仮面ライダーW Hの狂気/もう一人のライダー   作:八咫ノ烏

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いつもよりすこ~し長めです。


第21話 Dの決意/目醒めの刻

 彼は──東風谷蒼はドタドタと騒がしい音を立てながら階段を駆け下りる。

 

「ここに黒神恵理也の遺品を持つ生徒がいると聞いたのでね。あいつのガイアメモリとロストドライバー、それを回収しに来た……。名は確かアオイとか言ったか? 出してもらおうか」

 

 これは校内に入ってきた不審者の言葉である。彼が──声的にあれは男だろう──要求しているのは俺が持つドライバーとメモリ。なぜ回収しに来たのか、なぜ俺が持っていることを知っているのか。

 そして何者なのか。それを問い質さなければ。恐らくはすでに警察に通報されているだろうが、穏便に事を済ませるならその方が良いだろう。

 

 頭の中でいくつか会話デッキを組み立てつつ、そろりと玄関から顔を出して不審者を観察する。

 やはり風貌からして怪しい。顔どころか体全体を覆い隠すように、見たこともないほどデカいコートを着ている。何か素性を知られたらマズいことでもあるのだろうか。

 

 目で見てわかることはこれくらいだろうか。手が黒く無機質なように見えるのが少し引っ掛かるが、これ以上観察してもわかることはない。

 

「……わざわざ学校まで来て、俺に何の用だ」

 

 蒼は意を決して声を出した。教師たちがギョッとした目で俺を見て、手で早く逃げるようジェスチャーする。

 だが蒼はそれを完全に無視し、男に近付く。男は教師たちから蒼に視線をやると、淡々とした声で彼に尋ねてくる。

 

「君がアオイか?」

「礼儀がなってない野郎だな。そういうのは自分から名を名乗るもんだぞ」

 

 教師たちにこれ以上男に近付かないように、と腕を掴まれながらも言い返した。

 その返しを受けた男は、まさか彼が強気に出てくるとは思っていなかったのだろう。少し面を食らったように一瞬だけ黙って名乗る。

 

「……これは失敬。そうだな……恵理也の前ではPと名乗っていた」

「偽名を教えろとは言ってねえぞ」

「別に呼び名などどうでも良いだろう?」

 

 信用出来ない野郎だ。蒼は心の中で吐き捨てる。短い会話をする前から大体わかっていたことだが、信用出来ない。

 あからさまに怪しい風貌と、ふざけた偽名を名乗り本名を明かさないその言動。全てを怪しみ疑えと言っているようなものである。

 

「……それで? なんであいつのドライバーとメモリを渡せって?」

 

 警戒心をマックスまで引き上げつつ、本題に切り込んだ。どうせろくでもない理由であることは分かりきっている。なにせわざわざ学校まで乗り込んできて、あれらを渡せと要求しているのだ。

 

 男は恵理也から何も聞いていないのか、と小さく言葉を零し、その理由を口にする。

 

「元はと言えば私があいつに渡したのだ。使う人間が死んだというのなら、所有権は私に戻るのが当然だろう」

「お前があいつに渡したのか」

 

 どうやって作り出したのかわからないが、とりあえずはこいつが全ての元凶ということだろうか。彼は考えを巡らせる。

 そもそもとして、仮面ライダーという力さえ無ければあいつが人を殺すことなんてなかったはずなのだから。

 

 あぁ、そうだ。こいつが全ての元凶なのだ。

 そう考えると怒りがふつふつと湧き上がってくる。恵理也はこんな黒い感情を抱えながら、事が判明するまではまともな人間のフリを苦も無くしていたなんて。蒼は思わず感心して溜め息を漏らす。

 

「なんであいつに渡したんだよ。あんなもんが無きゃ、あいつはまだまともな人生を送れてたはずなんだ」

 

 蒼は自分に冷静になれ、と言い聞かせながら問い質した。事情を聞かされていないだろう教師たちが何を言っているのだと言いたげな目線で見てくるが、残念ながら悠長に説明している暇はない。

