書きたくなったので、書いてみた。
東京都、某所
とある街路にて、多く詰め込んだ買い物袋を片手に歩いている二人の男女が歩いていた。
彼らはいつもと同じように会話を楽しく弾ませながら、店から出た自分達が戻ろうとする場所へと向かっていた。
「えっと、買い出しの物はこれでいいんだよね?」
雑に切ったボサボサな黒髪の男性は『
城南大学所属の2年生であり、在学生の中では大学一の天才。
「そうですね、私生活に関して結構ズボラな玄君にしては上出来です」
綺麗な栗色の長髪を靡かせる女性は『
同じく城南大学所属の2年生で、誰もが振り向く大学のマドンナ。
城南大学の生化学研究室に通う彼ら二人は研究室にいる一同に買い出しをしていた。
決して大きくはない研究室だが、責任者を務める教授が知る人ぞ知る権威として名を轟かせており、生化学を専攻していた玄も紗矢も学びの扉を叩いたのだった。
最もこれは学部に所属して判明したのだが世界的権威の教授は世界中飛び回っていて研究室にほぼいなくて、普段いるのは『教授代理』……だがその知識量と有り余る熱量は【彼】こそが本物の教授かと思うくらいには色々と教えられていた。
そんな個性豊かな教授代理と共に学生生活を送っている二人。
いつものなら城南大学の学内にある研究室へ戻って、自分達の帰りを待ちわびている他の研究員と共に打ち上げをする予定であった。
だが、今日は違う……何故なら玄が大学への戻り道を歩いていた時、玄がある光景が目に入る。
「ん、アレって」
「玄くん、どうしたんですか?」
何かを見つけた玄に気づき、紗矢はその視線を辿る。
自分達の少し遠くの位置にあるベンチがあり、そこには一人の少女が座っていた。
栗色の髪色が特徴的な長髪の高校生くらいの年齢の少女で、俯いた顔にはハの字になった眉と悲しそうにも怒っているようにも見える表情を浮かべていた。
一見何かがあった少女に見え、声をかけるのも躊躇われるがそれだけならまだいい。彼女の周囲にはいくつもの光る球体が浮かんでいたのだ。
まるで少女と話しあっているように浮かんでいるそれを見て、玄は気怠そうな瞳が強い興味心を宿す者に変わる。
「話しかけるか」
と、玄は一歩踏み出して普段とは素早い足取りで少女の方へと向かった。
突如気になるところは首を突っ込まざる終えない彼の悪癖を発動してその少女へと話しかける様子に、紗矢は溜息をつきながら追いかけるしかなかった。
~~~~
その日、優奈は一登と喧嘩した。
そのきっかけは大切な彼からのさりげない一言だった。
――優奈には傷ついて欲しくないな……。
一登のふと呟いた一言が優奈の耳に届き、優奈は真剣に怒った。
まるでビンタの一発でも繰り出さんと言わんばかりの振り上げた手が一登に当たりそうなほどだったからだ。
すんでの所で叩こうとした手を自ら止めて、優奈は抑えられぬ感情を抱えたまま黙って何処かへと姿を消してしまった。
行き場も告げぬまま激情の勢いに身を任せたまま走った結果、どことも知らぬ場所へと辿り着いたのだ。
幸いスマホの地図アプリを使えば帰り道はわかるが、今の気持ちのままでは帰る気にはなれない。
「……はぁ」
どうしたものか、と心の奥底で悩みながらため息をつく優奈。
そこへ自分へ話しかける見知った声が聞こえてきた。
『優奈、まだ一登の言葉を気にしているのか?』
声が聞こえてきた方へ目線を逸らせば、そこにいたのは赤く光る球体――アクセルクリスタル。
彼だけではなく、他のライドクリスタル達が心配そうにこちらを覗いている様子が伺えた。
『アイツは、一登は大切にしているようだが過保護なのも考え物だな』
一登の今までの行動を見て苦言を呈するのは水色のクリスタル――メテオクリスタル。
『だが大切な人が危険な目に遭わせるのは確かだ』
一方で一登の言い分もわかると語るのは黒のクリスタル――カリスクリスタル。
『好きな女を危険な目に巻き込まれたくないのは何処も一緒だ』
その言い分を肯定するように頷くのは紺色のクリスタル――ナイトクリスタル。
『……大切だからこそ、不幸な目には巻き込みたくない気持ちはあるんだろ』
仮面で表情が読み取れないはずなのに苦い顔をしているのは深緑色のクリスタル――ギルスクリスタル。
合計5人のライドクリスタルが話を優奈の周囲を浮かびながら繰り広げている。
人によっては人魂か鬼火が浮かんでいるようなその光景だが、その異常な光景に気付かないほど優奈は落ち込んでいる様子。
一登に言った言葉がそれほど気にしている様子にライドクリスタルに宿ったライダー達はどうしたものか、と考えていると……。
「ねぇ君達……で、いいのかい?」
そこへ、声をかける存在がいた。
優奈がライドクリスタルと共にそこへ振り向くと、そこにいたのは一人の若い青年。
