「行くぜこのクソッタレ!!」
「返り討ちにしてやる!!」
俺こと蒼とジャッジメントドーパントが駆け出して、その勢いのまま互いの頬を殴った。左手に持っている小槌のような物に少し警戒する必要がありそうだな。あれで叩かれたら痛そうだ。
「今俺を殴ったな!! 懲役3年だ!!」
ドーパントはそう言うと、小槌を振り上げて俺に向かってそれを振り下ろそうとする。
「何言ってんだてめぇ! ふんッ!!」
俺はそれを斧で受け止めると、小槌を押し返そうと力を入れた。それを見てドーパントはなぜか鼻で笑う。
「バカなことを。小槌を受けた時点でお前はもう詰みなんだよ!」
「詰みだって? まだ始まったばっかじゃねえか」
俺はそう返したが、ドーパントは何も言わずに小槌を手放し何歩か引いた。斧を空振りさせた俺は何歩かたたらを踏んだがなんとか踏みとどまった。一体何のつもりなんだ、と疑問を抱き俺も少し後ずさる。あの小槌を打たれたら詰み、か。懲役3年だとか叫んでいたのに関係があるんだろうが……。
「何も起きねえじゃねえか。なんだ? ハッタリか?」
挑発気味にそう言ってもう一度斧を構える。特にどこかから何かが現れる気配もない。警戒して損はないが、今その能力を発動しないメリットがどこにもないように思える。むしろ出し惜しみせずに俺を殺しにきて然るべきだ。だというのに何故それをしない? 発動までに時間がかかるのか? だとしたらかなり使い勝手の悪い能力だな。
なんにせよ、相手が来ねえってんなら!
「俺から行くぜ!! オラアアアア!!!」
叫びながら突進する。しかしドーパントは臆することなくその場に棒立ちしたままだ。本当に何を考えているのか全くもってわからないが、避けようとしないのならば俺はただ容赦無く切るだけだ。そうして何の苦もなくドーパントに肉薄し、斧を振り抜こうとした。しかしドーパントは後ろ向きにジャンプしてその一撃を回避すると叫ぶ。
「今だ!!」
その声が聞こえたときにはもう遅かった。地面から鉄棒が俺を囲うように伸びてきた。走ってきた勢いを殺し切れるはずもなく、俺は顔面からその鉄の棒に突っ込んだ。びっくりするほど痛い。不意打ちで逃げる作戦なのか、俺を閉じ込める作戦なのかは知らない。
だが、こんなもので俺が止まるはずがない。こんな天井も何もない鉄格子ごときライダーだったらひとっ飛びで抜け出せる。仮面の下でニヤリと笑うと地面を蹴ってその鉄格子を飛び越した。
「こんなもの飛び越えるなんて楽勝なんだよバーカ!!」
はずだった。
「ゴフッ!?」
腹に衝撃が走った。同時に体勢を崩して頭から地面に落ちてしまう。グルンと回った視界の端でチラッと見えたが、どうも鉄格子が伸びていたらしい。まさか伸ばすことができるとは……、最近の刑務所の鉄格子ってどこもこんな感じになってんのか? 流石に謎機能すぎる気がするが。
まあ何にせよ、
「お前の奥の手だか何だか知らんがありゃあ通用しないらしいぜ」
「脱走したな? ならもっとキツい刑罰を与えてやろう!!」
ドーパントは俺の煽りにそう返してまた小槌を振りかぶった。ついさっきのこいつの言葉から察するに、あの能力を発動させる前提条件としてこの小槌を対象に当てる、というものがあるんだろう。だったら対策なんてすぐに出来る。
俺は振り下ろされたそれをひらりとかわし、背後に回り込んで斧の一撃を斬り込み、続けて一回、二回と斬り込んでいく。
ドーパントは小槌で反撃を試みたが、それを俺に振り下ろそうとしたのを見てすぐに後ろに跳んで間隔を取った。
「テメっ……ゲホッ、好き勝手やりやがって!!」
「対応できねぇお前が悪いだろそれは。戦ってんのに手加減すると思うか? えぇ?」
煽ってまた斧を構える。見た感じだとかなり疲弊しているように思えるが、油断を誘っている可能性もある。ここで距離を詰めるのはおそらく悪手だ。
「俺と彼女の幸せな生活のスタートを邪魔するだけでは飽き足らず、俺が絶対であるというルールですら破壊しようとするのか!!」
