今回も日常回、時系列的には『2/14→3/14』の後、『ある捜査官の戦い』より前。
新キャラ、どーん!
それは城南大学附属高校に優奈が転入してそれほど経ってない時の事。
自分の学校にやってきた優奈がすぐにクラスメイトと打ち解け、学校の授業にもすぐに入り込んで一登の心配が杞憂に終わった頃。
最近は優奈と共に行動する時が一登が多かったが、今は珍しく一登が一人の時であった。
校内に置かれたベンチに座り、近くの自販機にて缶紅茶を口にしていた。
「……優奈のヤツ、遅いなぁ」
時間は放課後、早めに授業が終わり、職員室に用事のある優奈の帰りを一登は一人待っていた。
家であるNewAmigoとこの城南大学附属高校とは気軽に行ける距離でもないため、一人で帰るわけでもない。(もっとも一人で帰ることも帰らせることもないのだが)
意外にも長引いているのか未だに姿を見せない彼女の事を思いながら、再び紅茶を口にしようとしていた時、甲高い声が自分の方へとかかってきた。
「あの、一登さん! こんちにわです!」
「ん?」
愛らしい声に名前を呼ばれて一登が振り向くと、そこにいたのは一人の少女。
華奢で小柄な体とツインテールの髪型をしている焦げた茶初の髪色、童顔の可愛い顔、附属高校とは異なる女子の制服。
確か城南大学附属中学校の制服と記憶していた一登は、すぐにその少女の名前を口にした。
「珪花か? 久しぶりに会うなぁ」
「はい、綾瀬 珪花です! 近くまで来たので来ちゃいました!」
一登に名前を口にされ、嬉しい表情を浮かべるのは中学生の少女……『
現在は中学3年生になる人物で、過去に知り合った人物だ。
珪花は一登に対してにこやかな笑顔を向けて質問を投げかける。
「先輩、ここで何してるんですか?」
「ああ、人と待ち合わせなんだ」
「待ち合わせですか? 蒼汰先輩か有栖先輩ですか? あ、もしかしてあの吾郷先輩じゃあ……」
「いや、そうじゃなくてだな……」
一登の交友関係にある一太刀の名前を上げていく珪花。
どうしたものかと一登が困った笑顔を浮かべていると、遠くの方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「一登くん、お待たせ!」
「……へっ?」
一登の名前を呼んでやってきた人物に珪花は目を丸くして驚いた。
そこに現れたのは、栗色の長い髪に整った顔立ちの一人の美少女。
花が咲いたような笑顔を向けてこちらにやってくると、一登の傍で止まる。
「梅花先生に褒められちゃった」
「あの人真面目だからなぁ、良い生徒にはうんと褒める癖があるからなぁ」
「ふーん、そうなんだ」
「ま、とりあえずお疲れ」
一登と仲良さそうに話す優奈の姿を見て呆けていた珪花。
この美少女は一体何者なのか……一登先輩と一体どういう関係なのか……。
そう悔しさと羨ましたを綯い交ぜにしたような表情を浮かべる珪花に存在を気づいた優奈が訊ねてきた。
「……って、あれ、一登君。この子は一体?」
「……ふぇっ!?」
「ああ、そういや初対面だったな。綾瀬珪花、俺の知り合い」
「ふぅん、知り合いなんだ」
「珪花、紹介するよ。彼女は飛鳥優奈。俺の幼馴染なんだ」
「お、幼馴染っ!?」
一登の口から語られた優奈とのまさかの関係性に珪花は驚きの声を上げた。
まさか僅か一年経つのがやっとなほどの時間を重ねた自分よりもずっと前に知り合ってたことに心の中でがっくりとうなだれる。
しかし、自分がショックを受けているのを感じさせまいと必死でポーカーフェイスを作り、二人との話を続ける。
「へ、へぇ、そうなんですか。幼馴染なんですね。知りませんでしたよ一登さんに親しい女性の人がいたなんて」
「まあ、話す事でもないしな」
「…………」
一登が何気なく口にした発言を聞いて珪花は柄にもなくジト目でにらみつけた。
普段なら若干抜けていることもあるが優しくそしてカッコイイ憧れの先輩として一登の事を見てきたが、まさかここまで
