マブラヴオルタネイティブ~~怪獣達の逆襲~~   作:ユウキ003

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今回はオリジナルです。ただ、前回のあとがきで、個々のキャラに焦点を当てたとか新怪獣が出てくるとか書いたんですが、ストーリー書いてたらもっぱら唯依たちやギドラに焦点当てたストーリーになっちゃいました。しかも思ったより字数が多くなっちゃって。なので割愛して、新怪獣の登場は次回になります。


第14話 別つ道

ギドラ、モスラ、バトラと共に鉄原ハイヴ攻略を目指す帝国軍、国連軍、大東亜連合軍の3軍合同部隊。3大怪獣の活躍もあって、朝鮮半島に上陸した部隊はそのまま鉄原ハイヴを攻略する。ハイヴからは膨大な量のBETAが現れるが、驚異的な力を持つギドラやモスラ・バトラの力の前にBETAと鉄原ハイヴは殲滅された。初めての領土奪還に全世界が沸く中、帝国では予想に反してGフォース設立がほぼ確定していくのだった。

 

 

希望作戦から約2週間後。帝国内部では連日テレビや新聞で『帝国第5の軍、Gフォース設立』という話題が取り上げられていた。事の発端は数日前、悠陽が帝国議会にGフォース設立を提案した事だった。加えてこの提案は斑鳩達によって世間に密かに公表されていた。そして、斑鳩の読み通りGフォース設立を容認するメリットと拒否するデメリットを考えて、議会のトップである『榊 是親(これちか)総理大臣』はGフォース設立を容認。

 

帝国内部では、ギドラとの共闘を前提としたGフォース設立に民衆は沸いていた。更にGフォースのアイドル、言わば偶像のような存在として唯依達がGフォースの広報を担当する事になったのだ。

 

元々、この帝国で最初に怪獣と共闘し、更には龍神の姫巫女たちとまで呼ばれていた事もあってか、広報の為に写真を撮られる日々が続く唯依達。

 

そんなGフォースには、当初の悠陽が想定していた以上の軍が集まっていた。と言うより、志願者が多かったと言うべきか。

悠陽が当初想定していたのは、まず佳織や唯依達、特別遊撃隊の1個大隊。恭子が率いる斯衛第3大隊。更に帝国陸軍から参加する1個大隊を合わせて連隊規模の戦術機部隊を創る事。それ以降は戦果を積んでいきながら、段階的に部隊を拡充していく予定だった。

 

しかし、最近のキングギドラの活躍や怪獣信仰の盛り上がりもあってか陸軍内部でGフォースに出向扱いとなる衛士を募った所、定員の10倍以上の衛士が集まったのだ。更に斯衛軍内部でもGフォースへの出向を望む衛士達の声が多く、悠陽は議会との話し合いの末に、当初の1個連隊規模から倍の2個連隊規模の部隊とする事を決定。その結果、斯衛と陸軍からそれぞれ1個連隊規模の部隊を抽出して2個連隊の部隊を創設する事になった。

 

そうしてGフォース設立が決定した事で東京にGフォースの司令部が置かれる事になった。その司令部も、今後各地に置かれる予定のGフォース基地を統括すると言う目的を始め、戦闘部隊の為の格納庫や滑走路。更に衛士達や整備士、基地に勤務する者達の宿舎など様々な目的のために創られる為規模は必然的に大きくなる。なので今は仮設の司令部に身を寄せている唯依達。

 

ちなみに、悠陽の想定通り、Gフォースのトップには2人の人物がいた。1人が実動部隊の総指揮官である崇宰恭子『少佐』。恭子はGフォースへの出向に合わせて大尉から少佐へと昇級していた。もう1人が、基地の運営全般や他の軍との会議など裏方を担う彩峰萩閣中将だ。現在、2人の部下として配されている衛士達の中には唯依達。更に陸軍からは唯依たちの恩師でもある真田も部隊に参加していた。他の衛士達も、あちこちから集められた熟練の衛士達が大半を占める。

 

