最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる   作:のこのこ大王

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第77話

 

 

 

 

 

■side:京都私立青峰女子学園3年リーダー 高橋 翠

 

 

 

 

 

 練習試合の次の日。

 昨日の試合を振り返ってのミーティングは、大荒れだった。

 

 最初の数戦は、こちらの勝ち。

 多少予想外な展開があったものの、押し込みたい所で押し込めた勝負だった。

 この辺りに関してはまだ勝ち試合だったこともあって比較的意見なども控えめ。

 

 しかし後半の方になると互いに罵り合うレベルの討論になっていく。

 『闘争心があるのは良いことなんだけどなぁ~』などと思ってみても、現実の言い合いは終わらない。

 何故ここまでの話になっているのかと言えば、簡単な話だ。

 

 こちらの想定以上にボロ負けだったから。

 ただそれだけ。

 

 個人的には『U-18勢が出てきた時点でアウト』だったと思う。

 明らかに動きが違う。

 『LEGENDは個人競技ではなくチーム戦だ』など様々な格言があるが、どれも鼻で笑ってしまう。

 

「(チーム戦ではあるが、個人技術も相応に必要だ……って文章が抜けてるわよねぇ)」

 

 ウチのチームの押し込み役である恋ちゃんや鈴ちゃんたちは、新城や笠井といった正面戦力が出てきた瞬間……その突破力を失った。

 攻撃ルートを担当しているメンバーは、大谷選手のグレネードと南選手の連携の前に何も出来ずにデスを重ねるだけ。

 無理に押し込もうとしても冷静に下がられ、逆にカウンターを狙われた。

 完全に誘い込まれたようなものだが、それに気づかない一部選手が『あそこで援護があれば何とかなった』と熱弁している。

 対してそれに気づいた選手達は『そこに気づけないからダメなのだ』といった感じで冷めていた。

 

 じっくりKD戦をしようとすると、あの大胆なアメリカの子や大場選手が切り込んできて場を荒らす。

 下手に片手間で対処しようとして何度そのまま突破を許したことか。

 

 そして何より大事なことは―――

 

「(結局、出てこなかったのよねぇ。……霧島アリス)」

 

 それが何より痛かった。

 今の2~3年生には特に見せて、覚えて貰わなければならない要注意人物。

 それを体験させられなかったのが一番の問題だ。

 

 『良ければ出て欲しい』と言えれば良かったのかもしれない。

 だけどそれは『霧島アリスを出すまでもない』という相手に対して『こちらの顔を立ててくれ』と言うようなもの。

 流石にそれは出来なかった。

 

 そして根本的な問題。

 戦力の立て直しが思ったほど進まないという点である。

 去年は3年生を中心にしたメンバーだったこともあり、今年は主力選手がほとんど居ない。

 そのため今は、元2軍選手を中心とした編成になっていた。

 その結果が、今回のこれである。

 放置出来る問題ではない。

 

 しかも更に面倒事はあったりする。

 強豪校と呼ばれている所は、どこも今回独自に色々とやっているらしく、去年とはまったく違う感じになっているそうな。

 

「(私にどうしろって言うのよー!)」

 

 思いっきり叫んで全てを投げ出したい。

 でもリーダーを引き継いだ以上、それは出来ない。

 私の代で『名門京都青峰も弱くなった』などと絶対に言われたくない訳で。

 

「はいはい、いい加減にしましょう。私達は全国に居るああいう強豪校を倒していかなきゃならないの。喧嘩してる場合じゃないって解るでしょう?」

 

 手を叩いて注目を集めてから声をかけて、とりあえず喧嘩と化していた言い合いを止める。

 

「作戦やチームでの連携も大事だけど、私達には根本的に経験が足りなさすぎるわ。昨日の試合でそれは十分理解出来たでしょう」

 

 そう言いながら周囲を見る。

 誰も反論してこないことを確認してから話を続ける。

 