その分け隔てのない優しさが彼の良さでもあるが、それ以上に彼を好きになる女子は少なくなかった。
―――かくいう綾瀬珪花はこの少年・一登の事が好きだ。
彼と初めて出会ったとき、二年前の中学2年の頃。
飼い猫が命に係わる病にかかって困り果てていた所で出会う。
共に居合わせた恭二によって動物病院へと送り届け、猫は一命をとりとめた。
その時のことが忘れられない珪花はいつしか一登に惹かれるようになった。
それなのに。
それなのに、一登と共に現れたこの飛鳥優奈という人物に衝撃を受けていた。
私より可愛くて綺麗な人が、私の先輩と一緒にいる。
これは見極めなくては……そう思った珪花は叫ぶように二人の名を呼んだ。
「二人とも!明日の休日空いてますか!」
「「休日??」」
「ちょっと私に付き合ってください!」
珪花の切り出した提案を聞いて、一登と優奈の二人は目を丸くして呆然としていた。
~~~~~~
―――翌日。
「うぉぉぉぉぉ!一登さんと一緒だぁぁぁぁぁ!!」
いつぞやかの頼打地区内の繁華街にて、珪花は張り切っていた。
今日は愛しの人物と共に行動できると楽しみにしており、現にこれほど叫んでいた。
少し遠くでは一登と優奈が一人意気込む珪花の姿を見て少し困った表情で見つめており、その隣ではどこからか聞きつけた改が鯛焼きを片手に呆れた表情を浮かべていた見つめていた。
「はぁー……なんなんだよ、ありゃ」
「改、お前いつの間に」
「ハッ、俺の情報網なめんじゃねえよ。ところで、何の集まりだこれ」
「私と一登君、珪花ちゃんに呼ばれてたんだよ」
「綾瀬の?」
まだ湯気の出ている鯛焼きに齧り付きながら、事情を伺う改。
少し思案した後、二人がここにいる事で何となく察すると、人差し指を立てて言おうとする。
「敵ながら教えてやる。つまるところ、お前たち二人は綾瀬珪花に嫉妬……」
「ふんにゅう!!」
「ぴなっ!!??」
珪花の真意を伝えようとする所へ、等の本人から改の横腹へ鉄鎚が下る。いや、思いの丈をのせたストレートパンチが炸裂した。
運動部の助っ人でなければ耐えられなかった威力を誇る拳をお見舞いされた改は当たった箇所を抑えて踞り、秘めた乙女心をぶしつけに口に出した不届き者を倒した珪花は一登に視線を向ける。
「さ、一登さん、行きますよ。タイムイズマネーですから!」
「あ、ああ……行こうか」
「吾郷くん、大丈夫?」
「ウゴゴゴ……オレじゃなかったら耐えられなかった。だって鍛えてますから」
戸惑う一登、踞る学友へ声をかける優奈、自身の天袋の才能に感謝する改。
珪花に連れられた一登と優奈、そして飛び入り参加の改は彼女についていくことにした。
歩いて数分、辿り着いたのは区内に点在する全国チェーンのカラオケ店。
早速店内に入り、店員に個室へと案内された四人は着席すると、マイクを手に取った珪花が切り出し始める。
「さぁ、第1回頼打地区カラオケ大会、開催です!」
「第一回も開催も俺らの4人しかいないけどな」
「外野シャラップ!とにかく今この場にいる人達で歌いまくりましょう!」
「うっわ強引すぎるわよこの子」
珪花の元気溢れるパワフルな女子ぷりに、眉をひそめる改。
……恐らくだが、このカラオケ大会(?)を使って意中の相手へ急接近したいと思ってるのだろうと、改は心の中で考えを読んでいた。
そううまくいくのか……と訝しんでいると、一登の隣に座っていた優奈が唸る声が聞こえた。
「うーん?」
「おい、どうした?」
「ああ、操作の仕方がわからなくて」
「ちょっと待ってな。なんか歌いたい歌をいれてやる」
「ありがとね改くん。私、カラオケにいくの初めてだから新鮮で」
はじめてのカラオケに戸惑う優奈に対して、操作用のタブレット端末を手にして世話をかける改。
どうやら物珍しいそうにしている様子を見ると本当のようで、『人がよさそうな美少女なのにカラオケ来たこともないって何処のコミュ障か』と思いながらちらりと隣へ視線を向けると……。
