突如照明が落ちて、漆黒の暗闇に包まれた国際音楽表彰式の会場。
観客たちがどよめく中、ステージ上にいる田宮佐久は大声で呼びかけていた。
「みなさーん! 落ち着いてください! 慌てないでそのまま席でお座りください!」
観客の混乱を防ぐために必死に呼びかけを続ける佐久。
内心では"何故リハーサルも準備も完ぺきだったはずなのに、こんな事になってるんだろう"と思いながらも、せっかく集まって来てくれた人たちのために、何とか復旧まで耐えしのぐと決めた。
だが、そんな彼にぶつかる人物がいた。
「いったぁ!? どこのどなた!? 会場には上がらないでくださいってスタッフさんが……」
ステージ上に倒れこみ、ぶつかってきた相手を見る佐久。
そこにいたのは、人の形をした二体の怪物。
暗がりでもよくわかるほど、その異形の身体を持った怪物達の姿を見て背筋が凍り付く。
まるで怪物が主役の映画から抜け出したようなその不気味な様相に佐久は絶句した。
「 」
それと同時に会場の照明の一部が復帰し、ステージ上が照らし出される。
そこで床に倒れこむ国民的アイドルと、二体の異形の怪物。
間もなくして観客の一人である女性の悲鳴が上がる。
「きゃあああああああああ!!」
「表彰式に集まった人間どもか」
「ちょうどいい、コイツらを人質にして!」
何千人にも及ぶ観客の存在に気付いた蜘蛛男と蝙蝠男は、手始めとして観客席へと近づこうとする。
このままいけば観客が危険に晒されてしまう……そう察した佐久は蜘蛛男と蝙蝠男に向かって咄嗟に叫ぶ。
「お、おい! なにするつもりだよ! この不細工二人組!!」
「不細工、だと?」
「何が何だか知らないけどスタッフを始めとした関係者が頑張ってセッティングしてきたんだ! なのに台無しにする気か! そういうのはイケてないってのこのブ男さんがっ!!」
アイドルらしからぬ罵詈雑言を上げながら、佐久は手にしていたマイクを思いっきりぶん投げる。
意外にも目にも止まらぬ速さで投げられたそれは鈍い音を立てて蝙蝠男に直撃した。
屈辱を受けた蝙蝠男はドスの聞いた声を響かせながら、飛び上がる。
「力も持たぬ脆弱な人間がぁっ! まずは貴様から血祭だぁ!!」
「ぬぉぉぉぉぉ!?」
襲い掛かってくる蝙蝠男に佐久は思わず叫んだ。
会場にいる観客たちがその様子を見ている中、悪魔の翼が勇気を持った無辜の民へと迫る。
―――だが、そんな蝙蝠男の凶行を止める存在が一人だけいた。
「「はぁ!!」」
「ぐはっ!?」
バイク音と炎の
一瞬のうちに佐久の元へ近づくと、彼を抱えて蝙蝠男の突撃を回避。
舞台裏の出入り口まで跳んで向かった後、ジェイナスは彼の安否を確かめる。
「「大丈夫?」」
「か、かっこいい……!!」
「「……え?」」
佐久の発した言葉にジェイナス……一登と優奈は驚きの声を上げる。
彼の眼はまるで憧れのヒーローを目の前にした子供のように輝いていた。
ジェイナスは戸惑いながらも彼を置いて、蜘蛛男と蝙蝠男へ向き直る。
「一登君、ここだとまずい」
「ああ、わかってる。一気に駆け寄って外へ出すか……!」
この会場で戦えば民間人に被害が及ぶと判断した優奈の言葉に一登は作戦を提案する。
ジェイナスはすぐさま走り出し、一瞬のうちに蜘蛛男と蝙蝠男に迫る。
二体の身体を掴みむとジェイナスの両足が炎の幻影に包まれていき、熱気が漏れ出していく。
そして、そのまま勢いよく足を踏み出す。
「「ハァァァ!!」」
「「なっ!?」」
けたたましいバイクの轟音と共に、ジェイナスと蜘蛛男・蝙蝠男の二体の怪人の姿が消える。
先程までいた仮面の戦士と怪人の姿はなく、残されたのはステージから会場入り口まで伸びて焼き付いた炎のタイヤ痕だけだった。
一瞬の出来事に戸惑う観客達……その中にいる蒼汰と有栖も同じ反応だった。
「有栖、あれって……」
「はい蒼汰、もしかしてあの人って……」
今目の前で起きた出来事が信じられないような表情で互いに顔を見合わせる二人。
人類を脅かす怪人達と戦う仮面の戦士……その名は【仮面ライダー】。
都市伝説の一種だと思っていた存在が目の前に現れた。
色々と突然の出来事が起きて頭の整理がつかないが、まず思い出したのが先程出かけた一登と優奈の二人。
