仮面ライダージェイナス   作:地水

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幕間その8:城南大学附属高校の学園記録

 その日の城南大学附属高校は平和だった。

 

 

2年A組の教室にて。

とある授業を終えた一登達生徒は、ようやく迎えた休憩時間を楽しんでいた。

先程受けた授業が退屈だったのか、一登は大きなあくびを開けて眠たそうな声を上げる。

 

「ふわぁぁぁぁ……眠い」

 

「一登、そんなに退屈だったのかい?」

 

「仕方ないだろ、あくび出るのは生理現象なんだから」

 

眠そうな目を擦っていると、近くまでやって来た蒼汰が呆れた表情で声をかけてきた。

言い訳を口にする一登に対し、やれやれといった表情を浮かべる。

再び寝ようとすると、一登の頬に冷たい感触が伝わってきた。

 

「つめてっ!?」

 

「こら、一登。真面目に授業受けなさいよね」

 

「里子、お前なぁ……」

 

驚いて振り向くと、そこにはペットボトルを握った里子の姿があった。

何処からか買って持ち出してきたペットボトルの冷たさによって一登の意識は一気に覚醒すると、立ち上がって里子に問い詰めようとする。

その隣で一登の様子を見ていた有栖が声をかけてくる。

 

「一登がしっかり受けていないのが問題なんですよ」

 

「ぐぅ、確かにそうだが……」

 

「成績は決して悪くないのですが、それでも授業態度はよろしくないのはどうなんですか」

 

「今度から気を付けますよ。今度から」

 

眉をハの字の形にしながら咎める有栖を軽くあしらうと、再び里子に問い詰めようとする一登。

だがそこへ、沢山の資料の入った段ボール箱を抱えた優奈が一登を呼び止める。

 

「あ、一登君! ちょっといい?」

 

「優奈?その荷物は……」

 

「さっき理科の先生に頼まれて片づけしてるの。でもあんまりにも多いから、一登君も一緒に運んでほしいなって」

 

「ああ、構わない。俺も手伝うよ」

 

優奈に片付けの手伝いを頼まれた一登は教材資料を受け取ると、教室から出て共に運び始めた。

二人並んで廊下を歩く姿を見送りながら、里子達は生暖かい目で眺める。

その仲のよさそうな様子を隠そうとしない事に有栖の眉間に皺が寄っていく。

 

「むぅ、なんなんですかあの二人?というか一登の不真面目さ、どこにいったのですか!」

 

「やきもちかい? 有栖? 素直じゃないなぁ」

 

「だっ、誰がやきもちですか!? このっ、このっ!」

 

「ちょっ、やめっ、いたいいたいいたい!」

 

冗談を口にした蒼汰に対し、ポカポカと殴りつけてくる有栖。

こちらでも行われている仲睦まじい様子を乾いた笑いを浮かべながら、里子はペットボトルの封を開けて飲み始める。

校内に広がる清涼飲料水特有のわざとらしいメロン味を楽しんでからゴクリと一飲みすると、廊下の方からどたどたと激しい音が聞こえてくる。

そして、教室のドアを開け、その小さな影が入り込んだ。

 

「かーずとさーん! 今いらっしゃいますかー!」

 

「あら、珪花じゃない。いらっしゃい」

 

現れたのは、自分達のよく知る一年下の後輩である珪花だった。

何かと一登に好いている印象が強い彼女は、目当ての人物である一登と話に来たのだろう。

声をかけられた里子の存在に気付くと、挨拶を交わした。

 

「どうも里子さん。あの、一登さんはどこに?」

 

「一登なら先生の頼まれ事で教室にはいないわよ。気にかけてる優奈も一緒にね」

 

「ぐはぁっ!? で、出遅れたぁ……」

 

「出遅れたって大げさね、アンタ」

 

まるで凶弾を受けたように膝から崩れ落ちた珪花の姿に里子はジト目でその様子を見ていた。

落胆する彼女へ近づくと、そのまま立ち上がらせて事情を聴いた。

 

「で、何しにきたの?」

 

「ううっ、先程受けた授業の問題がわからなくて聞きに来ました」

 

「うーんと、どれどれ……うっわっ、難しいわねこれは」

 

珪花から渡されたノートに記された問題を見て、里子は苦い顔を浮かべた。

自分でも解くのが難しい問題であり、これを1年に出すのは苦労させられると思った。

里子も珪花と共にどうにか解こうと頭を悩ませていると、そこに通りかかった吾郷が口を開く。

 

「おい、それならこの公式が楽だぞ」

 

「「えっ」」

 

「数学なんざ発想と繰り返しでどうにかなるからな。そこらへん肝に銘じておけよ」

 

「「……」」

 

「なんだよ、揃いも揃って黙り込んで」

 

「……意外です、吾郷さんが勉強ができるなんて」

 

「そうだった、コイツ一登と張り合ってるから勉強の成績も悪くなかったんだったわ」

 

「どういう意味だゴラァ!?」

 

まさか意外な人物が回答式を答えてくれるとは思ってなかったらしく、珪花も里子も額に手をついて驚いており、言われもない意外性に吾郷は叫んだ。

A組での束の間の賑わいはまだまだ続くのであった。

 

