「シェリフ……それが俺の名だ」
俺はそう言って拳を構える。どうせこいつとこれ以上話したところで、どうせ殺すんだし意味などない。強いて言うのなら冥土の土産ってところなんだろうが、悪意のあるガイアメモリユーザーごときにくれてやる土産なんて物は生憎と持ち合わせてないんでな。
「なあ、かかってこないのか。俺を殺すんだろ? やれるもんならやってみろよ」
そう煽る。ガイアメモリユーザーは気が短いやつが大半だから、戦いたいけど相手が仕掛けてこないなんて状況になったら煽れば大体ブチギレて襲いかかってきてくれる。
今回も御多分に漏れず短気なユーザーだったようで、
「言われなくてもやってやるよクソガキが!!」
なんてことを叫びながら俺に向かって拳を振り上げて襲いかかってきた。俺は振り下ろされた拳を軽くいなすと、
「オラァ!!」
と言って荒々しくその背中を蹴飛ばす。ドーパントは俺に蹴られた勢いでそのまま服が並べられているところに頭から突っ込んでその台を破壊する。
俺はそれを見て思わず鼻で笑い、
「俺を殺すだとか言っといてそのザマか? 笑わせてくれるじゃ……ねぇか!!」
と言い、立ち上がろうとしているドーパントの顎を蹴り上げる。苦悶の声が聞こえたが俺はそれを無視して、よろめいているそいつに拳を叩きつける。こいつに攻撃させる隙なんて与えない。
「どうしたぁ!! 全然攻撃できてないぞ!!」
俺はひたすらドーパントに拳を叩きつけ続ける。殴りすぎて手が痛くなってきたが、それを心の隅に追いやってがむしゃらに殴る。
「っち! なめやがってこのガキ!!」
自分が防戦一方であることに苛立ちを感じたのかそう叫んで、俺の顔に手をかざしたドーパント。とてつもなく嫌な予感がしてそれを払い除けようとしたが一足遅かったようで、俺の視界が真っ白に染まった次の瞬間に顔全体に恐ろしいほどの熱さが襲ってきた。
「あっっつぅ!!!」
思わずのけ反ってよろめいてしまう。火球を放たれたのだろう。気が狂いそうになるくらい熱いし痛い。火傷してなきゃいいんだけどな……。
幸いなことに、後ろによろめいて行ったら破壊されたスプリンクラーから放出されている水が掛かったおかげで、顔面を覆うマスク? 仮面? に付いた火が消えた。今度は冷たさに襲われるが、今は夏だしちょうどいい。それに熱いよりはマシだ。
「あっつかったぁ……顔面痛すぎて発狂しそうだぜ」
顔を軽く左右に振りそう言った。未だに顔面がヒリヒリするし、今すぐこの場から逃げようかと思ったが踏みとどまる。このスプリンクラーから水が出続けるかぎり、俺にさっきの火球攻撃は効かない。火を付けられたところですぐに消火できるからな。そう考えるとわりと有利なのかもしれない。
少し攻撃してみた感じだと相手は戦闘に関して本当にど素人だってことが確信できたし、ガイアメモリの特殊能力次第じゃそれをひっくり返すことが出来るけど俺はその能力をスプリンクラーの水を使って、という形ではあるけど無効化することが出来る。
このまま行けば俺が負けることはまずないだろう。これで負けたらハザードメモリをトンカチで破壊しなければならばならないと思えるくらいには恥ずかしい。
「あの炎を至近距離でくらって熱かった程度で済むのか……」
「まあ鍛えてるからな、いろいろと」
「の割にはヒョロヒョロじゃガファ!!」
言葉が途中で途切れる。俺が殴ったからだ。ヒョロヒョロなのは俺もかなり気にしていることなんだから触れないでいただきたい。これでも肉がつくように結構な量を食べてるし筋トレだってしてるんだ。なのに一向に体重が増えないのは何事なのだろうか……と、話が逸れた。
普段なら気にしてるんだからぁ、などと茶化して怒りを抑えて終わりにしているが今は戦闘中だ。ちょっとくらい怒りに任せて殴ってもいいだろう。
「うっせえわ! 俺だって気にしてんだよ黙ってろこの虫野郎!!」
