前者は前回『蒼穹の翼』のサイドストーリー、後者はいつぞやTwitterで載せた一優の小話。
それぞれの温度差で風邪をひかないようにどうぞ
●真理愛と改の奮闘劇
――その日、梅花真理愛は謎の怪物と戦っていた。
正確には新入生が入る入学式の日、自分達の学び舎に新たなる生徒がやってくる日に謎の結晶の怪物が乱入。
生徒達に被害がかからないように、在学生の一人である吾郷改と共に戦うことになった。
「はぁぁぁぁ!!」
そして今、真理愛の繰り出した掌底が結晶兵士ミネラリオンへと炸裂した。
常人ならノックアウトできるほどの威力を受けたミネラリオンは入ってきた入り口から追い出され、外へと投げ出された。
地面へと転がって倒れるミネラリオンを追って、体育館から抜け出した真理愛と改は構えを取りながら話し合う。
「とりあえず奴を追い出せたわね」
「しっかし、どうしますよ先生。あの感触と手ごたえ、まるで石を殴ってるようなもんですよアレ?」
「そうね、あの異常なほどの硬さ……石を割るような打撃だけじゃダメ。もっと相手の弱点を突くような有効打を!」
目の前にいる異常なほどの防御力を真理愛と改は見抜いていた。
事実、二人は知らないがこの結晶兵士ミネラリオンは"結合物質"により常人を凌駕する防御力を有していた。
ミネラリオンが腕を剣のごとく鋭い刃に変化させ、真理愛達へ向けて振り下ろす
「「あっぶなっ!?」」
二人はミネラリオンが振り下ろした刃を紙一重で回避する。
振り下ろされた斬撃は傍にあったベンチを真っ二つに切り裂き、時間差で左右に斬り落とされた。
刀剣レベルの凄まじい切れ味を見て、二人は顏を引きつらせた。
「「……」」
「い、今の見た!?」
「や、やべぇ!? あんなのにやられたら上と下がおさらばじゃねえか!?」
「吾郷君、あれに当たらないようにしながら動きを封じ込めるわよ!」
「無茶なこと言ってくれるなぁ!!」
振り下ろされるミネラリオンの斬撃を何とか必死に回避していく真理愛と改。
地面に転がりながらミネラリオンの背後に回ると、改は自身の手足を引っかけて拘束。
上手く腕の刃を振るえないところへ、刃の斬撃を潜り抜けた真理愛が迫った。
「――――諸手打!」
真理愛の両腕から繰り出されたのは二つの手刀。
ミネラリオンの両側頭部目掛けて放たれたその手刀は思いっきり炸裂。
ミネラリオンの頭部上下に皹が入り、それを好機と見た真理愛は叫んだ。
「吾郷君!」
「おっしゃああ! くらいやがれぇ!!」
真理愛の言葉と共に吾郷はミネラリオンの胴体を持ち上げると、そのまま自分の上半身を後ろへそらしながら思いっきり後方の地面へと叩きつける。
バックドロップと呼ばれるプロレス技の代名詞というべき必殺技を吾郷はミネラリオンにお見舞いした。
首から先は地面へと突き刺さる形で沈黙したミネラリオンを見て、一旦距離を取りながら真理愛は吾郷と共に様子をうかがう。
「どうなのかしら? 一般人相手に披露しないような技を出しちゃったけど」
「さぁてね、これでくたばってくれたら御の字なんだろうけど」
怪人相手にやりすぎたことを否みながら警戒する二人。
だがしかし、二人の予想とは裏腹にミネラリオンの指が動く。
小さな物音に身構えると、荒い音と共に地面から抜け出したミネラリオンが二人へ攻撃しようと亀裂が入った頭部から破片を飛ばそうとする。
アレを喰らえばひとたまりもない……そう思った真理愛達が身構えていると、一人の男の声が聞こえてきた。
「おっらああああ!!」
バキィン、と砕ける音と共に、ミネラリオンの皹の入った頭部が砕け散った。
それと同時に残された胴体の方も皹が入って砕け散り、そのまま消滅していった。
「「はぁ!?」」
