「私の話は、なんというかその、結構ありきたりではあるんですが、大丈夫ですか?」
「別に問題ないそうですか。」
記者の返答に安堵した様に男ーシンジ・ハマダ、ジオン共和国の高校教師ーは話を続けた。
「私はあの戦いに学徒兵として、参加しました、勿論志願してです。」
「戦争が何か、殺し合いが何かなんて当時は、まるで知らない、ただの子供でした。」
1年戦争末期、人的資源の払底したジオン公国は、学徒兵を募り、最低限の教育のみを施して、最終決戦の地ア・バオア・クーに送り込んでいた
「訓練は結構頑張りました、特にモビルスーツの操縦訓練、何せ新型機に乗れるかもしれない、是非とも乗って活躍したいと思っていました。」
「努力は実りませんでした、しかしそのおかげで願いは叶いました。」
「もう何度も聞いたとは思いますが、優秀な奴はゲルググに乗れなかったんですよ。」
そう言ってハマダは笑った。
今でも多くの誤解があるが、実は優秀な学徒兵には、当時最新鋭のゲルググではなく旧式のザクやドムが割り当てられた、新規軸のMSとして開発されたゲルググは今までのMSと操縦系統が違い、ベテランパイロットの練度を十分に活用できなかったのである。
故に優秀でベテラン兵と共同して戦えそうな、使い物になる学徒兵は旧式機でベテラン達と行動し、それ以外はゲルググで戦う事になった。
「私は運良く要塞への張り付き部隊、まぁ成績がパッとしなかったので、前には出せないと判断されたんでしょうが、後方で突破してきた敵に対処する任務を与えられました」
「戦闘が始まりると目の前でどんどん敵味方、モビルスーツも軍艦もどんどん爆散していくんですよ、私はそれをア・バオア・クーの岩陰に隠れながら見ていました。」
「あんまり褒められた感性じゃないですが。」
「とても綺麗な景色だと魅入ってしまったんですよ。」
遠方で爆散していく機体や艦を思わず綺麗だと魅入ってしまう、これは連邦軍ジオン軍問わず多くの兵士が経験し、そして永遠に胸にしまっている秘密だ。
ある科学者によれば、目の前で起こっている事実を、虐殺を非現実的なものとして、風景として処理する事で精神的なストレスを緩和しようとする一種の防衛反応だとも言われている。
そのことを聞いたハマダは、やや安堵した様な顔で
「そうなんですか。」
と呟いた、多くの元兵士と同じ反応であった。
「そうやって後ろで隠れているうちに、どんどん味方が押されていって敵が近づいてくるんです。」
「どんどん緊張していって、目の前の景色がぐらぐらして、手は汗まみれ、あんなに緊張したのは初めて妻と、いやその話はよしましょう。」
「そしてとうとう私の前に2機のジムが、いや本当は3機だったらしいのですが私は2機しか確認できなくてですね。」
「パニックになりながらも、ビームライフルを乱射して、どうにかしてGMを撃破したんですよ。」
「こっちもパニックでしたが相手も同様だったらしく、本当に運が良かったですよ。」
学徒兵と言うとジオンばかりが有名だが、連邦軍も学徒兵の動員を行なっている、もっともこれは最低限の数を揃えるためのジオンと違い、より優勢な数を揃えるためのものであり、正規の軍人だけでも十分に戦う事ができた、むしろ学徒兵の教育に、熟練兵が引き抜かれた事で戦力が低下したとする研究さえある、彼の前に現れた連邦兵もそう言った学徒兵だった。
「GMを撃破した後、ある事に気が付いたんです、股間のあたりの生暖かい感覚にね、そしたらふふっ、またパニックくくっですよ、無傷のMSの中で、ノーマルスーツを着て、血が出る様な怪我をしたってね。」
ハマダは笑いを堪えながらー最もその努力は無駄だったがー続けた
「勿論怪我じゃありません、血でもありません、しょんべんです、ちびったんですよ。」
「これ、学校でやると結構ウケる話なんですよ。」
「まさかションベン垂らして安堵する日が来るなんて、想像しなかった。」
「そうして安堵しているとですね、一番聞きたくない、聞くはずじゃない音を聞いてしまったんですよ。」
宇宙では音が聞こえない、それは誰もが知ってる常識である、しかしMSのコクピットの中は違う、カメラで捉えた映像を元にコンピュータが割り当てられた音声を流して戦場を容易に理解できるようになっているのである。
「実は私も、ほんの少しですが音声を弄っていてですね、ある機体が検知された場合、昔のコメディ番組の音声が流れるように設定したんですよ。」
音声プリセットをイジって好きな音を入れる、それは当時の学徒兵の一部で流行っていた行為であり、恐怖を紛らわせる行為として正規兵達も見逃していた行為である。
「デデーン、ハマダーアウトー。」
「それがやつが来た合図、絶対に聞きたくない音でした。」
「MSの生クビが飛んでいったと思ったら、その音が鳴りました、そして首と左腕のないあいつが、ガンダムがやってきたんです。」
RX -79-2 ガンダム、連邦の誇る傑作機にしてジオン軍にとっての悪夢、多くのジオン兵にとってそれは歩く死刑宣告であった。
「終わったと思いました、思わず手で顔を覆いました。」
「結論から言うと何もありませんでした、私は完全に無視されたんですよ、本当にあの生クビには助けられました。」
ちなみに彼の言う生クビとはジオングー当時シャアが乗った機体ーである。
「そして今度はケツの方に違和感を感じました、勿論無傷です。」
「これも生徒にウケる所なんですがね。」
何故か残念そうな顔をした後にハマダは続けた。
「その後は殆ど取り付いてくる機体はいませんでしたね、恐らく十分な数を突入させたのでしょう、そうこうしてると、後ろの方で爆発が起きて機体ごと放り出されたんです。」
「気がつくと連邦の軍艦の医務室にいて、三人の連邦兵に囲まれていたんです。」
「おはようジオンの紳士なエリートさん、そう言われてなんの事か最初はわかりませんでした。」
「聞いてみればその三人は私が撃破したGMのパイロットで全機機体は無力化されてパイロットは無事だったので、優秀なパイロットがあえてそうしたと思ったらしいんですよ。」
「たしかにあの激戦の中、後半まで生き残ってる最新鋭機のパイロット、何も知らなければ勘違いしますよね。」
「私は、本当に幸運でした、あれだけの激戦の中で、生き残るどころか怪我を負わず、負わせずに済んだのですから。」
「多くの人が大切なものを失い、不要なものを抱え込む中、私は何も失わないどころか、大切なものを手に入れましたからね。」
そう言って彼は薬指に光る指輪を触った、彼の妻は、連邦の元学徒兵だ、これからインタビューする予定の人でもある。