仮面ライダージェイナス   作:地水

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 更なる戦いへ向かう前のとある出来事。

大人の助言と、少年と少女の『大きな一歩』。
ご唱和ください、彼らの名を。


幕間その6:告白

 ――春休み。

満開の桜並木が目に移る中、そこに歩く二つの人影がいた。

夏川一登と飛鳥優奈の二人は頼打地区内にあるとある桜並木に足を運んでおり、そこで舞い落ちる桜の花びらに心を打たれていた。

 

「うわぁ、綺麗! わたし達の住んでいる近くにもこんな場所あったんだ」

 

「ここ、意外と人が来ない穴場なんだよな。気に入ってもらえたか?」

 

「うん! とっても素敵だよ!」

 

「優奈にこの景色を見せたくて二人で来たかったんだ」

 

「一登君……嬉しい!」

 

一登が連れてきたこの桜の穴場に連れてきた事を心の底から嬉しく思う優奈。

彼女が見せた花の咲いたような笑顔に一登は見ていて心が温かくなった。

はしゃいでいる彼女の姿を見ていると、優奈はあるものを見つけて声を上げた。

 

「あ、一登君! 桜吹雪だよ! 綺麗!」

 

「ほんとだ、綺麗だね」

 

桜の花びらをが風に乗って渦巻いている光景に喜ぶ優奈の姿を見て、一登は心の内で考えていた。

その心は決して明るくないものであった。

 

(多分、この笑顔が優奈の本当の顔だろう。年齢相応の女の子の……)

 

(でも、その命はいつ消えてしまってもおかしくない)

 

一登の脳裏によぎるのは、自分たちに襲い掛かってくる怪人達。

ショッカー、ゲルショッカー、デストロン……かつてこの世で生きて悪行をやらんとしていた悪しき脅威がライドクリスタルを持った自分達に現れ、戦いを強いられる。

 

相手はどんな手でこちらを追い詰めるかわかったものじゃない。

明日、優奈が命を落としているといったこともないとは言い切れない。

そんな確かなものなどない世界で自分たちは生きている。

 

(それでも、俺は彼女を……)

 

自身の額に皺が寄っていることを感じながら、思い悩んだ。

そんな人には言えない考え事をしていた一登に、怪訝な表情を浮かべた優奈が覗き込んでる事に気づくのは遅くなってしまった。

 

「一登君? 一登君、ねぇ聞いてる?」

 

「あっ……! あ、ああ、ごめん……ちょっと考え事をしていたよ」

 

「……そっか」

 

一登の浮かない顔に優奈は複雑そうな表情を露にする。

二人は舞い落ちる桜並木を歩いていると、ふと聞こえてきたのは子供たちの遊ぶ声。

顔を向けて見ると、そこでは小さな子供たちが一人の男性に集まっていた。

 

「「「レオさーん!」」」

 

「おうおうおう、ボーイ&ガールズ。元気でよろしいこった」

 

「「あの人は……!」」

 

一登と優奈は驚気の表情を浮かべた。

何故なら子供達が集まった先に立っていた人物は二度も相まみえた男性――レオンハルトその人だったからだ。

なぜこんなところで子供達といるのか……二人が不思議に思っている事など知る由もなく、目の前に群がる子供達の前にレオンハルトは慣れた様子で対応していた。

そこで一人の子供が声を上げて聞いてくる。

 

「なぁ、レオさん! あの話聞かせてよ!」

 

「ん?あれって?」

 

「ホラ、例の噂の都市伝説の!」

 

子供達はレオンハルトに期待の目を向けながら、異口同音でその名を叫んだ。

 

 

「「「仮面ライダー!」」」

 

 

「「えっ」」

 

子供達が叫んだ名前に、一登と優奈は驚き、そして戸惑った。

自分達が変身している仮面ライダー……人を凌駕した仮面の戦士の名前をあんなに嬉しそうに叫ぶ姿を見て、心の中では動揺していた。

そんな小さな彼らの話を聞いてレオンハルトはニヤリと不敵な笑みを向けて答えた。

 

「いいだろう。ただし、明後日まで帰れなくなるぞ」

 

「「「やったぁぁぁぁ!」」」

 

「そうだな……お、おーい。そこのお二人さーん、お前たちも見て行けよ!」

 

レオンハルトは傍観していた一登と優奈を方へ視線を向けると、大きな声で誘ってきた。

一登と優奈は互いに顔を見合わせると、仕方がないと判断してレオンハルトのもとへと歩いて行くことにした。

 

二人がやってくると、まず一登がレオンハルトと共に子供達の前に立たされる。

一登は木の板を持たされ、目の前には気合を入れるレオンハルトが深い息を吸って構えている。

優奈と子供達が真剣に見守る中、レオンハルトが説明を口にする。

 

「敵は半獣の吸血鬼(ヴァンパイア)死食鬼(グール)どもだ。どいつもこいつも半端じゃねえ」

 

「「「ごくりっ……」」」

 

