仮面ライダーW Hの狂気/もう一人のライダー   作:八咫ノ烏

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一ヶ月振りの更新となりました。非常に待たせて申し訳ないです。
というわけで9話です。どうぞ。


第9話 欲望漬けのJ/歪められた裁判、開廷

 僕がウルフドーパントであろう変態野郎をぶっ飛ばした翌日。女性が攫われ始めたという大きなニュースが再び街を駆け巡った。

 つい数週間ほど前の鏡誘拐事件の再来だ、とかそれとはまた別の犯罪者の犯行だ、とか色んな憶測が飛び交っている。警察も今度こそ攫われた人を助け出そうとかなり気合いが入っているようで、駅前や風都タワーの近くでいっぱい聞き込み調査をしているのを今朝見かけた。

 

「こんな頻繁に出るかよ普通さぁ……」

 

 ガラケーを見つめながらそうボヤく蒼。僕もその言葉には概ね同意する。どうせ今回もドーパントの仕業だろう。いくら何でも出てくる頻度が多すぎる。今月だけでもう5人は見聞きしたし、何か陰謀か何かがあるとしか思えないレベルだ。

 

「警察も骨が折れるだろうねぇ。これがもしドーパントの仕業なら仮面ライダーも忙しそうだね」

「これだけ忙しいと折れるどころじゃ済まないかもな。一人も死人が出なきゃ良いんだが……」

 

 パタリとガラケーを閉じて懐にしまう蒼。その顔には何かを決意したかのような表情が張り付いていて、僕はそれを訝しみながらテキストを取り出した。

 一体何を考えてるんだろうか。僕の思い違いならいいけど、もしかしてこいつドーパントを探し出そうとしてるんじゃなかろうな。もしそうなら殴ってでも彼を止めなきゃならないな。

 

 ところで。

 

「そんなことより朝のショートで英語の文法テストあるけど勉強しなくていいの?」

「は? それ明日じゃねえの?」

 

 蒼は何を言ってるんだお前は、といった表情で俺を見つめる。それに僕はため息を吐いて、

 

「じゃあなんで周りが英語のテキスト出してるのかわかる?」

 

 そう聞き返すと蒼は定期試験の予習だろどうせ、と言いながら後ろの黒板を見て顔をどんどんと青ざめさせていく。その黒板には無慈悲にも

 

『朝SHR 文法テスト』

 

 そうはっきりと書いてあって、彼はそれを受け入れられないと言わんばかりにわなわなと震えて僕の目を見た。僕は彼の肩に同情の意味を込めて手をポンと置いてゆっくりと頷く。こればかりは英語の先生以外の誰にも変えられない事実だ。仕方ないことだろう。

 みるみるうちにその顔を絶望感に染めた蒼。何度かうめき声を上げた蒼は頭を抱えて叫ぶ。

 

「ぁぁあああああああ!!!!」

「うっさ……大声出すなよ」

「あぁ……終わった……」

 

 悲壮感に満ちた声でそんなことを言いながら絶望する蒼。僕は諦めな、と追い討ちをかけてからテキストに向き直る。申し訳ないけど、僕だって彼に付き合ってる余裕はないんだ。許してくれ蒼。

 

「教えてくれやしないか?」

「嫌に決まってるだろ」

「即答かよ!?」

 

 

 

 帰宅途中。朝のテストの件で気分が沈みに沈みまくってる蒼を何とか引きずり出して、今は二人乗り……俗に言うニケツだ。バリバリ校則違反だしそれ以前の問題だけど、適当に乗り回してたら機嫌を直してくれるだろう。

 

「ほらいつまでもしょげてないの」

 

 そう言って肩を叩くと、蒼は深いため息をついて

 

「はぁ……あんな悲惨な点数初めて取ったぜ……中々心に来るぜありゃ」

 

 と嘆く。彼の得意教科ではなかったはずだけど、それなりに思うところがあるのだろう。普段はちゃらんぽらんで訳のわからないことをやったりする彼だけど、意外と勉強面ではちゃんとしているのだ。

 でもまぁ……

 

「まあでも忘れてたお前が悪いよねそれは」

 

 こんなことは当たり前だ。

 

「それは確かにそうなんだけだも。慰めようとしてるのか追い撃ちかけようとしてんのかどっちなんだよ」

「いや貶してる」

「第三の選択肢ッ!? お前には人の心はないのか!!」

「無かったら僕はただのロボットになってしまうよ」

 

