仮面ライダーW Hの狂気/もう一人のライダー   作:八咫ノ烏

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三話目です。はい。


第3話 人攫いのM/事件の始まり

「ふっ!!」

 

 という掛け声と共に走り出し、ドーパントに飛び蹴りをする半分こライダー。その勢いのままに回し蹴りを炸裂させる。

 ドーパントは反撃をするどころか防御することすらままならないらしく、完全にされるがままといった様子だ。

 

「チッ……」

 

 と吐き捨てるかのように舌打ちして後退りするドーパント。半分こはそれを見るや得意げに

 

「へっ」

 

 と言いそれを追いかけ、また回し蹴りのラッシュをお見舞いしている。蹴りが基本的な戦闘スタイルなのだろうか。もし彼と戦う時があったらどうにかして足を封じなきゃな、と考えて僕は成り行きを見守る。

 半分こはドーパントに何回も回し蹴りを叩きつけてから大きく跳躍し、

 

「オラァ!」

 

 と言う短い気合と共に跳び回し蹴りを顔面に食らわせ、それを食らったドーパントは大きく後方に飛ばされて

 

「ぬあぁッ……」

 

 と言う悲鳴を上げながら地面を転がる。半分こがゆっくり近付くと、ドーパントは体に炎をまとい、それを半分こに向かって火球として放った。僕の時には見なかった技だが、なぜ使用しなかったのだろうか。あれを打たれていたら僕は負けていたかもしれないな、と思い少し体を震わせる。

 放たれた火球は不規則な軌道を描いて半分この頭上に降り注ぎ、半分こは危なっかしくそれを地面に転がりながら避けている。

 

「あぁ……それ危ないんじゃないの? お、避けれるのか」

「なーお」

 

 あまりの危なっかしさからそう呟いてしまう。野良猫は多分それに反応しただけだと思う。あくびしてるし。

 半分こは当たるか当たらないかギリギリのところを避けていく。本人は恐怖など何ら感じているわけではないようで、

 

「だぁぁ! あっちいなぁ!」

 

 と文句を言っている。そりゃ火を間近で避けてるんだから暑いでしょ、と反射的にツッコミそうになるがどうにかそれを抑える。

 半分こはほんの少し立ち上がり、腕を防御するように構え火球をしのぐ。すると、また誰かの声が聞こえた。

 

「こういう場合は」

 

 その言葉を言い放つやいなや、スロットを戻し黄緑色のメモリ……あれがサイクロンメモリだろうか。それを引き抜く。

 何で戦闘時にメモリを引き抜くんだ!? と困惑したのも束の間、それを引き抜いた当の本人も

 

「え?」

 

 という気の抜けるような声を漏らす。が、その左手には黄色いメモリが握られていて。

 

「いくつもメモリを持っているのか……!?」

 

 思わず驚愕して半分こを凝視する。二つ同時にメモリを起動できている時点でかなりおかしいのに、そこからさらに派生するのか。一体あれの中身は何者なんだ? まったく想像できないが、探偵が中身という噂は十中八九嘘だろう。ただの探偵がメモリをいくつも持てるわけがない。

 

《ルナ》

 

 という電子音声が響く。半分こはそのメモリを何のためらいもなくスロットに差し込み、少し乱暴にそれを倒した。

 

《ルナ! ジョーカー!》

 

 その電子音声と共に緑色だった半身が黄色に変色して、迫りくる火球を某海賊漫画の主人公のように腕を伸ばして根こそぎ薙いだ。自由に腕の長さを変えられるのかと驚いたが、半分こは苛立ちの声のようなものを上げながら

 

「おいお前ぇ!! 勝手にメモリ変えんなよ!」

 

 そう言ってまた飛んできた火球をゴムのようになった腕で迎撃し、その勢いのままドーパントの顔まで腕を伸ばしてそれを掴んだ。うわ、と思わず呟いて野良猫を抱えたままそこを離脱しようとした僕。これ以上ここにいてもおそらく意味はないし、黄色いのの気持ち悪さに耐えられる自信がない。

