最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる   作:のこのこ大王

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第85話

 

 

 

 

 

■side:去年U-18女子アメリカ代表 ジェシカ・ラングフォード

 

 

 

 

 

 

 正直、目の前の光景の意味がわからなかった。

 ある日、仲良くなって以来メールのやり取りをしていたU-18女子カナダ代表選手から、突然プライベートマッチへの招待が届いた。

 

 LEGENDではプライベートマッチ部屋というのを作ることが出来る。

 人が居なくなると自動で消える部屋もあれば、常時部屋が残り続けるものまで様々だ。

 そこでは基本的に仲間内だけで集まってLEGENDをやったり、戦術討論という名の雑談まで幅広く利用できる。

 中には『○○募集』というような人を集めている所などもあったりと使用目的も色々ある。

 

 どうせ身内を集めてのプライベートマッチか何かだろう。

 そんな気軽さだった。

 

 『Alice in Wonderland』

 

 その名前を見ても『遊んでいるだけだろう』とあまり気にしなかった。

 しかし入った瞬間、何もかもが吹き飛んだ。

 

 国境って何?という感じで様々な国の少女達がウロウロしていた。

 しかもどこかで見たような顔ばかりだ。

 一体何事だと思いながらも私を招待した相手を見つけて問い詰めた。

 すると、まともに聞くのが馬鹿らしくなるような内容ばかりが飛び出す。

 

 この部屋は、あの『最強』霧島アリスと『妖精』アナスタシアが中心らしい。

 その時点でほとんどの人間が、意味の解らなさに絶句するだろう。

 そして何より馬鹿らしいのは、無秩序になりかねなかったので制限を設けたらしい。

 まあそこは理解出来る。

 だがその制限の内容だ。

 『アリスもしくはアナスタシアが認める選手』と言う所までは理解出来た。

 理解出来なかったのは、その次の『世界選手権に出場もしくは一定以上の有名人限定』という所だ。

 何そのドリームチームを作りましょう的な気軽さの制限。

 

 この時点で、私はようやく見たことがある顔ばかりなことに納得した。

 まるで世界選手権の会場のように、有名選手達が雑談をしている。

 時には集まって戦術や武器運用について語っていたり、適当に人を集めて試合をしたりと様々だ。

 

 普通の部屋でも見かける光景だが、ここではそれで済まない所が困る点だろう。

 何故なら戦術や武器運用を検討しているのも、人を集めて試合しているのも全てエース級の選手達ばかりなのだ。

 必死にリアルで様々な所に練習試合を申し込んで~という手順が馬鹿らしくなってくる。

 それらよりも効率的で効果的な状況が目の前に広がっていた。

 

「あと1人~」

 

 自動翻訳で聞こえてきた台詞に思わず返事をしてしまった。

 それによりいきなりドリームチームVSドリームチームという試合に参加することになる。

 

 作戦も何も決めずにいきなり試合が始まった。

 本来こんな状態だとロクな連携も取れないし、適当にバラバラな攻撃をするだけになるだろう。

 しかし流石は有名選手達だ。

 即席チームにも関わらず、自然とランダムでリーダーに選ばれた選手が指示を出し連携を取る。

 互いに初めて組んだにも関わらず自然と相手の動きを予想して次へと繋げることが出来た。

 

 何より驚いたのは―――

 

「ほらほら、しっかり避けなッ!!」

 

 敵側エリアの奥から砲撃が飛んでくる。

 問題はそれを撃っている選手だ。

 

 あの人は10年ほど前に引退した『アメリカの黄金期』と呼ばれた時代を支えた有名プレイヤーだ。

 確か今は、監督としてプロチームの指揮を執っているはずなのだが……。

 そんな人が、普通に最新装備でLEGENDの即席対戦に当たり前のように参加していた。

 彼女だけではない。

 

「ハッ!相変わらず下手だねぇ!」

 

「そう言いながら逃げ回ってるのは、どこの誰だいッ!?」

 

「あまりにも下手なアンタを憐れんで、避けるフリをしてやってるんだよッ!」

 