ドーパントは地団駄を踏みながら俺に向かってそんなことを言う。
「くだらねぇことをグダグダと……!」
「何がくだらないんだ! 言ってみろ!!」
「テメェの言ってること全部だ!!」
そう叫んで駆け出し、一瞬で差を詰めると奴の頬を殴った。ドーパントがまた小槌を振り上げるがもう一度かわし、すれ違いざまに咄嗟の判断でそれを握る手を踵で蹴り飛ばして小槌を手離させる。
ドーパントは蹴られた手を何度か振ったあとに、俺に背を向けてその小槌を拾いに行こうとした。
「戦ってる相手に背中見せるたぁいい度胸じゃねえか!!」
「しまっ……」
振り向き両腕でガードしようとしたドーパント。その手には既に小槌が握られている。俺はそれに構うことなく斧を振り下ろした。
「ッラァ!!」
「グゥ……」
「まだまだァ!!」
斧が小槌で受け止められたが、そのまま鍔迫り合いに移った。パワー的にはこちらの方が上だったのか、徐々に押し込んでいく。
「くそっ……このままじゃやられるッ!!」
ドーパントがそう言って斧を受け流し、くるりと体を反転させる。俺は体勢を崩して地面を何回か転がり、壁のようなものにぶつかって思わず悶える。
ドーパントはその間に何か叫んで自分の体に小槌を振り下ろした。背中に手をやりながら立ち上がった俺の目に映った光景は、困惑を隠せないようなものだった。
「あぁ? ……んで自分から檻ん中入ってんだ? ガイアメモリ使って暴れましたーって自首でもするのか?」
なぜかドーパントの周りを鉄柵が囲い、その上は分厚い鉄板で蓋をされている。そこから出ることは多分できないだろう。一体何を考えているのかと訝しんでいると、ドーパントは高笑いをし始めた。
「一体何が面白いってんだ?」
「いやなに、自首でもするのかって言葉が妙に面白かったからねェ! この俺が自首なんてするわけがないだろう!!」
ギャハハ!! と腹を抱えて笑うドーパント。俺はそいつが何かしでかす前にと思い地面を強く蹴った。距離を詰めて拳を握りしめ、檻に向かって勢いよく突き出したその手は、しかし何にも当たることはなく空振りに終わった。
檻はどこだと左右を見渡して探したがそれは見つからず、少し焦り始めたその時視界が暗くなり、俺は反射的に空を仰いで思わず絶句した。
その檻が宙に浮いていた。空中で静止しているそれから聞こえるドーパントの声。
「前はへまこいて逃げられなかったが今回はそうはいかないぜ!! この檻は俺の体が触れていれば俺自身の意思で自由に動かすことができるんだよ!!」
そう言って実際に上下左右に動かして見せるドーパント。俺は驚愕のあまり
「なんっ……そんなのアリかよ!?」
などと間抜けなことを言ってしまったが、こんな反応をするのも無理はないだろう。ドーパントは俺のその声を聞いてガイアメモリはなんでもありなのさ! と言ってから
「それじゃあな茶色いライダー!! 俺はおさらばさせてもらうぜ!!」
と言い残してどこかへ向かって飛んでいってしまった。俺はそれを見てケッ! と吐き捨ててうずくまり、背中に力を入れ叫ぶ。
「ウオァァァァ!!!」
バキンッ! という音がして背中に重みが増した。重みが増したのは羽が生えたからだ。体を起き上がらせてドーパントが飛んでいった方向を鋭く睨み、地面がへこむほどの力を込めて蹴り飛ばし空へと飛び立つ。
「逃がさねぇ……絶対に見つけてぶっ飛ばす」
半ば執念染みたものを抱きながら空飛ぶ檻を探す。あんなのを放っておいたらまた誘拐される子が出てもおかしくはない。新しい被害者が出てしまう前に撃破しなきゃならない。人混みに紛れられる前に見つけ出せたらいいんだけどな。
「……いた!! 待ちやがれ!!」
空に浮かぶ檻を認めるや否やスピードを上げてそれに迫る。ドーパントがこっちを二度見したのが見えた。
「何っ!? おま、なんで飛んで!?」
「空飛ぶのはお前の専売特許じゃないんでね!!」
