―――それは、幼い時の記憶。
そこで『俺達』は共に仲良く遊んでいた。
俺と相手するのは一人の少女。栗色の髪色が特徴的なショートカットの彼女は、にこやかな笑みを浮かべて自分へと手を伸ばした。
「かずとくん! こっちこっち!」
「まってよ、ゆうな。おれはおまえをおいてったりしないって」
彼女のせかす声に導かれ、俺は彼女へと付いていく。
『ゆうな』と呼んだ彼女の花のような愛らしい笑顔が俺の心を暖かにしてくれる。
「ねぇ、かずとくん、もしわたしがこまっていたらどうする」
「そりゃゆうなをたすけにいくよ。かならず」
「ほんと? ほんとにほんと?」
「うん、ほんと」
「……ありがとう! かずとくんだいすき!」
「ちょっ、はずかしいよ!」
まるで花畑のような満面の笑顔で彼女は俺に抱き着いてきた。
俺は照れ臭そうにしながらも、彼女の好意を快く受け止めた。
―――これは、俺と彼女の幼い日の思い出。
数年後に再会する、壮大な物語へ繋ぐ『希望の欠片の記憶』。
~~~~~
東京、頼打地区のとある建物。
『New Amigo』と書かれた看板が目立つその喫茶店にて、物語は始まる。
そのカウンター席にて珈琲豆の選別をしている男性がいた。
黒髪の若い男性とも言うべき風貌をしたその男……『
「おおい! 一登! さっさと起きろ! いつまで寝てるんだ!」
「ふあぁぁぁ……起きてるよ、おやっさん」
悠二の声が喫茶店の奥まで響き、渋々と一人の少年が出てきた。
忠誠的な外見と整った顔立ちが特徴のその黒髪の少年……『
「おはよう、おやっさん」
「おう、おはようさん。この寝坊助め。よーやく起きたか」
「悪い、夜更かしいていた」
「たっく……おら、朝飯用意してあっからさっさと食べろ」
悠二が首を向けた方向には、まだ湯気が立っている朝食の姿。
白米を盛られた茶碗に、味噌汁が継がれた汁茶碗、そして平べったい皿に乗せられた焼き魚。
いつもの我が家の光景ながら食欲をそそられる食事に席に着くと、ありつくことにした。
「いただきます」
「たっく、お前の寝坊癖もなんとかしてもらいたいもんだね」
「なんだよいきなり」
「あーあ、俺がいなくなったら誰が起こすんだよったく。こんなんじゃお前の嫁になるようなヤツは苦労するな」
からからと笑う悠二をジト目で見ながら、一登は味噌汁を啜った。
親代わりの悠二とのいつものやりとりを繰り広げる一登の二人……『NewAmigo』での朝はこれから始まる。
喫茶店と食事処を兼ねているこの店では、和洋問わずのメニューを出している。
常連客も少なからずいるこの知る人ぞ知る店はそれなりににぎわってることが多い。
いつの間にか食べ終えると、食器を片付けた一登は悠二の方へ顔を向けて声を掛ける。
「じゃ、仕入れいってくるよ」
「おうよ。メモはちゃんと持ってるよな。お前」
「持ってるってば、じゃいってくる」
悠二に心配されながら、一登は店の料理に使う食材を買いに外へと出かけた。
一人残った悠二は不敵な笑みを浮かべて、再び豆の選別の作業に戻る。
~~~~~~
頼打地区。某所。
人気が一切ない裏路地にて、一つの人影があった。
慣れないロングコートとスカート姿で走っているその人物は、息を切らしながら何処かへと逃げていた。
その両腕には銀色のトランクが抱えられており、
「はぁ、はぁ、はぁ」
息を切らしながら逃げるその彼女……ミット帽を目深に被りながらも僅かに覗かせるその整った顔を持つ年若い少女は、いち早く追っ手から逃れる様に逃げていた。
その彼女を追うように現れるのは、白服の男達。
「いたぞ!」
「あっちだ! 取り返せ!」
「くっ……!」
迫る男たちの声を聞いて、すぐ近くの曲がり角へと走っていく少女。
それを見て男たちもすぐに曲がり角まで走り、標的の少女を追う。
だが、曲がり角を曲がった時、そこには溢れかえる人混みだけで少女の姿はなかった。
今の時間帯は朝……通勤ラッシュで働く人たちが多くの行き来をしていた。
それに紛れたことに気づいた白服の一人は舌打ちを打つと、それぞれ手分けして探すことにした。
一方、行きかう人混みをかき分けながら、少女は今も逃げていた。
「……逃げないと!」
少女は逃げる、逃げる、逃げる……追手から逃れて、このトランクの中身をあいつらに渡さないために。
きっと中身の【アレ】を渡してしまったら、大変なことになるのは間違いない。
それは少女自身が許さない。
だから、今もこうして逃げているのだ。今も白服の男たちに追われる身になってまでだ。
「……逃げないと、逃げないと……でも、―――逃げるって、どこに?」
ふと疑問に思った。思ってしまった。
逃げることに集中するあまり気づいていたなかったのか、それとも彼女自身が気づくことを拒んでいたのか。
ともかく彼女は、自分がこれから行く道を、自分の抱えている問題を解決できる頼れる誰かを見失っていた。
これから先、誰にも頼ることのできない逃亡生活を続けていくのか?