「一登さん!これマイクです!」
「ああ、ありがとう!」
「一登さんは何飲みますか?ドリンクバーでとってきますよ!」
「うーん、烏龍茶頼むよ」
「一登さん何かと食べ物食べますか?注文しますよ!」
「今は空いてないから大丈夫だよ」
珪花が怒涛のたたみ掛けと言わんばかりに一登の世話をしている光景が見えた。
最早食わんとする勢いで迫る後輩を見て、流石に改は顔を強張らせる。
中心人物である一登と、その彼女である優奈は気づいてないのか気にしてないのか彼女の好意に甘えていたが……。
やがてタブレットに打ち込まれた最初の歌が伴奏のメロディと共に聞こえてきた。
「先鋒、綾瀬珪花!選曲は『マジックプリンス』!」
「先鋒ってなんで柔道とか剣道になってるんだよ」
「さぁいきます!」
改のツッコミもなんのその、珪花は歌い始める。
鳴り響く神秘的ながらロック口調のメロディと、『絶望に苦しむ人々に希望という魔法で戦う主人公』という内容を含めた歌詞を歌い上げていく。
意外にも高い歌唱力を秘めていた珪花に一登と改は感心していた。
「珪花のやつ、歌上手だったんだな」
「ああ、前々から同級生をカラオケに誘うほど好きだと噂程度に聞いていたがまさかこれほどとは」
「本当、歌好きなんだな」
「これは綾瀬の向上心を見らわなければなぁ。思う気持ちは違えど、相手は同じだからなぁ」
改は声を唸らせながら、一登の方の視線を向ける。
呑気に歌の上手さを褒めている生涯のライバルに、何処か珪花と自分は通ずるところはあった。
自分は「敵愾心」、彼女は「恋心」という違いながらも、夏川一登という相手は同じ。
だから猛アタックする彼女に恥じないように、自分も負けないようにせねば……一人心中で決意する改だった。
そして歌い終わった珪花は一登の隣に座ると、食いこまんとする勢いで一登に訊ねた。
「一登さん、どうでした?」
「ああ、すっごい上手いな」
「はぁぁぁぁ……!ありがとうございます!えへへへ~」
一登に褒められ、にやけ顔を浮かべている珪花。
自分の歌唱力を大好きな相手に賞賛されてうれしさを隠しきれない様子を改は生暖かい目で見てると、次の歌を告げるメロディが流れてくる。
「次は誰なんだ?」
「あ、私の選んだ歌だ」
「どんな曲?なんだ?」
「昔、たまたま聞いた曲なんだけどね。その時の私にとって何処か惹かれちゃって、思わずダウンロードしたの」
興味を示した一登に優奈はそう返すと、立ち上がってマイクを握る。
そして一呼吸おいて、決意を込めて口を開いた。
「じゃあ副将、飛鳥優奈、選曲『ユメセカイ』、歌います」
「だからなんで団体戦になってるんだよ……」
改のツッコミを他所に、優しいメロディと共に優奈は歌い出した。
『いつ消えてもおかしくない夢現の世界でそれでも明日へ向かう』事を表現した内容の歌詞と、優奈の美声が重なり、絶妙な音色が包み込む。
カラオケにて歌った事がないと告げていた彼女の歌に改も珪花も、そして一登も驚いていた。
「す、すっげぇもんだぁ……本当にトーシロか?」
「き、きれい……ハッ、なに言ってるの私!」
「…………」
「一登さん?」
「おい、夏川一登?」
「…………はっ、ごめん。なんだ?」
ボーっとしていた一登は、二人に名前を呼ばれて漸く気づく。
そこで改と珪花は察した……『コイツ、優奈の聞き惚れていたな』と。
歌い終わった優奈に一登が出迎えるそばで、珪花は心の中で叫んだ。
(わーん!一登さんのハートは絶対にゲットしてやりますからー!!!)
二人に見えない位置で悔しがる珪花の姿を見て、改はやれやれといった表情で頼んだポテトフライを摘んでかじっていた。
ライバルのこれから先の見えない女難に憂いながら、まだまだ熱い揚げたジャガイモの食感を味わっていた。
―――なお、大将扱いの一登と改は『Finger on the Trigger』をデュエットで歌った。