彼――玄は取り乱す様子もなく、ただ興味津々に優奈の傍らに浮かぶライドクリスタルを視界に入れ、静かに観察していた。
「ふむ、なるほど……中に紋様が……へぇ」
玄は目の前に浮かぶライドクリスタルを観察し、真っ直ぐ射抜くような眼差しで見ていた。
謎の人物の登場に優奈は目をパチクリとさせて驚いていると、そこへ続けて別の人物の声が聞こえてきた。
「すいません、玄くんが失礼な事をっ!」
玄と名前を呼んで現れたのは一人の綺麗な若い女性――紗矢。
彼女はライドクリスタルへと触ろうとする玄の手を抑えて、無理矢理引っ張って距離を取る。
二人の前には浮遊する謎のクリスタルと、クリスタルが話しかけていた謎の少女――優奈が立っている。
優奈は自分が今、どんな状況で見られているかようやく気付くと、傍らに浮かんでいるライドクリスタル達を隠そうとする。
「あの、すいません! これはその!」
「いえ、大丈夫です! きっと不思議な事なのは違いないですが決して公言はしないので!」
互いに謝る優奈と紗矢。
申し訳なさそうにしている二人を他所に、玄は宙に浮かぶライドクリスタルの皆を手で捕まえようとする。
二度三度空を切った所で紗矢に首根っこを掴まれて、玄はしょぼくれてしまう。
「こらっ、玄君だめです! めっ!」
「うーむ」
少ししょげているように見える玄と、彼を子供のように叱る紗矢。
二人の仲のいい様子を見て、優奈は少し浮かない表情を浮かべた。
優奈の覗かせた様子を玄は見逃さなず、暫し考えるとその場にいた一同が驚くようなことを呟いた。
「なんかお困りのようだし、俺達でよければ相談乗るよ?」
見知らぬ青年・玄からの言葉に優奈は目を丸くして驚く。
こうして優奈は導かれる。自分達ですら予想しえない『出会い』へと。
~~~~
――――城南大学。
そこは、世界有数の著名人を輩出したというこの大学の校舎へと優奈は何の因果か招かれた。
正直あの時、この二人……玄と紗矢から逃げ出せたはずなのだが、自分へ気にかけている彼らの優しさにどこか心地よかったのか、結果的についてきてしまった。
校舎内に入ってとある研究棟へとやってきた優奈は玄達が普段使っていると思われる研究室へと通された。
「教授、戻ってきました」
紗矢が扉を開けながら帰ってきたことを報告すると、その研究室の主であろう人物が奥のほうから姿を現した。
玄達より少し上の20代半ばという若々しい見た目の男性で、獅子を思わせる猛々しい黒髪と優しいまなざしを兼ね備えていた。
"教授"と呼ばれたその男は自身の口を開いた。
「戻ってきたか、野村君、森山君」
「ええ……ちょっと戻ってくる途中で解決しなくちゃいけない課題ができましたが」
教授の出迎えの言葉に対して、玄はチラリと優奈のほうへ視線を向ける。
優奈は少し身構え、教授はそんな縮こまる様子を見て柔和な笑みを向ける。
「ははっ、そうかしこまらなくていい。今から珈琲をいれる」
教授は優奈にそう諭すと、優奈は研究室内にある来客用のソファに座った。
この教授という男の人は一体何なんだろうか、とそう考えていた優奈へ玄と紗矢が話しかけてきた。
「そういえば俺達の事名乗っていなかったね。俺は野村玄、城南大学の2年生」
「同じく2年生の守山紗矢です。よろしくお願いします」
玄はすまし顔で、紗矢はにっこりと笑いながら自分の名前を口にした。
それに対して優奈も自分も返さなければ失礼だと思って自己紹介した。
「優奈、飛鳥優奈です」
「ん? 飛鳥ってもしかして……」
優奈の苗字を聞いて玄はどこか思い当たる事を口にしようとする。
まさか自分の家のことに気づいて?そう思った優奈だが、考え込む玄の目の前へ一つの珈琲の入ったマグカップが差し出された。
どうやら教授が注いできた珈琲が玄の前に差し出されており、玄は差し出されたマグカップを受け取ってそのままゴクリと飲み始める。
教授は優奈のほうを見ると、愛らしいデザインのマグカップを差し出した。
「はい、君の分だ」
「あ、ありがとうございます」
優奈はマグカップを受け取ると、少しずつ飲み始める。
砂糖もミルクも何も入れてないシンプルな珈琲の味だが、どこか懐かしいように思えた。
まるで見知ったような誰かが入れてくれた、そんな味が優奈の口の中にに広がる。
どうやら美味と感じてくれている事に教授はうれしそうな表情を浮かべるのであった。
「どうかな、口に合ってくれているかな?」
「あっ……ありがとうございます。えっと……」
「稲川 壮真。ここでは教授代理として教鞭をとっているのだ」
玄達の教授――『
そうして一同が束の間のブレイクタイムを過ごした所で、壮真は優奈に対して訊ねた。
