一度読んだ人も、そうでない方も楽しめる内容となっております。
とある日の事。
一登は優奈と共に区外にある東京のとある繁華街を歩いて何処かへ向かっていた。
理由は、意外にも優奈からの提案だった。
―――えっと、一登君、ちょっといいかな?
―――なんだよ、改まって。
―――次の日の午後、一緒に付き合ってもらえないかな。買い物でいきたいところがあるの
―――つ、付き合って?
勿論断る理由はなかった。
戸惑いながらもOKと答えた一登は、当日彼女と共にとある店へと向かうことになった。
だが、肝心などんなものを売っている店に買い物へ行くのかということは、はぐらかされたまま聞けないでいた。
「なぁ優奈、いい加減何の店かぐらい教えてくれてもいいじゃないか」
「だ、だめ! まだ内緒にしておきたいの!」
「うーん……そんなに言いづらいところなのか」
「君にはどうしてもサプライズとして驚かせたいの」
……サプライズで驚かせたいのってどういうことだ?
一登は首を傾げながら、優奈の表情を伺った。
今の彼女はそわそわとしており、落ち着きがないようにも見える。
少なくとも悪いことを考えているとは考えられないし、彼女なりに喜ばせたいのだと判断した一登はそれ以上追及することもなく後をついていった。
そうして、一登と優奈はとあるお店の前に辿り着いた。
―――そこは、TVでも取り上げられる程の有名なチョコレート専門店だった。
意外な場所に辿り着いた一登は目を丸くする。
「え、これって……」
「さぁ一登君、入るよ」
驚く一登を他所に優奈は手を引いて、自動ドアが開いて中へ入っていく。
店内では種々様々なチョコレートが宝石如くショーケースの中にいれられていた。
優奈はガラス越しに見定めながら一登に訊ねる。
「ねぇねぇ、一登君。どれも美味しそうだよね」
「ああ、そうだな。これなんかどうだ?」
「ホワイトチョコレートね。うん、美味しそうよね、形も綺麗だし」
優奈は一登が示した白い蝙蝠のような形状のホワイトチョコレート、白い三日月と黒い影をホワイトチョコレートとビターチョコレートで表したもの、桃色の着色をされた音符記号が記されたポップなチョコレート、水色のロケットの意匠が入ったチョコ、そのほかの様々なチョコレートに目移りする。
そんな楽しそうな表情を浮かべる彼女に自然と笑顔になる。
一登はそう思いながらも同じようにチョコレートを吟味していると、とあるチョコレートが目に付く。
―――それは普通のチョコレートを下地に描かれた、ホワイトチョコレートで描かれた二つの鳥。
身体が繋がって飛ぶ二羽の鳥を見て、何処か惹かれるようなものがあった。
そのチョコレートを食い入るように見ていると、隣から話しかけられる。
「ワテクシが作った作品が気になるのかしら?」
「えっ……わっ!?」
男の声が聞こえて振り向けば、そこに立っていたのは筋骨隆々の肉体と紅色の口紅をつけた唇が特徴の大男。
低い声音で女性的な口調で彼もとい彼女は一登に話しかけてくる。
「驚かせてすまないわね、とりあえず……天秤座のボーイでいいわね。ワテクシ、ここで作品提供している流離の
「な、なんで天秤座ってわかって……まあいいや、このチョコはあなたが?」
「まあねぇ、天啓っていうのかしら? 突如ワテクシの創作意欲が大・大・大・大・大爆発! してしまってね。とりあえず無理言って置かせてもらってるのよ」
「は、はぁ」
この洋菓子職人の怒涛の話に圧倒される一登。
チラリと視線を向ければ、少し離れた場所で優奈が難しい顔をしながらチョコレートを吟味していた。
真剣に悩んで選んでいるであろう彼女の姿を見て、一登は暫し考えるとある決心をする。
「よし……あの、このチョコ買ってもいいですか?」
「あら、お目が高いわね。贈り物かしら」
「ええ、まあ。日頃の感謝というか、なんというか」
照れくさそうに頭を掻く一登、そんな初々しい反応を見て洋菓子職人の男は不敵な笑みを口元に浮かべる。
ただでさえ迫力のある外見がさらに磨きが増し、男は顔を狭めながら小さい声で告げる。
「そうね、その若さに免じてあなたにはおまけしちゃおうかしら」
「わ、若さ?」
首を傾げる一登に対して、洋菓子職人の男は一旦店の奥に戻ると、すぐさま何かを手にもって戻ってくる。
それを見た一登は思わず息を飲んだ。
~~~~~
同じ頃、喫茶店「NewAmigo」。
いつものように珈琲を入れている悠二、そこへ二人の来客が現れる。
店内へはいってきた客の姿を見て、意外そうな顔を浮かべる。