そんな孤独を一人の少女には耐えられることができるだろうか。
少女は絞り出すような声で呟いた。
「助けて……かずとくん」
口ずさんだのは、遠い記憶の中で出会った、幼い少年の名前。
彼女にとっては唯一の生きる気力だった、大切な想い出。
数年も経った今でもはっきり覚えている。
願うなら、約束した彼ともう一度会いたい。
今はそういう状況でないにしても思わずにはいられなかった。
―――そんな時だった、少女が誰かにぶつかったのは。
「うわっ」
「きゃっ」
小さな悲鳴と共に、少女はよろけてしまう。
その際にニット帽が外れ、ばさりと栗色の長髪が零れ落ちた。
だが、地面へと身体がコケる前にぶつかった誰かが手を伸ばし、彼女を支え上げた。
少女が見上げると、そこにいたのは黒髪の中世的な整った顔の少年。
少年は驚いた表情を浮かべながら口を開いた。
「ゆう、な……?」
「一登、くん?」
少年……もとい、買い物を終えて帰ろうとしていた一登は自分が抱えた少女を見て驚いた表情。
対して自分の名前を呼ばれた彼女……優奈こと『
暫しの間、見つめ合う二人。
どこか、見覚えのある顔……幼い日、あの日出会った彼と雰囲気が似ていた。
それに気付いて口に出そうとした瞬間、つんざくような大声が邪魔をした。
「見つけたぞ!」
大声に気づいて振り向けば、何人かの白服の男達がこちらへ向かって走っていた。
それを見て優奈は顔を強張らせ、彼女の表情を見た一登が咄嗟に手首を掴む。
「こっちだ」
「えっ、ちょっと!」
優奈の制止も聞かず、一登は彼女を連れて走りだした。
男達ももう一人の仲間がいることを知らなかったのか驚き、走って二人の後を追いかけてゆく。
彼の手に連れられて逃げる中、優奈の心うちは大きな戸惑いと少しの安堵感で満たされていた。
やがて、二人がたどり着いたのはとある駐輪場。そこにあったのは一つの黒いオフロードバイク。
一登は迷わずそれに飛び付いて起こすと、優奈を後部シートに乗せた。
一登もシートに座り、エンジンをかけてマフラー空吹かせる。
進路方向上にはようやくやって来た白服の追手達、だが相手が誰であろうと構うものか。
アクセルを全開にしながら、一登は叫んだ。
「轢かれたくないならどけぇ!」
「きゃっ!?」
けたたましいバイク特有の排気音と共に二人を乗せた黒のバイクは走り出す。
この際後ろから可愛いらしい悲鳴が聞こえたが気にしない。
男達を接触すれすれのところで間を駆け巡りながら、その場を脱出した二人を乗せたバイクは瞬く間に姿が消えていく。
男の一人が情報端末を手にすると、何処かに連絡をとり始めた。
「ドライバーを持った対象は協力者と思わしき男と接触し逃走。プランをC段階に移動する」
白服の男達は無表情のまま、その場からすぐ去っていく。
まるで先程の騒動が最初からいなかったかのように静けさを取り戻した。
―――その様子を、遠くの建物の屋上に立つ人影が覗き見ていた。
~~~~~~
一登と優奈、二人の乗ったバイクは暫く頼打地区の公道を走っており、そろそろ地区外へ出ようかという所までやってきた。
近くの公園までやってくると止めてもいい場所にバイクを停車させ、二人は中に入る。
一登は先程買ってきた買い物の中から飲料缶を優奈に渡してくる。
「大丈夫か? これ、飲むか?」
「ありがとう……でも」
優奈は一登から受け取った缶を開けて、一口つける。
グイグイと飲みながら喉を潤した後、一息ついて一登の方へ視線を向ける。
不思議そうにこっちの様子を窺う彼の姿を見て顏を赤くさせながら視線を落とし、優奈は訊ねる。
「なんで、私を助けてくれたの?」
「えっとその、体が勝手に動いた。その、キミが……俺の幼馴染にそっくりだったから」
「なによ、それ……」
「それにさ、泣きそうだった。だから、つい」
しどろもどろに答える一登を見て、優奈はきょとんとした表情を見せた。
―――私、泣きそうな顔を浮かべていたのか……。
そう思うと再び顔が赤くなるのを熱として伝わってくる。
恥ずかしがる彼女の姿を見て慌てる一登は話題を切り替えようとする。
「え、えっと。そうだ! 名前! 自己紹介をするか!」
「……お互い、知り合いかもしれないのに?」
「うぐっ、それでもだよ……悪いか?」
指摘に気まずそうにばつの悪い顏を浮かべる彼を見て、優奈は思わず笑ってしまう。
