最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる   作:のこのこ大王

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第8話

 

 

 

■side:東京私立大神高等学校 リーダー 白石 舞

 

 

 

 

 

 イライラする。

 ここ最近、特にだ。

 理由は、解っている。

 どうしようもないことだということも理解している。

 それでも、だ。

 

 VR装置から外に出る。

 画面には、射撃練習の歴代最高記録更新と表示されているが

 そんなものには興味が無いため、記録せずそのまま電源を切った。

 

 休憩しようと休憩スペースに移動すると

 後輩達が、さっと席を譲るような振りをして逃げていく。

 最近のイライラで周囲がそんな感じになっていることも知っている。

 周囲に八つ当たりしても意味が無いと監督にも怒られた。

 それでも、だ。

 

 スペースに置かれた雑誌。

 無造作に開かれたページには、昨日のテレビで

 今年のU-18女子日本代表に決まった川上 律子のコメントが掲載され

 更にそれが雑誌独自の解説を付けて書かれていた。

 

「どうして私が『選考会に呼ばれる』で

 あっちが『招集に応じて欲しい』なのよ……ッ!!」

 

 つい最近までは『日本のエース』『未来の日本を背負う美少女』『最強のブレイカー』など

 様々な呼び名で呼ばれ何度もテレビで特集が組まれ、世界大会というタイトルを

 最初に獲得する可能性が一番高いと期待されてきた。

 

 しかしある日を境に全てが変わった。

 

 霧島 アリス。

 彼女の登場である。

 

 僅か半年ぐらいの歴で、他を寄せ付けない圧倒的な戦績で全国中学生大会を優勝し

 そのままU-15女子日本代表に選出。

 そしてあり得ないスコアを叩き出し、あれだけ悲願だった世界大会の優勝という栄光を

 あっさりと手にしてしまった。

 

 世界大会優勝を持っていかれたということは

 まだ許せるというか、少し悔しいと思う程度だ。

 だが彼女は、それがどうしたと言わんがばかりに平然としていた。

 私が欲しくてたまらなかったものを、まるで価値が無いものとして

 興味無さげに、ただ無表情のまま淡々と表彰されていただけ。

 そんな姿に、気づけば怒りが込み上げていた。

 しかし世の中は、そんな彼女の態度を『クールビューティー』だとか

 『ミステリアス美少女』だとして好意的に評価しただけでなく

 『日本のエース』『未来の日本を背負う美少女』『最強のブレイカー』などの

 私を示していた呼び名は、全て彼女のものとなってしまった。

 そして私には『白石は、終わった』『白石では、力不足』などという言葉だけが残された。

 

 

 そう―――私は、もう既に過去の人物として扱われるようになったのだ。

 

 

 これほど馬鹿な話があるだろうか?

 私は、今年の全国高校生大会に出場予定だし

 U-18女子日本代表の選考会に呼ばれることも既に内定している。

 何より、今年こそ世界大会優勝をと、死に物狂いでトレーニングをしてきたのだ。

 私のことを何も知らない連中は、好き勝手に騒いでいるが

 そんな連中に、私のLEGENDに対する努力や想いまでを否定させてたまるかッ!!!

 まずは、全国大会で霧島 アリスに勝って白石 舞こそが

 『最強のブレイカー』であることを証明してみせるッ!!!

 

 気づけば雑誌を握りつぶしていた。

 少し迷ったが、そのまま雑誌をゴミ箱に投げ込むと

 空いたばかりのVR装置に乗り込んで練習モードを起動した。

 

 

 

 

 

■side:大阪府立日吉女学園 リーダー 堀川(ほりかわ) 茜(あかね)

 

 

 

 

 

 

 何となく今日は、やる気が出ないため

 コーチが居ないのを良いことに、VR装置は部員に譲って

 テレビを眺めていた。

 

「せんぱ~ぃ。

 一通り纏め終わったので持ってきましたよ~」

 

 そんな私の隣に大量の資料を持った小柄な少女がやってくる。

 長い髪は手入れをしていない感じでボサボサなのだが

 これでも手入れをしている方らしい。

 本人曰く、ドギツい天然パーマだそうだ。

 

「……なんで紙媒体なのよ」

 

「だってウチの伝統じゃないですか~。

 何でも資料は、紙!って感じなの」

 

「時代は既にデジタルなのよ?

 データで良いじゃない」

 

 ため息を吐きながらも、大量の資料を受け取る。

 部員の中でもレギュラー争いにすら参加出来ないような

 趣味でやっている、またはどうしても才能的に厳しい仲間達が

 サポートに回ってくれ、こうして資料作成などを進んでやってくれているのだ。

 それを感謝こそすれ、ぞんざいに扱うなど出来るはずもない。

 

「ざっと目を通しましたけど

 やっぱり関西圏では、京都の青峰女子学園と

 奈良の大東院高校が鉄板で要注意って感じっすね」

 

「まあ、その辺はね」

 

 京都の青峰女子学園はLEGENDの強豪校として有名であり

 今年は、U-15で活躍した一条 恋を引き込んで更に強力になっている。

 

 奈良の大東院高校もLEGENDでは常に好成績を残してきた強豪の1つであり

 こちらもU-15で活躍した笠井(かさい) 千恵美(ちえみ)が入学したことで

 更なる強敵になったと言える。

 