 どうかこのやり取りで察してくれ。

 

 蒼が教師たちにそんな念を送っている間に、男は言う。

 

「面白そうだと思ったから……だな」

 

 と。

 蒼はその返答に思わず眉を顰めた。一体どういう意味なのか。それを聞き出すため、男の続きを待つ。

 

「強い復讐心を持つ人間がガイアメモリを持てばどうなるのか……。それに興味があってな」

「んなもんそこら辺のドーパントでも見てりゃいいじゃねえか」

 

 大体のドーパントは何かしらに対する復讐心を理由にガイアメモリを手にしている。もし見たいのであれば、そういうやつらを見ていればいい。

 何も、ドーパントに対して憎悪を抱いていたあいつを標的にしなくたっていいだろう。

 

 それは男も理解していたようで、蒼の言葉に深く頷いてから言葉を続ける。

 

「その通り。だが、近年仮面ライダーと呼ばれるようになった存在であれば? 復讐という行いが正義のためという大義名分を得た場合どうなるのか?」

「……けどドーパントを憎む人間がドーパントになることなんてほぼないから」

「そう。ドーパントに恨みを持つ人間でなければ意味がない。そうでない人間にあの一式を渡したところで、恨みではない感情によってただ戦うだけになる。そんなものには興味がない」

 

 だから恵理也がその標的になった、ということだろうか。特定のドーパントに対して復讐心を抱いているわけではなく、ドーパントそのものに復讐心を抱いているのだ。あれほど最適な人間はいない。あいつ以上にドーパントに対して憎悪を抱いている人間がいるとは思えない。

 

 そして男の狙いがそれだったのなら、あいつはこれ以上ないほどに良い動きをしたことになるだろう。

 蒼はそこまで考え着き、男はそれを肯定するかのように答えを口にする。

 

「彼は狙い通りの動きをしてくれた……。あぁ、本当に良い動きをしてくれたよ、彼は」

「そう、だろうな」

 

 湧き出てくる怒りを抑えつつ言葉を紡ぐ。

 結論を言ってしまえば、このふざけた格好をした男の興味が発端で恵理也はあんなことになったのだ。怒りを抑えろと言われても無理がある。

 

 あまりの怒りに手が震えてきた蒼を煽るかのように男は言葉を続けた。

 

「初めて相対したドーパントを、その手で殴り殺してくれたんだ。そこからは早かった……。一人殺したら二人殺すも同じと言わんばかりの勢いでね……。堕ちゆく様を見るのは本当に面白かったよ。特に死に様は傑作だったな」

「んだと……?」

「迎えた末路は親の仇による刺殺……。最期まで自身の行いを是としたことの天罰が下ったのだろう。あぁ、滑稽だろう?」

 

 心の底から面白かったと感じていそうな笑みを浮かべ、彼は蒼に言う。

 

 それを聞き終わる前に、蒼の体は動いていた。

 

「貴様……ッ!!」

 

 教師の手を振りほどき、男に迫る。

 恵理也の死を侮辱するな、と。いくら人を殺した人間だとしても、友の死を嘲笑うことなど許せない。

 男のコート、その襟を掴もうと蒼は手を伸ばして激情を露わにし──。

 

「なんッ!?」

 

 ──ようとして、驚愕する。何も掴めなかった。目の前で男の姿がかき消えたのだ。

 

 まただ。気のせいの可能性もあったから一旦は意識の外に置いておくことにしていたが、こうして目の前で消えられるともういよいよ疑うしかない。

 目の前の男がドーパントである可能性を。

 

 いや、もうほぼ確定だろう。ただの人間が瞬間移動などできるはずがないのだから。

 

「あぁ、怖い怖い。もう少し理性を働かせた方が良いんじゃないか?」

 

 目の前にいたはずの男は、いつの間にか蒼や教師たちの背後に移動していた。驚愕のあまり教師たちは数歩後ろに下がり、さすまたを突きつける。

 男はそれにたじろぐことはなく、なおも自身が優勢であると確信しているのか得意気にくつくつと笑う。

 

