時間軸的には『BEGINS・ROAD』・『悪夢と夢を語る朝』の後のお話。
敵も第三者も一気に登場。
某所。
暗く澱んだ広い空間にて、そこに佇むのは一人の男。
黒一色のスーツ姿に加え、その異様さを漂わせるのは顔を覆う漆黒の仮面。
鬼にも悪魔にも見えるその怪物を模した冷たい仮面を被り、男は目の前に広がる光景を静かに眺める。
そこに映し出されていたのは、
―――仮面ライダー、かつてこの世界に存在したとされている伝説の存在。
今となっては知る人すら定かではない時代に生まれ落ちた彼らの戦いぶりに仮面の男は静観していた。
その最中、仮面の男に声をかける者が黒い闇の中から現れた。
「おい、プルート。何を眺めているんだ?」
「八上か。見てください、例のドライバーとクリスタルの用いたS.M.R.の成功例ですよ」
「フン、くだらん……何が仮面ライダーだ。忌々しい」
『八上』と呼ばれたその男は、前方に映る仮面の戦士の姿をまるで宿敵の見るかのように睨みつけていた。
今にも怒号を飛ばさんとする勢いに、仮面の男……『プルート』は宥めようとする。
「怒るのはそこまでにしておいてくださいな。何、せっかくだ。もう少し見ようじゃないですか」
「はっ、お前は良いよな! お目当ての実験とやらがこんな形で成功しやがって! だがドライバーとクリスタルが盗まれたうえにどこぞの知らないヤツに奪われている事を忘れるな!」
「なぁに、些細な問題です。これはこれで面白い」
プルートの飄々とした態度に、八上は苦虫を噛み潰したような表情を露にする。
この男の人を喰ったかのような性格と自分のペースに周囲を勝手に合わせることにいつも巻き込まれる。
こちらがどれだけ攻め立てようが、軽々しくかわされ、彼の話術に乗られてしまう。
その様子はまるで、そこが見えない奈落……自らをローマ神話の冥界を司る神・プルートと同じ名前だけあえって侮れない。
そう判断した八上は彼に背を向けて去っていった。
一人残されたプルートは変身を遂げた仮面ライダーに対し考えに老け込む。
「しかし、まさかドライバーが二つもあって、それが変身者二人想定の仕組みだったとは。やられました」
「そして適合資格はやはり、ライドクリスタルに宿る記憶の結晶である意識……いわば仮面ライダー達の意思が選んでいると踏んでいい」
「ならば、することは一つ……この世に生まれ持った偉大なる英雄に、さらなる試練を与えよう」
そう言いながら取り出したのは、一個の無色の球体状の結晶。
"エナジークリスタル"と呼んでいるそれを掴むと、思いっきり天高く放り投げる。
空中へ放り出されたエナジークリスタルは緑と青が入り混じったかのような不気味な色に染まっていき、人の姿を形どっていく。
やがて地上に降り立つ頃には、人の姿を得て漆黒の衣服を纏った男が顕現した。
まるで軍服を思わせる衣装を身にまとった漆黒の男はプルートの姿を目に入れると、鋭い視線を向けて彼に訊ねた。
「ほう、この俺を蘇らせるとは……」
「あなたに一つの試練を与えよう。地獄の底から蘇ったあなたにね」
漆黒の軍服を纏う男に対して、プルートは何処か甘さと危険を孕んだ言葉をかけてくる。
その声を聴いて、男は長年の直感でわかった。
―――この仮面のへむやみ勝手に手を出すのは危険だと。
迂闊に手をかければ、この男は何かを仕掛けてくる……そう思える確信と自分の培った生存本能が警鐘を鳴らしていた。
自分をわざわざ蘇らせた人物がつまらん男であれば即刻殺そうと思っていたが、意外にも歯ごたえのある人物だと分かった。
これほどの異端な傑物がまだ残っていたとは……そう思いながら、漆黒の男は口角を上げながら目の前にいる仮面の男へ口を紡いだ。
「申してみよ。貴様を下す試練とやら、受けて立とうではないか」
「フフッ、ありがとうございます」
高圧的で威厳のある声で返した漆黒の男へ、プルートは仮面の下でほくそ笑むと、彼に試練の内容を告げた。
―――新たなる刺客が、闇の中にて蠢きだす。
~~~~~
一登が優奈と再会して、翌日の夜。
空き部屋だった部屋にて優奈が明かりもつけず、ベットの上で座っていた。