「事情は先程野村君から聞いている。どうやら仲のいい人と喧嘩したそうだね」
「えっと、その、はい」
優奈は単刀直入に訊ねてきた壮真にビクつきながら頷く。
その隣で注意深く様子を伺っている玄が紗矢に静止されながら見ている中で、壮真が言葉を紡ぐ。
「何か君の機嫌を損ねるような事を呟いたのかい?」
「いえ、そうじゃないんです。むしろ私のことを大切に思って言ってくれたんです」
壮真の問いかけに対して、優奈は自分と口論になった相手を庇うように否定した。
彼女の様子を見て壮真は暫く考えるしぐさをすると、優奈に対してこう言った。
「優奈君、君がその子と仲直りしたいのなら既にやることは決まっている……そのはずだよね」
「……はい。その、私は、一登君と……彼と一緒に歩んでいきたいんです」
優奈はしっかりとした眼差しで壮真の目を見抜く。
先程までのおとなしい印象とは異なり、しっかりとした雰囲気に変わり、玄は興味深そうに観察していた。
どうやら一登という子が優奈にとっての大事な人だと玄は悟った。つまるところ彼女が悩んでいるというのは……。
何らかの考えにたどり着いた玄はふと外の様子がうかがえる窓のほうへ覗くと、そこで何かを見つけて目を細めた。
「答えが決まっているなら、今すぐ踏み出しても問題ないんじゃないかな?」
「玄君? どうしたんですか外なんか見て」
「多分あの子なんじゃないかな? ほら」
紗矢に聞かれた玄は外のほうへ指をさした。
紗矢が続いて窓の外を見てみると、大学生達をかき分けて一人の少年がこちらの校舎へやってくる姿が見えた。
黒髪の少年が握っている手には、優奈と同じ宝珠――ライドクリスタルが見えて、少なくとも優奈の関係者だと紗矢は悟った。
「もしかして、あの子が……」
「えっ、一登君? 何でここに……あっ!?」
何故城南大学にいる自分の場所を察知できたのかと考えた優奈は、自身のポケットに忍ばせていたライドクリスタルに気づく。
もしかして、相性のいいライドクリスタルの気配をたどってもらったのからここへたどり着いたの?
そう思った優奈は今すぐ立ち上がり、壮真達研究室の一同に対してお辞儀をした。
「ありがとうございます。私、彼へと謝ってきます!」
「ああ。一登君の事をよろしくな」
「はい!」
壮真にそう言われた優奈は再び頭を下げると、急いで研究室から出て、外へと向かう。
少しした後に優奈は例の少年こと一登と出会うことになるだろう。
……優奈がいなくなったその後、玄は壮真へと気になったことを口にする。
「そういえば教授。質問なんですが」
「なんだ?」
壮真が振り向くと、玄はそのすべての見抜かんほどの鋭い双眼で見つめていた。
探求心と鋭い観察眼を有する天才が見せている一面を露わにして玄は訊ねた。
「さっきの一言に対してなんですが、もしかして一登君って子の事知っているんですか?」
「えっ……!?」
玄の質問の内容を聞いて紗矢は驚きの声を上げる。
それに対して壮真は……まるで成功と言わんばかりにニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
その表情を見せる時は自分の隠した
「よく気付いたね。野村君」
「先生もお人が悪い。恐らく飛鳥優奈が問題抱えている子だってことも知ってるんじゃないんですか?」
「ちょっと待ってください。一登くんだけじゃなくて、優奈さんのことも知っていたんですか!?」
教授が一登と優奈を既知だった事に紗矢は驚く。
教えてくれればいいものを、と紗矢自身は少しばかりの不満を覚えているが、それより先に玄は気になった事を追求し始めた。
「まあなんていうか、気になったきっかけはいろいろあったんですが、一番は俺が飛鳥優奈の……そう、飛鳥コーポレーションと何らかの繋がりがあるかと指摘しようとしたときですが」
「ああ、あれか」
「教授、あれわざと遮ったんでしょう?」
「はっはっはっ、流石にバレるか。君の観察眼には参るよ」
ゆっくりと立ち上がりながら、壮真は自分の机へと向かう。
自分の机にたどり着くと、壮真は引き出しを開けて、鍵のついた厳重な箱を取り出す。
一体なんなのか……玄と紗矢が恐る恐る近づきながら、取り出された箱を注視する。
一方、壮真は箱に備え付けられたパネルか何らかの操作をして、その中身を二人へ見せた。
――そこにあったのは、一つの緑色の宝珠であった。
「……!」
「えっ、これって!?」
玄は珍しく見開き、紗矢は三度驚きの声を上げた。
見覚えのあるアイテムを見て驚く二人の様子を見て、壮真はニヤリと口元を笑っていた。
一登と優奈の二人が肩を寄り合わせて帰路へつく傍で、稲川壮真なる教授の男は二人の教え子を謎へと導いていく。
――のちに、この