「……さておき、まだディスペアーメモリの適合者は見つかっていない。二人目でも探して与えようかと思ってね。だから早く返してほしいのだが」

 

 人差し指で宙に円を描きながら、これからの展望を語る男。その様に、一段と蒼の怒りのボルテージは上がった。

 

「お前がクソ野郎なんだってことはよくわかった。ついでにドーパントだってことも」

「いいや? 今は普通の人間だ」

 

 それを証明するように、男はコートを脱ぎ捨てた。中から露わになったのは至って普通の男である。

 蒼は信じられないものを見るような目で男を見つめ、少し擦る。どうして普通の人間がテレポート染みた力を使えるのか。

 

「なぜだか知らんが、転移できるようになってね。便利だからこういう場でよく使っているのさ」

 

 そう言い、男はメモリを取り出した。俺に見せつけるように、イニシャルが印字されている部分を俺に見せつけてくる。

 そのイニシャルが示すのはMの文字。

 

《Magic!!》

「まぁ、ガイアメモリを持っていることに違いはないんだがね」

 

 得意げに笑い、左鎖骨の付近にメモリを突き挿した。男の体が化け物の体に作り替えられていく。

 それを止めることは、誰にもできない。

 

 露わになったのは、ローブのようなものを身に纏い、杖を手にしたドーパントの姿。

 

「さて……。まだ見たりなくてねぇ……君を殺して奪い取ることもできるのだが、まだ大きな口を叩けるか?」

 

 男は杖を地面に突く。周囲に突風が吹いた。

 彼は思わず教師たちを庇うように前に出て、ドーパントを睨みつけ言葉を吐き捨てる。

 

「お前がクソ野郎だってことはよくわかったよ」

 

 この時点で交渉は決裂したも同然。そんなやつにドライバーとメモリを渡す義理などどこにもない。

 相手がそうやって強引に奪おうとしてくるのなら、もう戦うしかないのだ。

 

「お前のドライバー、借りるぜ」

 

 恵理也の血で染まったロストドライバー。それを取り出し、腰に着ける。この道具一式をどう使うのか、それを決めるのは後にした。

 一旦戦わないと、下手をすれば自分が死んでしまう。ごたごたと理屈を捏ねている暇なんてない。

 

《Dinosaur!!》

「──変身」

 

 久々に唱えるこの単語。

 纏う茶色の装甲。

 

《Dinosaur!!》

 

 仮面ライダーディノスの再臨である。

 

 

 

 

 

 ふぅ、と短く息を吐いて目の前のドーパントを見据える。魔法の記憶を持つ故、色々と警戒する必要がある。気が抜けない。

 

「恐竜の記憶、か……。まあさして脅威にはなんだろう」

 

 警戒心をむき出しにする俺を前に、マジックドーパントは余裕を見せる。

 

「ただまあ他に人間がいるというのも面倒だな……。警察が来ても困るし場所を変えるとするか」

 

 男が気にするのは俺ではなく、他にいる人間と後から来るであろう警察。

 戦いの邪魔をされたくないのだろう。コン、ともう一度地面を突いた。地面に魔法陣が描かれ、眩い光を発した次の瞬間、俺とドーパントは見覚えのない採石場らしき場所にいた。

 

「ここならお互いに全力を出せるというものだろう?」

「……余計な気遣いを」

「いやなに、君を叩き潰してドライバーを奪うのには邪魔だったのでね。君に塩を送ったわけではないさ!!」

 

 ドーパントはそう言い切ると、すぐさま杖を掲げて火球を生成。それらを次々に発射してきた。俺はすぐさま地面を転がり、それらを全て避ける。

 そのまま立ち上がり、斧を取り出して斬りかかった。

 

 が、やはりと言うべきか避けられた。斬る度に姿が消え別の場所に転移して、杖を掲げて反撃してくる。

 意外にも火球が斧で斬ってしまえるのがわかっただけありがたいが、しかし状況は大して変わらない。

 