 それにもしものことがあれば僕が出ようかなとも思ったけど、あの様子を見るに負けることはまずないだろう。誰か別のドーパントが来る前にさっさと退散するとしようか。

 

 そう思い、野良猫を抱え直して体を翻してその場から走り去った。

 

 

 

 

 翌日。学校でドーパント出没の噂が流れていた。その現場に僕が居合わせていたということと、僕が半分こに変身してそのドーパントを撃退したという盛大な尾ひれを付けて。

 その噂が流れた結果、僕は今机を囲まれて身動きが取れない状況に陥ってしまってる。

 

「だから僕じゃないんだってば。いや確かにその場に居合わせたけどさ、僕が変身したって誰情報なのよ? 僕がヒョロヒョロでそういうのに無縁なの知ってるでしょ?」

「誰情報かは知らんが、お前がライダーになるところを見たってやつがいるのは確かだぞ。ま、どうせ嘘だろうけどな」

「じゃあやっぱり嘘じゃないか! いい? 僕は戦いとは無縁なんだよ!」

 

 必死にそう叫ぶ。その情報が誰なのかを追求したいところではあるけど、それに固執してたらやっぱお前だろってなる可能性が高いしここは我慢してあとから聞いておくとしよう。

 蒼は苦笑いしながらそう反論する僕を見て訝しむように首を傾げて問う。

 

「お前やけに必死じゃねえか。なんか後ろめたいことでもあんのか?」

 

 その一言で心なしかどうなんだ早く言えよ、という威圧が僕に向いたのを感じる。なんでそういうことを言っちゃうかなぁ! と心の中で叫んで、焦って真っ白になっている頭をフル回転させてなんとか嘘を捻り出す。

 

「あー、実はそのライダーが変身するところ見ちゃってさ。中身が誰か僕はもう知ってるんだ。誰か言ったら殺すって言われちゃったから教えないけど」

「……。嘘は言ってないらしいな」

「ねぇなんなのさ最初の間とらしいって。もしかして疑ってるの?」

 

 僕がそう聞くといんや? と言って立ち上がり、教室を出て行った。もしかして何か引っかかることでもあったのかな? 多分トイレに行くだけなんだろうけどね。

 蒼のさっきの言葉でじゃあ誰なんだ? と推測しだす同級生たち。頼むから僕の席を囲まないでくれないかな? と苦笑いをしつつ教科書を取り出す。もう少しで授業が始まる時間のはずだ。しかも怒ると超怖いタイプの先生だから、あまり彼が怒りそうなことはして欲しくないんだよね。早いところ座っておいて欲しいところだ。

 

 そんな僕の願いも虚しく、同級生たちはチャイムが鳴った瞬間にハッとして自分の机に戻ろうとしたものの、すでに教室の中に入っている先生の叫び声が響き、

 

「コラお前らぁ! 特に黒神ィ!! 時間管理をしっかりせんかァ!!!」

「なんで僕なんですかぁ!!」

 

 理不尽だ! と抗議する僕だった。僕ちゃんと準備してたじゃないですか!? という僕の言葉を聞くことなくその後担任に報告されて、蒼を除くクラス全員が怒られる羽目になったのはまた別の話。

 

 

 放課後。自転車を押して歩く僕と、その自転車の前かごが空いてるのをいいことに荷物を放り込んで楽をしてる蒼。いつもとなんら変わらないただの日常風景。

 

「ねぇ、荷物くらい自分で持ってよ。前に荷物を載せた状態でハンドル操作するの結構難しいんだからね?」

「どうせ手で押してるんだから操作性もへったくれもないだろ。それにそのカバンに入れてんの空になった弁当と飲みかけの水筒だけだぞ? 何にも重たいもん入れてないんだが?」

「だとしても邪魔なことには変わらないから自分で持ってくんない?」

 