そう叫んでまた殴り、アチッと短い悲鳴を上げて手を引っ込める。相手の体が徐々に熱くなっているのは何故だろうか。これもメモリの能力なのか? このまま殴り続けていたら俺の手が火傷しちまうな……。こうなったら武器を使うしかないな。狭い室内で使うには向いていないが、火傷するより幾分かマシだ。
そうして俺は背中に手を伸ばして、筒のような物を掴み勢いよく引き抜いた。その筒はどういう原理なのかはわからないがどんどん長さを増して、伸び切ったと思ったら今度は鎌のような刃物が先端に現れるという、どうなっているのか全くもってわからない武器だ。
結構大きいから屋外で戦うときくらいにしか使わないが、今回は苦肉の策的なあれだ。火傷するよりは、ってやつである。
「どっこいしょお!!」
という気の抜ける掛け声と共に鎌を振るった。それを見てから避けようとしたドーパントだったが、そのときにはもう既に遅い。胸の辺りを横に切り裂かれて吹っ飛んでいく。俺はそれを見てニヤリと笑い、もう一度鎌を振るおうとした。
しかしそれが再び振るわれることはなかった。何故か何度振ろうとしても全く動く気配はない。何故なんだ! と苛立ちと焦りに襲われる。なんとなく嫌な予感がするぞ……と思いつつその刃先を見て
「やっぱりか!!」
思わずそう叫んだ。大きく振りすぎて刃先が壁にめり込んでしまってる。そりゃ何回振ろうとしても抜けないわな、と一人で納得して鎌を引き抜こうとすると、ドーパントがそうはさせまいと殴り掛かってきた。俺はその拳を受け止めると、腕を捻り上げてから手を離し、拳を握り締めてドーパントの腹に叩き込む。
「オラァ!!」
「ガッ……!!」
よろめくドーパント。腹を抑えて苦しむ姿を見て当分立ち直ることはないだろうと判断した俺は、再び鎌を引き抜こうと試みる。こういうときはどうやったらさっさと抜けるのか、というのをシェリフとして戦いを初めてからずっと考えているがまだわからない。とりあえず力尽くで引き抜いているけどもっといい方法あるよな……。
「……ヌゥゥゥゥ!! 抜けねぇ!!」
手から持ち手がすっぽ抜けて思わず倒れそうになるのをなんとか踏ん張る。なんでたかがコンクリの壁に突き刺さったくらいでこんなに抜けねぇんだよ、という怒りを込めてその壁を思いっきり殴る。バコン!! という音と共に大きな穴が空いた。そして支えが無くなったことにより重力に引かれて鎌の持ち手が俺の足下に落下してきた。
「いっっったァ!! ダァァァ痛え!!」
思わずそう喚きながらぴょんぴょんと飛び跳ねる。分厚い装甲に覆われてるはずなのになんでこんなに痛いんだよ……装甲が仕事してないじゃないか。
とそんなことを考えてから気付く。こんなに隙だらけなのにあのドーパントは攻撃してこない。なんでだ? そう思い辺りを見渡すがドーパントの姿はなく、燃え盛る衣服と何者かによってブチ開けられてできたデカイ穴、それにいつの間にか割れていた窓しかない。
視界の範囲にいない+窓ガラスが割れている=逃げられた
その答えを導き出した瞬間、半ば衝動的に怒号を上げて近くに転がるコンクリの塊を蹴り飛ばす。
「仕留め損なったじゃねぇかクソがァ!! 逃げてんじゃねぇよあの虫野郎!!」
しかしそう叫んでも時すでに遅し。あのドーパントの足取りがわからない今、この場に長居するのは愚策だろう。煙が立ち込めてきつつあるし、何より消火活動をしに来るであろう消防隊員に俺が放火したのだと勘違いされると面倒だ。さっさとお暇するとしよう。
「あいや、どう考えても虫ではないかありゃ。……しかしやり損ねたのは中々に面倒だな」
もう一人の半分こライダーさんがあのドーパントを仕留めてくれるとありがたいんだがなぁ、と続けて呟く。これ以上被害を増やされたらたまったもんじゃない。いつ母校が焼かれるかもわからなくなってしまう。そうなればおちおちと生活をすることすらままならなくなってしまう。
まあ犯人はウィンドスケールにずいぶんとご執心なようだから当分襲われることはないと思うけど、それもメモリに飲まれなければの話だ。自我をそれに乗っ取られたら何を目的として動いてたのかすらも忘れてただ暴れ回るだけの怪物になり下がってしまうからな。ああいうのはさっさと潰すに限るんだが……。
