仮面ライダーW Hの狂気/もう一人のライダー   作:八咫ノ烏

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凶兆のS/ほしをなくしたひと

 沙織さんが殺されてから、もうすぐ一か月が経とうとしていた。

 

 それだけの時間があっても僕は未だに立ち直ることができておらず、彼女が死んだという現実を直視できずにいた。

 

 彼女の家に行けば、柔らかい笑みを浮かべて出迎えてくれるんじゃないか。

 そんな期待を抱いて彼女の家に行っても、当然出迎えてくれる人なんて誰もいない。それどころか置いてあったはずの様々な家具の全てがそこから姿を消していて、彼女はもうここにはいないのだという現実を叩き付けられた。

 

 夜に散歩していれば、そのうち鉢合わせるんじゃないか。

 そう思って暗い街をいくら歩いても、すれ違うのは野良猫くらいなもので。襲ってくる虚しさと共に家に着き、毎夜のように枕を濡らした。

 

 星を見上げていれば、横から色んな知識を楽しそうにしながら教えてくれるんじゃないか。

 そんな考えが脳裏に過ぎってベランダから夜空を見上げてみても、当然誰も何も言ってくれなくて。いつしか視界がぼやけていって、込み上げる嗚咽を押し殺せずに声を上げて涙を流した。

 

 日常を過ごす中で、無意識のうちに彼女の面影を探しては寂寥感に襲われる。そんなことをずっと繰り返していて、心が段々と擦り切れていくのを感じていた。

 そうこうしているうちに段々と悲しみより喪失感の方が大きくなっていって、もう何もかもがどうでもよくなっていく気がして、いつしか涙さえ流れなくなってしまった。

 

 僕にとって彼女は、きっとそれだけ大切な存在になっていたのだろう。

 精神的に不安定で、将来どころか明日も危うかった僕をこの世に繋ぎ止めてくれていた。

 明日を生きる希望で、ずっとずっと暗かった僕の心を照らしてくれた星のような存在だったんだ。

 

 それを亡くした今、生きる気力が湧いてこないのも当然のことだった。

 

 いっそ、首でも括って橋を渡ってしまおうか。そんな何度目かわからない考えが頭をもたげ、僕は溜め息を吐く。

 そうすれば楽になれるし、沙織さんにも両親にも会える。良いこと尽くめなんじゃなかろうか。自死や自殺という概念を知ってから度々考えては捨ててきた考えだったが、彼女が亡くなってからかなりその頻度が増えてきていた。

 まだその勇気が出ないだけで、なにか一つきっかけがあれば容易に死んでしまえそうな。そんな気がしていた。

 

 けれど、彼女はそんなこと望んでいないだろう。俺には幸せになってほしいと、確かにそう遺言を賜った。そんな彼女が僕の自死を喜ぶはずがない。

 こんな考えが浮かんでしまうのは、きっと陰気臭い家に引き籠ってばかりいるからだ。気分転換でもすれば、少しは楽になるかもしれない。

 

「と思って外に出たのはいいけど……」

 

 特に目的地があるわけでもなく、行きつけの何かがあるわけでもなくただ風都を彷徨うだけ。鬱陶しいくら吹く風に顔をしかめつつ、空に目をやった。

 空虚なままの僕の心をバカにするかのような、雲一つない快晴。太陽の眩しい光が目に突き刺さる。まるで空に嫌味を言われているようで、僕は思わず俯いてしまう。

 

「……帰ろうかな」

 

 少しでも気が晴れたら、そう思った僕がバカらしくなってくる。そもそも出歩いてこの穴が埋まってくれるなら、とっくに正気に戻っているはずだ。

 それどころか惨めになってくるのなら、さっさと帰ってしまった方がいい。

 

 そうして僕は踵を返し、とぼとぼと帰路を辿る。

 

 何か、生きる理由を見つけなければいけない。今死んでしまえば、あっちで彼女に会ったときに責任を感じさせてしまう。

 まだもう少しだけ、生に縋っていたい。幸せでなくともいいから、あと少しだけは。

 

