16話と間を置かずに投稿してるので16話読んでないぜって方はそちらを先に読んでください。
では17話です。
蒼に対し、黒い仮面ライダーの正体が黒神恵理也その人であることを明かした恵理也。
その事実を証明するように見せつけたロストドライバーを流れるように腰に着ける。
「良かったな。黒い仮面ライダーの正体、暴けたじゃねえか」
少し戯けながら蒼を挑発した。彼からすれば、蒼は既に敵でしかない。もう友好的に接する必要などどこにも無かった。
「……嘘だろ?」
一方で、蒼は現実を受け入れる事ができていなかった。心優しい青年であったはずの恵理也が、その手が血に染まっているなど信じられない。そう言いたげに力無く顔を横に振る。
「つまんねえ嘘吐くなよ、なぁ。お前が仮面ライダーなわけないだろ」
口を開けば否定の言葉がスラスラと出てくる。腰に巻き付いたロストドライバーを見てもなお、彼は事実を受け止めることは出来なかった。
悪い夢を見ているのではないか。恵理也が悪戯心を見せて変なことをやり始めただけなのではないか。実はそのロストドライバーは偽物なのではないか。様々な考えが頭に浮かんでは消えていく。
動揺。焦燥。驚愕。困惑。それらの思考が彼の頭を埋め尽くして離れない。
そんな蒼を、恵理也は嘲笑う。
「だから言ったろ。正体を知ったところで止めることなんて出来ないって。だって正体を知ったってのにまともに戦えそうにもないじゃねえか。そんなんでよく戦って捻じ伏せるとか言えたもんだな。恥ずかしくねえのか?」
どこまでも辛辣な言葉を浴びせる。蒼は恵理也の目を見つめ、そこで初めて理解する。
彼が仮面ライダーであることは本当の事で、何度も人を殺してきた凶悪犯だという事も本当だということを。それなりに長い間付き合ってきたからこそ分かる。恵理也は一つも嘘を言っていない。蒼はそう判断した。
「……ハハッ」
蒼の口から乾いた笑みが漏れる。どうして気付く事が出来なかったのか。どうして止めることが出来なかったのか。後悔の念が溢れ出て止まない。
「本当に身近にいたな。どうして気が付かなかったのかわからないくらい、身近に」
そう言い切って、彼は覚悟を決めた。
恵理也は既に自身を殺すつもりでいる。そんなことはもう理解していた。
ここが彼を止める最後のチャンスであることも。
「……やるしかない、か」
静かにロストドライバーを取り出し、それを腰に着ける。
二人は自他共に認める、非常に仲の良い友人であった。何度もくだらないことで笑い合い、どうしようもないことに嘆き、しょうもないことを一緒にやってきた。
しかしそんな関係は、今この瞬間に音を立てて崩れ落ちた。
今この場にいるのは、互いを否定し、互いを害そうとする醜い関係に堕ちた二人だけ。
「お前を止める。たとえ、それで俺が罪を背負うことになったとしても」
「御託は聞き飽きた。構えろよ」
同時にガイアメモリを取り出し、それを起動した。二つのガイアウィスパーが辺りに響く。
《Hazard!!》
《Dinosaur!!》
そしてメモリをほぼ同時にドライバーへ差し込み、二人はお互いの顔を見つめる。
蒼は心の底から苦しそうな、仮にも友人であったはずの恵理也と殺し合いをしなければならないこの状況を逃げ出したそうな、暗い表情を浮かべていた。
一方で恵理也は暗い表情を浮かべてはいなかった。だが明るいわけでもない。この状況をただただ受け入れ、目の前を敵を倒すことしか考えていない冷たい表情であった。
そんな二人は、ほぼ同時に二文字を叫び、スロットを倒す。
「「変身ッ!!」」
黒を纏う恵理也。茶に身を包む蒼。
シェリフとディノス。
自身のために殺す者と、誰かのために戦う者。
対極の思想を抱く二人のぶつかり合いが、幕を開ける。
開戦の合図などなかった。
まるで示し合わせたかのように同時に駆け出し、互いの顔にパンチを叩き込んだ。
彼らの口から吐き出される空気。ほぼ同時によろめき、体勢を整えてもう一度。
お互いに躊躇いなど一切ない。あるとすれば殺意か、目の前の敵を倒すという意地。恵理也はもちろん、蒼ですらも躊躇するという段階など通り過ぎていた。
「なんでだよ」
ディノスの口から疑問が漏れる。それを聞き取ったシェリフは少しだけディノスから距離を取り、彼の口から続きが出るのを待つ。
「なんでお前、優しいのに……なんでそんなドーパントを殺したりしてんだよ」
いつもの問い。思わずシェリフは溜め息を吐き、端的に答えを返した。
「許せねえんだよ。あんな奴らが呑気に息をしてんのが」
あのような物を手にして暴れ回った人間が、普通に生活していただけの人に害を与えた人間が、平和に生きることが許されて良いのだろうか?
