それは、一登と優奈が再会して三日後の事。
NewAmigoの厨房にて、朝早くからエプロンを纏った優奈が何らかの調理をしていた。
水を切ったキャベツを食べやすいように切り、パンにマーガリンを塗り、電気コンロの上に置いたフライパンでタレにつけた肉を焼いている。
すべての工程を一人で手際よくやっている優奈の顔は何処か楽しそうに見えた。
「うん、これでよしっと」
自信満々な笑顔を浮かべながら、優奈は調理を続ける。
そんな彼女の様子を悠二はカウンター席を挟んだ所の席に座りながら見ていた。
「おうおう、可愛い顔しちゃって。早起きしてまで作るとはねぇ」
悠二はにやついた顔で料理を作る優奈の様子を眺めていた。
勿論、何のために作っている理由は明白……一登のための料理と既に目に見えていた。
再会して間もないが、早くも手料理を御馳走する仲に進んだかと軽く感涙していた。
そんな一人勝手に盛り上がる悠二のことなど知ってか知らずか、優奈は出来上がった料理をバケットに詰めている。
あとは当人に持たせるだけ……そう思ったその時、店の奥からけたたましい足音が聞こえてくる。
既に制服姿の一登が姿を現し、慌てた様子で大声を上げる。
「寝坊したぁ!」
「一登君おはよう! あのね……」
「ああおはよう! 優奈、悪いけど俺、急がなきゃいけない用事があって!!」
一登は優奈の方へ脇目も降らず、厨房に入ってその中にあったバナナを手にすると、皮をむきながら自らの口に突っ込む。
そして自身の服装を正しつつ出入口へと急いで向かう。
「悪いおやっさん、優奈、いってきます!」
「おい、一登!?」
悠二の制止も聞かず、一登は出て行ってしまう。
その様子を二人は唖然と見ていたが、ハッと我に返った優奈がバケットを抱えて厨房から出る。
「悠二さん、私追いかけてきます!」
「お、追いかけるって……!?」
「もちろん一登君をお弁当届けに!じゃあいってきます!」
悠二にそう告げた優奈は、一登のあとを追うべく出入口の扉を開いて出て行った。
店内に一人残された悠二は『青春だな』としみじみ思いながら、二人の若者を見送ると携帯端末を取り出して、電話アプリを起動させる。
「おぉ、お前か。おはようさん、朝っぱらですまんがちょいと頼みたいことがあってな」
とある人物に連絡する悠二。
その顔には普段二人に見せない不敵な笑みが張り付いていた。
~~~~~
頼打地区、とある道路。
一登を追っている優奈は、辺りを見回す。
周囲にはちらほらと登校途中の学生が見当たるが、一登の姿が見当たらない。
恐らくだが、彼は自前の黒いバイクで向かったのだろうと察しがついた。
バイク通学だと自分の足では追いつけないと察して一旦立ち止まる。
「もう、まったく一登君ったらおっちょこちょいなんだから」
優奈は眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔を浮かべる。
当然だろう、せっかく自分が彼のために作ったお弁当を置いていくなんて……。
だがしかし、このまま引き返すにしても彼がお昼ごろになったとき空腹なのはかわいそうなので、とりあえず学校まで行って届けることにした。
早速彼が通っている学校へ向かおうとする優奈だったが、そこでとあることに気づいた。
「私、一登君の学校知らない」
―――そう、優奈は他の学校について疎かった。
元々伝統のある私立のとある女子学院に通っていた彼女にとって、他の学校の生徒との交流はないにも等しかった。
成績優秀な生徒を輩出しているが閉鎖的な雰囲気が他校の生徒を寄せ付けない……そんな学校に通っていた優奈は何処にどの生徒が通っているか知るはずがない。
まさか自分の通っていた学校のせいで困ることになるとは思ってもみなかったのか頭を抱え始める。
「どうしよう……このままだとお弁当が届けられないよ」
若干、涙目になりながら困り果てる優奈。
そんな時だった、クラクションがなったのは……振り向いてみれ見ればそこに現れたのは、一台のバイク。
赤い車体が特徴のサイドカーで運転席に座っているヘルメットを被った男は、バイザーを上げて鋭い目つきを向けながら声をかけてくる。
「君が八代悠二が言っていた優奈という子でいいな?」
「悠二さんの? えっと、あなたは」
「なあに、あいつに頼まれたバイク乗りだ。それより乗れ。学校まで届けてやる」
サイドカーの男は優奈にヘルメットを渡しながら、乗ってくるように言いつけた。