手元にはあの時変身した赤いライドクリスタルことアクセルクリスタルとジェイナスドライバーが置かれていた。
傍らに転がっているアクセルクリスタルに視線を向けて、何とも言えない表情を浮かべていた。
「……はぁ」
優奈は一度変身アイテムから顔を背けると、膝を抱えて埋める。
一段と悲しそうな目をしながら視線を床へと落としていると、ドアをノックする音が響いてきた。
優奈が返事をすると、ドアが開いて隙間から顔を覗かせたのは、……一登だった。
「優奈、今大丈夫か?」
「いいよ、入ってきて。私も誰かと話をしたかったの」
「ありがとう……隣、いいか?」
「うん……座って」
了承を得た後、優奈の隣へ一登は腰かける。
早速聞いてきたのは一登の方だ。
「どうだ? ここで一日過ごしてどうだった」
「大丈夫だったよ。八代さんもいい人だったし、あの人の知り合いから預かった着替えでなんとかここでも生活できそうだよ」
「そっか。それはよかったな。明日は俺と一緒に買い物、なんてどうかな」
「お願いするね。一登君」
「……」
「……」
二人が隣同士で座り込んでから、会話が途切れて少しの間静寂が包み込む。
暗い部屋に外からの僅かな光が差し込む中、不意に一登の口が開く。
「やっぱりさ、まだ怖いのか? あの怪人達のこと」
「うん、怖かった……あの怪人達が恐ろしかったのもあるけど、一番怖いのは君が殺されるんじゃないかと思ったこと」
「確かに、俺達が変身しなかったらきっと命の危険だってあっただろうな」
「…………ッ!」
一登の呟いた言葉を耳にして、優奈は眼を見開く。
そして、いきなり一登の方へ腕を伸ばし、思いっきり抱き着いた。
突然の出来事に驚く一登だが、その後に聞こえてきたすすり泣くような声に冷静さを取り戻す。
「嫌だよ、私、せっかく、せっかく君とまた会えたのに……」
「優奈……」
「君まで死んだら、私、生きている意味がなくなってしまうよ……君と再会するために今の今まで生きてきたのに……!」
まるで幼い子供のように泣く優奈に一登はハッとした驚いた表情を浮かべる。
―――君にこれほど怖い想いをさせてしまったのか。
幼い頃に会った彼女と別れた後、どんな事が会ったのかは予想もつかないが、それでも自分と再び会うために必死に頑張ってきたのは伝わってきた。
未だに涙を流している優奈を抱きしめ返し、安心の言葉を言い着させる。
「……大丈夫、俺がいるかぎり怖い思いはさせない」
「……! 一登君……」
「俺が生きてる限りは君の支えになるさ。君と再会できてとってもうれしいよ」
「私も、私も再び君に出会えて本当によかった。できるなら、離れたくない。ずっと君と一緒に平穏に暮らしたいよ」
「今は未来も何も見えないけど、せめて今だけは一緒にいよう」
「うん、君となら何でも超えられる。そんな気がするよ……」
二人は互いに抱き合い、ぬくもりを確かめ合う。
昨日起きた事が今さっき起きた出来事のように記憶に新しい。
これからもあんな異形の怪物が目の前に現れないとは限らない。
だからせめて、今の一時だけは束の間の平和でここにいる大切な人の存在を確認したい。
一登と優奈、戦いの運命に巻き込まれ始めた二人だけの夜の時間が過ぎていく。
~~~~~
同時刻。
作業場とも言える広めの地下室にて、二人の人物が作業台を挟んで向かい合っていた。
作業台の上には、剣の形をした一本の細長い物体のようなものが置かれていた。
二人の内の一人がその物体を手に取り、もう一人の人物が訊ねてくる。
「どうするつもりだ? それを持ち出して……」
「なあに、ちょいとな。世の中そんなに甘くはないって教えなきゃいけないんでな」
作業着を纏った男は冷静な口調で伺っているのに対して、その相手の男は気さくな声で返した。
その言葉を聞いて眉を顰めながら質問をする。
「だがいいのか? 確か相手は……」
「悪い、口を出さないでくれ。これは俺自身の問題なんだよ」
「しかしだな、■■■……」
「■■、いくら付き合いの長いお前との仲でもこれだけは譲れねえ。これを譲っちまったら、おそらく俺が俺を許せなくなる」