「……君が、黒神恵理也か?」

 

 そんなことを考えながら歩いていた僕に、誰かが話しかけてきた。

 聞いた覚えのない、知らない男の声。

 一体誰なのか、と思いながら振り向いた僕の視界の先にいたのは。

 

「いい顔をしているな。この世に心底絶望し切っている、そんな顔だ」

 

 黒いローブに身を隠し、顔も片目を残して仮面で覆っているといった見るからに怪しい大人の男だった。

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 

 僕にいい話がある。そういってその男は僕を人気のない橋の下まで連れて歩いた。

 ぶっちゃけ、断ってしまおうかとも思わないでもなかった。人は見かけで判断すべきではない、というのは常識ではあるがこの男のそれは常識の範囲外にある。犯罪行為をいくつかやっていると言われても、簡単に納得できてしまうくらいには怪しいと思える雰囲気を纏っていた。

 

 それでも着いていったのは、もしかしたらこの人が全部を終わらせてくれるかもしれないという期待がわずかにあったからかもしれない。

 自分から終わらせることはできずとも、他人の手でなら沙織さんが悲しみこそすれ責任を感じることはないだろう。そう思ったから。

 

 そうして連れられた橋の下で、男はその紫の瞳でマジマジと僕を見つめる。

 一体何がしたいのだろう、と思いながら身構えていると彼は何かを確信したかのように大きく頷き、腕組みして口を開いた。

 

「時に、黒神恵理也。お前はこの街に蔓延る悪鬼羅刹……ドーパントに対して強い憎悪を抱いている。違うか?」

「……だったら、なんなんですか。この街じゃさほど珍しくもないでしょう」

 

 言い当てられたことに若干動揺しつつ、そう言い返す。この街では何年も前からドーパントによる被害が度々出ていて、その数ある内の被害者の一人が僕だ。何も珍しい話でもなく、この街を歩いて適当に出会った人に聞けば、強い嫌悪感を示しているという回答を得られることだろう。

 

「家族を奪われ、愛しい彼女すら奪われ、しかし無力のせいでその恨みを晴らすこともできずに持て余しているのではないか?」

 

 僕が適当に答えたのに対して思うところがあるのか、少し嫌味な言い方でそう返してきた。喧嘩を売っているのかと思わないでもないが、別に乗ったところで僕に得するところは何もない。

 と、いうより。

 

「……沙織さんのことを言ってるんだったら訂正しますけど、あの人は彼女じゃないです。それ以外の人のことなら、多分誰かと間違えていますよ」

 

 彼女との関係を言い表すとすれば、軽度の依存関係となるだろうか。今にして思えば、僕は少し彼女に依存していた節がある気がする。

 

 閑話休題。

 そんな僕の返事に、男は至極どうでも良いといった風に

 

「ふむ、恋仲でなかったのか。まぁ、そのような些細な間違いなど捨て置け。重要なのはお前がドーパントに強く恨みがあるという点なのだから」

 

 などと返してきた。

 

「……何が目的なんですか? 僕に何をするつもりなんですか?」

 

 彼の真意がまるで見えない。わかったのは、とにもかくにも僕がドーパントに強い恨みを持っていることが重要、ということだ。

 一つ浮かんだのはこいつがメモリの売人で、ガイアメモリやドーパントに強い憎悪を抱いている僕に何かを売りつけようとしていることくらい。そこを刺激すれば手を染めるかも、などという魂胆なのだろうか。

 

 だが、こいつはメモリを仕舞っているケースを持っていない。噂に聞いた程度だが、売人はメモリが数十本も入ったジュラルミンケースを持ち歩いていて、その中のどれか一つを客に選ばせるのだそうだ。

 それが事実なら、少なくとも売人説は否定できるだろう。

 

 なら、猶更こいつは一体何が目的で僕に接触してきたのだろうか。

 

「そう警戒するな。お前にとっても悪い話ではないのだから」

 