 そんな他愛のない会話をしながら家に向かって歩く。いつもだったら蒼の思いつきでカフェだとか服屋さんだとかに寄り道するんだけど、一昨日昨日と寄り道をした先で襲われたから流石に自重しようって話になった。娯楽より自分の体の方が大事だからね。僕としてはそこまでお金を持ってるわけじゃないから、そもそもあんまり寄り道はしたくないんだけどそれは黙ってる。蒼も知ってることだしね。

 

「俺だってお前に色々奢ってやってんだろぉ? それでチャラだろチャラ」

「まるで僕が金に釣られてるみたいな言い方しないでほしいんだけど」

「実際のところそうだろ」

「違うわ!」

 

 思わず突っ込む。そこまでがめつい性格してないと思うんだけどなぁ。まあもらえるんなら最大限もらっときたいけど、世の中そんなに甘いわけじゃないからね仕方ないね。別にお金が貯まったところで何かをしたいとかあれが欲しいとかいう使い道は特に考えてないけど、あって損はしないのがお金だ。下手にバカスカと使うよりもちょっとずつ貯金した方がいいと思ってる。

 蒼はそのツッコミを聞くとニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら

 

「じゃあなんで寄り道する度俺がお前に奢る羽目になってんですかね」

「それはお前が奢ってやるとか言うから素直にその誘いを受けてるだけであって、僕から集ることはしたことないからね。勘違いしないでくれるかな」

「そうだっけか? 何回かこれ奢ってとか言われた記憶が」

「ねぇよ! 嘘つくなし!!」

 

 僕がそう返すと記憶の改竄に失敗したか、と言って舌打ちをしていたので頭をポカリと叩く。一体何をやろうとしてるんだこのバカは……。どう考えてもそんな程度のことで記憶の改竄ができるわけないでしょうに。そもそも改竄しようとしてる側がそんなすぐ折れちゃダメでしょ。もっと根気強く行かないと……何を真面目に考えてるんだ僕は。

 

「記憶の改竄をしたいんならガイアメモリでも使うことだね。まあ使ったらお縄に着くことになるけど」

「誰があんなの使うかっての。そう言えばあれ未成年には売らないらしいぞ。まあ普通は高校生のガキンチョの手に届く金額じゃねえんだろうけどよ」

 

 そう腕を組みながら僕に言う蒼。その言葉に僕は表面上はそうしてるだけだよ、と心の中で呟く。今まで何回も何回もドーパントと戦ってきたけど、その中には明らかに未成年だろお前ってやつが何人かいたはずなんだ。

 だから未成年に売らないというのはただの建前でしかなくて、ガイアメモリを売ってる連中からしたらこの街なんてただの実験場でしかない。だからガキ一人がそれに飲み込まれようが、撃破されて殺されようが彼らには全くもってどうでもいいことなんだ。

 

 所詮はそのような街でしかないんだ、風都ってのは。治安を守るはずの警察ですらガイアメモリの製造元を特定できていないし、ドーパントに対する対抗策を持っていない。だからいつも警察は怪我人を出してるしだドーパントを止めることができていない。と言うか止める以前の問題なのだ。いいように弄ばれている時点でもう論外だ。当てにはならない。

 

 その上事件を起こしたドーパントを倒しているのは僕はあの半分この二人だけしかいないから、そのどちらか一方でも倒れたらこの街はどんどん荒廃していくことになるだろう。そうならない内にもう一人ライダーが出てきてほしいところではある。二人で対処できる物事にも限りがあるし、そもそもまだ僕と彼もしくは彼らは知り合いですらない。いつ敵対してもおかしくないのだ。

 それに僕は彼のことをほとんど何も知らないし、彼も僕のことは全く知らないはずだ。まず協力のしようがない。

 

「てかあれなんでこの街から消えないんだ? 警察だって何もしてないわけじゃないんだろ? 少なくともあれがこの街に蔓延り始めてから6年以上は経ってるはずだぜ? 何も捜査してないなんて馬鹿げたことだってあるわけないだろうに」

 

 そんな裏事情を知るはずもない蒼が空を見上げてそう呟く。僕はそれにさぁ? と返して下を見る。やっぱり僕は普通じゃないのか? なんて考えが脳裏を過ぎる。それもライダーになってしまったのだから仕方のない話なんだけど、やっぱり普通の高校生活というものを送ってみたかったなと思う。