「だからこそ、もう紅白戦だけでは限界があるという結論になりました。よって今後は全国の高校にこちらから試合を申し込みまくります!」

 

 そう言いながら用意してあったリストを空中に表示させる。

 

「既に13校からOKの返事を頂いてます。その中には山梨の大熊高校や佐賀県立大学附属に広島の芦見川高校などからの返事もあります」

 

 説明を始めると一気に騒がしくなる室内。

 去年の全国大会決勝リーグに進んだ強豪校の名前ばかりが出れば当然かな。

 

「更に本日、大阪日吉からも対戦OKの返事が来たわよ」

 

「えっ!?」

 

 思わぬ監督の発言に私まで驚きの声をあげてしまう。

 

「どこも選手育成が忙しいってことさ。良い事じゃないか」

 

 そう言いながら笑う監督に、自然と皆が笑顔になっていく。

 

「どうせ全部蹴散らして優勝するのだから、問題ないでしょ!」

 

 恋ちゃんの一言で周囲からも『その通りだ!』『全勝しましょう!』など元気な声が響く。

 

「これから大変だけど、頑張っていきましょう!」

 

 

 

 

 

■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 霧島 アリス

 

 

 

 

 

「う~ん、どうしたものかしら?」

 

 ため息を吐きながら目の前のデータと睨めっこをしている我らが監督様。

 放置しておいても構わないのだが、それだと私が帰れないため仕方なく声をかける。

 

「で、どうして私なんですか?先輩方で十分でしょう」

 

「いや~、一応今日はずっと第三者視点で見てた訳だからね?」

 

 小首をかしげて可愛らしさをアピールしているかのような仕草は、私が男なら効果があったかもしれない。

 しかし今の私からすれば、わざとらしすぎてイラッとくる。

 

 こちらの不機嫌を察したのか『まあまあ』と言いながら目の前にデータを表示する。

 

「どうも彼女達が不安定でさぁ。理由もある程度は解ってるのよ。でも具体的な解決方法って無いと思うのよねぇ」

 

 表示されたのは、今日の試合も含めて最近あまり戦果が良くない選手一覧。

 こんなもの、普通は一選手に見せるものではないだろう。

 

 表示されている彼女達は、今日の試合でもこういっては何だが散々だった。

 確かにそろそろテコ入れしたくなる気持ちも解らなくはない。

 

「そうですね。で、これを見せて私に何を?」

 

「私としては絶対的な経験不足だけでなく、メンタル的なものも影響しているだろうから気長に試合数を増やす方向で考えてるの」

 

「はぁ」

 

「でもそれ以外にもし方法があるのなら、そちらを試したい。彼女達の人生だもの。最善の結果をサポートしてあげたいじゃない?」

 

 まあ言いたいことは理解出来る。

 だがそれは監督やリーダーがやることだろう。

 何故に私なのか。

 

「……その手伝いを私にしろと?」

 

「何かアドバイスあればお願い。アナタは何をしてもダメだった安田さんを今や普通のブレイカー並みに育てた実績があるもの」

 

「それが全員に当てはまるとは限りませんが?」

 

「私が失敗するだけなら構わないのよ。でもさっきも言ったように彼女達の人生がかかっている以上、一切妥協は出来ないわ」

 

 そう言いながら彼女が頭を下げた。

 

「だからお願い。少しでも彼女達の未来の可能性を高めてあげたいの」

 

「……わかりましたから、とりあえず頭を上げて下さい。会話が出来ませんから」

 

 思いっきりため息を吐きながらそう返事をする。

 多少上から目線だったり嫌味に見えたりするかもしれないが、それぐらいは許して欲しい。

 

「あくまで私が思ったことを話します。ただ参考になるか解りませんよ」

 

「ええ、助かるわ」

 

 ……結局この日、私が寮へと帰れたのは深夜だった。

 

 

 

 

 




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