最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる   作:のこのこ大王

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第75話 少女達の休日 5

 

 

 

■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 霧島 アリス

 

 

 

 

 

 「オー!ソコダー!」

 

 寮の最上階ラウンジの巨大モニターに向かって叫ぶのはサムライガールこと、シャーロット。

 その周囲には、同じくモニターを眺めるメンバーが数人いる。

 

 今日は、久々の休日+部活も休みということもあり完全自由な日だ。

 そのため個人で好きに過ごしていたはずなのだが、気づけばラウンジは映画鑑賞の場となっていた。

 個人的な用事を済ませて寮に戻ってきた私は、この奇妙な集団に出会う。

 最初はただの映画鑑賞かと思ってスルーしようとしたのだが、チラっと見た映画の中身の意味が解らず、気づけば一緒になって見ていた。

 

 途中から見たのでよく解らないのだが、何故かSFチックな時代劇。

 七色に光るネオン看板で『Edo(江戸) Castle()』と書かれた看板が目立つビルっぽい城に、何故か普通の武士っぽいのが歩いている。

 謎の空飛ぶ神輿に乗って登場した公家っぽいのが城に入り、何故か武士っぽいのは上座から話を聞いていた。

 神輿である必要性を知りたい所ではあるが、それ以上に気になるのは―――

 

「いや、上座譲れよ」

 

 何故、偉い方が下座なのか。

 そして何だかよく解らないうちに戦争が始まる。

 戦国時代の甲冑によく似た謎のパワードスーツを身に纏った主人公っぽい武士達が、馬っぽいバイクに乗って出撃する。

 そこまでSFなのに何故か武器は、刀・槍・弓である。

 そこは銃やビームサーベル的なものではダメだったのだろうか?

 

「ええぃ!飛び道具とは卑怯なりッ!!」

 

 飛んでくる矢を弾きながらそう叫ぶ主人公。

 

「ならそのままバイクで抜ければいいじゃない」

 

 そう突っ込まざるを得ない。

 何故にわざわざ敵の前で旋回しつつ戦うのか。

 そのまま突進して突き抜ける方が、よほど効果的だろうに。

 いや、それ以前に殺し合いに飛び道具が卑怯とかないだろう。

 何言ってんのお前?である。

 

 しかも途中から相手側の強い武士が現れ、何故か戦場のど真ん中で始まる一騎討ち。

 流石にそこだけはアクション映画っぽい感じで、アクション満載の対決が繰り広げられる。

 ただどうして周囲がずっと見学しているのかは謎。

 きっとそういうルールでもあるのだろうと思ってスルーする。

 

 見ているシャーロットは上機嫌で刀の切り合いを応援している。

 一緒に見ている三峰灯里や宮本恵理も、何故か一緒に応援していた。

 逆に新城先輩と大場先輩は、ずっと大爆笑。

 晴香と京子ちゃんは、苦笑している。

 ……その気持ちは解る。 

 

 そしてしばらく続いた一騎討ちもついに主人公の刀が弾かれてしまう。

 刀を失った主人公に、勝ったとばかりに声をかける相手武士。

 

「これで終わりだッ!!」

 

 相手武士が刀を振り上げ、そして勢いよく振り下ろそうとした瞬間―――

 

 バーン!

 

 銃声と共に相手武士は胸を撃たれる。

 装甲を綺麗に貫通して血を流しながら倒れる相手武士。

 

 対して、ピンチだった主人公は腰にある脇差……ではなくどこに持っていたのか解らないリボルバーを持っていた。

 

「ウェスタァン……サムラーィ!」

 

 謎の言葉を残して死ぬ相手武士。

 先輩2人は、ついに笑い転げてソファーから落ちた。

 

 もうツッコミどころが多すぎて間に合わない。

 そのリボルバーどっから出したよって所から始まり、飛び道具が卑怯とか言っていた癖にリボルバーを使った主人公の自己中っぷり。

 何より至近距離とはいえあんな小さなリボルバーで貫かれる装甲とかペラ過ぎる。

 そして相手武士よ。

 どこから『ウエスタン』が出てきたんだ?

 リボルバーからか?

 てかその理論だとリボルバー持ってる侍は、全部ウエスタン侍になるぞ?