 そう返して自転車を漕ぐ。荷物の量が多いし後ろに人一人乗ってるのもあってかなり重たいけど、学生だし二人乗りしてる以上は仕方のないことだろうと割り切る。もやしのヒョロガキには結構辛い。

 一応ライダーとなって戦い始めてからもう2年くらい経つけど、不思議なことに筋肉がつく気配は一向に無い。普通は戦ってたら自ずと肉はつくと思うんだけどな。諦めて筋トレするしかないのかな。いくらライダースーツで超人的な力を使うことができるとはいえ、元の力が無ければそれもドーパントと戦うには意味を成さない可能性だってあるわけで。鍛えておいて損はしないし、なんかで調べてやってみようかな。

 いや、身近に筋トレに詳しそうなやつがいるのを忘れてたわ。蒼をじっと見つめる。

 

「蒼ってさ、筋トレのやり方知ってるよね。元サッカー部だし」

 

 そう聞くと蒼は自嘲気味に鼻で笑い、

 

「サッカー部っつってもベンチだけどな。まあ一応トレーニングの一環としてやってたことはあるけどそこまで覚えてねえかなぁ。なんせ辞めて二年も経つんだぜ?」

「三年間もやってたら体が覚えてるでしょ。記憶にあるやつだけでいいからさ、教えてほしいな」

 

 どんなんがあったっけなぁ、と若干面倒くさそうにボヤく蒼。しばらくはこれで気が紛れるだろう。あとは勝手に機嫌が治るのを待つだけだな。そう思い空を見上げ、少しため息をつく。僕がまともな人生を歩んでる途中だったらライダーだからとか考えなくてもいいんだけどなぁ。

 

「とりあえずコンビニ寄ろうぜ。水筒のお茶切れたしなんかジュース買いてえ」

「僕に一本奢ってくれるならいいよ」

「今まで何本も奢ってきたのにまだ言うか」

 

 無邪気に笑いながら僕の髪の毛を掻き回す。セットしてるわけじゃないから髪型が崩れるとかは無い。無いんだけど、くすぐったいからやめてほしい。あとそんなことよりも、視界がグラグラするから酔いそうだ。

 

「やめろ! こけるだろ!」

 

 ハンドルを狂わせかけて思わず怒鳴る。しかし蒼はその手を止める様子を見せず、むしろもっとかき乱し始めた。

 

「とか言いながら満更でもなさそうなのは何でなんだ、えぇ?」

「全ッ然満更じゃねえ!! むしろ不満でしか無いわ!! つーかこけるって言ってんだろうが!! やめろこの馬鹿野郎!!」

「そんなに怒鳴るこたぁねえだろ!? うわ、ちょあぶっ……おぉい!! 蛇行すんな落ちるだろ!!」

「うるせえ!! 抵抗してないで早く落ちろ!!」

「何やべえこと言ってんだちゃんと運転しろこのアホたれ!! 巻き添えくらうじゃねえか!!」

 

 そんなことをわーわーと騒ぎながら、周りから奇怪なものを見るような目線を気にせずにふらふらと前に進む。こういうことをしていると青春してるな、と感じる。実際こんなバカみたいなことをやる高校生なんて僕たちくらいなもんだろうけど。

 

「はっ! やめろやめろ言っときながら笑ってやんの! やっぱお前満更でもないんだろ!?」

「うるさい! 落とされたくなきゃやめろ!! 本気で落と……あっやべ」

「げっ……」

 

 手元を大きく狂わせて自転車が僕らごと傾いた。空と地面が反転して、ガシャン!! と大きな音を立てて、そしてコケた。

 

「痛え!!」

「盛大にコケたなこりゃ……あーいってぇ」

 

 膝を摩る。幸い僕も蒼も怪我はないみたいだ。強く打ったところはかなり痛いけど、病院に行くほどじゃないし多分大丈夫だ。

 

「……とりあえずコンビニ寄って絆創膏でも買おうぜ」

「ジュース買うんじゃなかったの?」

「ジュース買うついでだよ。詫びになんか一本奢ってやるから。ほら、手ぇ貸すから早いところ立てよ」

 

 苦笑いしつつ僕はその手を握って体を起こす。もう二人乗りなんて絶対にしないぞ、と心に固く誓い自転車を起こそうとしたちょうどその時だった。

 

「君こそこの僕の伴侶となるに相応しい女性なんだ!!」

 