実のところこの翼というか羽があるのはメモリ的に少しおかしな話なんだが、まぁ使えるものは使ってなんぼの精神だ。敵を仕留め損なうよりもましである。
迫る俺を見て焦ったのか、檻の挙動がほんの少しおかしくなったように見えた。心なしか飛行速度も落ちている気がする。
「そこだ!!」
叫ぶのと同時にメモリを引き抜いて横のスロットに差し込んだ。そして肘を突き出して檻に全速力で突撃を食らわせる。
「墜ちろォォォ!!!」
ガァン!! という激しい音と共にひしゃげていく檻。ドーパントは思わずその檻から脱出したらしい。だが、その下に地面はない。
「しまっ……!!」
何度か手足をバタバタさせた後に墜落していくドーパント。どうやらドーパント自体に飛べる力はないらしい。俺はそれに少しホッとしつつ、腰のスロットのボタンを押した。
《Dinosaur!! Maximum Drive!!》
その音声が辺りに響き渡り、足に力が溜まっていく。俺はその足をドーパントへ向かって突き出し、急降下した。
「さぁ、お前の罪を数えろ!!」
とあるライダーからの受け売りの言葉を叫ぶのとほぼ同時にドーパントにキックが見事に直撃し、俺が蹴り抜いて少しした後、ドーパントが空中で爆発し、素体となった男が落ちてきた。俺はそれを受け止めてから地面に降りて、こいつがメモリを差した位置を確認した。
万が一仕留め損なっていたら生体コネクタが残っているはずだ。とは言ってもマキシマムドライブを確実に当ててるわけだし流石にメモリブレイク出来てるはずだけど……。そんなことを考えている俺の頭にパラパラと何かが降ってきた。それを手に取ってみると、バラバラに破壊されたガイアメモリの残骸だった。
俺は勝ちを確信し、小さくガッツポーズを取るとドライバーからメモリを引き抜いて変身を解除した。
「これでお前の特別な力は無くなった。警察を呼ぶから大人しくしてろよ?」
「ゲハッ……あれだけ戦って息切れ一つしないなんてな……はぁ……」
「生憎と戦うことには慣れちまってるんでな」
さらっとそう返して、念の為にその男の上にのしかかってからガラケーを取り出して警察に電話をかける。その間に男は気絶したようで白目を剥き、口からは泡を吹いている。思わずきったねぇな!? と叫んでその男から少し離れ、電話が通じた警察に事情を説明するのだった。
「あ、もしもし警察ですか? 事件です事件です。ドーパントになってた男が空から降ってきてですね……あ、いたずら電話じゃないですからね?」
「仮面ライダーディノス、か」
とあるビルの屋上から蒼とドーパントの戦いを見ていた男、Pは顎に手を当てて深く考え込む。
あれが恵理也の親友でなければこっそりと消しておいてもいいような存在だが、残念ながらディノスはあいつの親友だ。殺せば恵理也は血眼になって殺したやつを探しに暴走するだろう。そして俺に対して牙を剥くことも、最悪の場合風都の人間を殺し回ることすらも辞さないはずだ。あいつはそうするだけの狂気を育んでいるのだから。
「ずいぶんと厄介な奴がライダーとなったもんだ。そう簡単に計画通りには進まない、か」
そう呟くとどこからか飛んできた赤い鳥のようなロボットの頭を撫でる。ニヤリと不気味に笑いながら風都を見下ろす。
にしても最近はガイアメモリによる超常犯罪の頻度がやけに高いな……。メモリの商人どもの動きが活発ということは俺が直接動いても問題はないか。……いやしかし俺が撃破されてしまっては計画の根本から盛大にへし折れて頓挫するな。まだ慎重に動いた方がいい。まだ時間はたっぷりある。
「そう。お前が死なない限り、時間はたっぷりとある。だから……」
俺の期待に応えてくれよ?
声に出さずに吐き捨てたP。そして少し風がふわりと吹いて、次の瞬間にはその姿は消えていた。ただ一つ、赤い鳥がフェンスに止まってピーヒョロヒョロと鳴くだけであった。
文字数ちょっと少なめな気がしますがこれ以上長くしてもなぁって思ったので今回はここまでです。
次回は多分日常回になります。多分なので変わることもあります。
ではまた次回。