彼らの戦いに巻き込まれてないか心配になった二人は、席から立ち上がろうとする。
想定外のトラブルで国際音楽表彰式は中止にならざるおえない、そう思った二人は友人達を探すためと席を立ち上がろうとしたその時だった。
―――突然、声が会場に響いた。
「―――人類よ、これが聖戦だ」
威厳の秘めたその声と共にステージの上に登って現れたのは、『Perish thunder』の4人。
ギターの"HOROBI"、ベースの"NAKI"、キーボードの"JIN"、ドラムの"IKAZUTHI"。
一体何事かと驚く観客達の前に、会場の出入口から走って戻ってきた佐久がステージ上へ上って口を開く。
「まずは驚かせてしまってすいません。しかし、まずは落ち着いてください」
騒然とする観客達の目の前に、佐久は語り掛けていく。
その目には真っ直ぐな光が宿り、観客達はその視線に射貫かれていく。
そして佐久は次の言葉を紡いでいく。
「想定外のトラブルもありましたが今、この場で中途半端に中止をさせるわけにはいきません。僕達の歌を楽しみにしてきてくれた貴方達をこのまま帰すわけにはいきません」
「だからせめて、この歌を捧げます。僕の大好きが詰まった、この曲で」
「出口のないこの世界にて、それでも大切なキミのために戦い抜く……そんな少年少女達のためにこの歌を送る」
「『crossing field』」
佐久の口にした曲名と共に、演奏をし始めるPerish thunderのメンバー。
お互い初めての即興ながら演奏する四人と共に、炎のような輝きの勇気を宿した一人のアイドルは歌を歌い始めた。
~~~~~
頼打地区、会場屋外周辺。
二体の怪人を無人の場所へと連れ出したジェイナス。
作戦をことごとく邪魔され、蜘蛛男と蝙蝠男は牙を向きながら飛び掛かってくる。
「キキキィ!」
「シャアア!」
蜘蛛男は両腕の鋭い爪を振り下ろし、蝙蝠男は空中からの奇襲を仕掛ける。
流石に怪人二体相手ではジェイナスは苦戦を強いられてしまう。
素早い身のこなしと武術でなんとかいなしながら、反撃の機会を浮かかがう。
「くっ、……怪人一人だけでも大変だってのに!」
「せめてあと一人を何とかしないと!」
一登と優奈の変身するジェイナスは蜘蛛男の振り下ろす爪を避けながら、拳を叩き込む。
取っ組み合った状態で両者の動きが膠着する……そこへ、空高く蝙蝠男が突撃を仕掛けてくる。
「死ねぇぇ!!」
「「……!?」」
急降下しながら迫る蝙蝠男……だがそこへ、銃声が響き渡り、同時に蝙蝠男は撃ち落とされてしまう。
ジェイナスが振り向くと、そこにいたのは銃を構えた一人の男性――レオンハルトの姿があった。
レオンハルトは蝙蝠男に視線を向けながらジェイナスへと叫ぶ。
「こっちの蝙蝠野郎は任せろ! ライダー! 相手ぐらいにはなる!」
「あなたは……!?」
「俺の事はいいから、目の前の相手に集中しろ!」
レオンハルトはジェイナス……優奈の問いに乱暴に返しながら、再び蝙蝠男へ銃撃を仕掛ける。
ジェイナスは少し戸惑うながらも蜘蛛男の方へ向き直ると、優奈が一登にある提案をする。
「一登君、ここはもう一つの方で行こう!」
「ああ! 一芸だけじゃない所、見せてやるぜ!」
ジェイナスは側面の装填口にセットしていたアクセルクリスタルとマッハクリスタルを射出。
代わりに取り出したのは緑と黒の二つのクリスタル。
ジェイナスの二人は片手ずつに構え、それぞれのライダーの名を叫んで左右に装填する。
「ギルスさん!」
【GILLS】
「カリス!」
【CHALICE】
優奈の意識の方は緑のライドクリスタル・ギルスクリスタルを、一登の意識の方は黒のライドクリスタル・カリスクリスタルをそれぞれ装填。
鳴り響く電子音声と共にジェイナスは声を合わせて言い放つ。
「「フュージョンチェンジ!」」
【GILLS×CHALICE】
【RIDER FUSION】
ジェイナスの姿はブレイジングロードの姿から変わっていく。
黒字に緑色の傷を模した模様が入ったボディ、その上から纏う黒と銀を基調とした鎧、カミキリムシを思わせる触覚を模した角に加えてハート形の赤いバイザーと鋭いクラッシャーのついた仮面。
一番目を引くのは両腕足を覆うのは生体武装・ライブラウザー。
強き
【WILD HEART】
