気が付けば25話も投稿されている事実に震えながら、新しい話を出来た。
序盤は終わった、ここからジェイナスの世界が始まる。
その日、松崎三太郎は人生の旅立ちをしようとしていた。
会社の仕事も上手くいかず、頼れる身寄りはなく、はっきり言って人生のどん底だった。
何もかも諦めて、20階建て高層ビルから飛び降りようとしていた。
「……何にもいいことがなかった、人生だったなぁ」
自分の履いていた靴を置き、屋上の柵を乗り越えて、今にも飛び降りようとする松崎。
目の前に広がるのは光り輝く摩天楼、上を見上げれば未だ夜は明けていない。
まるで自分の未来を指しているようだ……そう思った松崎は自分の一歩を踏み出そうとしていた。
――あぁ、それにしても今日はよく風が吹くなぁ……。
ビル風よるものなのか、地上から舞い上がった強風を感じながら、人生への旅たちを立とうとした……その瞬間であった。
自分以外誰もいないはずなのに誰かの声が聞こえてきたのは。
「いい風ですね。この風ならどこまでも飛べそうだ」
「え?」
不意に聞こえてきた若い男の声に踏み出そうとした足が止まる。
横を振り向けば、そこには一人の若い青年が立っていた。
若々しい容姿に眩しい笑顔が似合うその青年は、漆黒の夜空の向こうにて輝く星々を見つけるように、まっすぐに見ていた。
その笑顔がどこか惹かれるものがあると感じた松崎だったが、ふと不自然な状況に気づいて我に返る。
「あ、あなたどこから!? いつの間に、ここへ!? 屋上に足を踏み入れればいくら私でも気づくはずなのに!?」
「ああ、それはその……」
慌てふためく松崎の問いかけを聞いて、青年はどうしたものかと迷った様子を見せた後、ビルの真下を指さした。
―――まさか、ビルの壁面を伝って登ってきたのか!?
松崎はこの破天荒な行動をやり遂げた男に驚いた。
一体何のためにこの青年はここまで上がってきたのか……そう思った松崎は一旦柵の内側へと戻ると話しかけることにした。
「なんで、ここまでどうしてやってきたのですか?」
「まあ、なんていうかさ……こうやって高いところから空を見ることって大好きでさ」
松崎が投げかけた質問に、少し戸惑った表情を浮かべた後、意を決したように話し始める。
青年は楽しそうな笑顔と共に語ってくれた。
『かつて自分が経験してきた事』
『かつて自分が出会った人達』
『自分が自分なりに見つけた答え』
それらを思い出のように語る彼を見て、松崎は何処か心のうちが洗われるような感覚になった。
澄み渡るような青空を体現したような青年の言葉を聞いて、松崎は安堵の浮かべる。
松崎にとっては青年が話した物語は何処か『夢のヒーローの話』に思えたからだ。
根拠のない理由だけど、それだけ青年の話が素晴らしいと思えたからだ。
青年の話を聞き終えた松崎に、今度は青年から問いかけてきた。
「どうですか、気分は晴れましたか?」
「えっ……」
「俺は貴方がどうしてこうなったのかわからないし、考えを深く察することはできないですが……きっと晴れますよ。たとえどれだけ先の未来が見えなくても、諦めず飛んでいれば、この青空のように澄んだ空へとたどり着けますから」
「この空……あっ!」
青年の言葉を聞いて男は気づいた。
二人が包んでいた漆黒の夜空は既に終えて、夜明けの空を示す青色へと変わっていた。
東から太陽が顔をのぞかせながら昇っており、体に当たる日の光の暖かさと眩しさが生きている実感を味わった。
昨日までと違う太陽の温もりに何処か心からくるものがあり、ほろりと涙が頬を伝って流れ落ちる。
そんな松崎の様子を見て、青年は懐から取り出した名刺を渡してくる。
「何かあったらここに連絡してください。きっと力になりますよ」
「あ、はい……ハンググライダークラブ?」
「じゃ、俺はそろそろ行きます!」
「い、行きますってどこに……ここ20階で……うわっ!?」
何処かへ向かおうとしている青年に呼び止めようと松崎は声をかけるが、その前に強風が煽ってくる。
目も開けられないほどの強風に思わず松崎は身構えてしまう。
その際に、青年の姿が緑の体表と黒い斑模様の赤いマフラーの姿の人ならざる身に変わったように僅かに見えた。