「暖簾に腕押しってのはこういうことを言うんだろうな……」

 

 思わずボヤいてしまう。魔法の記憶を持つというだけあって攻撃手段も多様だ。今まで相手をしてきたどのドーパントよりも、強い。

 

 対してこちらはそんなに大層な能力などない。あるとしても少し力が強いくらいだろうか。何が恐竜の記憶だ、と文句を言いたくなってしまう。

 それでも、無い物ねだりしても仕方がない。今ある手札でなんとか戦うしかない。

 

 少しだけ折れそうになっていた心を立て直し、もう一度斧を振る。また避けるのかと思っていたが、ドーパントは手に持っていた杖でそれを弾いた。

 気が変わったのだろうか。ならそのまま畳みかけるしかない。そう考え、勢いのままに打ち合い、鍔迫り合いになる。

 

 力の差。そこに賭けるしかないと思っていたが、案外力が強いらしい。それか能力で力を強化しているのか、なかなか押し込めない。

 歯を食いしばりながら力を入れていると、ドーパントは短く鼻を鳴らして俺を煽ってくる。

 

「まさか恵理也にすら勝てずじまいだった君が私に勝てるとでも?」

「やってみねえことにはわからないだろ……!!」

「そう言って結局彼を止めることはできなかったろう?」

 

 そう言い、俺の斧を弾き蹴り飛ばしてきた。何度か地面を転がり、思わず斧を取り落とす。

 ドーパントの言葉を否定したいのはやまやまだが、残念ながら反論することができない。全て事実だからだ。

 

「何を言おうと事実を変えることは出来んよ。それに芯のないやつに負けるほど私は弱くないさ」

「芯がない……?」

「そうだ。君は漠然とした正義感だけで戦っていただろう。それすら失った今、負ける道理などない」

 

 芯がない。その言葉が心に深く突き刺さる。言われてみれば確かに俺が戦う理由は漠然としていて、ドーパントを許せなくて、放っておけば誰かが怪我をするから、死んでしまうかもしれないから力がある自分が戦っていたというだけ。

 恵理也の復讐を許せなかったのも、ただ人を殺すのは良くないからという一般的な常識に因るものだ。

 

 そしてあいつの死を経て、その芯すら無くなって宙ぶらりんになっている。

 

 それに比べて、あいつは芯があった。その善悪は別として、何を言われようとブレない強い意志があった。

 

 あぁ、勝てなかったのはそういうことだったのだろうか。

 今更それがわかったところで、覆水盆に返らずという言葉があるように過去が変わるわけはない。

 

 だが未来なら?

 

「まぁ、今から改善しようったって遅いがね。冥途の土産ということだ」

 

 ドーパントはそう言い、大きく杖を掲げてみせた。眩い光が杖の先端に集まり、それを俺の方へとゆっくりと向ける。

 それはまるで見せつけるようで。

 

「死ぬがいい」

 

 その言葉と共に、信じられないほど太いビームを発射された。

 

 視界いっぱいに広がる光。

 俺はそれを黙って──。

 

 

 

 

 

 

《Dispair!! Maximum Drive!!》

 

 迎え撃った。反射的に二つあったメモリの片方を引き抜いて斧のスロットに差し込んだ。

 斧にどす黒い色をした粒子が大量に集まり、それを力の限りビームに向かって振るう。

 ビームと接触する斧。ほんの一瞬だけ抵抗を感じたがそれらはすぐに搔き消え、ビームは細かな粒子になって霧散する。

 

「……おっと」

 

 意外だったのだろう。それか渾身の一撃だったのか。小さく声を漏らした。

 

「まぁ次で仕留めればいいだけの話だ」

 

 呑気にそんなことを言いながら、もう一度杖を掲げる。それを完全に無視し、俺は声を絞り出す。

 

「俺は、目の前で恵理也が死んでいくのを見た……。俺が止めることが出来なかったから、あいつは死んだんだ」

 