とは言え、Gフォースの必要性を疑う声も少なくは無い。理由として挙がるのは、帝国がBETAを退け前線を押し返した事にある。現在、朝鮮半島は大東亜連合軍により前線が構築されている。現状、帝国が抱える戦線は無いに等しい。警戒するべき点としては、ソ連領内に建造されたオリョクミンスクハイヴからBETAが東進し、日本海側を渡って来る可能性がある事だ。しかし、現状その可能性は低いのだ。理由は1つ。ソビエト領内では当初からアンギラスが暴れていた事だ。

 

世界で最初に目撃されたアンギラスの戦闘能力は、バラゴンやガーディー以上でありモスラ・バトラ、キングギドラ以下というレベルの物だ。そのため単独でハイヴを攻略するのは難しいが、BETAの間引きという点ではその力を遺憾なく発揮していた。

なので現在、アジア方面ではアンギラスの活躍もあって欧州や南アジア方面と比べてBETAの活動は抑えられつつある。

 

そのため、現状Gフォースの衛士や兵士達がやる事と言えば、陸軍と斯衛軍という2つの異なる組織から合流してきた者同士、親交を深めつつも部隊としての練度や技術を磨く演習を繰り返す事くらいだった。

 

とまぁ、設立したのは良い物の、あまり出番があるとは言えないGフォース。今はもっぱら大きな戦いに備えている、と言う状態だ。ただ、そう言えば聞こえは良いが実際には手持ち無沙汰とも取れる。しかも軍を維持するのには金が掛かる。だからこそ、優勢な今の状況下で金の掛かる新しい軍を創る、と言う事に少なからず反発があったのだ。

 

とは言え、その反発も多いわけではない。大抵の市民や軍人たち、更に世論の状況を気にしている政治家たちはGフォースの存在を喜んで受け入れた。

 

とまぁ、そんな感じの中設立されたGフォース。そしてその部隊に配属になった唯依達。彼女達は今日も今日とて演習を終え、今は食堂に集まってお茶を飲みながら、恩師である真田を交えて話をしていた。

 

「しかしまぁ、まさかお前達と同じ部隊で肩を並べて戦える日が来るとはな。人生何があるか分からん物だな」

と、教え子である唯依達の成長を前に、真田はそんな事を呟いた。

 

「それは私達もですよ。……まさか死の8分を超えて、最新鋭の第3世代に乗れる日が来るなんて、思っても居ませんでした」

真田の言葉にそう返す和泉。更に彼女の傍に居た志摩子や安芸たちが頷く。

「……まだ2年も経ってないのに。気がつくと随分遠い所に来たよな、私らって」

ポツリと呟く安芸。そして彼女達はふと顔を思い返す。

 

訓練校での日々。絶望的な状況の中、出会ったバラゴンとガーディー。彼等と共に戦い、一度はその終わりを見送り、絶望に暮れた日々。そして今度は、蘇ったキングギドラと共に戦場を駆け抜けた日々。京都防衛戦から始まり、明星作戦、出雲攻略戦、希望作戦。彼女達は数多の戦場を聖獣、怪獣と共に駆け抜け、共に戦い、生き残った。そして今、彼女達は1つの軍の、エースパイロットとなった。

 

それが精々、1年半前から続いていた彼女達の軌跡だった。

「本当に、こんな所まで来たんだね」

そう言って志摩子は、纏っていたGフォース隊員を示すジャケットの、その右胸に描かれたワッペンに優しく触れる。

 

そのワッペンは、中央にキングギドラが描かれ、それを囲うように筆記体で描かれた大文字のG。そのマークこそが、彼等がGフォースの兵士である証。そして更には、唯依達にとって『ギドラと共に歩むと誓った証』でもあった。

 

と、彼女達が思い出話でしんみりしていた時だった。

「篁中尉」

食堂に現れた彼女達の隊長である佳織。

「ッ、如月大尉」

名を呼ばれた唯依は席を立って敬礼をする。

「ちょうど良かった。お前に連絡が来ていたぞ」

「私に、ですか?」

「あぁ。帝国陸軍技術廠の巌谷中佐から連絡があってな。明日、第壱開発局の自分の所へ来て欲しいそうだ。幸い明日は特に予定が無かったのでこちらで問題無いと伝えていたが、良かったか?」