目の前に起きた状況と、あれほど苦戦した怪物が一撃で倒されたことに真理愛と改は驚きの声を上げた。
そのミネラリオンを倒した本人であるレオンハルトは、片手に持っているミネラリオンの腕で作った"ブラックジャック"(円筒形の革や布袋の中にコインや砂などを詰め、固く絞って棒状にした棍棒の一種)を見て何かに納得したように呟いた。
「なるほどなぁ、あいつらは自分自身の硬さにも対抗できないってわけか」
「お、おいアンタ……」
「あ、やっべ……!」
改に呼び止められ、ハッと我に返ったレオンハルトはそのまま走って逃げ去って行った。
彼が使っていたミネラリオンの斬り落とされた手は粒子状の光となって消えていき、それを見ていた真理愛はふとぽつりと漏らした。
「はぁ……今年も波乱の展開だわ」
この後の暴れっぷりでやらかした器物損壊物の事を頭を悩ませながら、真理愛はとりあえず改と共に戻ることにした。
なお、この後に怪物を倒したとして真理愛と改は新入生たちの注目を浴びるのであった。
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●雨の日
君の部屋で泣いている君を私は見つけた。
泣き声を押し殺しながら、ベッドの上で横になりながら君は泣いていた。
私はそんな君にそっと近づいて、ベッドに腰を掛けて寄り添った。
「どうしたの? 一登君」
「……優奈?」
「泣いている君をどうしても放ってはいけなかったの」
「……こんな顔、君には見せたくなかった」
一登君は私に顔を見せないように、背中を向けた。
そんなご機嫌斜めな姿も愛おしいと感じる我が身をちょっと変だなと思いながら、私は彼に優しい声音で言った。
「話しても大丈夫だよ。一登君に力になりたいのは確かだから」
「……夢を見たんだ。君が消える夢を」
「私が消える?」
「……目の前で消えてしまって、その時の優奈の顔が、助けを求めていて」
声を振り絞りながら語る一登君の声に私は耳を傾ける。
どうやら悪夢を見ていたらしい。
一登君は次第に声を引きつらせ、再び泣き始める。
「いやなんだ……もう、誰も失いたくないんだ。俺の本当の父さんも、母さんも、もういない……大切な人を失いたくないんだ。もし優奈がいなくなったらもう、俺は……」
―――そっか、君はそんなに思い悩んでいて、そして私を大切にしているのか。
彼にとって不謹慎かもしれないけど、それでもこの胸に広がる暖かな喜び気持ちと彼につらい思いをさせた少しの悲しい気持ちを抱えながら、私は彼に身体を寄せて、抱き着いた。
彼の温かさを心地よいと感じながら、私は彼の耳元で囁いた。
「大丈夫だよ、一登君」
「優奈……?」
「私は君を守るほうだもの。そう簡単に消えてたまるものですか」
私は彼の頭を抱き寄せて、自身の胸に近づけさせる。
流石に大好きな人に密着しているせいかちょっと鼓動が早くなってる心臓の音を聞かせながら、彼を落ち着かせる。
暫しの間そうしていると、今度は一登君の方から口を開いた。
「ごめん、優奈。俺弱気になってた……君を失いたくない、君を失ったら俺の命の価値がなくなるって」
「一登君……」
「……その、改めて言いますけど俺は君と一緒に生きたい。いずれ本当に二人で生活できるようになって、その先の未来も作れたらいいなと」
「うん、私も、君と生きる未来を作りたいよ」
胸の中に蹲る彼の綺麗な黒髪を撫でながら、私は耳を澄ました。
外で降り続ける雨音がよく聞こえる。曇天の空が広がっていることを想像につくのはたやすいだろう。
―――もうちょっと、雨が続けばいいな。
私はちょっとワガママな考えを巡らせながら、幼子のように寄り添う彼を抱き寄せながら、昼下がりの時間に余韻を浸していた。