栄光の影に隠れた涙   作:こーたろ

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第3R 勝負の小倉記念

 

 

 8月25日。

 

 照りつける太陽がコースの芝から照り返して熱さを膨れ上げている。

 今日はカノープスにとって大事なレースの日だ。

 

 今日は快晴。天気にも恵まれて、多くの観客がレース場に集まっている。

 G1ほどではないにせよ、観客の熱気は相当なものになっていた。

 

 その観客席の最前列。

 ツインターボとプレクラスニー、そしてカノープスのトレーナーの姿があった。

 

 3人ともの視線が、今まさにゲートに入ろうとしている一人のウマ娘に注がれている。

 

 

 『今10人のウマ娘がゲートに入りました!!天気は快晴。今日のメインレースが、今始まろうとしています!』

 

 『非常に楽しみなレースですね。さあ、始まりますよ』

 

 

 一瞬の静寂。

 

 その静寂を突き破るように、パアン、と大きなピストルの音が、青空のレース場に響き渡る。

 一斉にゲートが開いた。

 

 

 『小倉記念がスタートしました!!ほぼそろったスタート!ここからどのウマ娘が抜け出していくのか!!』

 

 『ここからまずは長い直線ですからね。位置取りが、大事になってきますよ』

 

 

 小倉記念。

 G1レースではないものの、重賞と呼ばれる大事なレースだ。

 カノープスからは、ナイスネイチャが出走している。

 そしてこのレースに勝てば……ネイチャはトウカイテイオーへの挑戦権。菊花賞への出場権が与えられるのだ。

 

 7番のゼッケンを身に着けたナイスネイチャが、先頭集団の中頃の位置でのスタートを切っていた。

 

 

 「いけえーーーー!!!ネイチャ頑張れーーー!!!」

 

 「大逃げだーーー!!大逃げするしかないぞネイチャー!!!」

 

 「ターボさん、ネイチャさんは大逃げしませんよ……」

 

 カノープスの面々が、ネイチャの応援に駆け付けている。

 圧倒的逃げウマ娘であるツインターボが、ネイチャに無茶ぶりをしていた。

 

 

 『一番人気のナイスネイチャは先頭集団の中頃に位置しています!』

 

 『良い位置ですね。内からイクノディクタスも来ていますよ』

 

 実況はお馴染み赤坂さん。解説は細江さんだ。

 

 ナイスネイチャはここまで2連勝ということもあり、今回の小倉記念は1番人気となっている。

 そしてそれに続く2番人気となったのが……眼鏡をかけた栗毛のウマ娘……ゼッケン4番をつけたイクノディクタスだった。

 

 

 「イクノディクタスが良い位置につけてる……ううう、怖いよお」

 

 「そうですね……先頭の後ろについて、仕掛けるタイミングをうかがっているように見えます」

 

 「やっちゃえ~!!ネイチャー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースは終盤に差し掛かる。

 第4コーナーを曲がり始めた所で、ネイチャは4番手。

 前方の2番手に、イクノディクタスの姿があった。

 

 

 (イクノディクタスさんは、後半も強い……仕掛けるなら、ここからしかない……!)

 

 ぐい、と強く足を踏み込む。

 丁度コーナーの曲がり角、ネイチャは遠心力に負けじと身体を傾けながら、少し外側へと出た。

 こうすることで前には一旦誰もいなくなり、視界がクリアになる。

 

 ここが、仕掛時だ!

 

 ぐんぐんとスピードを上げて、ネイチャはトップスピードへと持っていく。

 

 

 (させません……!)