突然の出来事に戸惑う優奈だったが、とりあえず男の名前を伺うことにした。
「えっと、あなたは何て呼べば……」
「―――そうだな、俺のことは五郎とでも呼んでくれ」
サイドカーの男……『五郎』は、優奈が渋々側車に乗り込んだのを見届けた後、ハンドルを回してバイク音を響かせながら発進させた。
向かうは一登が通っている学校――城南大学付属高校。
~~~~~
一方、城南大学付属高校。
城南大学の関連する高校でもあるこの学校では都内の有名校に負けず劣らず種々様々な生徒や先生が集まって通っている。
先日、仮面ライダージェイナスとして戦った夏川一登もこの学校の一人だ。
そんな彼も、ここでは一生徒だ……今現在、休み時間を合間に何をしているかというと。
「……昼飯、忘れた」
自分の机に突っ伏していた。
落胆とする様子を二人の生徒が眺めていた。
一人は亜麻色の髪色と整った顔の男子生徒。
もう一人は一つ結びにした金髪の女子生徒。
二人のはあきれた表情で彼に声をかける。
「一登、いい加減顔上げたらどうだい?」
「そうですよ一登。昼食を忘れたくらいで落ち込んで」
「でも、蒼汰に有栖……」
亜麻色の男子生徒……氷室蒼汰と、金髪の女子学生……有栖・U・ランド。
どちらも一登の学友である二人は意気消沈している一登を見ながら呆れていた。
どうやら普段ならおやっさんが用意していた弁当を忘れた模様。今日は学校の用事で急いで出なければ行けなかったため仕方がないとはいえ、それでも昼食にありつけないことは一登にとってショックは計り知れない。
そんな彼を蒼汰はため息をつきながら助言を告げた。
「お昼休みに購買部で買いに行けばいいじゃないか」
「うーん、でも激戦区だぞ? 天道印の焼きそばパンとか惣菜ドーナツとか」
「確かに人気だよね。どっちもおいしさは保証しているからね」
「お前はいいよなぁ、どっちも食べたことあるんだから」
購買部の人気メニューを一度食したこともある蒼汰から向けられた笑顔にジト目で見ながら不機嫌になる一登。
その様子を見ていた有栖はやれやれとした態度を浮かべながら、とある提案を一登に持ち掛ける。
「仕方がないですね、私の昼食を分けてあげますよ」
「えっ、いいのか?」
「今回だけですよ。一登がその調子ではこっちも影響受けますので」
一登の顔の前に自身の顔を近づかせながら、有栖は自信ありげに答える。
まるで救いの女神を見つけたかのように目を輝かせる一登と、その一登の様子を見ている蒼汰は苦笑を浮かべていた。
そこへ、教室のドアを勢いよく上げる人物が現れた。
「夏川一登はいるかぁ!」
「「げっ、吾郷 改」」
蒼汰と有栖は嫌な顔を浮かべながら教室の中に入ってきたその男子の同級生の名前を呼ぶ。
赤みがかった茶色の短髪の髪形とギラついた三白眼が特徴の荒々しい雰囲気のその少年……『
「俺と勝負しろ! 今度こそは勝つ!」
「……ああ、改か。おはよう」
「おう、おはよう! ってそうじゃねえ! 暢気だなお前!?」
あくまでマイペースに返してきた一登に、ノリで返しながらも突っ込む改。
―――吾郷改、一登・蒼汰・有栖の三人が中学生へと上がった時に出会って以降、事あるごとに一登に戦いの挑戦を仕掛ける人物。
特技は武術であり、柔道部や空手部といった武道系の部活には助っ人へと参加するという校内ではちょっとした小さなヒーロー。
そんな彼が一登へ挑戦を仕掛ける理由は不明だが、時折こうして申し込むことがある。
ちなみに数少ない対戦成績ではすべて一登が勝っている。
そんな飽くなき挑戦魂の彼は、今日も今日とてライバルに挑むのであった。
「さぁ、今度こそ今までの戦いの雪辱を晴らしてやるぜ!」
「やめなよ、今回もおんなじ結果になるって」
「あなたが今まで勝ったことあるんですか?」
「シャラップ外野! 男と男の戦いに無粋な横やり不要だ!」
苦言を呈する蒼汰と有栖の言葉に怒鳴って返すと、一登に向き直って戦いの申し出を告げようとする。
そこへ、背後から忍び寄る人物が改の制服の首根っこを掴む。
「ちょっと、吾郷君。授業が始まろうとしている時に何入ってきているの」
「なっ……ゲッ!? 梅花先生!?」
背後に現れた人物の存在に気付いた改は名前を叫ぶ。
そこに立っていたのは女性にして少し高い長身と、スカートを履いているスーツ姿でも抜群なプロポーションが特徴の桃色の長髪を一本のポニーテールに纏めてある女性。
道で歩いていたら10人が10人振り向いて美人と答えるであろう一登のクラス担任である『