言ってしまえば、ただそれだけのこと。それは彼の心の中にずっとあった疑問だ。
それに対する答えを、彼は数年前に出している。
「ガイアメモリに手を出すやつなんて大概ろくでもねえやつばっかりだ。ただその時やってみたかったからって理由だけで人を殺したりする。そんなクソどもが平和に生きて良いなんて道理はねえ……。そうだろ、蒼ィッ!!」
どうしても許すわけにはいかない。
どうして自分の両親を奪った人間を、それと同種の人間を許すことが出来ようか。無理に決まっている。心の底から沸き上がる恨みや怒り、そのありったけを拳に込めディノスへ叩き込んだ。
ディノスは数回地面を転がり、しかしすぐに起き上がるとシェリフに対して反論する。
「前にも言ったろ、恵理也。俺はその考えに賛同することはできないってな。犯罪者だって人間で、償う機会が与えられて然るべきなんだよ。お前が言ってんのは極論だし暴論だ」
ディノスの口から出てくるのは、やはりと言うべきかシェリフとは正反対の言論である。彼はあくまでドーパントは人間であると考えているし、その考え方が当然だとも考えている。
犯罪者だからといって皆殺しにしてしまうのは極論が過ぎるだろう。それは一般的な感覚であって、当たり前でもある。
だが、シェリフにはそれが気に食わない。
「償う、だァ?」
償おうとする自罰的な思考。それ自体は恵理也も悪くはないと感じている。だがその行いに関しては否定的であった。
「それで何が変わる!? そんなもんで奪われた物は返ってこないだろうが!!」
命。時間。それらは失われてしまえばもう戻ってくることはない。故に、彼は結果としては無駄な行為であり、所詮は償っている人間の自己満足に過ぎないのだ。
「何も変わらないかもしれないけど……それで犯罪者の命を奪うことを容認する理由にはならねえだろうが!! 結局お前のやってることは犯罪者と同じなんだぞ!!」
「そんなもん知ったことか!! どうせこれ以上言い合ったってテメエには理解できやしねえんだよ!!」
そう。恵理也が語っているのは、蒼には理解し得ない感情論である。何せ蒼は大切な人の命を奪われたこともなければ、誰かを深く恨んだこともない。今に至るまで、極めて平和な生活を送ってきていた。
そんな彼が、幼い頃に目の前で両親を奪われ、深い憎悪を抱えながら生きている恵理也のことなど真に理解できるはずなどないのだ。
「良いよなお前は!! 帰るべき場所があって、帰りを待ってくれる家族がいて!! そんな平和な世界に生きてるテメエが俺のことを理解できるはずがないだろ!!」
「家族がいるのはお前も同じじゃ……」
恵理也の過去を知っていれば無遠慮な発言でしかない。だが蒼はそんなことに気付かない。蒼が知っているのは、どういうわけか恵理也の両親が家にいないということだけ。恵理也がずっとはぐらかし続けてきたために、彼の両親が他界していることを知らないのだ。
蒼のその発言が、彼の逆鱗に触れるのは無理もない。
「俺の家族はずっと昔にドーパントに殺されたんだ!! 俺の目の前で、文字通り肉片になったさ!!」
「……は?」
「家族を殺された恨みを、これから過ごすはずだった幸せな時間が奪われた怒りを、家に帰っても誰もいねえ悲しみを、このクソッたれみたいな現実に対する憎しみを……お前が理解できるわけねえよなぁ!!」
恵理也の衝撃的な過去と共に彼が抱える憎悪をぶつけられ、思わず蒼は固まった。
蒼にとって、これは想定外のものだった。どうしてあれほどまでに敵視するのかと疑問を抱いてはいたが、恵理也の事情を知った今ではそんな疑問を挟む余地はない。
恨んで当然とも言える悲惨な過去。それを発端とする彼の憎悪は想像できないほどに根深いものであるはずだ。どう考えても、説得できるようなものではない。
そして蒼は同時に理解する。今まで見てきた心優しい青年であったはずの恵理也は、彼が表面を取り繕っていただけに過ぎないことを。彼の本性はあくまで今目の前でドーパントに対する憎悪を吐き出し続けている方であることを。
「……それでも俺は、殺人行為を許せないよ」
「あ?」
「頭に血が上りすぎて聞こえなかったか? お前のやってることを許せないって、そう言ったんだよ」
それでも彼は、恵理也の行いを否定する。
「どういう理屈であれ、殺しが正当化されていいはずがないんだ」
「お前ッ……まだそんな綺麗事を抜かすってのか!!」