―――仮面ライダージェイナス・ワイルドハート。
ジェイナスの新たなる第二形態。
先の戦いにて手に入れた、ライドクリスタルのうちの二つ・ギルスクリスタルとカリスクリスタルによって変身できる形態。
ジェイナスは両腕を獣の前足のように地面につけ、まるで野獣のような構えを取ると、そのまま走り出す。
蜘蛛男は口から毒矢を飛ばして迎撃を図ろうとするが、その攻撃に当たる前にジャンプする。
「「ウラァ!!」」
「なにっ!?」
高く舞い上がって蜘蛛男の頭上を飛び越えたジェイナスは荒々しい動きで拳を突き出す。
先程の戦い方とは違い、まるで獣じみた動きを披露するジェイナスに蜘蛛男は翻弄される。
そして、ジェイナスの繰り出した手刀が蜘蛛男に迫る……蜘蛛男は相打ち覚悟で両腕の爪を振りかざそうとする。
だが……。
【CHOP】
「「シャッ!」」
「さ、鮫だと!? ぐぉぉぉぉぉ!?」
電子音声と共にライブラウザーが変化、両刃の斧が付いた鋼鉄のシュモクザメの頭部へと姿が変わる。
蜘蛛男の爪は届く前に鋭い斬撃が身体へと刻まれる。
その一撃は勢い余って蜘蛛男の身体を軽く吹き飛ばしてしまうほど。
―――ジェイナス・ワイルドハートの特性は『生体武器生成』
カリスの持つ10枚にも及ぶラウズカードの能力を、ギルスの生体鎧・ライブアームズを模した生体武装ライブラウザーによって再現することができる。
数多の命を宿す身体から繰り出される爪と牙で狩人は獲物を追い詰めていく。
ジェイナスから受けた斬撃を耐えながらなんとか立ち上がった蜘蛛男は再び蜘蛛糸を吐き出す。
対してジェイナスは両腕のライブラウザーに鳥の翼を生やし、両腕を振るって羽ばたかせる。
【TORNADO】
「「ハァ!」」
起こした竜巻によって蜘蛛男の放った蜘蛛の糸は防がれてしまう。
上空に腕を突き出すとジェイナスは高らかにその名前を呼んだ。
「「ライドキャリバー!」」
ジェイナスの声と共に、何処からともなく飛来したのは一本の片手剣。
鍔部分には何らかの装填スロットが設けられている白と黒で彩られたその剣型武器・自在変剣ライドキャリバーを手にし、蜘蛛男へと斬りかかる。
蜘蛛男が放ってくる糸を切り捨てながら近づいていく。
「「くらえ!」」
「馬鹿な、この俺が追い詰められ……ぐぁぁ!?」
一撃、二撃、三撃……と鮮やかな剣筋を披露しながら、蜘蛛男を追い詰めていく。
そしてジェイナスは必殺の一撃を叩き込むため、深緑色のライドクリスタルを取り出してそれをライドキャリバーに装填する。
「アナザーアギトさん!」
【ANOTHER AGITO・MATERIA-RIDE】
電子音声が鳴ると、ジェイナスの隣に光の集合体が生まれ、新たなる仮面の戦士が出現。
深緑の肉体、金色の鋭い角、赤い瞳、瞳のようなベルト状の武具・アンクポイント。
―――そこに現れたのは、仮面ライダーアナザーアギト。
救えなかった命の贖罪のために、
ジェイナスはアナザーアギトと共に並び立つと、ライドキャリバーを構える。
蜘蛛男は何か仕掛けられる前に打開しようと蜘蛛の糸を放つが、ジェイナスはその糸をわざと自身の腕に纏わせる。
「なに!?」
「ハァァァァァ……!!」
糸が巻き付いた腕を力づくで蜘蛛男ごと手繰り寄せ、空中へと放り投げる。
そのタイミングを狙ってジェイナスはライドキャリバーを、アナザーアギトは右手にエネルギーを収束させながらジャンプをする。
そしてジェイナスとアナザーアギト、二人のライダーは同時に斬撃と拳によるパンチを蜘蛛男へ繰り出した。
「「キャリバーソードラッシュ!」」
『ヌゥン!!』
「馬鹿な……ライダーがこんなにいるとはぁぁぁあああああ!!」
ジェイナスによる他の仮面ライダーとの必殺攻撃『キャリバーソードラッシュ』が蜘蛛男に炸裂。
避けることもできず、ジェイナスとアナザーアギトの連撃を受けて成すすべなく爆発した。
爆炎から抜け出したアナザーアギトはジェイナスの方へ一瞥するとそのまま光の粒子となって消滅する。
消えていった一人の仮面ライダーに頭を下げた後、ジェイナスは蝙蝠男と戦っているレオンハルトの元へと向かい始める。
~~~~~
一方、蝙蝠男と戦っているレオンハルト。
彼は自身が鍛え上げた肉体と戦闘技術によって、蝙蝠男と対等に渡り合っていた。