 どこかで聞いたことがあるような声。どこで聞いたんだっけな、と記憶の中を彷徨いながら自転車を起こして散らばった荷物を集める。蒼はすっ飛んでいった自分の荷物を拾う様子もなく、女性に熱く求婚し続ける男の方をじっと見つめている。

 

「だから嫌って言ってんでしょ!! 制服着てるの見てわかんないの!? 私高校生なんだけど!!」

「何度伝えたらわかってくれるんだ……。君以外に僕の妻に相応しい人物などいないんだよ!」

「しつこい!! 朝から付き纏っては意味のわからないことをペラペラと鬱陶しいのよこのド変態クソ野郎のロリコン!!」

 

 話を聞く限りただの変態さんとそれに絡まれてる可哀想な女子風高生ってところか。触らぬ神に祟りなしって言うし、ここは早いところ退散した方が良さそうだ。あ、でも警察を呼ぶくらいはした方がいいかもしれない。

 そう思いガラケーを取り出して110番に電話をかけようとした。しかし蒼にガラケーを奪われる。

 

「いったい何のつもり?」

「警察を呼んでる暇はないかもしれないぞ。今にも殴り合いになりそうだ」

「だったら余計に今呼ぶべきじゃないか。とりあえずそれ返せ」

 

 ガラケーを取り返して再び110番をかけようとしたその時、辺りに乾いた音が響いた。これはやばいことになるぞ、とそんな嫌な予感をひしひしと感じながら顔を音のした方へと向けた。

 どうやら女子が我慢の限界を迎えて男に平手打ちを食らわせたようだ。肩で息をしながら男を強く睨みつけている。

 

「やばいなあれは」

「そんなもん見りゃわかる」

 

 短い会話を交わして少し彼女たちに近づく。

 もし乱闘騒ぎになった時に、二人を引き剥がすためだ。大人の男と女子高生が殴り合いなんぞしようもんなら、たいてい大人が圧倒するに決まってる。そんなことにさせないようにわりかし体付きのいい蒼が男を押さえつけて、そのうちに僕が彼女を逃す。うん、非の打ちどころの無い完璧な作戦だ。男がドーパントじゃないという保証がないことに目を瞑れば、だけど。

 

 ここで僕は思いだすべきだったんだ。昨日対峙したウルフドーパントを殺ってないことに。その声とあの男の声がほぼ同じことに。

 

「いい加減にしてよ!! 気持ち悪いんだよこの変態!! 警察呼ぶぞ!!」

 

 そう叫ぶ女子高生の目には涙が浮かんでいて、どれほど怖い思いをしたのか察するにあまりある。

 

「叩かれた……。拒絶された、のか?」

 

 はは、そんなことあるはずがない、などとうわ言を呟く男。その焦点は定まっていない。それを確認した瞬間、反射的に体が動いた。

 彼女と男の間に体を入れて、庇うように腕を広げる。

 

「あんた誰……?」

「僕は通りすがりの風高生です! いやそんなことはどうでもいいんで逃げた方がいいですよ」

「……ありがとう。この恩は絶対に返すから」

 

 彼女は手で礼をすると駆け出して、近くの建物の影に隠れるとこちらをじっと見つめる。追いかけてこないか不安なのだろうか。さっさと離れた方がいいと思うんだけどな。

 そんなことを考えているうちに蒼は男の後ろに立って羽交い締めにしようとしている。

 

「念の為あの子を警察署まで送っていってやれ恵理也」

「わかった。くれぐれも無茶するんじゃないよ」

 

 そう念を押して僕は彼女の方へ駆け出した。何か嫌な予感がしないでもないが、彼ならまあなんとかなるだろうと特に根拠のない自信を胸にして。

 

「ここにいたら危ないから、とりあえず警察署まで逃げましょう!」

 

 

 

 

「待ってくれ!! ……くそッ!! ガキの分際で邪魔しやがって!!」

「はいはい暴れたらダメだぞおっさん」

 

 俺こと蒼は暴れるおっさんを羽交い締めにしつつ走っていく恵理也を見送る。それなりに運動してるっていうのが功をなしてなんとか押さえつけていられるけど、あいつじゃ絶対振り解かれてただろうな。そんなことを考えて少し力を強めた。

 

「俺の邪魔をして許されるとでも思ってんのか!!」

 

 俺の方を見て喚く男。俺はそいつを睨み返し、

 

「女にしつこく言い寄ってあまつさえ泣かせたやつが許されるとでも思ってんのかお前。ブーメラン刺さってんだよ鏡見やがれってんだ!!」

「チッ……とにかく離せ!! あの女性は僕の妻になるべきなんだ!!」

「絶対に離さない!! あの子は嫌がってただろ!!」

 

 そう啖呵を切ってさらに腕の力を強める。こんな奴を離したら俺に何をされるかわかったもんじゃないし、何よりあの子と連れ添ってるはずの恵理也の身が危ない。親友が傷つく姿は見たくない。俺が止める。せめて警察が来るまでは、絶対に!! 