やっと暗い顏から花の咲いたような笑顔を浮かべて一登はほっとしたような表情を浮かべた。
「もしかして君、あの一登君だよね?」
「ああ。そういうお前は優奈だろ?」
「やっぱりそっか! 幼い頃に一度会ってるよね、私達」
「ああ、そうだ。いつぶりかな、一緒に遊んだよな」
「そうそう! 一緒に森の中に出掛けたよね!」
「よく覚えていてくれたな。そうそう、あの時は迷子になって、お化けが怖がる優奈が泣いていたよな」
一登と優奈、二人の幼い頃に出会った思い出を元に会話が弾んでいく。
暫くの間は思い出話で楽しい時間が過ぎていく。
語り合った二人は、満足したような笑みを浮かべて互いに見合わせた。
「はぁー語った! 語った!」
「ほんとねー、こんなに喋ったの久しぶり!」
「……優奈、俺さ、久しぶりに会えて嬉しいよ」
「うん、私も……改めて言うね、助けてありがとう」
優奈の向けてくれた笑顔に一登はどきりと胸を高鳴らせる。
幼い頃に記憶したショートカットのあの綺麗な栗色の髪は腰まで届くほどの長さにはなってはいるが、それでもかつて好いていた頃と何ら変わってない。
だがしかし、ふと唐突に彼女の笑顔に陰りが差した。
優奈は先程の笑顔から悲しい表情を浮かべると、一登の方へ身を寄せて抱き着いてきた。
彼女の突然の行動と、密着させていることで実感する女性特有の身体の柔らかさに戸惑う一登だったが、泣きそうな声を押し殺している事に気づくと、ハッと我に変える。
「ごめん、今だけでいいの、こうさせて」
「……優奈?」
「どうしてだろう、キミと再び……ようやく会えたのは嬉しい。けどどうしてかな……今まで耐えてた辛いとか悲しい気持ちがあふれ出そうで……」
「何があったか話してみて、俺の胸と力ぐらいは貸すよ」
その言葉を聞いて、優奈は一登の胸元へ顔を押し付けて、小さなすすり泣くように声を上げる。
少しした後、落ち着きを取り戻した彼女は自分の実情を語り始めた。
「……私の家、結構大きな所でね。最近、怪しい研究をしていたの」
「研究? なんの?」
「私もよくは知らないけど、ココじゃない所から取り出すエネルギーをしていたの。今のエネルギー問題解決のために……でも」
「でも?」
「―――見てしまったの……人間が怪物の姿になるのを」
優奈の放った言葉に、一登は息を呑んだ。
にわかには信じがたい話だが、彼女の語る恐ろしいものを見たたような姿を見てそれが嘘だと一登は思えなかった。
彼女は震える身体を抑えながら、話を続けていく。
「私、なんとかしようとして、これをもって逃げてきたの」
「これって……なんだ? 宝石……いや珠か?」
彼女がポケットから取り出したのは、二つの球状の宝玉。
指の間に挟めるほどの大きさの
手の上に乗った二つの宝玉のうち白い宝玉を手に取って確かめる。
「なんだろう、これってなんなんだ?」
「アイツらはクリスタルって呼んでいた」
「クリスタル?」
一登は白いクリスタルを掴む形で眺める。
優奈も残った赤いクリスタルを大切そうに握り納めた。
このクリスタルについて何なのか聞こうとしたとき、それは唐突に聞こえてきた。
「ようやく見つけたぞ、飛鳥 優奈」
「「!?」」
二人が唐突に聞こえてきた声の方へ振り向けば、そこには先程の白服の姿があった。
だが、先程異なる点を言えば、風車型のパーツを取り付けた奇妙なベルトを全員腰に取り付けられていた事。
一登は何かおかしいと感じながらも、優奈を守る様に背中へ回して男達を睨みつける。
「お前ら、優奈をどうするつもりだ」
「我々はその女が持ち出した最重要機密を取り戻しに来た。」
「さっさとこの場から消えろ……とは言わん、この場でお前もその女も捕まえる」
一登の言葉に二人の白服の男達はそう返すと、独特の構えを取った。
すると、男達の姿が変貌していく。
鈍い金色のブーツとグローブ、黒いライダースーツ状のボディ、胸部と腹部に取り付けられた鈍い金色の装甲、そして目を引くのは頭部全体を覆う飛蝗を模した緑の複眼の仮面。
人の姿をした異形ともいうべきそれは驚く二人に対して高らかに名乗り上げた。
「我らはショッカーライダー! 貴様達の持つクリスタルを頂きに来た!」
悪魔の軍団が遺した最強の遺産、その名はショッカーライダー。
彼ら6人は二人へと襲い掛かった。