栄光の影に隠れた涙   作:こーたろ

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 このお話は、ウマ娘2期で2話と3話の間で語られなかったお話です。
 そこで起きた悲劇を知ってしまったから、書かずにはいられませんでした。

 作者は実際の競馬に行ったことは片手で数えるほどしかなく、競馬知識もニワカ中のニワカです。ツッコミどころが多いのはご了承ください。

 悲劇を悲劇で終わらせない。
 ウマ娘1期も、実際に起こった悲劇を、ウマ娘だからこそ回避できたことがありました。
 そんなお話を目指します。


 10話ほどで完結予定です。


 



第1R 夢のウイニングライブ

 

 『ウマ娘』。

 

 それは別世界に存在する名馬の名と魂を受け継ぐ少女達。

 

 彼女たちには耳があり、尾があり、超人的な脚がある。

 

 時に数奇で時に輝かしい運命を辿る神秘的な存在。

 

 

 この世界に生きる彼女たちの運命はまだわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――それが例え、別世界で悲運によって志半ばに倒れた名馬だとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ウマ娘 プリティダービー 栄光の影に隠れた涙』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国民的スポーツエンターテイメント、「トゥインクルシリーズ」は世界中に浸透しており、誰もが自分の好きなウマ娘に期待を寄せ、レースの結果に日々一喜一憂している。

 

 大きなレースが間近に迫れば、街中にポスターが貼りだされ、テレビではCMが流れる……。

 そして注目を浴びるのはなにもレースだけではない。

 レースを終えた後、3位以内に入ったウマ娘だけが許される夢のステージ……ウイニングライブ。

 

 煌びやかな装飾と明かりに照らされた舞台で、レースの上位3人のウマ娘だけが歌うことを許される夢のステージ。

 

 その華やかで可憐な様子は、いつだってファンを魅了するのだ。

 

 

 

 

 

 「わああ~!!!!」

 

 

 一人の少女が、そのウイニングライブを眺めていた。

 手には一本のペンライトを握りしめ、尻尾を大きく左右に振りながら。

 

 彼女は食い入るように、その光景を目に焼き付ける。

 

 

 「お母さん!私もいつか、この舞台で踊れるのかな?!」

 

 「そうね……あなたがたくさん努力して、速く走れるようになったら……もしかしたらあり得るかもしれないわね」

 

 「私、頑張るよ!皆にウイニングライブで喜んでもらえるような、そんなウマ娘を目指すよ!!」

 

 

 

 

 多くのウマ娘は夢を持つ。

 

 一番早く走りたい。日本一のウマ娘になりたい。無敗の三冠ウマ娘になりたい……。

 

 その夢は人によって様々だ。

 

 少女の夢。

 それはこの大舞台のウイニングライブステージに立つこと。

 

 そしてとりわけ……センターで踊ること。

 

 

 

 

 彼女はそんな夢を持ってトレセン学園に入学したウマ娘だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京都府中市の一角に、巨大な施設がある。

 

 その名は、日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称「トレセン学園」。

 

 『唯一抜きんでて並ぶ者なし』をスクールモットーに掲げるこの学園は、ウマ娘の中でも選りすぐりのエリートのみが入学することができる、まさに夢の学園だ。

 

 しかしこの輝かしいトレセン学園といえども、所属している全員が輝かしい成績を誇るわけではない。

 中には一度も勝利することなく、埋もれて卒業して行ってしまうウマ娘もいる。

 

 そんな実力主義の世界で彼女たちは日々研鑽を積み重ねているのだ。

 

 そんなトレセン学園の一角、正門から少し校舎の方へ進んだところ。

 

 時刻は夕方過ぎ。徐々に日も傾いてきた頃合いに、一人のウマ娘が学生鞄とスマートフォンを持って歩いていた。

 栗色の髪の左右ついた髪飾りが可愛らしい。

 

 

 「ネイチャネイチャー!!」

 

 ネイチャ、と呼ばれた彼女の本名は『ナイスネイチャ』。チームカノープスに所属するウマ娘だ。

 

 後ろから駆け寄ってきた少女を認識すると、彼女は手にしていたスマートフォンから目を離し、少女と相対する。

 やけに白い肌と、人形のような銀髪が、幼い彼女を人形のような雰囲気を作り出していた。

 このウマ娘は、ナイスネイチャと仲の良い友人である。

 

 

 「どうしたのよそんなに興奮して……」

 

 「ネイチャ見た?!昨日の皐月賞!トウカイテイオーすごかったよねえ!!」

 

 「そうね。ほんと、私達みたいなのとは別世界よね~」

 

 

 トウカイテイオー。

 皇帝シンボリルドルフ以来のクラシック三冠を無敗で達成するのではないかと言われているウマ娘。

 脅威の加速力で他を圧倒するその姿は、ファンを魅了してやまない。

 

 今のトゥインクルシリーズは、トウカイテイオーともう一人のウマ娘の話題で持ち切りだ。

 

 

 「メジロマックイーンもすごいし……スピカすごいね!」

 

 「そうねえ……去年は奇跡的に復活してくれたスズカに、ジャパンカップで一着を取り切ったスペシャルウィーク……今はスピカの時代よね」

 

 

 チームスピカ。

 トレセン学園に所属する生徒たちは、必ずどこかのチームに所属している。

 どこかのチームに所属しないとレースには出られず、故にウマ娘達はチーム選びも大切になってくるのだ。

 

 そしてトレセン学園には強豪チームがいくつか存在する。

 一つ目は、チームリギル。

 皇帝シンボリルドルフを筆頭に、短距離の王者タイキシャトル、女傑ヒシアマゾン等、俗に言うG1ウマ娘が多く所属しているチームだ。

 それだけに競争率は高く、入部テストに合格しなければチームに入ることはできない。

 

