフルにすべき』
『零式ライフルが無理ならせめてG.G.Gの威力重視型のライフルを持つべき。あれなら精度も高いから狙撃もしやすい』
言われたことは全て正論だと思った。
だけど私の中のちっぽけなプライドが『今までこれでやれてきたのだ』と主張する。
だから今回、あえて手数重視のままで戦うことにした。
これが通用しなければ、彼女の言うようにスタイルを変更してみよう。
今度の練習試合は、私にとってそんな位置付けの試合である。
「……もう一度だけ挑ませて貰うわよ、
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 杉山 栄子
思わず何度目かのため息を吐く。
自分には才能が無い。
そんなこと自分が一番良く解っている。
でも……それでも凡人だって努力次第でやれるのだと自分自身で証明してきた。
それが私のプライドだった。
だけど今、私が唯一持っていたそれも砕けそうになっている。
原因は、この前の試合だ。
灯里が装備を変えていること、そしてまだまだ初心者であることを考えれば、自分が前に出るべきだったのだ。
それを役割だからと判断して動かなかった。
そのせいで相手の攻撃で灯里が撃破されてしまい、自分1人で支えきれず突破を許して負けてしまった。
あれは明らかに私のミスだ。
しかし誰もそれを責めようとはしない。
それが何より悔しかった。
いつの間にか未来は、U-18に選ばれて活躍する選手になっているというのに。
京子ちゃんのような防御重視のサポーターは、私には無理だった。
あんな攻撃と防御のバランスを取りつつ状況次第で連携攻撃を行うなど凡人には不可能である。
しかしあまり攻撃に尖り過ぎるとサポーターとしての意味が無い。
だからミサイルという一番安易で火力が高い装備を使っているが、これも正直いまいちだ。
「凡人は、ここまでなのかな」
何度そう思ったことか。
それでも私は、LEGENDが好きだ。
今更辞める訳にはいかない。
これでも元強豪校のスタメン選手である。
ここで諦めることは、今までの努力を全て否定することになる。
それだけは出来ない。
そんな中、練習試合が決まった。
相手は『新潟県立田所高等学校』という所だ。
ここは東北勢の中でも強豪校として有名だが、最近あまり良い話は聞かない。
何故そんなところと急に試合が決まったのか?
何やら知ってそうな人が何人か居たが、みんな微妙そうな顔をしていたので、まあ深くは追及しないことにした。
私にとっては願ってもないチャンス。
この試合で自分の動きを再確認しつつ新しい装備なども試せる機会だ。
「……せめて隣に並べるぐらいにならなきゃ」
凡人としての私の……精一杯の目標と共に、私は今日も練習に励むのだった。
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