「ちくしょう……ま、また見かけたら仕留めたらいいか」
そう言って俺はスロットを戻してからハザードメモリを引き抜く。装甲が細かい粒子になって飛び散るのを見てから
途端に体が軽くなるこの感覚は何年経っても慣れることはないんだろうな。何キロもの重りを背負わされてたのに急にそれを外されるみたいな感覚だって言えばいいのかな? 表現の仕方に苦しむなこの感覚。とにかく、あんまり好きな感覚ではないかな。
首の周りをポリポリとかいてからどう脱出しようかを考える。まず服が燃えてるところを通るのは論外だから除外するとして……。スプリンクラーの下を通って割れた窓ガラスから脱出するのが一番いいかな。スプリンクラーで濡れたら僕の体に火は付かないだろうし安全か。冷たいのは嫌だけど焼け死ぬよりかはマシだし、背に腹は変えられない。
スゥっと息を吸った僕は、腰をかがめて口と鼻に制服を押し当てるようにして覆ってから店の外に向かって急ぐのだった。
翌日。学校帰りにまたウィンドスケールに来た。もちろん昨日行った店舗とは違う場所だ。当然、服を買いに来たっていうわけじゃない。
僕の予想が正しければまたあのドーパントが襲撃するはずだから、何も知らずにのこのこと現れたところを僕がとっちめてやろうという魂胆だ。無論、蒼には黙って一人で来ている。彼にライダーであることはバレたくないし、危険なことに巻き込むわけにもいかないしね。
というわけで、外の席で風を感じながらその辺の売店で買ったコーヒーをストローで吸い上げてる。潜伏とかは待ち時間を耐えるのが一番辛いって聞いたことがあるけど、僕はそれは本当のことだと思う。事実、ここに来てから30分もジッと待っている羽目になっている。暇を潰す物なんて何にもないからできることなんて限られてるし、近くにある店の中で暇を潰そうにも、そこまでのお金は持ってないから冷やかし紛いの行為をすることになっちゃうのでそんなことはきない。
「本当に来てくれれば助かるんだけどな……」
昨日仕留め損なったせいで僕がライダーであることが知れ渡ってしまうかもしれない。そうなる前に始末してしまわないといけないから、なんとしてでも出会わないといけないし次の出会ったら逃すわけにはいかない。今度こそは確実に殺す。慈悲はないし殺すことに躊躇もしない。
そもそもガイアメモリユーザーに情けをかける人がいるのか甚だ疑問ではあるが、もしそいつらに情けをかける人たちが大半だったとしても僕はそいつらを殺すことに躊躇はしないと思う。なんせ親を奪われてるわけだしね。
ガイアメモリさえなければ今ここでこうしてドーパントを待ち構える必要もなかったし、親の声を忘れることもなかったし戦うことに快感を覚えるようなサイコパス染みた人間にはならなかった。全てはガイアメモリの製造元ユーザー共のせいだ。
だから復讐として全てのガイアメモリユーザーを滅ぼす。幼い僕から親を奪った罪は重いし、それ以外にもいろんな人が被害を被ってる。贖罪のためにも死んでくれ、といったところだ。何がなんでも許せることじゃない。例え僕の親を殺したそれじゃなくても関係ない。とにかくドーパントだけは生かしておいたらダメだ。あんなの生かしておいたところで何の経済価値もないし、ただただ善良な人たちを大量に死なせるだけの癌細胞だから。
そんな風に荒れ果てている心を癒すかのように野良猫が近寄ってきた。僕はそれに気付いてすぐ顔を引きつらせる。昔猫に引っ掻かれそうになったことがあってからというものの、苦手というわけではないものの少し抵抗を感じる。僕は君が近寄って来たんだから触ってもいいよね? と言ってその白猫を撫でる。
「おっ……ほほほほぉ」
我ながら気持ち悪い笑い声を出してしまった。フッサフサな毛だな……全然襲ってこないしずいぶんと人懐っこいし、もしかしたら飼い猫なのかな? 逃げ出しちゃったの? 首輪は……ないか。じゃあ普通に野良猫なのかな? 近所の人に餌を貰ってるからこんなに人懐こいのかな?