 あの日から抱えているものを吐き出す。この気持ちだけは、これから先忘れることなどできはしないのだろう。

 だからこそ。

 

「もう、後悔はしたくない。もう誰も……誰も俺の目の前で死んでほしくないんだ」

 

 絶対に、二度とあんな光景は見たくない。誰にも死んでほしくないのだ。

 ゆっくりと立ち上がり、マジックドーパントを睨みつける。

 

「だから戦うんだよ、俺は……。俺はもう、迷わない」

 

 強い意志を、消えないだろう火を心に灯す。心なしか力が漲ってくるような、そんな気がする。錯覚でも少し自信が沸いてくる。

 

 あぁ、そうだ。これも、理由の一つに入れよう。

 

「あいつみたいな境遇の奴が二度とこの街に現れないように……」

 

 これが俺に出来る責任の取り方だ。やはり復讐なんてのは俺には似合わない。

 ドーパントを倒して、倒して、倒しまくって。ドーパントによる被害者が出ることがないように。そうすればきっと、俺や恵理也のように大切な誰かを喪って、一瞬でも復讐だなんて考える人が減ることだろう。

 

「お前のおかげで目が覚めたような気がする。そこだけは感謝しとくよ」

 

 気に食わないが、迷いがある程度無くなったのも事実。それだけは言っておこうと思い口にしたが、それを受けたマジックドーパントが心なしか動揺しているような、そんな素振りを見せた。

 

「……姿が若干変わった、だと?」

 

 本当にポツリと、呟いたのが耳に入る。聴力が強化されたのだろうか。俺の目から見て何がどう変わったのか知らないが、おそらく変わったというのなら変わったのだろう。

 だから何だと言わんばかりにドーパントは杖を地面に強く突いた。彼の周囲の地面から岩塊がいくつか浮き上がり、俺の方へと勢いよく飛んでくる。

 

 俺はそれをゆったりと眺めながら、斧を構える。

 

 なんだろうか。明らかに脅威となり得るレベルのもののはずなのだが。

 

「あぁ、このくらいか」

 

 全く危険を感じない。得物を振り被り、襲い来る岩塊を次々に砕いていく。

 

 やはり、力が漲っているような感覚は気のせいではない。確実に、以前よりも力が増している。

 そんなことを考えながら辺りに巻きあがった土煙の中で静かに佇む。

 

 この土煙が鬱陶しい。軽く舌打ちして、無意識のうちに背中に力を込めた。翼でも生えたのだろうか。背中にあった何かが強い風を巻き起こし、それを晴らす。

 

 その様を見たドーパントは舌打ちしてさらに追い打ちをかけようと杖を宙に掲げた。あの杖が攻撃の起点なのだろう。

 ならあれを奪ってしまえば無力だろう。

 

 足に力を込め、軽く地面を蹴った。

 

 自分でも驚くほどの勢いで肉薄し、杖へと手を伸ばした。やつが転移するよりも速く、それを鷲掴みにすることに成功する。

 ドーパントは杖を奪われまいと抵抗し、至近距離で火球を放つが少し熱いくらい。大したダメージにはならない。

 

「そこまで抵抗するってことは……()()()()()()だよな?」

 

 ドーパントの腹に蹴りを入れて奪い取る。あの焦り様を見るに恐らく俺の推測が正しければ……。

 

 ドーパントは腹の辺りを摩りながらゆっくりと起き上がり、覚束ない足取りでこちらに駆けてくる。

 

 殴り掛かってきたのを片手で受け止めた。さっきまでは力が拮抗していたか、少し上回れていたぐらいだったはずの力量差が、今になっては確実に俺の方が強くなっている。

 そんなことを考えながらドーパントを蹴り飛ばした。

 

「さっきまで私の方が強かったはずなのに……!!」

「なんでったって知らねえよそんなこと。俺だって知りてえんだから」

 

 悔しがるドーパントに対してそう返し、血に塗れてイニシャルがわからなくなった黒いメモリを取り出した。

 俺にとって苦い思い出の塊のような存在で、それでもあいつとの友情の証でもある、ハザードメモリ。

 