 

 ここでイクノディクタスも仕掛ける。最終の直線を目の前にして、今まで1番手だったウマ娘を抜き去り、一気に先頭に躍り出る。

 

 

 「無理~~!!」

 

 1番手を走っていたウマ娘はここで後退。

 先頭を走るイクノディクタスと、追うナイスネイチャ。そんな構造になるかと思われたが、ネイチャはここからが強かった。

 

 飛ぶように変わる視界の中で、ネイチャの意志が、想いが力に変わる。

 

 未だ無敗の三冠ウマ娘になることをあきらめていないテイオーと同じように。

 その夢を、指をくわえて見ているだけでは、もういられない。

 

 

 怪我をして、夢を諦めようとしていた自分とはもう、訣別しよう。

 

 

 

 

 

 

 (私は……私はテイオーと戦うんだ……!!菊花賞で!!)

 

 

 

 「はあああああああああああっ!!!」

 

 

 『外から一気に来たあああ!!!ナイスネイチャ先頭!!イクノディクタスと並びません!一気に外側から!イクノディクタスの視界外から飛んできた!これにはイクノディクタスも反応できません!!』

 

 『これはすごいですよ!外側から一気に抜き去るのは、並大抵ではありません!』

 

 

 

 

 (そんな!私のレースメイクは完璧だったはずなのに……!)

 

 

 隣から抜かれた、というよりいつの間にか抜かれていた形になってしまったイクノディクタス。

 もうナイスネイチャの後ろ姿は離れていく一方だ。

 

 

 (くっ……!)

 

 

 

 

 『ナイスネイチャ強い!ナイスネイチャ先頭だ!今ゴールイン!』

 

  

 そのまま、ナイスネイチャは先頭のままゴールを駆け抜けた。

 ナイスネイチャは勝ったのだ。

 

 レース場が大歓声に包まれる。

 

 

 

 

 「やったあああああああ!!!!」

 

 「ネイチャすごい!!!頑張った!!!」

 

 「あ、ちょっと二人とも!?」

 

 

 カノープスの二人が、観客席を飛び出してナイスネイチャの元へ向かう。

 レースを終えたばかりのネイチャに、二人がとびかかって祝福を送る。

 

 

 「ネイチャーーー!!!」

 

 「うわあ!クラスニーにターボ?!いいのにこんなところまで……」

 

 「すごいよ……本当にすごいよネイチャ……これで菊花賞だよ!!」

 

 ネイチャはこれで3連勝。あの時言った通り、ネイチャは菊花賞への挑戦権を手にしたのだ。

 

 

 (そっか……私、出れるんだ。G1に……)

 

 ネイチャの勝利を自分のことかのように喜ぶ2人。

 涙ながらに喜ぶネイチャと、同じく涙をこぼしながらネイチャを抱きしめるクラスニー。

 ターボも満開の笑顔で祝福していた。

 

 

 その姿を、じっと見つめ続けるイクノディクタスの姿があったのを、3人は最後まで気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ということで、チームカノープスの一員となりました、イクノディクタスです。よろしくお願いいたします」

 

 「「いやどうしてそうなった?!」」

 

 その翌日、チームカノープスの部室には、イクノディクタスの姿があった。

 いわく、昨日のレースを見て、カノープスに入りたくなったのだという。

 

 

 「トレーナーさんも、OKを出してくださいました。私もチームカノープスの一員として尽力してまいりますので、どうかよろしくお願いいたします」

 

 「いいじゃんいいじゃん!ターボに続く大型新人ね!カノープスの未来は明るい!」

 

 「……自分で言う?」

 

 どうやらトレーナーもイクノディクタスの圧に負けたようで、終始苦笑いで4人の様子を見守っている。

 

 

 「部室に入ったところ、G1勝利という横断幕をお見かけしました。お任せください。私のプラン通りいけば確実にG1を勝利することができるはずです。まず目下はプレクラスニーさんが毎日王冠で勝利することができれば、天皇賞秋への挑戦権を手にできるはずです。それに加え、ナイスネイチャさんは先日私を下して小倉記念を勝利したことで3連勝……間違いなく菊花賞への推薦は通ることでしょう。それどころか人気もかなり上位になるはずだと私は読んでいます。ツインターボさんも有馬記念は無理ではありません。今は体力が持たず最後にバテてしまうことが多いですが、レース序盤の加速力には目を見張るものがあります。体力作りに務めれば……」