「いらっしゃい……おお、お前たちは」
「どうも八代さん、こんにちわ」
「お邪魔しますね」
店内に入ってきたのは、一登のクラスメイトである蒼汰と有栖。
悠二にとっては既に顔を見知った存在であり、この店にも度々来ている。
二人がカウンター席に座ったのを見ると、悠二は注文を伺った。
「顔を出してありがとな。注文はどうするよ」
「じゃあカフェオレ二つでお願いします」
「あいよ、わかったよ」
蒼汰の注文を受け取って、早速カフェオレを注ぎ始める悠二。
その間にもたわいのない会話を三人で続ける。
「最近は一登の様子どうだよ。アイツ、元気にやっているか?」
「ええ、まあ、これといったトラブルに巻き込まれてないのが幸いですね」
悠二が一登の学校の様子を聞いて、有栖が苦笑いをしながら答える。
何かと問題に首を突っ込むことが多い彼にとって、二人の親友は気が気でない。
一登が困っている誰かを放っておけない性格を熟知しているのか、悠二も何とも言えない表情で返す。
そこへ蒼汰がとある話題を口する。
「ああでも、いつもより笑うことが多くなったよね。なんというか、心の底から楽しんでいるって感じがして」
「ほう、そりゃ興味深い話だな」
「なんだかこう、一登のヤツは昔から何処か壁を感じるときがあったんですよ。なんというか、そう、まるで溶けきれてない氷みたいに」
「……そうか、溶けきれてない氷か」
蒼汰の言葉を聞いて、悠二の表情は一瞬暗い影を落とす。
普段なら元気そうな笑顔が特徴のこの人が出した表情を見せた蒼汰と有栖は見逃さなかった。
二人の神妙な顔に気付き、元の笑顔を浮かべた悠二は訊ねる。
「一登が前よりよく笑うようになったっていつ頃なんだ?」
「えーっと確か、今月の初め頃だから……」
「……丁度、あの子が顔を出した頃ですよ。蒼汰」
きっかけを思い出そうとする蒼汰に有栖は何処か不機嫌そうな表情を浮かべながら答える。
悠二は二人の言動と様子を見て、誰なのか思い立った。
―――飛鳥 優奈だ。
最近一登の周りで起こったことと言えば、彼の幼馴染の優奈ぐらいしか思い至らない。
あの大人しい一登が行き場のない彼女を護るため、大人の自分に頼ってまで助けたいと思ったのだ。
もしも、彼女の存在が一登にいい影響を与えているとすれば……。
そう思った悠二は何処か緩い笑顔を綻ばせ、カウンター席の蒼汰と有栖に言った。
「お二人、もうちょっとあいつらの聞かせてくれよ。限定メニューを擁してやるからさ」
「「え、いいんですか?」」
「いいんだって、ほら用意してやるから話せ話せ!」
悠二はニカッとした元気な笑顔を向けながら、注文のカフェオレを差し出すと、すぐさまとっておきの限定メニューを差し出す。
蒼汰と有栖は顔を見合わせ、思わず笑いが込み上げて吹き出す。
話の話題となっている二人がいない間に、三人の楽しい輪を弾ませた会話が午後の昼下がりに繰り広げられた。
~~~~~
一登と優奈が店内に入って、数十分後。
「お買い上げ、ありがとうございましたー!」
「
レジ担当の女性店員と洋菓子職人の男の声と共に見送られ、一登と優奈は買った物を抱えて店内から出て行った。
寄り添う若い二人を見て、洋菓子職人の男はニヤつきながらその背姿を見送っていた。
「ああも仲良しだと、妬けちゃうわね。そして初々しいわ」
「ちょっと何やってるんですか。薄気味悪い笑みなんて浮かべて……ほら、新メニューの会議っすよ」
「お黙りドングリボーイ! 青春の甘酸っぱい味はパシティエでも再現できないし、なにより本物が一番の刺激になるのよ!」
店の奥から出てきた弟子の眼鏡を決めた茶髪の青年に洋菓子職人の男はヒステリック気味な声で返した。
~~~~~
一方その頃、一登と優奈は近くの公園に寄ると、ベンチに座りながら会話を続けていた。
「今日はありがとね、一登君。買い物に付き合わせてもらって」
「いいや、構わないよ。しっかし何のチョコレート買ったんだ? 誰かの贈り物か?」
一登の何気ない言葉を聞いて、優奈は一度目を見開くと、その後は顔を赤らめながらプレゼントで顔を遮る。
そんな様子に不思議がる一登へ、優奈は意を決したようにプレゼントを突き出して口にする。
「時季外れだけど、だからこそ言うよ。―――ハッピーバレンタイン!」
「……えっ」
優奈の言葉に一瞬思考が止まる一登。
バレンタインデー……2月14日に家族や恋人などの大切な人に贈り物をしたりメッセージを伝える日とされている記念日。