 考えていることが顔に出ていたのだろうか。表情を引き締めて舐められないようにしなければ、なんてことを頭の片隅で考えながら、彼に対して言葉を返す。

 

「別にいい話というわけでもないんでしょう? こんな人気のない場所に連れ込んだんだから、きっと相応の何かが目的のはずだ」

「人前でベラベラと喋るべきでないという点では、その通りだ。リスクも多少はある。それは認めよう」

 

 彼はそう言い、僕に小さく首肯を返した。やはり違法に片足突っ込んでいること、なのだろうか。彼のこの後に続く言葉次第では、答えを出す前に帰ることも検討しなくてはならない。

 何も、率先して犯罪者になりたいわけではないのだから。

 

 冷静を装いながら、彼の出方を見る。

 威圧感を出したいのか、それが彼の癖なのか。両手をズボンのポケットに突っ込むと、鋭い眼光で僕を射貫く。

 

 心の内を見透かされているような、そんな気がした。

 

「お前は、ドーパントを殺したい。そして、殺すための力を欲している。そうだな?」

「否定は、しませんけど……。でも、そんな力なんてないはずです。あったらすでに警察がそれを使っているでしょうし、ガイアメモリ犯罪だってもっと解決されているはずだ」

 

 図星を突かれて一瞬どもってしまったが、それでも彼の言葉を否定する。そんな夢のような力がないことなんて、僕は嫌というほど思い知らされている。

 そんな力があるのなら、どうして両親や沙織さんは殺されなくてはならなかったのだろう。どうして未だに犯人が捕まっていないのだろう。もしあったのなら、こんな事態にはなっていないはずだ。

 

 そんな僕の言葉を、彼は呆れたように溜め息を吐いてさらりと否定してみせる。

 

「警察が……少なくともこの街のそれらが全くあてにならない、というのはお前が一番よく知っていることだろう?」

 

 そんなこと思ったことがない。そう否定しようとして、しかし僕の意思とは反対にその言葉は喉の奥でつっかえる。

 彼の言う通りで、未だに十数年前の事件一つすら解決できていないようなこの街の警察があてになるはずがない。色々と事情はあるのだろうが、それでもその事件の被害者としてそう思ってしまうのは仕方のない話だった。

 

 思わず俯き、黙りこくったのを無言の肯定と捉えたのだろう。

 彼はフン、と笑い声を一つ漏らしてズボンのポケットから手を出した。

 

「これが、お前が心の底から欲してきたもの。ただの人間がドーパントに対抗できる唯一の力だ」

「ガイアメモリ、じゃないか」

 

 彼の手に握られていたのは、黒いガイアメモリが二本とL字型の赤い装置。思わず嫌悪感をむき出しにしてそう言葉を漏らしてしまうのも当然だろう。

 

「僕がそんなものを使うわけないだろ。ガイアメモリのせいで人生狂ったんだぞ僕は」

 

 ガイアメモリは、親の仇も同然の代物。中にある記憶がどうであれ、それを無暗に使うことはしたくない。

 親を、沙織さんを殺したクズ共まで同じところまで堕ちるなんて、何があったって真っ平ごめんだからだ。

 

 そう敵意と嫌悪感を隠さずにぶつけられたことに面食らったのか、男は小さく息を漏らす。伝え方が悪かったか、などと言葉を漏らしているのはどういうことなのだろうか。

 

「何か勘違いをしているようだが、別にドーパントになれと言いたいんじゃない。そもそもこのメモリでドーパントになるのは不可能なんだがね」

「……なら、そのメモリは何のためにあるんだ」

 

 男の言葉に湧いた当然の疑問をぶつける。ガイアメモリに、ドーパントになれるという機能以外に存在する理由はあるのだろうか。少なくとも、この街で買い手がいる理由の大部分は人知を超えた力を持つ化け物になれるからというもので占められているはずだ。

 それのないガイアメモリなど、それこそ生産することすら無駄である石ころ程度の価値しかないのではないだろうか。

 

「開発された経緯は知らんが、これはドーパントを殺すために存在するようなものだ。それ以外の用途などありはしない」

 