 

「何も対策をしてないわけじゃなくて対抗策がないんだと思うよ。あの超人に対抗できるほどの装備なんてそう易々と開発できる物じゃないだろうし」

 

 僕がそう言うと蒼は確かにそれが一番の理由だろうな、と返して不満そうに石を蹴り飛ばす。僕はその石ころを目で追ってから蒼に問いかける。

 

「それで? いつもならもう別れてるはずの場所を過ぎたわけだけどどうするの?」

「は? マジで?」

「マジだよ周り見てみなよ」

 

 僕がそう言うと、蒼は辺りを見回わしてから頭を抱えて本当やんけ……と言ってだるそうにくるりと体を翻す。僕は前のかごに入れてある彼のカバンを持ち上げて彼に突き出す。

 

「ほら、カバンを自分で持たないからこういうことになるんだよ。これに懲りたらちゃんと自分で持つことだね」

「なんでそうなるんだよ意味わからんこと言うなって」

 

 そんなバカ丸出しの会話をして別れようとしたその時だった。

 

「キャァァァ!!」

 

 絹を裂くような悲鳴が聞こえた。僕らは目を見合わせて

 

「行こう!!」

「ああ!!」

 

 そう言うや僕は悲鳴が聞こえた方向に全力で自転車を漕ぎ出す。蒼を置いていく形になってしまったけど、今はそんな悠長なことを言っている場合じゃない。

 多分この先の十字路辺りでの悲鳴だろう。この辺りで事件がよく起きる場所だから、魔の十字路と言われていて付近の住民はなかなか立ち寄ろうとしない。だから悲鳴の主はおそらくこの地域の住民ではないだろう。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 どの十字路に入った瞬間にそう叫んで辺りを見渡す。カーブミラーの反射する太陽光に思わず目を細めながら襲われた痕跡がないか、もしくは倒れている人はいないかなんかを確認していた。

 していたのだけど……。

 

「はぁっ……はぁっ……。あ? 誰もいなくねぇか?」

「あぁ。そうなんだよ。誰もいた痕跡がないんだ。襲われたのならそれなりに暴れ回った痕なんかがあってもおかしくないはずなんだけど……」

 

 そう。何も痕跡がない。一体どういうことなんだろう。ここは十字路で誰にも見られず逃げるには少々無理があるのに、襲った犯人の影すら見えない。悲鳴が聞こえたのが僕一人だけだったのなら、さっきの悲鳴が気のせいだったという可能性も十分視野に入れられるんだけど、蒼もその声を聞いているから誰かが襲われたのは間違いないはずなんだ。

 なのに何も痕がないのはなんでなんだ? 一体どういうことなんだろうか。一応住宅街だから敷地内に侵入して身を隠すことはできなくもないけど、それにしたって誰の声も聞こえないのは不自然すぎる……。

 

 と顎に手を当てて考える僕を横目に蒼は側溝を覗き込んでいる。

 

「そんなところにいるわけないでしょ。人一人隠せる程の大きさじゃないじゃん」

「あ、そうかさすがに無理か。……ならそこのマンホールの中とかどうだ? 確認する価値はあると思うんだけど」

 

 と言って僕の足下にあるマンホールを指差す蒼。その言葉を聞いて僕は少し考えてからゆっくりと首を横に振る。

 

「それは無理だ。僕らじゃ開けられないよ。確か専用の工具がいるはずだから、もしマンホールの中に隠れてるのであればどこかしらが壊れてるはずだけどそのマンホールに破損してる箇所はないみたいだし、その線は薄いと思う」

 

 そう言うとじゃあなんだってんだよ! と叫んで苛立ちをカーブミラーの柱にぶつける蒼。それを見て彼を諫めようとしたけど、その言葉は彼の絶叫に遮られた。

 

「おい! これってうちの学生証じゃねえか!!」

「なんだって!? あ、触っちゃ駄目だからね!! 僕らの指紋がついちゃうから」

「わりぃ。もう触っちまったから手遅れだ。すまんな」

 