 特に、青峰女子とはここ3年間ほど全国高校生LEGEND大会で

 毎回ぶつかっては、激戦を繰り広げており

 互いにライバル視しているほどになっている。

 

 大東院高校も、ここ3年ほど毎年戦っているが

 どの試合も勝てては居るものの辛勝という試合が非常に多いため

 あまり気が抜ける相手でもない。

 

「あと実力が解らないっていう点では

 新設の琵琶湖女子って所も危なそうな感じっす」

 

「琵琶湖女子?」

 

「私立琵琶湖スポーツ女子学園。

 今年新設された滋賀の学校で、スポーツに力を入れてるっぽい所っすね。

 で、LEGENDにも積極的で人材を漁ってるみたいで」

 

「ああ、梓(あずさ)のやつが転校した学校だったわね。

 今思い出したわ」

 

 新城 梓。

 1年の中でも特に優秀で、去年のU-18女子世界大会の日本代表選考会に

 呼ばれていた有望株である。

 選考会では結局代表に選ばれることは無かったものの

 ウチでは2年になったらレギュラー入り確定だった娘だ。

 どうやらスカウトが来ていたようで、引き抜かれたと気づいた時には

 

「あ、そうなんですよ。

 転校して2年生からは、向こうでプレイ予定です」

 

 と、笑顔で去っていった。

 

 期待していた娘だけに、当時は凄くショックだったのを覚えている。

 

「この前、青峰女子と練習試合をしたらしいんですが

 ど~やら勝ったみたいで」

 

「へえ?」

 

「流石に詳細は、一切不明ですけど

 どうも青峰側は、結構ガチなメンツで負けたっぽくて

 青峰の部内では、今かなりレギュラー争いが再燃してるらしいっすね」

 

「意外ね。

 青峰が新設校に負けるなんて。

 何か新しい戦術でも試してたのかしら?」

 

「それが噂の段階なんすけど

 ど~も全国からプレイヤーを引き抜いたみたいで

 ヤバイのが数人居るとの情報もあるんすよ~」

 

「ヤバイの?

 例えば?」

 

「あくまでまだ噂っすよ?

 

 一応、去年のU-15女子世界大会日本代表だった

 

 ・大谷 晴香

 ・南 京子

 ・霧島 アリス

 

 の3人が居るって話らしくて―――」

 

「は?

 それホント?」

 

「だから噂ですって。

 まあ結構、信憑性高い情報ではあるんすけどね~」

 

 それを聞いてまず思ったのが『信じられない』である。

 

 大谷と言えば、ハンドグレネードの達人と一部で有名であり

 ハンドグレネード派の人間からは、尊敬されているほど使い方が上手い。

 世界大会の19キル全てがグレネードだというのだから

 その正確さが解るだろう。

 

 南は、大谷と同じく全試合で半数ほどしか出場していない。

 戦績も特に目立ったものではないものの、ちゃんと見ている人は見ている。

 私もちゃんと見ていたひとりだが、彼女の戦い方は非常に手堅く

 特に支援を切らせない徹底したスタイルは、安心して後方を任せられる存在だ。

 

 そして何より

 霧島 アリスという存在。

 

 LEGEND界に突如現れた天才であり

 U-15女子日本代表を優勝に導いたエースと呼ばれる一方で

 対戦した各国のエース達から『バケモノ』と呼ばれる少女である。

 

 彼女は、U-15世界大会において252キルという圧倒的な強さを見せつけた。

 しかも自身は、一度も撃破されずという状態でだ。

 

 実際彼女は、世界大会の初戦で

 相手チームを一人で蹂躙して、相手選手全員の心を完全に叩き折った。

 そのため途中から再出撃しても逆転出来ないとして

 再出撃拒否という事実上の試合放棄をしたという前代未聞の事件が発生。

 公式試合のルールが改正される切っ掛けとなったのだ。

 

 相手チームの少女達全員がVR装置の中で泣き崩れたり蹲ったりで

 誰も出てこないのを監督やチームメイト達が慰めながら外に連れ出す。

 そんな映像がテレビで流れたこともあり、世界大会後に彼女に対して

 試合の申し込みを行うような勇気ある学校は無かったそうな。

 

 そりゃあんなものを見せられた上で試合を申し込むなんて

 馬鹿な監督は、居ないだろう。

 下手をすれば未来ある若者の将来を叩き折ることになるのだから。

 

「あ~、マジか~」

 

「ホントなら、めっちゃヤバイっすよね~」

 

「めっちゃどころか、激ヤバレベルよ。

 それこそ青峰を構ってる暇なんて無いぐらいに」

 

「で、ど~します?」

 

「とりあえずその噂がホントなのかを大至急調べて」

 

「りょ~かいっす」

 

 兵士の真似事か、こちらに下手くそな敬礼をしてから

 去っていく後輩の背中を眺めながら、再度ため息を吐く。

 

「やだなぁ~。

 『霧島アリスと戦える』と思ったらウズウズしてきちゃった」

 

 自分でも厄介な性格だなと苦笑しつつも

 やる気が出てしまったので練習試合に勤しむ後輩達の元へと移動する。

 

 久しぶりに『徹底した指導』も良いかもしれないね。

 

 

 

 

 




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