 僕の疑問に、彼はそう答えて二本のガイアメモリを僕の方へと差し出してくる。

 Dの字が書かれたメモリと、Hの字が書かれたメモリ。

 

 ガイアメモリなんて嫌いなはずなのに、妙に僕の心はHの字が書かれたメモリ……ハザードメモリに惹かれてしまっていた。

 

「毒素を極限まで取り除き、その上でこのロストドライバーで濾過して変身する。お前のよく知るガイアメモリのように依存性はないし、死の危険はない」

「ドーパントとは違う、別の何かになるってこと?」

「そうだ。超人に変身し、ドーパントを殺す。悪人を裁き、報いを与える。それが、このメモリとドライバーの用途だ」

 

 返された答えに、僕は息を呑む。

 今までずっと欲していたものが、目の前に、男の手の中にある。どういう意図で僕に渡したいのかは未だにわからないが、事ここに至ってはそんなことはもう一切どうだってよかった。

 

「……後から返せと言っても遅いからな」

 

 そんなことを言いながら、男からガイアメモリと赤いL字型の装置──ロストドライバーとか言ったか──を受け取った。ズシリとした重みが手に乗っかって、僕はそれをじっくりと見つめる。

 

 もう少し早くこれを受け取っていれば、沙織さんを救えたのだろうか。

 脳裏に過ぎったのはそんなことで、僕はどこまでも過去に囚われているらしい。

 

「その力はお前の好きに使うと良い。ドーパントを殺して回るも良し、人助けのために使うも良しだ」

 

 一式を受け取ったのを見て満足そうな声音で男はそう言った。どうして満足そうなのか、何か面倒なことに巻き込まれてしまったんじゃないだろうか。そもそもこれをどこから手に入れたのか、なぜ自分で使わないのか、どうして僕に渡したのか。

 そんな不安と疑念が頭をもたげたが、それを口にする前に彼は僕に背を向ける。

 

「お前のことを影から見ているからな。精々私を楽しませてくれ」

 

 そんな訳の分からない言葉を残して橋の下を出て行った。

 僕もそれを追って橋の下を出て、辺りを見渡す。

 

「……いなくなった? この一瞬で?」

 

 男の姿がどこにもない。振り返っても、橋の上を覗いてみてもそこには無関係であろう人たちの姿しか見えなくて。

 明らかに怪しい、という印象を胸に抱きながらその日は帰路に着くこととなったのだった。

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 

 ガイアメモリとロストドライバーを受け取ってから二週間ほど。

 陽が沈んで暗くなった風都を歩いていた。

 

 特に用事があったわけでもない。ただ、なんとなく外に出ようと思って散歩をしていただけだ。

 やはり鬱陶しいくらい風が吹いていて、それでも陽射しがないだけ昼よりは外に出やすい。

 

「……本当に、どうしようかな」

 

 ぽつりと、誰に聞かせるでもなく呟いた。

 どうしよう、というのはあの怪しさ満点の男から渡された一式の扱いだ。

 

 あの時は、力が目の前にあるというその一点に強く心を奪われてそれを手にしてしまった。

 だが、冷静になって考えてみると僕はそれをどう使うべきなのかがわからない。

 

 どうやら僕の手には余る力らしかった。

 

 僕は全く争い事に慣れていない。人を殴ったことだってないし、もちろん命を懸けての戦いは一度だってしたことがない。そんな状態で戦ったとしても、返り討ちにされてボコボコにされている姿が容易に想像できてしまう。

 下手なことはするものじゃない、と僕の理性は言っている。

 

 だが、復讐できるものならしたいというのもまた事実。僕の理性を保っていたのは、人を傷つけてはいけないという最低限度の常識とそれを実行に移す力がないという事実だけだ。

 だが、今の僕にはその力がある。

 

 そして、親に続いて沙織さんまで目の前で喪った。ドーパントの手によって、親しい人を殺されてしまった。それらから来る復讐心が胸の奥で燻っているのもまた、事実であった。

 