「はい。ありがとうございます」

 

『巌谷のおじさま、私に何の用だろう?』

と、内心唯依は首をかしげていた。

 

翌日、唯依は呼ばれた通り、第壱開発局へと向かった。

今回彼女を呼び出したのは『巌谷(いわや) 榮二(えいじ)』中佐。唯依にとっては親戚のおじさんのような人で、唯依の父、『篁 裕唯(ゆい)』中佐は斯衛の戦術機である瑞鶴の開発に関わっていた。更に元々、榮二は斯衛軍の開発衛士、いわゆるテストパイロットとして活躍していたのだが、実戦へ参加するために帝国軍に移った経緯がある。そのため唯依の父と榮二は顔見知りであり共に仕事をした中だ。それもあってか榮二も唯依を実の娘のように可愛がっていた。おかげで唯依からは巌谷のおじ様、とも呼ばれている。

 

そんな彼が唯依を呼び出したのだ。唯依は内心不思議だった。彼とはここ最近、会っていなかったからだ。特別調査隊の設立以降、唯依は仲間たちやギドラと共にずっと前線で戦っていたからだ。実際、最前線部隊である唯依はここ最近、母と顔を合わせた事も少ないのだ。

 

何故だろう?と彼女は内心考えながらも、榮二の待つ部屋にたどり着いた。

『コンコンッ』

「はい?」

唯依がドアをノックすると中から男性の声が聞こえた。

 

「招集により参上しました。Gフォース所属、篁唯依中尉であります。入室してもよろしいでしょうか?」

「あぁ。どうぞ」

「失礼します」

促されるまま、中に入る唯依。そして部屋の奥にある執務机には、左頬に大きな傷を負った男性が座っていた。

 

「急に呼び出してしまってすまない篁中尉。どうしても貴官に話しておきたい事があってな」

「話、でありますか?」

「あぁ」

 

唯依はじっと自分を見せる榮二を前に内心、呼び出された理由が分からず戸惑い冷や汗を流していた。……のだが……。

 

「くっ、ははははっ」

「ちゅ、中佐?」

突然榮二が笑い出したのだ。これには唯依も戸惑うばかりだ。

 

「そんな堅苦しい態度はやめて良いぞ。唯依ちゃん」

「お、おじさまっ!それはやめてくださいっ!今の私はもう立派な衛士なんですよ?!」

突然の昔の呼び方に、唯依は顔を赤くして狼狽した。

「ははっ。すまんすまん」

そう言って笑みを浮かべる榮二。しかし彼はやがて、父親が娘を見るような優しい目で唯依を見つめる。

 

「しかし、しばらく会わない間に随分立派になったな、唯依ちゃん」

「は、はい。ありがとうございます、おじ様」

彼からの褒め言葉に、唯依は顔を赤くしながら笑みを浮かべていた。

 

そんな中で榮二は……。

『唯依ちゃんのような年頃の少女が、長く戦場に身を置いていたんだ。精神的な傷を負ってないかと心配していたのだが、どうやら問題なさそうだな。これも、唯依ちゃんや彼女の仲間を護ったキングギドラのおかげか』

と、内心唯依の事を心配していたのだが、今まで通りで安心していた。

 

「さて。今日ここに君を呼んだのは実はある提案があるからなんだ」

「提案、ですか?」

「あぁ。一応先に言っておくと強制力のある命令ではない。提案というか、お願い、依頼のような物かな」

「はぁ。それで、そのお願いというのは?」

首をかしげながらも話の先を促す唯依。

 

「実は、唯依ちゃんに斯衛軍のホワイトファングスに入って欲しいんだ」

「斯衛のホワイトファングス、と言うと確か装備実験部隊でしたか?」

「あぁ。新装備を戦場などで実際に使ってその効果や問題点の洗い出しなどを行う試験部隊だ。……実は、この話は君の父親、篁中佐からの提案なんだ」

「え?お父様の?」

「あぁ。まぁ何というか、親馬鹿、かな。アイツや栴納(せんな)さん(※唯依の母親)は最前線に出ずっぱりの唯依ちゃんを本当に心配している。そんな中、BETAの脅威は帝国から遠ざけられた。2人にしてみれば、今のうちに唯依ちゃんを少しでも安全な所に行かせたいんだろう。で、武御雷の事とかで忙しいアイツに変わって俺がこの話を唯依ちゃんにする事になったんだが」