「そうだよ綺麗事だよ。だけどそれを否定して復讐って名目で誰かを殺すのを許容していたら、その負の連鎖が永遠と続いてしまう。お前は血を血で洗う凄惨な光景が広がるような、そんな世界を望んでるのか?」
激情を露わにする恵理也に対し、冷静に返答する蒼。
どこまで恨みをぶつけられたとて、いけないものはいけないのだ。そう言えるだけの正義感は持っていた。
蒼の問いに対し、シェリフは鎌を引き抜き、叫ぶ。
「俺だってそんなクソみたいな世界は望んじゃいねえ。でもお前が言ってるような綺麗事だけじゃ何も……救えねえんだよ!!」
メモリを差し込んでいないのにも関わらず、なぜか黒の霧を纏う刃を振るう。
ディノスは咄嗟に斧を引き抜いて刃を受けようとしたが、間に合わない。肩から斬られ、痛みから思わず斧を手放した。
それを好機と捉え、シェリフはこの戦いに終止符を打たんとメモリを鎌の持ち手部分にあるスロットに差し込んだ。
「こいつで終わりにしてやる……ッ!!」
《Hazard!! Maximum Drive!!》
声を荒げてディノスへ肉薄し、その胸板に向け鎌を一閃。その攻撃に耐えられるはずもなく、ディノスの変身は解除され数メートルほど吹き飛んでいった。
「……だから言ったろ。お前は俺に勝てねえって」
地面に這いつくばる蒼を見下ろしながら呟いた。どうせやる前から結果などわかっていた。今まで負け続きだった人間がいきなり勝つなどあり得るわけがないのだ。それに精神的に揺さぶられていた以上、恵理也が負ける要素など何一つとしてない。
蒼は手の届かないところまで転がっていったダイナソーメモリとロストドライバーに向けて必死に手を伸ばしていた。
あれを奪われてしまっては、もう二度と彼を止めることはできない。直感がそう囁いていたからだ。
そんな彼に、シェリフは嘲るような口調で問い質す。
「なんでまだ戦おうとするんだよ。ずっと負け続きで、なんならさっき負けたばっかの相手に。アホなのか?」
「友人だからだ……」
蒼から返された答えに、シェリフは仮面の奥で目を丸くする。友人だからといって危険を冒してまで止める義理などないとしか思えない。それがシェリフの感想であった。
「道を踏み外したら止めてやる……それが友人ってやつだろうが」
まるで一昔前の青年誌のようなセリフを吐く蒼。あれほどまでに敵意をぶつけられたとしても、やはりまだ蒼の中で恵理也は友人関係にあった。恵理也と違い、割り切れていないのだ。
そんな彼に、シェリフは辛辣な言葉を返した。
「なら俺たちは今から友人じゃなくなるわけだ」
「は……?」
間抜けな声を出した蒼を横目に、恵理也は彼のロストドライバーを拾い上げた。
何をするのか、と首を傾げる蒼の目の前でそれをチラつかせ。
《Hazard!! Maxixmum Drive!!》
「こんなものッ!!」
破壊した。わざわざマキシマムドライブを発動して。
あまりの行動に唖然として何も言葉が出てこない蒼に向けて、シェリフは得意げにロストドライバーを破壊した意図を告げた。
「俺を止めるためにはこいつが必要だろ。だったらこれを壊せばお前は俺を止められない。それこそドーパントにでもならねえ限りは、な」
要約すると、蒼が二度と絡んでこないようにするため。ロストドライバーを持たない彼が、シェリフへ変身できる恵理也を止める術などほとんど無い。彼が述べた通り、ドーパントになれば可能性があるかもしれないが、しかし蒼の性格上それも難しい。
だから彼はロストドライバーを破壊した。それさえ奪ってしまえば、蒼などもう恵理也の障害ではない。
「ずっと鬱陶しかったんだ。目の前で綺麗事を吐いて、俺の全てを否定してくるお前が。これでもう邪魔されねえんだと思うと気分がいいな」
「なんで……」
「奪われた側の気持ちを少しは考えることだな。じゃ、二度と関わってくんなよ」
変身を解除し、最後に素顔を晒して恵理也は去っていった。
そして公園に一人残された蒼。
ゆっくりと体を起こし、近くにあったベンチに座り込む。
「……ダメ、だったのか」
胸に募る無力感。こうなってしまえば、もう恵理也を止める手立てなど無い。ただ、これ以上彼が道を踏み外してしまわないよう祈ることしかできない。
深い溜め息を吐き出し、空を見上げる。
灰色の雲が空を埋め尽くし、今にも雨が降り出しそうであった。
【裏話】
実は16話を寝かせてただけで、15話を投稿した時にはもうこの話の執筆に取り掛かってました。