 故に生まれる選択肢。

 ドーパントを倒し、中の人間を殺す。

 

 これは犯罪だと叫ぶ僕と、奴らも人殺しなのだから自業自得だと叫ぶ僕。

 辛うじて前者が勝っているから行動していないだけで、少しでも後者が上回ってしまえば簡単に人を手に掛けてしまえるだろうという嫌な確信が僕にはあった。

 

 だからこそ、悩んでいた。

 力を捨てるべきか、否か。

 

 別に捨ててしまっても何の問題もないはずだった。長年力を得ることを夢見てきたとはいえ、何も人殺しになる必要はない。風都を出られる日まで我慢して、どこか遠くの街に引っ越してから全てを忘れて生きてみるというのもアリだろう。

 どうせ高校を卒業したら別の街に住むというのは確定していた未来だ。あと二年と少し我慢すれば、ガイアメモリやドーパントなどといったものとは絶縁できるのだから。

 

 だが、本当にそれでいいのだろうか。

 何もせず、時間が解決してくれるのを待つだけでいいのだろうか。

 

 殺せ、殺せ、と心の奥底で復讐心が囁く。せっかく力を手に入れたのだから、動かなければ損だろう。

 せめて沙織さんと両親の仇は討たなければ。どうせ警察に任せたとしても到底解決するとは思えないのだから、それならば自分の足で犯人を捜して殺してしまう方が良いのではないだろうか。

 

 常識と感情論。心の中でぶつかっては、消えていく。

 一生考えたって答えなど出やしないだろう。僕にとってはどちらも正しいことで、どちらを取っても後悔するだろうというのはわかり切ったことだったから。

 やって後悔するか、せずに後悔するか。結局のところはそれだけの話。やたらスケールが大きいような気がしなくもないが、根本的にはそれだけだ。

 

「……沙織さんが生きてたら、占ってくれただろうか」

 

 ぽろりと、無意識のうちにそんな言葉が零れた。すぐに一体僕は何を言っているのだろうと自嘲気味に笑みを浮かべた。何を間違っても彼女にこんな話をするわけにはいかない。

 そもそも占ってどうこうなる問題でもないわけで。

 

 僕は僕が思っていたよりもずっと、相当精神的に参っているらしい。少しだけ立ち直れたかも、というのは気のせいだったようだ。

 呆れた、とばかりに溜め息を吐いて俯いた。そんな僕に、誰かが話し掛けてきた。

 

「よく見たらお前、渡会んとこに出入りしてたガキか?」

 

 妙にどこか聞き覚えのある声で、僕は思わず足を止めて男の顔をチラリと見る。その顔に見覚えはなくて、しかし彼が僕と沙織さんのことを知っているということは、沙織さんの知り合いなのだろうか。

 

「誰ですか、あなた。お会いした記憶がないんですけど」

 

 とはいえ、僕からしたら怪しい人物であるということに変わりはない。すぐに逃げられるように周囲の道をチラリと確認し、脳内で地図を広げ始める。

 そんな僕に、男は嫌な笑みをニタリと浮かべこう言った。

 

「あの時渡会ん()に来たんだろ。靴が増えてたからすぐにわかったぜぇ、サツにパクられちゃ一巻の終わりだから渋々見逃してやったけどなァ」

「……は?」

 

 今、こいつは何を言った?

 靴が増えていて、それに気が付いたが警察に捕まったらマズいから見逃した?

 

「お前、まさか」

 

 その発言と、聞き覚えのある声という点が繋がって線になり、言葉の真意を察した僕は思わずそう言葉を漏らす。

 沸騰したかのような熱い怒りが、空いていた心の穴を満たす。頭に血が上っていくのが嫌というほどわかる。

 

「お、察しがいいらしいな」

 

 その声は、あの時机の下で聞いた男の声と同じで。

 

「渡会を殺したのは俺だよ、ガキィ!!」

 

 そう自慢げに宣言する男。

 僕は限りない殺意と怒りを胸に、沙織さんの仇と対峙することになったのだった。

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