 

 もう一つが、去年頭角を現したチーム、スピカだ。

 

 最速の逃げ馬サイレンススズカを筆頭に、日本総大将と呼ばれたスペシャルウィーク等、こちらも粒ぞろいのメンバーがそろっている。

 今のトレセン学園は、いわゆる二強状態。

 その二つのチームが、覇権を争っていると言っても過言ではないのだ。

 

 

 「あ、そうだネイチャ、私ネイチャと同じカノープスに入ることにしたよ!」

 

 「ええ?!あんたリギルの入部テスト受けるって言ってなかった……?」

 

 

 ナイスネイチャは、カノープスというチームに所属している。

 強豪チームでもなければ、新進気鋭の新チーム……というわけでもない。

 

 目の前の彼女は実力者だ。

 だからこそ、ナイスネイチャはそんなカノープスに、目の前の少女が入ってくるというのが信じられなかった。

 

 

 「そうなんだけどね……でもやっぱり私、どっちかっていうと強いチーム倒したいのかも!」

 

 「あんたのその自信は一体どこからくるのよ……」

 

 「それにね、私はネイチャと同じチームが良い!二人で、トゥインクルシリーズウマ娘になろうよ!それで一緒にウイニングライブ出るんだ!」

 

 

 トゥインクルシリーズの舞台でセンターで踊るのが私の夢だからねー!と楽しそうに笑う少女を、ナイスネイチャは微笑ましく眺める。

 

 

 (到底無理だと思うけど……あんたとなら、無理じゃないかもね)

 

 

 

 ナイスネイチャは知っていた。

 彼女が活躍する同期のウマ娘を見て、人知れず悔しがり、誰よりも努力する彼女の姿を。

 

 そんな姿に感化されて、ナイスネイチャも自然と努力するようになっていたのだ。

 

 

 この世界には、明確に『才能』がある。

 それは血統であったり、生まれ持った性質であったり、要素としては様々だ。

 

 努力では到底立ち向かえない壁……それが才能。

 

 そしてここ中央のトレセン学園では、才能を持ったウマ娘たちが更にうえを目指し努力しているときた。

 到底凡人に立ち向かえる領域ではない。

 

 しかしそれでも、この少女は諦めていなかった。

 

 自身の、「夢」をかなえるために。

 

 そんな夢に想いを馳せる目の前の少女を見てにこやかに嘆息すると、ネイチャは再び歩き出す。

 

 

 「あんたそんなステップじゃ会場の人たちに笑われちゃうよ」

 

 「ひどいっ?!ウイニングライブだけは誰よりも上手って言われて見せるんだからー!」

 

 

 

 和気藹々と、二人のウマ娘は帰路を辿る。

 

 気付けば、もう夕方も過ぎて日も暮れようとしている。

 

 勢いよく踊る少女に、ナイスネイチャは声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さあ帰ろう!もう暗くなっちゃうよ!――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレセン学園に通う少女達は、皆エリートである。

 その中でも、家柄が優秀でお嬢様と呼ばれるようなウマ娘も少なくない。

 

 今、トウカイテイオーと共に世間を賑わせているメジロマックイーンも、そのお嬢様と呼ばれる一人だ。

 

 トレセン学園の正門に、黒い高級車が停車する。

 車から執事が降りてきたかと思うと、赤色のカーペットを正門に向かって転がした。

 

 そうしてできた赤いカーペットの道を、メジロマックイーンが優雅に歩く。

 

 

 いつも通りの登校風景。マックイーンにしてみれば注目の的になるのであまり好ましくはないが、それでもトウカイテイオーを筆頭に、仲の良い友人は物怖じせずに声をかけてくれる。

 だから最近はこれでもいいかと思いだしていた。

 

 そしてその仲の良い友人の一人……透き通るような銀髪を肩のあたりまで伸ばした一人の少女が、マックイーンに声をかけた。

 

 

 「おはようマックイーン……今日もとんでもない登校のしかたしてるねえ……」

 

 「おはようございます。仕方ないでしょう……ウチのお抱えの運転手が送り迎えしたいと申し出るのを断るわけにもいきませんし……」

 

 マックイーンが若干赤面しながら少女の問いに答える。

 お嬢様のマックイーンだが、年相応に恥ずかしがり屋なのも確かだった。

 

 

 「それにしてもマックイーン最近超絶好調だよね!トゥインクルシリーズのウイニングライブに出るのってどんな気分なの!?」

 

 「それは……まあ、確かに、すごく素敵な景色ではありますわね」

 

 「キャー!いいないいなあ!私もいつか、トゥインクルシリーズのウイニングライブセンターで歌うんだから!」

 

 マックイーンはこの少女をよく知っている。

 入学当初は浮き気味だったマックイーンを、友として支えてきてくれた彼女。

 ライバルとしてマックイーンと競い合ってきたトウカイテイオーとはまた別。

 

 自分の近くで、共にたくさんの時間を過ごしてきたこの少女は、努力を惜しまない、誰よりもライブが好きな少女であるということを。

 

 

 

 学園の予鈴が鳴り響く。

 朝のホームルームがそろそろ始まる合図だ。

 

 未だにトゥインクルシリーズのライブを夢見て踊る後方の少女に、マックイーンが声をかける。

 

 

 「ほら遅刻しますわよ!―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は夢を見る。

 

 とびきりの大舞台のステージで、輝かしいライブをするという夢を。

 

 

 

 この少女の名は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『『プレクラスニー!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、輝かしい運命を辿るウマ娘とは少し違う。

 

 数々の栄光の裏側で、悲しみを背負うことになってしまった一人のウマ娘の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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