「そこで一発、―――ライダーパンチ!」

 

振り放たれたレオンハルトの拳。

目にも止まらぬ速さで繰り出されたそのストレートパンチは、バキリッと豪快な音と共に木の板を割った。

それを見た子供達は驚きの声を上げた。

 

「コイツは鉄をも砕く。そしてコイツがとどめの……」

 

レオンハルトは身をひるがえすと、姿勢を低くして、地面を蹴り上げジャンプ。

ハラリと落ちる桜の花びらの中、一つだけ落ちる葉っぱへと片足を繰り出した。

 

「―――ライダーキック!」

 

一閃。

繰り出されたレオンハルトの蹴りは舞い落ちる桜の花びらを吹き飛ばし、落ち葉だけを綺麗に切り裂いた。

その妙技に一登も優奈も驚き、そして子供たちは歓声を上げた。

 

「「「すっげぇ!」」」

 

「これで怪物(モンスター)どもはいちころってわけだ」

 

桜の花びらを混じって真っ二つに割れた落ち葉が地面へと落ちる光景を見せながら、レオンハルトは子供達の方へと訊ねる。

 

「どうだ?ライダーはカックイーだろ?」

 

「「「うん!」」」

 

「サイコーだろ?」

 

「「「サイコー!」」」

 

「そうか、サンキュー。そう言ってくれるとライダーたちも喜ぶぜ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、案外ヒーローってのは身近にいる意外な人かもしれないんだぜ?」

 

この場にいないはずなのに『ライダー達が喜ぶ』という首を傾げている子供達にレオンハルトは笑顔を綻ばせながら答えた。

一瞬、一登と優奈に視線を向けてウインクをしたのを二人は見逃さなかった。

 

 

~~~~

 

 

その後、子供達と遊ぶことになった一登と優奈。

今現在は優奈が子供達の相手をしており、その光景を遠くから一登とレオンハルトが眺めていた。

楽しく駆け回る優奈の姿を前に、一登へレオンハルトが話題を切り出してきた。

 

「こうして話すのは初めてだな。夏川一登」

 

「ああ……アンタ、俺達の事を知ってるんだろ?その、仮面ライダーの事を」

 

「まあな、目の前で変身したとき二人で一人になったときはさすがに度肝を抜かれたけどな」

 

最初に出会ったときの変身する時の事を思い出しながらレオンハルトはカラカラと笑った。

どちらかというと大人しめな自分にとっては眩しい笑顔に一登は何とも言えない表情を浮かべた。

その表情に気づいたレオンハルトは表情を普段のものへと戻すと話を続けた。

 

「で、お前さんにはいろいろと聞きたいことはあるんだけどよ……」

 

「ああ……」

 

「なんか悩みでもあるのか? あの飛鳥優奈と何かあったのか?」

 

「……えっ? あんた他にも訊ねる事あるだろ?」

 

「いずれ聞く。でも今の問題はお前の中に渦巻く不安だ」

 

「それでいいのかよ、あんた……」

 

レオンハルトが聞いてきた言葉に、素っ頓狂な声を上げる一登。

ジェイナスの事とか、ライドクリスタルの事とか、ドライバーの事を聞かれると思っていたが、予想外の事を聞かれて思わず声が漏れた。

一登は今まで通りにポーカーフェイスを保ちつつ、レオンハルトへ話すことにした。

 

「何かあったというか、……怖くなったんだ。彼女を、優奈が消えるのが」

 

「ふぅん……そりゃ当然だな。俺ですらあの子を大切にしているってのが伝わってくるよ」

 

「優奈は俺の大切な女性だ。だけど彼女は途方もない悪意から狙われている。そんな彼女を俺は……俺は彼女を守りながらともに戦い抜けるか」

 

レオンハルトを傍らにして、一登は自分の気持ちを吐露した。

 

舞い落ちる桜の花びらの中で笑顔の彼女をどうしても守りたいと、一登はそう思った。

たとえ格闘技ができるだけの高校生でも彼女を助けたいと思った。

 

そんな一登を見て、今まで話を聞いていたレオンハルトは目の前で遊ぶ子供達を見ながら、口を開いた。

 

「お前たちはただの子供だ。いずれ大人になって、あの子を愛してやって、その間にできた子供の手を握ることだってできる。それで老いるまで幸せな日常を過ごして、天寿を全うする。それがお前とあの子にあるべき生き方だ」

 

「……」

 

「いいか? いくら仮面ライダーに変身できるからってテメェら二人だけの戦いなんてのは絶対に間違ってる。お前らだけが傷ついて苦しむなんてのは特にな。お前達のような善良な子供が危ない戦いに巻き込まないように俺達大人が体張って頑張っているんだ」

 

未だに悩む一登にそう語るレオンハルトの顔には真っ直ぐ見据える瞳があった。

たとえ相手が神でああろうと揺るぎない光を宿したその瞳に一登は息をのんだ。

そしてレオンハルトは立ち上がり、一登に向けてこう言った。

 

 

「例え地獄へ落ちようとしても、俺が何度でもこの手で引き戻してやる。お前たちが未熟でも半人前でも結構、絶対に俺がお前達ライダーを助けるからな」

 

 

一登に向けて言い放った言葉と共にレオンハルトは自身の手を力強く握りしめた。

男の決意を秘めたその拳を見て一登は何処か安心感を覚えた。

自分達ためにここまでしてくれる人がほかにもいたのか……そしてレオンハルトは一登の方へ顔を向けると明るい笑顔を向けた。

 

「だから、お前は……いやお前たちは今からでも手に入れてもいいんだよ。今のお前らが掴める幸せを、青春ってやつを」

 

「青春……」

 

「まあ、そういうこったよ。俺はもうちょっとここで面倒見ておくから、彼女を連れてデートの続きをしな」

 

茶化すように言いながら、レオンハルトは子供達の方へと向かっていく。

彼と入れ替わるように優奈が一登のところへと戻ってくると笑顔で話しかけてる。

 

「お待たせ、今のちっちゃい子たちって元気だねー」

 

「優奈……ちょっと付き合ってくれないか? 話したいことがある」

 

「話したい事? うん、いいよ」

 

優奈は一登の誘いにのると、レオンハルト達に別れを告げて離れた。

子供達と共にレオンハルトはその二人の背姿をにやけ面で見送るのであった。

 

 

