今回の時系列は『射抜け、強き心』→『ある捜査官の戦い』の後、レオンハルトが久しぶりに登場。
再び彼らが出会うとき、どんな事件が起きるのか。
ブラック将軍配下の怪人との戦いから幾分か日付が経ち、国際音楽表彰式から数日たった頃。
城南大学附属高校は春休みに入り、一登と優奈はNewAmigoに働いている時間が多くなった。
お昼時のピークが過ぎ、つかの間の休憩をしていた。
「一登くん、お疲れ様」
「おう、お疲れ」
「お客さんいっぱい来たね」
「なんか優奈がココにきてから自然とお客が多くなったのは気のせいか?」
そんな他愛もない話をしながら、厨房にて注いだコーヒーを飲む一登と優奈。
自分達の舌で感じるコーヒー特有の香ばしいい苦みが口内で広がる中、不意に優奈が話題を切り出してくる。
「ねぇ、一登君。あの時名乗ったブラック将軍の事、覚えているかな」
「ああ、あの怪人達を倒した後、現れたアイツの事だよな」
優奈の口に出した『ブラック将軍』の名前を聞き、一登は眉を顰めて何とも言えない表情を浮かべた。
―――あの時、ジェイナスの前に現れた怪人達を親玉と思わしき男・ブラック将軍。
彼は『ショッカー、ゲルショッカー……それだけではない、様々な組織の刺客が襲い掛かるであろう!』と言っていた。
つまり最初に戦ったショッカーライダーとは何らかの関係であり、どちらもライドクリスタルを狙う輩からの刺客なのだと推測する。
ライドクリスタルの狙っている人物がブラック将軍と共闘関係なのはわかる。
だが何故彼らが優奈が持ち出したライドクリスタルを狙うのかは未だにわからない。
何を狙っているのか気になった優奈は心配そうな言葉を漏らす。
「また、襲ってくるのかな。街をめちゃくちゃにしたやつらが」
「そう、だな……怪我人も出てしまっているからな」
一登と優奈が脳裏で思い出すのは、ゲルショッカー配下の怪人達が街を破壊していた光景。
平和だった頼打地区の街並を一瞬で破壊したあの怪人達の所業に、二人は眉を顰める。
もしも、自分や身の回りの人物があの時みたいに巻き込まれていたら……。
嫌な考えが脳裏に過った一登は思わず優奈の手を掴み、驚いた優奈が顔を覗き込む。
「一登君? 大丈夫?」
「えっ……あっ、急にごめん。優奈とかおやっさん、みんなが巻き込まれると思ったら……つい怖くなって」
「優しいんだね君は」
「臆病なだけだよ。誰かを失う事が」
一登が握る手を優奈は自分の手を上から重ねる。
自身の顔の高さまで持ち上げると、祈るように額に握った両手を当てて囁いた。
「大丈夫だよ一登君、私はいなくならないよ。君と一緒に戦うと決めたんですもの」
「優奈……そうだよな、俺も優奈を守るために戦っているんだ。弱気になっちゃだめだよな」
「もしつらくなったら私が聞いてあげるからね」
「そ、それは……善処するよ。俺は強くないけど、君を守れるように頑張るから」
互いの手を握り合い、目を瞑って温もりを確かめ合う二人。
互いにここにいる事を感じ、言葉を紡ぎあう。
これから起こる戦いはきっと避けることはできない……ならばせめて目の前の見えている人物だけでも守らねば。
一登と優奈が厨房の中で誓い合う形でいると、入口から顔を出した悠二が声をかけてきた。
「お前ら、仲良くするのは良いことだけどそろそろ時間だぞ」
「「あっ……」」
ニヤついた悠二の言葉に一登と優奈は顔を真っ赤にする。
先程までのやり取りを見られていたのか、と焦る二人を他所に悠二は愉快そうな笑い声を上げながら、店番のために去っていった。
~~~~~
頼打地区郊外。
かつて一登と優奈が再会し、ショッカーライダーと戦った場所にて足を踏み入れる人物がいた。
その人物ことレオンハルトは何とも渋い顔をしながら、事件現場の検分をしていた。