 というより人生最後の台詞がそれでいいのか、お前は。

 

「リボルバー!ウエスタンサムラーイ!Very cool!!」

 

 対してシャーロットは、凄く愉しそうである。

 いや、これを日本や侍だと思われるのは流石にどうなのだろう。

 分類するなら『Magical☆SAMURAI』ではないだろうか。

 

 そんなことを思っている間も映画は止まらない。

 何故か宇宙船が現れ、唐突に地球の危機が迫る。

 決戦に行こうとする主人公武士に、どこから出てきたのかお姫様のような和服っぽい女性が出てきて謎のラブロマンスが始まる。

 そして仲間達と、これもまたどこから出てきたのか解らない船っぽい巨大戦艦に乗って空を飛び、宇宙へとあがっていく。

 宇宙戦に乗り込んだ主人公達は、何故か同じく甲冑っぽいパワードスーツを着た二足歩行のカエルっぽい地球外生命体を相手に戦う。

 宇宙船を作って惑星間航行が可能な技術力を持つカエルは、何故銃ではなく刀や槍を使うのか。

 どうしてそんな甲冑っぽいパワードスーツなのか、本当に謎である。

 

 次々と仲間達がお約束の『ここは俺に任せて、先に行け!』を繰り返して主人公は先に進む。

 ついに最深部に到達した主人公を待ち受けるのは、何と物語の冒頭で死んだらしい主人公の元ライバル。

 それが復活してラスボスとして立ちふさがる。

 

 ……なんで?

 

 よく解らない展開だが、何故かそういうものとして2人は対決する。

 ラストバトルだからか、やたらと力の入った演出が目立つ。

 互いに互角の戦いの中、ついに相手は最後の技を使う。

 

 刀を鞘にしまい、腰を落として刀に手をかける。

 ―――居合の構えだ。

 

「……いや、なんでだよ」

 

 思わず突っ込む。

 居合である必要性がない。

 

 創作物では『鞘走りが~』とか『音速の一撃~』とか言われるが、そもそも冷静に考えて欲しい。

 刀を片手で振る動作が、本当に音速の速さを出せるのか?という点だ。

 100%両手で剣を持って構えている状態から振った方が威力も速度もあるだろう。

 片手の時点で威力も速度も出るはずがない。

 絶対に両手以下だ。

 

 しかも居合の構えでは100%横薙ぎだと解る。

 例えいくら素早い一撃だろうが、刀の軌道が解っている以上対処などいくらでも可能だ。

 刀という武器の中で、見た目が派手で必殺技っぽい感じを出そうと思った末に出来たのが、そうした居合だろう。

 

 そんな『Magical☆iai(居合)』を構えるラスボスと、いつの間にか脇差で二刀流になっている主人公。

 属性盛り過ぎ対決は、居合により武器を2つとも飛ばされた主人公の負け。

 ―――かと思ったら、やはりアレが出てきた。

 

 刀を飛ばしてドヤ顔をしている相手に容赦なく崩れた体勢から、またもどこから出してきたのか解らないリボルバーを撃つ主人公。

 

「み、見事。ウェスタァン……サムラーィ!」

 

 そう言うとラスボスは倒れた。

 

 だからどうしてウエスタンが付くんだよ。

 むしろこいつは元からウエスタンサムライなのか?

 その割にはウエスタン要素はリボルバーしかないぞ?

 それ以前に主人公、飛び道具卑怯とか言ってませんでした?

 困ったらリボルバー推しなのも何なの?

 

 こちらの疑問など一切無視で宇宙船の操作盤をいじる主人公。

 すると自爆モードが入って警告が鳴り響く。

 

 急いで小型宇宙船を奪い逃走する主人公。

 ……あれ?お仲間はどうしたの?

 

 そのまま1人で脱出した主人公は、地球に帰還する。

 着陸地点には、和服っぽいのをきた大量の民衆の姿が。

 ……いや、何で居るの?

 

 歓声の中、着陸した主人公が空を見上げると敵宇宙船が爆発する。

 残骸とか凄そうだな~という感想の中、あのお姫様っぽいのが出てきて主人公の武士に抱きつく。

 そして民衆たちと勝利を分かち合った所でエンドロールが流れ出す。

 

 あれ?『ここは俺に任せて~』な仲間は、死んでたの?

 まあ生きてたとしても宇宙船爆破しちゃったからなぁ。

 

 こうして衝撃的な映画が終わった。

 あまりの衝撃に自分が今日これから何をしようとしていたのかを忘れてしまう。

 こんな映画よく作ったなと思いながらコレの持ち主であるシャーロットに話を聞くと―――

 

「ゾクヘン、アルヨ~」

 

 何と2があるらしい。

 思わず咳き込んでしまった。

 

 そして次の日。

 

「ウェスタァン、サムラーィ!」

 

 練習中、映画を見た先輩達を中心にウエスタンサムライごっこが流行り出した。

 あのあまりのインパクトと頭に残る謎のフレーズ。

 

 そしてその中心で、嬉々としてごっこ遊びに参加するシャーロット。

 

 映画を見ていないメンバーからは引き気味な目で見られていたが、やっている集団は愉しそうだった。

 

「ヤッパリ、ニホンニキテ、ヨカッタヨー!」

 

 

 

 

 

 

 

 




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