「………」

 

榮二の言葉に唯依はしばし黙り込んでしまった。彼女も、両親から心配されている事に悪い気はしていない。それが愛情表現のような物であるのは分かる。分かるが、今の彼女に前線から離れる気は無かった。

 

今、彼女の脳裏に浮かぶのは戦場の情景だった。

 

かつては絶望しか無かった戦場を、最新鋭の戦術機を駆って仲間達と共に駆け抜け、そしてギドラと共に空を飛び戦う。愛機を駆って、仲間と、人ならざる戦友と戦い勝利する。そんな情景が彼女の脳裏に浮かぶ。

 

榮二の提案を受け入れる事は、その場所から離れると言う事に他ならない。だから最初、唯依は断るつもりだった。だがふと、彼女は思った。それはかつて彼女自身が戦いの中で思った事が発端だった。

 

 

「巌谷中佐。……その提案、受けさせて下さい」

「ッ?良いのか唯依ちゃん。俺は正直、Gフォースから離れる事になるから断られるかと思っていたんだが?」

彼女の答えは榮二も予想外の言葉だった。そのため驚いた様子の榮二。

 

「……正直、Gフォースを離れる事に未練があるかと問われれば、あります。でも、ギドラと一番近い所で共に戦っていた1人として、私には思う所があるんです」

「と言うと?」

 

「元々、私達が武御雷に機種転換をしたのは瑞鶴ではギドラの随伴機として力不足だったからです。実際、武御雷や不知火のような第3世代機レベルでなければギドラに随伴するのは難しいでしょう。しかしその第3世代機である武御雷であっても、戦術機の根本的な武装が変わらない以上、射撃による攻撃力の点で言えば瑞鶴と大した違いはありません」

「……確かに、第1世代や第3世代とは言え、使う突撃砲は同一の物だ。武装による攻撃力という点では、確かに瑞鶴と武御雷でも大した差はない」

「はい。……確かに武御雷は優れた機体です。ですがギドラと共に戦うのならば、もっと強い武器が必要だと考えます」

「成程。……そのために、ホワイトファングスに移る、と?」

「はい。……来たるべき決戦の時、私達が戦術機を駆って怪獣と、ギドラやモスラ、バトラ。多くの怪獣たちと肩を並べて戦う為に。少しでも、彼等の力になれる武器を作るために」

 

そう言って、唯依は真っ直ぐ榮二を見つめる。榮二は、彼女の瞳の奥で炎が揺らめくのを幻視した。

「ふっ、そうか」

そして彼は笑みを浮かべながら頷いた。

 

『変わってないっと思っていたが、立派になったな唯依ちゃん。今の君は、立派な衛士だ』

娘のような存在だった唯依の成長ぶりに、内心溢れそうになる涙を堪える榮二。そして彼は口を開く。

 

「ならば篁唯依中尉。貴官の働きに期待するぞ」

「はっ!必ずや、ご期待に添えるよう努力する所存でありますっ!」

唯依は、元気の良い返事と共に敬礼をした。

 

 

彼女は、今だけはGフォースを離れる決心をした。しかしそれは別れではない。一度は道を別とうとも、再び唯依と仲間たちの道は交わる。そして再び共に歩みを進めるとき、今よりも強くなって共に異星起源種と戦う為に。

 

また出会う事を誓いながら、唯依は一度、仲間たちと別の道を歩む決心をするのだった。

 

 

その後、唯依は基地に戻りこのことを隊長である佳織や志摩子達に報告した。佳織の方は『分かった』と言って納得するだけだったが、志摩子達はやはり悲しそうだった。

 

「唯依、本当に斯衛に戻るの?」

「うん。ごめんね和泉。もう、決めた事なの」

和泉の悲しそうな表情を前にしても、唯依の決心は固かった。

 