《Hazard!!》

「あいつの人生を狂わせたことへの罰を──」

 

 いや、あいつだけではない。こいつが狂わせたはずの人々の分まで、きっちり与えてやる。

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、と少しだけ息を吐いてディノスはハザードメモリを腰のスロットに挿し込み、ボタンを押した。

 

《Hazard!! Maximum Drive!!》

 

 その音声が辺りに響くのと同時に背中に力を込め、大きな翼をはためかせて空に舞った。

 足に黒いオーラのようなものが収束していく。

 

 それを見ているはずのドーパントは、彼を凝視したまま動くことをしなかった。

 今にも逃げ出したい。そんな気持ちは強くある。本能が、理性が、そのどちらもあれを喰らえば死ぬかもしれないと警鐘を鳴らしている。

 だが、足がどうにも動かないのだ。いや、足だけではない。何かに縛られたかのように、体が動かせない。

 

 ただ、ディノスを見つめることしか出来ない。

 

 そんな状態のドーパントをディノスは空から睥睨する。太陽を背に、それの光を食い潰さんとする膨大な量の漆黒のオーラを足に。大きな翼を広げて宙を舞うその様は、まるで宗教画のよう。

 思わずドーパントは、嘆息を漏らした。

 

 次の瞬間、ディノスは降下。ドーパントへと勢いよく迫り、全ての力を込めてキックを喰らわせた。

 

 蹴り抜かれたドーパントは十メートルを越えるほどの距離も吹き飛ばされ、怨嗟の声を漏らしながらその身を爆ぜさせる。

 

 ディノスはドーパントの爆発を見つめながら、変身を解除してその身を晒した。

 ゆっくりとドーパントになっていた男の方へと歩み寄り、破壊されたメモリの破片を手に取ってじっと男を見つめる。

 

「これでお前の企みは終わったってわけだ。観念するんだな」

 

 吐き捨てるようにそう言う蒼。その表情からは確かに怒りを感じられる。絶対に許さないという、強い意志も。

 男はそれを見つめながら、目を瞑って口を開く。

 

「……あぁ、私の負けだ。ほら、さっさと殺せ」

 

 自身が恵理也の仇とでも言うべき存在であることをよく理解していた彼は、蒼によって殺されるものだろうと判断したのだろう。

 わざわざ誰もいないような場所に飛んだのだ。警察だって来やしない。なら、殺すのが彼にとって最善の選択肢だろうと、そう踏んだのだ。

 

「はぁ? ふざけたこと言ってんじゃねえぞお前。豚箱で一生反省してろ」

 

 しかしあっさりと男が出した答えが不正解であることを告げ、男を見下す。

 

「裁くのは法であって俺じゃねえ。ここであんたを殺したら裁かれるのは俺だ。そんなのはごめんだね」

「だが復讐するまたとない機会なんだぞ……!?」

「うるせえ良いから黙ってろ!!」

 

 なおも言い返そうとする男の胸板を踏みつけ、無理矢理に黙らせた。

 

「しつこい。俺は人を殺さねえ。これで俺が前科者になったら笑われるだろうがよ」

 

 誰に、とは敢えて言わない。言わずとも理解しているだろう。

 それでも、と口にした男の顔面に全力のパンチを食らわせて意識を奪う。

 泡を吹いて目を回すそれに蒼は醜い物でも見ているかのような目線を送り、ガラケーを取り出して警察へ通報する。

 

 警察とのやり取りを終え、後は彼らが来るのを待つだけということになった後。

 男から距離を取り、ハザードメモリをゆっくりと手にした蒼は、誰かに言い聞かせるように口にする。

 

「これで俺が復讐なんてやり出しだら、お前に言ったことが嘘だって事になっちまうからな……。ま、お前ならこうなることくらいわかってたろ?」

 

 彼の問いかけに答えるように、風が優しく彼の頬を撫でた。




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