~~~~

 

 

時間は夕暮れ、場所はとある展望台。

二人だけしかいないこの場所にたどり着いた一登と優奈。

まず最初に切り出したのは、――優奈の方だった。

 

「話したいことって、桜並木の時の事かな」

 

「気づいていたのか?」

 

「うん、あの時の一登君って無口だったし……何かあるのかなと思って」

 

優奈の言葉を聞いて、一登は少し逡巡すると、ゆっくりを頷いた。

それを見て優奈は一息つくと、困ったような笑顔を浮かべた。

 

「そっか、わたしの事で真剣に悩んでくれていたんだ」

 

「不安にさせてごめん」

 

「いいよ、でも何か悩んでるなら言ってね。いつでもわたしに相談してね」

 

彼女の見せた笑顔に一登は少しの間黙り込むと、意を決して口を開いた。

優奈の眼を真っ直ぐ見つめながら。

 

「俺、桜吹雪の中で優奈を見ながらずっと怖かったんだ」

 

「うん……」

 

「優奈は女の子だ、俺の大切な女性だ。その優奈はあいつらのような多くの悪意に晒されている。いつ誰かに手をかけられてもおかしくはない」

 

「うん……」

 

「最初に再会した時、言ったよな。『君と一緒に戦う』って……君と共に戦いぬくって。だけど、本当に守り切れるのか? それが本当にできるのか?」

 

「……」

 

「……君の笑顔を失うのが怖い。今になって、不安になったんだ」

 

「一登君……」

 

優奈が見たのは語るたびに泣きそうなる事を耐える愛しい彼の姿。

自分ために、そこまで思い悩んで伝えてきてくれた一登を優奈はそっと手を握りって語っていく。

 

「確かに、今のわたしたちは明日をも知れぬ命だけど……だからこそ、今も戦い続けてるんだよ。そんなに不安にならないで」

 

「……」

 

「わたしだって、一登君の背中を守れるくらい戦えるよ。一緒に戦おう?」

 

「優奈……」

 

「一人で戦わないで。わたしはずっと一登君と一緒にいる。私の事、ちゃんと見ていてほしい……ずっと、ずっと一緒だよ」

 

優奈は諭すように一登へ告げた後、腕を回して彼の体を抱きしめる。

春先の少し肌寒い風が当たり、一登の温もりが一層感じられた。

彼女からの抱擁を心地よく受け止めた一登は自分自身も腕を回して抱きしめると、彼女の耳元で囁いた。

 

「あのさ、あの人……レオンハルトに言われたんだ。『今のお前らが掴める幸せを、青春ってやつを手に入れてもいい』って」

 

「うん……」

 

「だからさ、俺、言うよ。優奈」

 

優奈の体を抱いている腕の力を少し緩め、顔が向かい合うような形にすると、目の前にある優奈の顔を真っ直ぐ見つめる。

はしばみ色の瞳がこちらの様子を覗いている中、一登はその言葉を口にした。

 

 

「好きだ。結婚を前提に付き合って欲しい」

 

「ッッ……! はい!」

 

 

一登が口にした愛の言葉。

最初に出会って数年間、ようやく待ち望んだ言葉を優奈は快く受け止めた。

 

夕日が静かに沈む頃、二人の顔は近づき、静かに、静かに、両者の唇が触れ合う。

二人の影が重なりあう中、一登と優奈は晴れて『恋人同士』となったのだ。

 

 

――――恋・想・成・就

 

――――更なる戦いへの前に起きた、二人にとっての大きな一歩であった

 

 

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