「オラァ!」
「くぅ!? なんだ貴様、本当に人間か!?」
「一応これでも凄腕の捜査官なんだよ! 荒事なんざ日常茶飯事だBAD-MAN!」
手に握っていた大型拳銃を構え、すぐさま発砲。
吸い込まれるように胴体へと吸い込まれるように着弾し、撃ち抜いていく。
だが、レオンハルトは知る由もないが蝙蝠男も改造人間……たかが現代兵器の拳銃で撃ち抜かれた程度では怯みはしない。
蝙蝠男はレオンハルトへ急接近して、彼の首を締め上げる。
「かはっ!?」
「くらえっ!超音波ァ!」
蝙蝠男は至近距離から超音波を繰り出し、レオンハルトを苦しめる。
頭が割れそうな激痛が響き渡り、苦悶の様相を浮かべる。
このまま激痛によるショック死をさせてやる……そう思った蝙蝠男だったが、レオンハルトのある行動に驚く。
―――それは何処からともなく取り出した電気を纏わせた一本の大型ナイフ。
俗にいう電磁ナイフともいうべきそれを構えながら、何処か怒りを込めた声でレオンハルトが言葉を発する。
「―――テメェよくもまぁ使わせたなぁ、これを」
「なっ!?」
「文字通りの伝家の宝刀、堪能しやがれッッ!」
レオンハルトは振り上げた電磁ナイフを蝙蝠男の半肩へと突き刺した。
突き刺さった電磁ナイフは蝙蝠男の肉体を容易く切り、翼の生えた片腕を容赦なく斬り飛ばした。
蝙蝠男は後退りながら絶叫を上げる。
「キキキィ!? お、俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!?」
「へへっ、どんなものよ……ごはっ」
余裕ぶるレオンハルトだったが、先程の音波攻撃が堪えたのか身体がふらつく。
だが、目の前の蝙蝠男はまだ立っており油断はできない。
おまけに蝙蝠男の目には憎悪と怒りが支配されており、片翼で飛び上がりながら、レオンハルトへ襲い掛かる。
万事休すか、レオンハルトがそう思ったその時、電子音声が響き渡る。
【RIDER FINISH!】
燃え盛る炎のタイヤが蝙蝠男へと直撃し、彼を拘束。
レオンハルトがすぐみると、そこには空中に舞い飛び蹴りの体勢で向かってくるジェイナスの姿があった。
ジェイナスは蝙蝠男へ向かって必殺の言葉を叫ぶ。
「「フレイムグランツァー!」」
ジェイナスの繰り出した飛び蹴りによる必殺技『フレイムグランツァー』が蜘蛛男へと突撃。
炎のタイヤ跡の軌跡を描いた後、ジェイナスは着地。
それと同時に蝙蝠男は爆発四散、炎の中に消えていった。
その様子をレオンハルトは呆然と見ていた。
「た、助かったの、か……」
レオンハルトはそう呟きながら、地面へと倒れこむ。
予想以上に蝙蝠男の攻撃による負傷が酷かったのか、意識も朦朧としている。
瞼も重くなり、最後に彼が見たのは……。
―――こちらに顔を向ける、
~~~~~
あの後、レオンハルトは翌日の朝にて警備員の仲間によって見つかった。
追っていた傷もまるで跡形もなかったかのように消えていた。
あれだけ痛い目見たのは覚えているのに、何故何ともなくなっているのかレオンハルト自身は不思議で仕方がなかった。
それと、懸念材料がもう一つ。
怪人が乱入して中止になったと思われていた国際音楽表彰式が無事終わった事だ。
どうやら日本のアイドルの田宮佐久が他の歌手達と共にアドリブで歌を歌って乗り切ったようだ。
いわゆるゴリ押しで乗り切った模様で正直褒められたものではないが、彼らのおかげで『何らかのサプライズ』として観客達には認識されたようだ。
こうして一夜限りの歌の祭典は無事終わった。
レオンハルトは次の命令が下るまで、日本に滞在したままだ。
今現在、空港の外でレオンハルトはとある旅客機を眺めていた。
スパイク=カタラクトが乗っているとされている飛行機を見ながら、一人呟いた。
「……仮面ライダーか、まさか伝説のヒーローが今蘇るとはね」
そう言いながら、レオンハルトが取り出したのは三枚の写真。
映っていたのはあの夜出会った仮面ライダーと、彼に変身した
彼らなら、この日本で蠢く『何か』を知っているはずだ。
「まずは、こいつらを探すところから始めてみるか」
そう呟いたレオンハルトは、新しい目撃と共に頼打地区へと戻ることにした。
―――正・義・継・承
―――彼らが再び出会う日は、そう遠くない