最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる   作:のこのこ大王

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第83話

 

 

 

 

■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 宮本 恵理

 

 

 

 

 

 千佳ちゃんの名前が呼ばれなかった。

 いや、何となくそうなんじゃないかと前々から気づいていた。

 

 私が憧れからLEGENDを初めて1年が過ぎた。

 まだまだ皆との差を感じながらも、それなりに参加出来ていると思っていた。

 でも最近、特に現実的な差を感じることが多い。

 

 思えばルール改定からだろうか。

 今まで練習してきたこと、教えて貰ったこと、学んできたことが通用しない。

 気づけば撃破され、復活カウントの画面を見ることも多くなった。

 でもそれは、新しい環境に慣れていないだけ。

 少しすれば落ち着くはず。

 

 ……そう思っていた。

 

 新入生が入ってきてレギュラー争いが始まればこうなるって解っていたはずだ。

 なのに私は心のどこかで『自分は大丈夫』とでも思っていたのだろう。

 ここ数日の紅白戦でもほとんど存在感を示せていない。

 

 新入生達にも負けないと思っていた。

 でも現実はいつも残酷だ。

 

 双子の蒼ちゃん・紅ちゃんの2人は、コンビでとはいえ綺麗な連携を何度も見せている。

 みんなもあれがもっと綺麗にハマれば十分強力な動きになると言っていた。

 

 アメリカから来たシャーロットちゃんは、アーケードのガチ勢というやり込んでいる人達の1人らしい。

 大きな剣1本だけで動き回って切り込む姿は、私ではとても真似できないだろう。

 しかもそれで戦績を常に出しているというのだから凄い。

 

 藤沢先輩の知り合いだというあのお嬢様っぽい神宮寺さんは、巨大な砲撃を上手く直撃させて撃破を取っている。

 一度だけ使わせて貰ったけど、私は反動で体勢を崩して倒れてしまった。

 とてもではないが使いこなせないと思った。

 

 結菜ちゃんは、新人だけあって昔の自分を見ているような感じだった。

 流石に彼女と比べたら動けるだろうが、比べる対象が始めたばかりの新人というのは情けないだろう。

 

 こうして見ると、私は一体何なのだと思う。

 特に何かある訳でもなければ、活躍も出来ていない。

 最初の頃は、梓先輩に付いて行くだけでよかった。

 一緒に戦って、時にはカバーに入って。

 

 でも今は違う。

 先輩は、ブースターという新しい翼を得た。

 圧倒的な速度で動き回る先輩に、ブースターを持たない私は邪魔でしかない。

 いつの間にか一緒のエリアに居ることすら無くなった。

 それでもまだ良かった。

 ここから独り立ちするのだと思えば頑張れた。

 

 何より同じく試行錯誤する仲間も居た。

 灯里ちゃんだ。

 彼女も私と同じく結果が出ずに苦しんでいた。

 だから2人で何度も話し合い、お互いを励まし合っていた。

 

 そう、いつの間にか初心者3人組と呼ばれなくなり、いつの間にか千佳ちゃんが居なくなっていた。

 最近アリスさんとよく一緒に居るなとは思っていた。

 でも気づけばどんな時でも千佳ちゃんだけは戦果を出していた。

 

 思えばこの世界に彼女を引き込んだのも私だ。

 彼女とは子供の頃からの付き合い。

 優しい彼女は、私のお願いを何でも聞いてくれた。

 そんな彼女に私は甘え続けた。

 

 ……でも今は違う。

 

 千佳ちゃんは、自分の足で歩きだしていた。

 私のように誰かに甘えることなく、自分の力で進み始めていた。

 最初は信じられなかった。

 何かに必死になることなんて無かった千佳ちゃんが、泣きながら謝罪したあの日を未だに覚えている。

 彼女が努力し続けた日々を知っている。

 一時は彼女と3人で初心者同盟なんて言っていたのも、今では懐かしい。

 

 こうして振り返ってみると自分の気持ちの正体に気づく。

 

 そう―――嫉妬だ。

 

 私は、千佳ちゃんに嫉妬している。

 自分が巻き込み、自分と同じだと勝手に思い込んでいた。

 そしていつの間にか『自分より下』である彼女にどこか安心している自分が居た。

 

 そんな私だから、きっと今こうなのだろう。

 彼女のように必死に努力をして何かを変えようとせず、周囲に頼り続けた私。

 たった1キルで号泣した彼女のようにLEGENDに真剣に向き合えていただろうか?