「あーなんでこんなに可愛いんだよぉ……ふへへへへ」
目の前にある白いフワフワを前にして、周りの目線を気にも留めずひたすら撫で続ける。端から見たらただの不審者でしかないから、今度から気をつけようかな。でも今はとにかくこのフワフワ感を堪能していたい……。と思いながらその猫をもみくちゃにしていた時だった。
「……ッ!」
どこかで電子音声が聞こえた。僕はその音をよく知っていて、でも知っているそれに比べてだいぶ歪んでいる音声が。その音を耳が捉えた瞬間僕は辺りを見渡し、そしてドーパントに変身するところを目撃した。
「キャァァァァ!!!」
辺りに響く悲鳴。それを皮切りに大勢の人が我先にと逃げていく。僕はそのドーパントの元に駆け寄ろうとしたけど、白猫がついて来るのを見てそれを断念して、猫を抱っこしてその場を離れる。どこかしらの柱の影に隠れてからこの猫ちゃんを離そうかな。そうしてから変身して戦えばいいか。こんなかわいい子を危険な目には逢わせたくないからね。
と思って柱の影に隠れてそのドーパントの方を見て僕は思わず叫びそうになった。
「なんで逃げてないんだ……」
一人の青年がドーパントが目の前にいるにもかかわらず、全く逃げようという素振りを見せない。というよりもドーパントを恐れていないのか? もしそうなら彼はドーパントと日常的に何かしらのやりとりをしている事になるだろう。もしかしてあの青年が噂のライダーなのか? そうなら逃げるどころか戦わないといけないから残らざるを得ない事になるから、ドーパントを前に物怖じしないのにも納得がいく。
もしくはドーパントの支援者か、ということになる。支援者であればドーパントが彼を襲うわけがないから、そもそも逃げる必要がない。
僕はその青年を凝視して様子を伺う。青年とドーパントは少しやり取りし、交渉決裂でもしたのだろうか。ドーパントが青年に向かって火球を放った。それを躱した青年は、少し焦げた帽子に息を吹きかけながら
「止めてやるよ。俺が……いや」
そこで言葉を切り、懐から何かを取り出して強調するかの様に言った。
「俺たちが」
そう言いながら取り出したものに僕は見覚えがあって。でも知っているそれとはどこかが違う。まさか、本当に彼が噂のライダーなのだろうか、と考えた次の瞬間、
《ジョーカー》
という電子音声が響き渡って、その声を聞いて僕は確信する。彼が噂のライダーその人なのだということを。その電子音声は僕の持っているハザードメモリの音声と同じ様に歪んでいない。それはつまり純化されたメモリだということだ。そのメモリは純化されていないメモリとは異なり、刺青を入れる様な形で体に作るコネクタでは使用することができず、専用のデバイスを介してでなければ使用できないことや、副作用がないとかまあ挙げればキリがないくらい色々違いがある。
となれば彼が僕の味方の様な存在であることはわかった。だが問題が一つある。さっき彼はなんて言った? 俺たちって言ったよね? 僕がライダーってことがバレてるの? なんで知ってるの? もしそうじゃないならなんで俺たちがーとか言ったの? もしかして虚言癖の持ち主なんですか?
という僕の浮かべた疑問を解決するがごとく、彼は黒いメモリを左に突き出して叫ぶ。
「変身!」
心の中でやっぱりか、と呟いた僕。彼の方からメモリの待機音が二つ聞こえることに違和感を抱いたけど、その違和感は間違いではなかった様で
《サイクロン!! ジョーカー!!》
という音声が響き渡ると共にすごい風が突如吹き荒れる。僕は猫が飛ばされない様にしっかと抱き抱える。にゃお〜んと鳴いて腕をペロペロ舐めているから、多分恐怖とかは感じていないんだろうな。にしても全然暴れないな……。本当に野良猫なのか?
……そんなことはどうでもいい。なんでメモリの起動音声が二つも聞こえたんだ? どこかで誰かが変身したのかと思ったが周囲に人影はない。となると彼が二つのメモリを起動させたということになるんだろう。
しかし彼はジョーカーメモリしか持っていなかったぞ……? 残りの一つは一体どこから出てきたんだ? と考える僕を翻弄するかの様にそのライダーは喋った。
「さあ。お前の罪を数えろ」
「さぁ。お前の罪を数えろ」
僕は疲れているんだろうか。あのライダーからあの青年とは違う人の声が聞こえた気がするんだけど……。まさか二重人格とかいうあれではないだろうし、さすがに聞き間違いだと思いたいけれど確かに声の高さの違う声がしたんだよね……やっぱり疲れてるのかな?
そんなことを考える僕を置いていくかの様にそのライダーはドーパントと戦闘を始めるのだった。
戦闘シーンの稚拙さが目立ちますね…。精進しないと。