 

「離せクソガキ!!」

「断るっつってんだろこのボケジジイ!! 警察が来るまで絶対に離さねぇ!!」

 

 ぎゃあぎゃあと叫ぶ俺と男。周りにいる人たちがなんだなんだと寄ってくるのも気にせずに攻防を続け、結局そんな状態が数分間も続いた。

 

「離せ!!」

「嫌だ!!」

 

 こんなやりとりも何回続けたことだろうか。互いに息を荒げているこの状態、体力の多い俺の方が確実に有利なはずだ。

 というかまだ警察は来ないのか。近隣住民からの通報があってもおかしくないと思うんだが……。

 

 そんなことを考えていると、突然俺の膝に痛みが走った。思わず腕の力を緩めて膝に手を伸ばしてしまう。そして今度は鳩尾を衝撃が襲った。

 

「ぐっ……。しまっ……、いってぇなこの野郎!!」

 

 そう声を荒げると、男はうるさい!! と同じく声を荒げ、指をポキポキと鳴らすと俺を指差して話し始めた。

 

「よくも俺の邪魔をしてくれたな!! ただで済むと思うなよ!!」

「ほざけ!! お前こそ女泣かせてただで済むと思ってんじゃないだろうな!!」

 

 叫び返す。女を泣かすは男の恥だって習わなかったのかこいつは。そんな俺の心を知らずに男はまたぺちゃくちゃと喋り始めた。

 

「昨日のライダーといい今日のガキ共といいどいつもこいつも邪魔ばっかしやがって!! 俺が!! 俺が絶対なんだ!! 何で俺の邪魔をする!?」

「そりゃお前がおかしいからだ!! さっきから聞いてりゃ自分が絶対だのなんだの訳のわからねえことをグダグダと!! 思いあがんなこのクソカス野郎!!」

「思い上がってない!! 事実だからだ!! この力さえあれば、自分の気に入らない者を全て裁くことができるんだからなァ!!」

 

 男は叫ぶと懐から一本のUSBメモリのようなものを取り出した。俺はそれを見て驚愕する。

 

「ガイアメモリかよ!?」

「そうだ!! 前に使っていたウルフメモリはもう使い物にならんが、こいつなら俺はどんな奴にでも勝つことができる!!」

 

《Judgement!!》

 

 辺りに響くガイアウィスパー。まさかドーパントだとは思っちゃいなかったな……。対峙してるのがあいつじゃなくてよかった、と心の中で安堵する俺に男は

 

「命乞いをしてももう遅いからな!! ふんッ!!!」

 

 そう言ってメモリを体に差した。その体を怪物へと変貌させるのを見て頭がさぁっと冷静になる感覚がする。ここからはヘタこいたらそれ即ち死みたいな状況になる。覚悟していかないといけないな、これは。

 

「さぁ!! 俺の裁きを受けろクソガキィ!! 拒否権はない!!」

「いいや、裁かれるのは俺じゃない。お前だぜ」

 

 ビシッと俺を指差してそんなことを言うジャッジメントドーパントにそう返し、懐からドライバーとメモリを取り出して男に見せびらかす。

 

「その赤いの……お前まさか!!」

「そのまさかだと思うぜ」

 

 腰にドライバーを当て、ボタンを押してメモリを起動させる。

 

《Dinosaur!!》

 

「お前のそのくだらんプライドも欲望も……俺が砕いてやるよ」

「やれるもんならやってみろ!!」

 

 俺の言葉にそう反応した男。俺はそれに

 

「望むところだ!! 変身ッ!!」

 

 と返し、メモリをドライバーに差し込んで、それを勢いよく倒した。

 

《Dinosaur!!》

 

 その音声が響くのと同時に俺の体をライダースーツが覆っていく。茶色いそれで全て俺の体が覆われたのを確認してから、ベルトの後ろ側に作られた斧を抜き取って構え、

 

「行くぜこのクソッタレ!!」

「返り討ちにしてやる!!」

 

 お互いが突進して戦いが始まった。




キリがよかったのでここまでです。それではまた次回
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