 私の隣でガトリングを撃ちながら喧嘩をしているのは同じ時期に『イタリアの悪魔』と呼ばれた選手だ。

 2人はライバルだったらしい。

 こうした本来ならあり得ないような人達が愉しそうにLEGENDをプレイしている。

 

 あとで聞いた話だが霧島アリスが『自由を』と言ったらしい。

 それが今では、この集まりの共通認識になっているとか。

 だから引退者が参加しようが、誰も何も言わない。

 LEGENDは、誰でも愉しもうと思えば愉しめるのだから。

 

 気づけば、私が居る位置とは逆側から中国の黄若晴が突っ込んでいく。

 ブレイカーでありながら銃火器を持たずブレード片手に突撃する変人の1人だ。

 しかも『予測出来る』と言って銃弾まで弾くのだから、もう考えるだけ無駄な選手である。

 

 そんな彼女が、切り込んだ先で突然逃げるように今までとは逆に跳躍する。

 その直後、大きな爆発が起こった。

 

 ―――恐らく地雷か何かだろう。

 

 最近出てきたネタ武器だ。

 何故ネタかと言えば、その扱いにくさだろうか。

 そう思った瞬間―――

 

 

 ―――ヘッドショットキル!

 

 

 ◆ヘッドショットキル

 x レッドチーム:黄 若晴

 〇 ブルーチーム:チカ ヤスダ

 

 

 一瞬、意味が解らなかった。

 若晴が、地雷か何かを回避するために超反応をして逆側に跳躍した。

 ここまでは良い。

 その跳躍中、誰もが急な変化に驚いている瞬間にその動きをしている相手の頭を撃ち抜いた?

 何、その映画でもあり得ないような奇跡は?

 

 名前からして、日本人?

 アリス以外にも日本には、こんな選手が居るの?

 気づけば対戦中の選手全員が、その奇跡を起こした選手を見ていた。

 

 しかしその選手は銃を落としながらパニックを起こしたかのように、その場で頭を抱えて驚いた顔をしている。

 

「いや、お前が驚くのか」

 

 思わず声に出して突っ込んでしまった。

 そんな彼女の状況に、周囲の選手達も『ああ、偶然なのか』と納得したかのように戦闘を継続し始めた。

 まあ偶然だろうが何だろうが、一番納得いかないのは撃たれた若晴だろうが。

 

 そういった予想外なことも何度かあったが、得たものが大きすぎる。

 相手の動きを見て『そんな動きがあるのか』と参考になることが多い。

 戦えば戦うほど、話し合えば話し合うほど強くなれる。

 

 U-15の頃から続く様々なことでアリスという存在に良い印象が無かったが、今度ばかりはその認識が大きく変化した。

 よくぞこんな空間を作ってくれたと。

 

 これで私は、更に強くなれる。

 他の選手達も強くなるだろうが、それ以上に強くなってみせる。

 そしていつか私が頂点に立ってやる。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

 ちなみに余談ではあるが、アリスが言った『自由を』という言葉。

 その時『Freedom』ではなく『Liberty』と言ったらしい。

 

 何故ならアリスからすれば『自分に絡んでくる連中達からの【自由】』を求めたからだ。

 だからこその『Liberty』。

 

 しかし周囲は『Freedom』ではなく『Liberty』と言った意味を深読みしてしまう。

 それは、実質的にLEGENDを管理している国際LEGEND協会と企業連合。

 それらに対して『自由』を要求し、勝ち取ろうとしているのでは?と。

 

 かねてより選手を振り回し続ける協会と企業連合に思う所がある選手は非常に多い。

 更に引退しているとはいえ、有名選手も多い集まりだ。

 そのためアリスの知らない所で『Liberty』を合言葉に世界中にその意思が拡散する。

 気づけばそれは、協会や企業連合が無視できないほど大きくなり、世界中でも連日ニュースなどで取り上げられるほどになった。

 これにより新たな緩和を調整してきた協会と連合は、大幅に選手達の声を聞かなければならない立場へと追い込まれることになる。

 

 しかしこの運動の中心人物でありながら事実を知らない『霧島アリス』は、連日のニュースなどを見ても『へぇ~』という感想を口にしただけだった。

 

 

 

 

 




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