「本当に、行くんだな?唯依」

「えぇ」

安芸の問いかけにも、彼女は静かに頷く。

そんな安芸の隣では、志摩子が悲しそうな表情を浮かべていた。

 

だが……。

 

「皆さん、これは別れではありませんよ」

上総がそう言って3人の顔を上げさせる。

「いずれまた、戻ってくるのでしょう?唯依」

「えぇ。もちろん」

 

上総の問いかけに、唯依は笑みを浮かべながら頷いた。

 

「何年後になるか分からないけど、今ある兵器や戦術機よりも、もっと強い武器や戦術機をお土産に私はGフォースに戻ってくる。そのつもりよ」

それが唯依の決心だった。

 

「何年後になるか分からない。でも、私は必ず戻ってくる。そしてまた皆と。ギドラと一緒に戦う」

 

彼女の言葉に3人は戸惑いながらも、やがて笑みを浮かべた。

そして安芸が唯依の方に拳を突出した。

 

「約束だぞ、唯依。必ず戻ってこいよ」

「えぇ。もちろん」

唯依は、安芸の言葉に応えながら彼女の拳に自分の拳を合わせる。

 

すると、更に上総も拳を合わせて来た。

「例え、今は違う道を進むとしても目指す未来は同じですわ」

 

「そうだね」

更に志摩子も頷きながら拳を合わせる。

「ギドラと一緒に戦って、BETAをこの星から追い出す」

 

「それが、私達のゴール」

そして和泉も拳を合わせる。

 

5人の少女達は拳を合わせながら、お互いの顔を見つめ笑みを浮かべる。

 

「「「「「いつかまた、一緒に戦う日まで」」」」」

 

そして異口同音の言葉を呟き、しばしの別れといつかの未来で再会し共に戦う事を決意するのだった。

 

 

そして、彼女達の居る食堂のドアの外。そこに真田の姿があった。しかし彼は『俺の役目は無いか』と、笑みを浮かべながらポツリと呟くとその場を後にするのだった。

 

 

それから数日後。唯依は正式な辞令によって斯衛軍の装備試験部隊である『白い牙中隊』、ホワイトファングスに異動する事になった。今日から数日後には、唯依はGフォースを離れる事になる。

 

そんな中安芸が、『このことはギドラにも話さないとな』と言ってギドラの元に行こうと言い出したのだ。幸い、BETAとの戦線がほぼ消滅状態の帝国は平和であった為、彼女達5人が出した休暇申請は受理された。

 

そして彼女達は休日を使って富士の樹海を目指していった。

 

バスなどに揺られる事、数時間。唯依達5人はとある場所に到着した。そこは、明星作戦の頃はBETAによる侵攻で荒れ果てた大地だったが、モスラのパルセフォニック・シャワーによって今は緑溢れる草原になっていた。そしてその草原の一角に巨大な神社があった。

 

その神社の名は『魏怒羅神社』。早い話がキングギドラを祀っている神社だ。

そしてこの魏怒羅神社は今、大勢の参拝客で溢れかえっていた。彼等は皆、神社の奥にある木製のギドラの像を参拝するためにここに来ていたのだ。そもそも唯依達がここに来たのもこの魏怒羅神社へ来るバスの路線を使ったからだ。

 

ただし、唯依達は神社に用があったのではない。彼女達は神社のすぐ後ろにある、フェンスに囲まれた大きなゲートへと向かった。このフェンスはモナークと帝国軍によって作られたのだ。このフェンスを越えて少し歩いた場所に、ギドラの眠る洞窟がある。しかし今は無闇に人が近づかないよう、こうしてフェンスが作られたのだ。加えて、このフェンスの内側は国有地扱いとなっているので軍人と言えどもそう簡単に中に入る事は出来ない。

 

ただし、例外的な人物が5人ほど居る。そう、唯依たちだ。

 

で、彼女達はフェンスの向こうに行くゲートに向かっていた。……のだが。

 