 

 

 長すぎるイクノディクタスの考察が始まったことに、動揺を隠せないカノープスメンバー。

 苦笑いするネイチャに、プレクラスニーが耳打ちする。

 

 

 「なんかまたクセの強い子が入ってくれたね!」

 

 「そ、そうね……まあでも、にぎやかになることはいいんじゃない?」

 

 止まらない考察を真面目に聞くツインターボ。

 そんな2人を、ネイチャとクラスニーの二人は微笑みながらずっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月のある日。

 クラスニーは午前中の講義を終え、昼食をとった後、練習に行こうと校舎の外を歩いていた。

 

 そんな時、目の前から歩いてくる、なにやらチャラけた様子のウマ娘。

 クラスニーは彼女のことを知っていた。

 

 

 「ちゃーーっす!クラスニー!調子アゲアゲってかんじ~?!」

 

 「ちゃ~っす?こんにちは、ダイタクヘリオス!アゲアゲ……ってほどじゃないですけど調子は悪くないですよ!」

 

 ダイタクヘリオス。

 派手なピアスに髪飾り、とイマドキのJKのような見た目をしているこのウマ娘は、プレクラスニーとも仲が良い。

 特徴的な話し方から、どうにも敬遠されがちなヘリオスだったが、クラスニーはその性格上、まったく物怖じすることなくヘリオスと絡み、そして徐々に彼女の特徴的なイマドキ(?)言語がわかるようになっていた。

 

 

 「クラちゃん相変わらず固すぎい~!ウチのことはヘリでいいって言ったじゃん」

 

 「ははは、そうだったね。じゃあヘリちゃん、今は練習行くところ?」

 

 「そそ!マジ練習とか超かったるいしチョベリバなんだけど~、ライブには出たいじゃん?!」

 

 クラスニーとヘリオスの共通点。それはライブに出たいという想いが強いことだった。

 ヘリオスも実力者であることは間違いないのだが、それ以上に彼女はウイニングライブに出て人気になりたいという想いがあった。

 

 それは決して不純な動機などではなく、ウマ娘にしてみればむしろ当然の目標。

 ライブに出るためにレースで勝つというウマ娘も少なくはないのだ。

 

 そしてその想いがお互い強かったのが、クラスニーとヘリオスだった。

 

 

 「あ、そだそだ、ベッケンバウアーなんだけど、ウチ、毎日王冠出るから!」

 

 「……!」

 

 毎日王冠。

 10月の頭に開催される、クラスニーが天皇賞に出るためには負けられないレース。

 

 そこに、ヘリオスも出てくる。

 

 

 「クラちゃん出るんでしょ!一緒にライブ盛り上げちゃお~ぜい!」

 

 「……そう、だね!一緒にライブ出たい!ヘリちゃんと!」

 

 「……だ~け~どお~?」

 

 ヘリオスが、クラスニーの白い肌の頬に指を当てる。

 どうやら考えていることは、お互い同じなようだ。

 

 

 「センターは、譲らないか~んな!」

 

 「ふふっ!私も、譲らないから!」

 

 二人で笑い合い、しばらくして別れる。お互いがレースのための練習に向かう。

 

 二人の背中が、遠ざかっていく。

 

 

 (ヘリちゃんは普段はあんなんだけど……私は知ってる。ライブに出たいって気持ちは、私と同じくらい、強いってこと)

 

 (クラちゃんはかったいねえ~けど多分、レースじゃウチの方が分が悪いカモ?……でも、センターはウチのものだかんね!)

 

 

 

 

 ダイタクヘリオスとプレクラスニー。

 

 二人のウマ娘が、毎日王冠の舞台で激突する。

 

 

 

 

 

 

 

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