「あなた、また夏川君にちょっかいかけていたようね」
「かけていたってか、因縁の対決に決着つけるべく挑戦状をたたきつけてやっただけで!」
「校内で喧嘩をしない! そんなの昭和の元号とともに置いてきなさい! ほら、ついてきなさい!!」
「ちょっ!? 待ってくださいよぉ! 梅花先生ぇぇぇ!! あっ、一登ォ! また来るからなコノヤロー!!」
仮にも武道系の部活の助っ人ヒーローをひっ捕らえて、生徒指導室へと連れて行く真理愛……そんな彼女を苦笑いを浮かべながら見ている蒼汰と有栖。
ちなみに当の本人である一登はどういう状況かわかってないのか、疑問符を浮かべている模様。
だが教室へ出ていこうとする真理愛が一登へ向けてこんな言葉を飛ばした。
「ああ、一登君。あとで昼休みになったらちょっと付き合って。君に人を待たせてあるから」
「えっ? 人を待たせてある?」
真理愛の言葉に首をかしげる一登。
既にさっていた担任教師が言っていた人物に思い悩みながら、授業の開始を鳴らす呼び鈴が鳴り響くのが耳に入った。
~~~~~
そして昼休み。
授業を終えた一登が真理愛先生に言われた通り、彼女についていく。
辿り着いたのは、学校内にある植物が覆う屋根の下にあるとあるベンチ……そこには既に誰かが座っていた。
その人物が視界に入るその手前、真理愛はこっそりと耳打ちをした。
「彼女、君のためにここまでやってきたそうよ。ちゃんとエスコートしてあげて」
「えっ、彼女?」
一登が彼女と言った人物について聞き返す前、真理愛はそそくさと離れていった。
今どきの教師らしからぬ素早さに毎度驚きながらも、再びベンチへと視線を戻す。
そこに座っているのは、栗色の
一登には誰なのか分かった……今朝挨拶を交わしたっきり別れたはずの優奈の姿だ。
なぜ彼女がここに……そんな事を頭で思っていながらもその愛らしい姿に見惚れているである一登の姿を優奈は視認すると、笑顔を向けながら手を振った。
「一登君!」
「ゆ、優奈!」
優奈に名前を呼ばれて我に返った一登はすぐさま彼女のもとへと近づいて、肩に手を置く。
正直内心嬉しいのだが、優奈は謎の怪人に追われている身……むやみ勝手に外に出てはどんな危険な目に遭うかと考えた一登は何故ここにいるのか訊ねることにした。
「なんで学校に来てるんだよ?」
「その、えっとね、お弁当届けに来たの」
「お、お弁当? まさか、作ってきたのか?」
意外な事実を知って、キョトンとした表情を浮かべる一登。
優奈は静かに頷き、バケットのシーツを取って見せてみた。
中にはフランスパンに挟まれたレタスと照り焼きの肉が挟まれたバケットサンドがあり、ただでさえ空腹なのに余計に食欲がそそられる。
「……手作りですか?」
「うん、そうだよ。作ってきたの、バケットサンド」
「……俺のために?」
「うん、これでも私、料理できるんだよ」
恐る恐る尋ねる一登に対して、優奈はにこやかな笑みを浮かべながら答える。
一登は自分のために作ってくれた優奈に嬉しく思った。
胸の中に溢れてくるこの愛おしさ……それを感じながら、一登は優奈に伺う。
「食べてみても、いいですか」
「ふふっ、どーぞ。召し上がれ」
「ああ、いただきます」
バケットの中から取り出して、一登は手に持ったバケットサンドを口へと運ぶ。
一かじり、口に含むと広がってきたのは醤油をベースとしたタレの味が広がる。
彼女の作ったバケットサンドの味を確かめながら、感想を口にした。
「おいしいな、これ」
「でしょう?醤油とマヨネーズの合わせたドレッシングが隠し味なの」
「ああ、本当においしい。なぁ、一緒に食べないか? 優奈も昼飯まだだろ?」
「えっ、そうだけど……いいの? 君の分が……」
「いいよ、それよりその……優奈と、二人で食べたいんだ」
自分の言った提案に照れくさそうにする一登。
そんな彼を見て、優しい笑みの浮かべながら優奈はバケットサンドを手にした。
「わかった、じゃあ一緒に食べようね。一登君」
一登と優奈は、バケットサンドに齧り付きながら談笑を続ける。
昼休みはまだ始まったばかり、二人の時間はこれから始まるのであった。
~~~~~
―――彼ら二人の様子を、二階の厨房にて眺める三人の様子があった。
「な、なんなのですかあの子……!?」
「一登、あんなかわいい子と知り合ったのだろう」
「ハッハッハ、女連れとは流石だなぁ!それでこそライバルよぉ!!」
驚愕の有栖、首をかしげる蒼汰、称賛する改。
三者三葉の反応をしながら、楽しい昼食の時間は過ぎていく。