強風が収まるころには、青年の姿は何処にもなかった。
彼は強風に紛れて屋上から去ったのか、それとも前の自分がしようとしたように屋上から飛び降りたのか……。
いや、どちらも違うと松崎は確信していた。
――何故なら、夜明けの大空を高く飛ぶ人影が視界に映ったからだ。
彼が青空へと消えていく姿を見届けた松崎はぽつりと呟く。
「もう少し、頑張ってみるか」
早朝の青空を見上げながら、松崎は足元に置いていた靴を拾うと、人知れず屋上から去って行った。
その後、松崎は自身の勤めていた会社を退社し、青年が紹介した"とある職業"の一員として務めることになった。
~~~~
―――4月。
在学生は進級し、学び舎に新たなる生徒が迎える時期の頃。
一登と優奈が通う城南大学附属高校も例外ではなく、この日、入学式が行われていた。
開花の時期がタイミングよく満開となった桜が舞い散る校庭。
その光景を見ながら、一登は春の陽気に誘われてあくびをした。
「ふわぁぁ~……心地いい春の陽気だな。眠ったら気持ちよさそうだ」
「こーら、居眠りしちゃだめだよ。一登君」
寝ぼけ眼気味の自分の顔を覗き込むように見るのは、眉をハの字にしている優奈だ。
一年生から二年生になった今もクラス替えでも一緒になることができた二人。
今のクラスである2年A組は自分達の馴染みある顔も集まっていた。
「今年も同じクラスだね、一登、有栖」
「むぅ、優奈も一緒なんですね」
「はっはっは、今回こそは一緒になったぞ夏川一登……げふぅ!?」
「うっさいわよ、吾郷」
いつもの顔が見えてに喜ぶ氷室蒼汰、対して顔をむくれさせる有栖・U・ランド。
二年になってようやく一緒のクラスになれたことを噛み締める吾郷改に、その彼にツッコミを叩き込む須崎里子。
一登と優奈にとって見知ったこの四人が今学期の学友となるのは、楽しそうになる予感はしていた。
「今年はみんなと一緒にいれるようだね、一登君」
「そうだな。楽しい一年になるといいな」
「なーに遠くの位置で年寄りくさいこと言ってるのよこの二人は」
「「あいたっ」」
幸せそうに一同を見ていたところ、それに気づいた里子が軽いチョップを繰り出し、小突かれる二人。
痛がる二人の手を引っ張って、蒼汰や有栖に改の元はでやってくると、里子は眉を顰めながら言葉を述べた。
「いい、一登に優奈。あたしたちは青春の真っただ中よ。これからは1年生の後輩もできるし、やることはたくさんあるんだから!」
「「里子……」」
「ほーら、そうと決まったらその春の陽気で緩み切った中身を引きしめなさい。ほらピシッと!」
里子は気づけ変わりに二人の背中を叩いた。
彼女によって立たされた一登と優奈は顔を見合わせると、"行こうか"というアイコンタクトを送ると一旦席を立った。
今日は、自分達の学び舎に新しい学友がやってくる日。
ここに踏み入れるであろう後輩達を迎えるため、一登達は教室から出て行った。
所変わって、校内のとある広場。
そこに二人の新しい生徒の姿があった。
……それは、かつて一登が助けたあの二人の女子生徒であった。
「ようやく入れたね。この学校に」
「何度も聞くようだけど、本当にこの学校なんでしょうね」
片や長く伸ばした黒髪の少女・梨絵こと『
片や腰まで伸ばした赤毛の長髪の少女・千世こと『
前に謎の集団・ゲルショッカー襲撃の時、当時中学3年生だった二人は一登によって助け出された。
梨絵はあの時助けてくれた恩返しするべく探し回った末、偶然にも目指していたこの城南大学附属高校の在学中だと知り、友達である千世と共に受験を受けて無事受かった。
今はこうして念願の高校に入った喜びを噛み締めているが、余韻に浸かっている暇はない。
「うん、それは間違いないよ。だってあの人……夏川先輩は結構有名な人だから」
「確か、あの氷室先輩の同級生で……その、大変腕の立つ『噂の人』なのよね」
「でも私達を助けてくれたいい人だよ?」
「うん、それは知ってるし理解しているけど」
梨絵の夏川先輩に対する羨望にたじたじとなる千世。
自慢の親友が抱いているその感情の正体に気づいていない事を気にしていると、とある女子の声が耳に聞こえてきた。