「二人の身の回りと情報部から回ってきた目撃情報を照らし重ねると、少なくても最初に会った二人が立ち寄ったのはここらへんだよな。ま、ロクな証拠は残ってないとみるが現場百遍って言葉もあるし、とりあえず巡ってみるか」
うだうだ言っていても仕方がないと悟ったレオンハルトは手持ちの情報端末を片手に周囲を探り始めた。
自身の経験と勘によるプロファイリングによって周辺地域を調べていく。
だが、数日も経った後のため、これといった目立つ痕跡や証拠が見当たるはずもなく、レオンハルトは苦笑の表情を上げる。
「あーぁ……見当たらないもんだな。まあそりゃそうか、あの二人が立ち寄ったのはオレが来日するより少し前だものな」
愚痴混じりのため息を吐きながら、事前に買っていた固形物の携帯食を齧りながらめぼしいものがないか見回す。
そしてふと、手元にあった情報端末の画面に視線を落とし、情報を目に通す。
そこにはあの時であった少年少女……一登と優奈のプロフィールが記載されていた。
夏川 一登
現在、城南大学付属高校高校生1年生の男子高校生。16歳
幼少の頃、両親は交通事故によって既に他界、親戚夫婦の子供として育てられた後、10歳の時に義理夫婦と知り合いである八代悠二が身元保証人として引き取られた。
特技は格闘技であり、度々よからぬ輩に巻き込まれている知り合いをその身一つで助けているいたという。
飛鳥 優奈
私立レイアース女学院1年生、後述の要因で城南大学付属高校高校生1年生。16歳
日本最大企業・飛鳥コーポレーションの社長の娘、元々在籍していた私立レイアース女学院後頭部でも首席2位を収めるほどの成績優秀な生徒であった。現在両親はどちらも海外出張中。
まるで絵にかいたようなエリートコースを突き進んでいたが、今年の1月から休学届を出されている。
その後、同年の3月に城南大学付属高校高校生1年生として転入・復学した。
部活では中学から続けているフェンシング部に所属しており、大会でも優勝するほどの有数の実力者。
情報端末に記載されたプロフィールを見たレオンハルトは思った。
それは、こんな接点がなさそうな二人がなんで一緒になっているのかという。
特に優奈の実家があの"飛鳥"という事も気になっていた。
何故なら、飛鳥と聞けばこの日本には世界に名を轟かす一つの【企業】があった。
―――飛鳥コーポレーション
それは約40年前、全国を巻き込んだ"とある災害"から被害甚大だった日本を瞬く間に立て直したという企業であり、いわばこの国にとっての『英雄』だ。
軌道エレベーター・望月の建設にも関わっており、いわば望月は飛鳥コーポレーションの所有物といっても過言はないらしい。
そんな日本トップの企業の社長令嬢と何も変哲もない少年が何故か一緒にいる事が不思議でならなかった。
しかも、あの『仮面ライダー』に変身したという信じ難い事実も添えて、だ。
「こんな子供が仮面ライダーとはねぇ……世の中どうなってるんだよ」
まるで苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるレオンハルトは食べ終わった携帯食の包装を近くにあったゴミ箱に捨てながら、あの時助けたジェイナスの姿を思い出す。
怪人相手にも圧倒する戦闘力、常人を凌駕した特殊能力、どんな攻撃にも屈しない頑丈な身体。
話に聞く通りの仮面ライダーをしていたが、何より気になった……否、レオンハルト自身が気にしていたのは変身していた二人の事。
……その事を思い出したレオンハルトは、突如不機嫌になった。
「けっ……気に入らねぇな。神も仏もいなかったのか? 笑えるジョークだぜ、まったくよ」
眉を顰め、自嘲気味な言葉を吐きながら、ズカズカと歩いていくレオンハルト。
まるで何かが気に入らないという口ぶりで、不機嫌な表情を晒しながら。
―――その様子を眺めている存在にも気づかずに。