3月に入り、どちらかと言えばそのお返しをするホワイトデーが近いのだが。
だが、今一番気にするのはそこじゃない。
優奈がそのバレンタインデーのプレゼントしてくれたのが重要だ。
一登が思考が働かないままプレゼントを受け取ると、優奈は申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ごめんね、本当は手作りで作りたかったけどね」
「ど、どういうことだ……? チョコで、手作り……?」
「その、あの、ね。……君と再び出会えたことに感謝したくて」
優奈の振り絞ったような声を耳にして、一登はハッと我に返る。
そもそも、優奈と再会できたのは今年の三月の初め頃。
あの怪人達という非日常に出会うまでは自分にとっての当たり前の日常も、彼女にとってはないにも等しいもの。
下手をしたら、二人が再び会えなかった未来もあっただろう。
こうして再会できた今こそ、日にちが過ぎていても感謝の気持ちを伝えたかったのだと一登は思う。
そう思った一登は思わず呟く。
「季節外れのバレンタインプレゼントか」
「やっぱり、迷惑だった……?」
「そんなことない、ものすごく嬉しい。君からの贈り物も、好きな人からの初めてのチョコももらえて、とっても、とってもだ」
「……! 私も喜んでもらえて嬉しいよ」
大切な人の喜びの声を聴いて満面の笑みを浮かべる優奈。
正直、互いに相手を抱きしめたい衝動に駆られるが、それはまだだ。
一登は自分が買ってきたものを優奈の目の前に差し出した。
「これ、受け取ってくれ」
「えっ、これは」
「お返しだよ。少し気が早いお返し」
優奈がプレゼントの箱を手にし、ふたを開けて中身を見る。
そこにあったのは、身体が繋がった二羽の鳥。
優奈は中身のチョコレートを見て、ハッと息を飲む。
「これって……!」
「えっとその、なんというか。気に入ってしまいまして」
「ずるいよ、君は……私が贈り物して幸せにさせたかったのに。こっちが嬉しくなっちゃうよ」
優奈は瞳を潤ませながら、震えた声で話す。
泣き出しそうな彼女に一登は戸惑いながら合われた声で尋ねる。
「あのその、俺なんか悪いことしたか?」
「ふふっ、大丈夫だよ。嬉しいから。そもそも君、この二羽の鳥が何を意味するのかわかってないでしょ?」
「えっ……?」
「比翼の鳥、 雌と雄それぞれが目と翼を一つずつもってて、2羽が常に一体となって飛ぶっていう伝説の鳥……まるで、変身している時の私達みたいだよね」
身体の繋がった二羽の鳥―――比翼の鳥を見て、優奈は穏やかな笑みを浮かべる。
確かに一登と優奈がライドボディに融合してジェイナスへと変身する。
その過程を見れば似ているともいえるだろう。
チョコの絵に描かれている比翼の鳥の意味を知った一登は顔が赤くなる。
「やばい、改めて意識するとこうも恥ずかしくなってくるとは」
「やっぱり知らなかったんだ?」
「うぐぐ……」
「でも、君が選んでくれたこのチョコはとっても嬉しいよ」
優奈はプレゼントの箱を一度ベンチに置くと、一登へと抱き着く。
腕を回してしっかりとぬくもりを確かめながら、優奈は彼の耳元に口を近づけてささやいた。
「知ってる一登君? 比翼の鳥って仲のいい夫婦にも例えられる事もあるんだよ」
「そ、それって……」
「今はまだいろいろあるけど、私は君と一緒に比翼の鳥になってもいいよ」
優奈の天使のような心地よい声に、一登の脳が痺れる。
それはどんな菓子よりもとても甘美な響きだった……どうやら抜け出せそうにない。
元から抜け出すつもりもないのは承知しているが……。
自分のやられ具合をしみじみと感じる一登はあるものに気付く。
それは、あの時の洋菓子職人の男からもらった三番目の送りもの。
あの時はおまけとしてもらったが、何が入っているのだろうか。
優奈も一登の視線に気づき、彼に尋ねる。
「一登君、それって」
「おまけでもらったんだ。開けてみてくれ」
「う、うん」
優奈はそっと手に取って箱を開けてみる。
―――その中に入っていたのは、青薔薇をモチーフとした五つのチョコだった。
優奈は驚き【その意味】を悟って嬉しさのあまり頬から涙を流し始める。
「これ……蒼い薔薇?」
「まあな、一応意味は分かるのか」
「うん、一登君、これはね……」
優奈は涙で潤ませた瞳を愛しい人に向けて、説明を口にする。
―――青薔薇の花言葉は『奇跡』『夢が叶う』
―――薔薇の5本の意味は『あなたに出会えて幸せです』
―――『あなたに出会える夢が叶って、幸せです』