 そう言ってその学生証をピラピラと煽ぐ蒼に僕は馬鹿野郎! と思わず罵声を浴びせて彼の頭を叩く。もう少し考えて行動してくれよ頼むからさ、と言いながらその学生証についている校章を見ると、確かにそれは僕らの高校のものと全く同じだった。

 どこに落ちてたの? という意味で首を傾げてみせると、彼はカーブミラーの根元を指差して言う。

 

「あそこだ。なんでそんなところに落ちてるかは、まあ大体察せるよな」

「襲われた時に落ちた、くらいしか考えられないね。あんなところに落ちるなんてそうそうないだろうし。それの落ちてたところから察するに、多分この先に逃げたんだと思うよ」

 

 そう結論付けた僕らはとりあえず警察と学校に連絡を入れることにした。携帯を取り出して110番を押そうとする僕の目は鋭く光っていたと思う。

 この事件、確実に人間にはなし得ないことだから、十中八九ドーパントの仕業だ。そうなると僕か半分こが動かなければならなくなる。ここからしばらくは気の抜けない日々が続きそうだなぁ……、と思いつつ、繋がった瞬間に捲し立てる。

 

「もしもし警察ですか!? 事件です!! 多分!!」

『多分!? え、えっと、詳しく状況説明を願えますか?』

 

 僕の言ったことに驚いた声が受話器越しに聞こえた。僕はそれに思わずくすりと笑いかけてから落ち着いて説明を始めるのだった。

 

 

 

「あ、あんたなんなのよ!! なんで私を狙うのよ!! あんたが誰だか知らないけどこんなことしたらただじゃ済まないわよ!!」

 

 白い部屋で四肢を縛られた少女が、キッと目の前に静かに立っているドーパントを睨みつけながら威嚇するように叫ぶ。

 だが、そのドーパントはその言葉を聞くとフフフッ、と楽しげに笑い声を漏らすと、

 

「別にどうにもならないですよ? ここはただの廃墟ですから。どれだけ叫ぼうと誰の耳にも入りませんし、警察はここに来れません。私に捕まる要素なんてないですし」

 

 と冷酷にそう告げる。それを聞いた少女はそんなバカなことあるわけ、と鼻で笑い飛ばして余裕そうな笑みを浮かべてみせたが、その額には汗の粒が浮かんでいて全く余裕でないことを物語っている。ドーパントはそれを見てその汗を化け物のようにトゲが大量についている手でその汗を荒々しく拭きとってから少女の顎に手をやり、クイッと自分の顔に近づけるとこう告げる。

 

「今からするのはちょっとした復讐です。私があなた()()にされたことを同じだけし返すんです。こうなった原因に心当たりがないとは言わせませんよ?」

 

 その言葉に目を見開いて体を震わせると、

 

「あんたまさか……!!」

「ええ。そのまさかだと思いますよ。と言っても中身を晒すつもりはないですが」

 

 えへへ、と無邪気に笑ってみせるドーパントだが、見た目の厳つさのせいで全く可愛らしく見えない。床に転がる少女はかつて経験したことのないほどの恐怖に襲われ、体をブルブルと震わせながらか細く許しを乞う。

 

「いや……やめて……。私が悪かったから……だから!」

「やめてくれ、とでも言うつもりですか? 嫌に決まってるじゃないですか」

 

 そう言って楽しそうに歩を進めるドーパント。少女はいろいろと喚くが、何を言われてもそんなもの知りませんよと言ってその言葉を蹴り飛ばす。

 どんどん近付いて行って、首に手をかけるとゆっくりと絞めていく。ジワジワと死が迫るのを本能で感じ取ったその少女は

 

「いやぁ!! いやぁぁ!! 死にたくない! 嫌だぁぁぁ!!!!!」

 

 と叫ぶ。その叫び声は辺り一帯に響き渡って、しかし()()()()()()()()()()()()()()()、ただ虚しく虚空に消えるのみであった。

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