~~~~~
頼打地区、某所。
静かに暗躍しているのはブラック将軍……彼は部下のガニコウモルを傍らに、目の間へと両腕を掲げた。
その両腕は人間のものから異形へと変貌すると、そこから禍々しい瘴気が生まれる。
「フゥン……ぬぅぅぅぅ……ハァ!!」
ブラック将軍から放たれた禍々しい瘴気は前方へと放たれ、人の形へと集まっていく。
その光景を静観していた者が口を開く。
「なるほどなぁ、確かお前は吸い取った血液で怪人を復活させる能力を持っていたな。しかもクリスタルで復活した今、血液じゃなくても電気エネルギーを吸い上げるでその源にしているときた」
「……ほう、貴様は確かプルートの……」
ブラック将軍がその声につられて見ると、そこに現れたのは一人の男。
黒いスーツ服を身に纏ってはいるが、荒々しい風貌を隠しきれないその男を見てブラック将軍は眉を顰めた。
冷たく鋭い視線を気にしないまま、男は不気味な笑みとと共に名乗った。
「八上 志々雄、今はそう名乗ってるんだよ」
「そうか、ならあえて八上と呼ばせてもらおう」
その男・八上は不敵な笑みを浮かべながら、ブラック将軍が作り上げた人型の瘴気が別の何かに変貌していく様子を見ていた。
人型の瘴気はやがて異形の怪人へと変わり、その姿を見て苦笑した。
「プルートめ、エナジークリスタルがなくても戦力を確保する算段を立てていたってわけか」
「らしいな。そのエナジークリスタルとやらは無限ではないらしい……そのために怪人を蘇らせるこの俺があの世から呼ばれたのだろう」
「いいように使われるだけだぜ? 反逆するなら一つ手を貸すが?」
「フッ、その申し出はありがたいが必要ない。反逆するにしてもしなくてもヤツの下した試練とやらをどうにかしなくて話にならん」
八上の提案に断わりの返事を告げると、ブラック将軍はガニコウモルの方へ視線を向けると、目で合図を送る。
意図を察したガニコウモルは頷くと、八上の元へ近づき、とある物を渡す。
八上が受け取るとそれは、緑と青に淀んだエナジークリスタルが2個収められた箱だった。
「確かに受け取ったぜ」
「プルートに渡せ……せいぜい上手く使うことだな。その力を」
「ああ、最後に言っては何だが、ゲルショッカーの大幹部であるお前に聞こう」
「なんだ?」
「あのプルートとかいうヤツ、どう思う」
「そうだな……まだ人の身ながら得体の知れない男だ。迂闊に手を出せば死ぬのはこちらだ。まるで、生きていたころに仕えていた『首領』のようだ」
八上の質問にニヤリと口角を上げながらブラック将軍は答える。
その脳裏には、かつて我が組織を治めていた大物がいた記憶を鮮明に思い出す。
自分が自ら建てた作戦によってその命を散らした後はあのお方はどうなったかは分からないが、少なくともあの男・プルートはそれに匹敵するほどの器があると感じた。
もしかしたら、新たなる『首領』として仕えるのもやぶさかではない。
ブラック将軍の考えを察した八上は何とも言えない複雑な表情を浮かべ、去り際にこう言った。
「せいぜい悔いがないようになぁ。仮面ライダー相手に上手くいかないのはいわば定積だからな」
まるで仮面ライダーの事を知っているような口ぶりの告げた八上は、淀んだクリスタルを片手にブラック将軍の下から去って消えた。
ブラック将軍は暫しの間静寂の中に佇んでいると、今まで黙っていたガニコウモルが口を開いた。
「ブラック将軍、そろそろ作戦時間です」
「ああ……新たに向かえた同胞ももうすぐ覚醒する。共に死地へ向かうぞ、ガニコウモル」
「ははっ、御意でございます」
ブラック将軍とガニコウモルの会話を終えた後、瘴気から生み出された怪人はその重たい瞼をゆっくりと上げる。
―――地獄の軍団が動き出すときは近い。
―――彼らに逆らい、立ち向かえるのは、胸の内に小さな勇気の炎を灯した一陣の風だけだ。