振り向くとそこには、明らかに浮かれた様子の女子生徒がいた。
「ふふふー、一登先輩のいる学校へようやく通えるなんてー」
一方、にやけ面を抑えられないのは小柄な体格とツインテールにまとめ上げた焦げた茶初の髪色の女子生徒――『綾瀬 珪花』。
自分の恩人でもあり想い人でもある夏川一登のいる念願の城南大学附属高校に入ることに出来上がった事を喜んでいた。
高校の制服を身にまとい、年相応の女の子のようにはしゃぐ珪花。
ぴょんぴょんとウサギのように飛び回る彼女だが、石造りの地面の溝に足を引っかけ、体のバランスが崩れる。
「えっ、きゃあっ!?」
「「あ、危ない!」」
こけようとする珪花の元へ声を上げて急いで向かおうとする梨絵と千世。
だが、その前に誰かが珪花の体を受け止めて地面へとぶつかるのを防いだ。
一体何が起きたのか、と珪花が上を見上げると、そこには自分より悠々と超える身長を誇る黒髪の男性がそこにいた。
その男――レオンハルトは苦笑を浮かべながら珪花に話しかけた。
「おいラビットガール、はしゃぐのは構わないが飛び跳ねるのはいかがなもんだぜ?」
「あ、どうも……ありがとうございます」
「ほら立ちな。ほら、立派な学友が待ってるぞ」
レオンハルトは自分の分厚い胸板に収まってる珪花をちゃんと立たせた後、何処かへと去っていく。
一体誰なんだろうかと、珪花が不思議そうに見ていると、心配になって駆け寄ってきた梨絵と千世が声をかけてくる。
「大丈夫?怪我はないですか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「そっか、よかったぁ。無事でよかったぁ」
珪花が無事なことに梨絵と千世は安堵する。
一体助けてくれたあの男は一体何者なんだろうか、そう思いながらも珪花は自分を心配している同級生である二人を安心させるために行動をすることにした。
尚、珪花が梨絵と千世の二人と同じクラスになると少し後に判明したのであった。
~~~~~
一年生の入学式が繰り広げられるこの日、レオンハルトは校内に忍び込んでいた。
新入生の保護者の観覧客としてやってきた体で城南大学附属高校に足を踏み入れて、校内を巡っている。
我ながら上手く入れたと思いながら、レオンハルトはある目的をもって捜索を続けていた。
「たっく怪人達に狙われているにも拘わらず学校に向かうってのにあの二人勤勉だねぇ」
なるべく人気のない場所へとやってくると、自身の携帯端末を取り出して情報を整理する。
画面に映し出されたのはこの高校のマップ……そこに二つの点滅している二つの反応。
それは、一登と優奈に渡しておいた別の端末に組み込んでおいた代物だ。
これで二人が何かあった時、自分にいち早く知ることができる。
今のところは二人そろって同じ場所へと向かっている様子であり、それを見たレオンハルトは苦笑を浮かべた。
「はぁー……なんだろう、コイツら見ていると背中がむずかゆくなるぜ」
自分が来る切欠となった怪人、それと戦う仮面の戦士・仮面ライダーがまさかうら若き高校生だという事実を知るものは数えるほどしかいないだろう。
そんな彼らの学び舎、しかも入学式というイベントを例の怪人達が狙ってこないとは限らない。
レオンハルトの目的は万が一入学式に奴らがやってきた事に対して備えることだった。
出来れば杞憂になるといいのだが……と思ったレオンハルトは入学式が開かれる会場へと向かった。
――その様子を遠くから見ている存在がいた。
その手には青く光る結晶が握られており、話しかけるように声をかけた。
「なるほど彼が第3の……なぁ、彼らの事、どう思う?」
『どうもこうも、話で聞いた限りでは奇抜な存在としか思えんな。そもそも、二人で一人になったところで何が変わる?』
「あはは、そうか。でも実際、見てみないとわからないかもな」
レオンハルトを見ていたその人物は、傍らにいるであろう鋭い意見を飛ばす【声】をなだめる。
ふと空を見上げると、そこは青一面の晴天……その光景に思わず笑顔を綻ばせた。
――ここに役者は揃った。
――大波乱の春がここに幕開けしつつあった。