男は力強く剣の柄を握りしめ、その顔に自身の真剣さを露にする。
長年共に生きてきた中で初めて見せたその表情を見て驚くと、作業着の男はやれやれといった表情を浮かべた。
「わかった。そこまでいうなら俺は何も言わない」
「へっ……なんかすまねえな。俺のワガママに突き合わせてしまって」
「それはいい。だが、それの完成には例のクリスタルがなければ最終調整が必要なんだ」
「それだったら問題はない。ここに現物があるからよ」
そうして男から作業台の上に差し出されたのはいくつもの球体状の宝玉。
……それはショッカーライダーから奪い取った、ライドクリスタルだった。
その男――【敵対者】の置いたライドクリスタルを作業着の男は感心しながら眺めていた
「先日倒したアイツらから拝借したモノだ。例の報告にあったライドクリスタルってものらしい」
「ふむ、これが異世界技術によって生み出された代物か」
「コイツの真価を引き出すにはコイツが、いやコイツらが必要だ」
【敵対者】の男はライドクリスタルの一個を手に取り、地下室に備え付けられたライトの明かりに掲げる。
光に透かされて深緑色に輝き、その中にはカミキリムシを模した紋章が描かれていた。
先程から掴んでいる剣の形をした物体に視線を向ければ、ちょうど柄に当たる部分には球体状の何かを入れる装填口が設けられていた。
……わかりやすく言えば、このクリスタルを発動させるための発動装置兼武器といったところか。
剣型の物体とライドクリスタルを作業台に戻すと、【敵対者】の男は作業着の男へ言った。
「これの完成を急がしてくれないか?」
「誰にモノを言っているんだ。朝までには完成させてみせるさ」
「フッ、恩に着るぜ」
真剣な雰囲気だった空気から一転、二人の男は互いに笑いあい、前に突き出した拳をお互いに合わせる。
そこへ作業着の男が思い出したように口を開く。
「……そういえば、だ。例の変身装置が完成した」
「マジか? 今すぐ使えるか?」
「ああ、ここにある」
そう言いながら、作業着の男が差し出したのは、片手で掴めるほどの大きさのボール型の機械。
深緑を基調としたカラーリングをしており、中央部には回転基部がガラス越しに見えている。
【敵対者】の男は"変身装置"と呼んだその機械を掴み、隅々まで眺める。
「へぇ、これが例の……時代も変わったもんだな」
「名前は『ライドジャイロ』、基部に備え付けられたスイッチで変身できる」
「いいねぇ、軽くて持ち運びもできて……よっと」
作業服の男が作った代物である変身装置・ライドジャイロをまるで野球ボールを扱うがごとく上へ投げてて遊び始める【敵対者】の男。
そんな彼へ作業着の男がとある事を口にした。
「しかし……こんな時代に【仮面ライダー】が生まれるとはな」
「ああ、しかも相手は二人で年端もいかぬ少年少女かよ。たっく、世の中ってのはよくない方に転ぶもんだよ」
「……どうしてもやるんだな」
「あたぼうよ。たとえお天道様だろうがお釈迦様だろうが誰であろうと譲る気なんざさらさらねぇぜ」
からからと笑いながら、落ちてきたライドジャイロを掴み、明るい表情で返す【敵対者】の男。
口角を上げて笑みを浮かべている明るい表情とは対照的に、次に口にした言葉はどこまでも酷く燃えるような感情を宿していた。
「あのボーイズミーツガールどもに教えてやるのさ……お前たちが選んだ仮面ライダーってのがどれほど地獄の道を行くのかってな」
【敵対者】の男はライドジャイロを握る手を見つめる。
―――拳の中で生まれるのは、己の身体の奥から生まれる【許されざる感情】。
この世に渦巻く運命を、人知れず蔓延る何かを、何より自分自身から来るもの。
過酷な運命を目の前にして小さな命が消えるくらいなら、いっそ完膚なきまで叩きのめして恐怖を刻み込む。
徹底的に、歯向かう気すら起こさないように。
自らの拳の中でふつふつと湧きあがる何かを感じ取るかのように、ライドジャイロが明かりを反射した。
「まったく……いや、そんなお前だから言えるのか。■■■」
作業着の男はそんな彼をやれやれと観念した表情を浮かべると、彼に背を向けて剣型のアイテムの調整作業に入ることにした。