 

 私はいつから『憧れ』を忘れてしまったのだろう。

 いつから彼女のような純粋さを無くしてしまったのだろうか。

 

 今もプロ選手との試合。

 本来なら飛び跳ねて喜ぶような内容のはずだ。

 なのに心のどこかで愉しめていない自分に気づく。

 試合を『苦痛』だと感じている。

 

 気づけば千佳ちゃんを睨むように見ている自分が居た。

 思わずため息を吐く。

 灯里ちゃんも私と同じなのだろうか?

 それとも彼女も既に歩き始めた1人なのだろうか?

 

 ……私は、どうすれば―――

 

 

 

 

 

■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 長野 誠子

 

 

 

 

 

 再スタートがしたい。

 そう思って行動に移した。

 その気持ちは桂子も同じだったのだろう。

 そして2人して転校することになった。

 一応、飯尾先輩には話をした。

 先輩は苦笑しながらも『応援する』と言ってくれた。

 

 もう一度世界戦に選ばれるような選手になる。

 それを目標に、私は再び一歩を踏み出した。

 

 琵琶湖女子に入ってからは、驚きと戸惑いの連続だった。

 最新設備の数に人数の少なさ。

 何よりその少ない人数に素人まで混ざっているのだ。

 

 これで紅白戦などやってもと思ったが、意外とこれが馬鹿に出来ない。

 確かに個人の技量差は大きく出ている。

 弱いやつは弱いし、強いやつは強い。

 だが試合になると弱いやつでも連携をしたり自らの長所を活かしてしぶとく生きる。

 たまに強いやつがカバーに入ったりもして簡単に落ちない。

 それどころか下手をすれば一撃カウンターで即撃破まであり得るのだ。

 

 こんな不思議な学校は、他に知らない。

 選手が個性的過ぎる。

 そして選手層が無駄に厚い。

 たった18人しかいないのにレギュラー争いがここまで激しい所など他にあるのだろうか?

 そもそも世界選手権に出場していた選手がこんなにいる時点であり得ない。

 更には千恵美が入ってきたり、あのシャーロットのようなぶっ飛んだのまで居る。

 楽にレギュラーが取れるとは思ってなかったが、ここまで激しいとも思っていなかった。

 

 でもそれで構わない。

 私はもう一度最初から出直すつもりでここに来たのだ。

 過去を捨て、一からプロを目指す。

 だから兵科を変えて色々試すこともどんどんやっている。

 いずれは桂子と離れ、単独で立ち回ることも考えていた。

 

「きっと何か自分じゃないとダメだって強みが無いと―――」

 

 ライバル達を見て私は、そう結論付けた。

 私に足りないのは、それなのだと。

 だからこそ貪欲に何でもやっていこう。

 

 何もしなければ、結局ダメなのだ。

 自分から動かなければ、必死に足掻かなければ何も変わらない。

 私は、アリス達のような天才じゃないのだと認めなければならない。

 自分は凡人で、そして努力が必要な選手なのだ。

 だからこそ、誰よりも頑張らなければならない。

 

 私の全部をLEGENDに注ぎ込む。

 それぐらいの覚悟をするべきなんだ。

 

 今回のプロとの試合だって、きっと私の力になってくれるはずだから。 

 

「さあ……頑張れ、私」

 

 私は気持ちを新たにフィールドに踏み出した。

 

 

 

 

 

 




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