 

~~~~

 

 

同じ頃、教材の資料を運び終えた一登と優奈の二人は廊下を歩いていた。

肩が触れ合うか触れ合わないかの近い距離で教室へ戻っていると、ふと優奈がとある話題を切り出してくる。

 

「ね、ねぇ一登君」

 

「なんだよ」

 

「前々から思ってたんだけどさ、一登君は聞かないの?」

 

「なにをさ?」

 

共に歩いていたはずの優奈の歩みが止まったことに気づいた一登が振り向くと、その優奈は真剣な表情でこちらを見つめていた。

最初は普段見ない表情にギョッとするが、よく見ると彼女の握る拳が少し震えている事に気が付く。

これから何かを伝えようとしているのかは分からないが、きっと勇気がいる事だと一登は悟る。

 

「……知りたくないの?」

 

「正直、優奈に何があったのか聞きたいのが本音だけど、それは今じゃない」

 

「それって……」

 

「無理して優奈から聞くわけにもいかないし、優奈自身に怖い思いを思い出させたくないんだ」

 

一登は気まずそうな表情で優奈に向き合うと、彼女の瞳を見つめる。

はしばみ色の瞳の中に迷いが見えたのを確認すると、一登は安心させるように笑いかけた。

 

「幻滅したか? こんな臆病な男で?」

 

「ううん、私は知ってるよ。君は優しくて勇気がある人だって」

 

「でも、言いたくなったら言ってくれ。俺は待ってるから」

 

「うん、ありがとう」

 

一登の笑いかけるような笑顔を見て、優奈はこちらも優しく微笑みかけた。

互いに笑顔を向け合うと、再び肩を揃えて教室へと戻ることにする。

 

二人が教室に戻ると、そこでは吾郷の叫び声が響いた直後であった。

"何を叫んでいるんだ?"、と一登は思いながら訊ねた。

 

「ただいま……って、みんなして何しているんだ?」

 

「珪花ちゃんもいるんだ。こんにちわ」

 

「こんにちわ、一登さん、優奈さん!」

 

優奈の挨拶に反応して、珪花は挨拶を返した。

その隣では友である吾郷が里子と他愛無い会話を、有栖は蒼汰にからかわれた仕返しをしているというやりとりが繰り広げられている。

友と語らいあう何気ない束の間の日常が一登の前で繰り広げられるその最中。

 

――唐突に扉を開けてやって来た先生の真理愛が口を開き告げた。

 

 

「みんな聞きなさい、私達、特別に招待されることになったわよ!」

 

 

まだ休憩時間が終わってないにも関わらずやってきた真理愛に生徒達が騒然とした。

その表情はまるで誇らしいほどの笑みで満たされており、一体何があったのかA組の生徒達は不思議がっていた。

そこへ里子が手を上げて話題に対して切り出す。

 

「立花先生、俺達は何に招待されたんですか?」

 

「狼狽えないで聞きなさい! 今度の休日、軌道エレベーター望月への見学することになったわ!」

 

「「「えっ!?」」」

 

真理愛の告げた言葉によって、一登達を含めたA組一同は唖然とした。

軌道エレベーター・望月、それはこの国が所有する世界初の軌道エレベーターだ。

学生である自分達にとては宇宙へと行ける貴重な機会を手に入れた事になり、嬉しさと戸惑いが追い付かない感情が内部に渦巻いた。

だがそこへ、疑問を持って訊ねたのは吾郷であった。

 

「おいおいちょっと待ってくれよ先生。随分と急な話じゃねえか。一介の高校生である俺達がどうして望月へと招待されることになるんだよ」

 

「よくぞ聞いてくれた! 今度ある宇宙への打ち上げ式に参加する私の知り合いがいてね、そのご厚意で社会科見学の一環としてご招待されたってわけ!」

 

「へぇ、気前のいい話だねえ」

 

まるで自分の事のように語る真理愛に対し、吾郷はやれやれといった表情を浮かべた。

真理愛の言う『知り合い』というのも気になるが、現在の最新鋭技術によって建てられた望月自体も気になる生徒がいるだろう。

事実、蒼汰達は望月の話題で持ち切りになっていた。

 

「うむむ、あの望月に行けるんですか」

 

「これは僕達は幸運だね、有栖」

 

「うわぁ~、世界初の軌道エレベーターって宇宙行けるんですよね。とても気になりますよー。気になりませんか? 里子さん」

 

「アンタは一年だからいけるかどうかわからないけどね」

 

宇宙という未知の世界ワクワクしている様子の一同。

一登は望月について優奈に話しかけようとするが、その前に自分の手が握られている事に気づく。

ふと隣を見てみると、俯いた様子の彼女が見えた。

様子がおかしいと悟った優奈に和人は話しかける。

 

「優奈?」

 

「ごめん、一登君……今は、こうさせて」

 

「わかった、無理はするなよ」

 

「うん」

 

優奈の見えない表情から察した一登は、他に人から彼女を隠すように立つと、気づかれないように窓側の方へと導く。

幸いにも誰もが気づかれてないようで、こちらの様子には気づいていないようだ。

 

彼女の手が震えるのを止まるまでの間、賑わっている教室で二人だけの孤独が支配していた。

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