「っ!お、おいあれっ」

「あぁ。間違い無い。姫巫女様たちだ」

参拝客が唯依たちに気づいた。

 

「ありがたや、ありがたや」

更に年配の参拝客達は彼女達に向かって手を合わせ始めた。

するとそれにつられて他の参拝客達までもが唯依達に向かって手を合わせ始めたのだ。

 

「な、何か私達凄い注目されてない」

「い、急ぎますわよっ」

戸惑う志摩子の言葉に、上総はそう答えた。そして5人は顔を赤くしながら急ぎ足でゲートへ向かうのだった。

 

そして、ゲートに付くなり、手荷物検査など一切無しに顔パスで通された5人。ゲートを越えて歩く事数分。彼女達はギドラの眠る洞窟までやってきた。

 

そして中に降りる5人。

「お~~い、ギドラ~~」

真っ先に降りた安芸が、洞窟の奥で眠っていたギドラに声を掛ける。

 

『キュルァ』

すると、ギドラは欠伸をしながら目を覚まし体をブルリと震わせてから来客、唯依達へと目を向けた。

 

『キュルルッ』

そして彼女達の来訪を喜ぶかのように喉を鳴らした。

 

「あのさ、ギドラ」

『『キュルッ?』』

安芸が声を掛けると、左右の頭が首をかしげた。

 

「実は、唯依の事で話さなきゃいけない事があるんだ」

 

そうして、5人はギドラに語った。唯依が別の部隊に行くこと。だからこれから一緒に戦えない事。しばらく別れる事になる事。でも唯依は必ず帰ってくる事。

そして5人が話を終えると……。

 

『『キュルルルゥ』』

ギドラの左右の首は、悲しそうに喉を鳴らした。

 

ギドラは、彼女達の言葉を100%理解している訳ではない。それでも、彼女達の話を聞き理解出来ない訳ではない。そして理解したからこそ、しばらく唯依に会えない事を知って悲しそうな声を漏らしたのだ。

 

「ギドラ」

 

唯依が他の4人から離れ、ギドラの傍に歩み寄る。すると左右の首が彼女の元に伸びてくる。彼女は、両手でギドラの2つの頭の顎をそれぞれ撫でる。

「ごめんねギドラ。急な話になっちゃって。でも、約束する。私は必ず戻ってくるから。だから待ってて。きっと強くなって戻ってくるから。だからお願い。その時まで待ってて」

 

そう言って、唯依はギドラの事を撫でる。そして撫でること約1分。唯依が手を離し後退ると、左右の頭も伸ばしていた首を戻した。だが……。

『キュルル』

『キュルアァァ』

左右の首はお互いに向かい合い、何かを話しているようだった。唯依達が何を?と内心首をかしげていると、不意に唯依達から見て左側の首が、右側の首の中腹辺りにその鼻先をゴシゴシと擦りつけ始めたのだ。

 

「ギドラ?何を?」

唯依が戸惑いながら声を掛けると……。

 

『パキッ』

 

何かが割れるような乾いた音と共に、洞窟の天井から僅かに光を反射しながら『何か』が唯依の前に落ちてきた。唯依はそれを拾い上げる。それは……。

 

「これって。ギドラの、鱗の欠片?」

 

彼女の前に落ちてきた物。それは金色に輝くギドラの鱗の欠片だった。大きさは、彼女の掌に乗る程小さい。

 

それは、千年竜王からの贈り物であった。

重光線級のレーザーをも弾き返す竜王の鎧。

その鎧の一欠片が、今彼女の手の中にある。

 

これはそう、ギドラから唯依へ送られた『お守り』なのだ。

 

そして、その意図を察してか、唯依は静かに涙を目尻に溜めながらギドラを見上げる。

 

「ありがとう、ギドラ。必ず戻ってくるから。それまで待っててね」

 

『『キュルアァァ』』

唯依の言葉に頷くように、左右の首は喉を鳴らし、中央の首も頷くように頭を上下に振る。

 

 

そして、唯依が泣き止んだ後。

 

「なぁギドラっ!実は私たちからお前に見せたい物があるんだっ!」

『『キュル?』』

 

安芸の言葉に首をかしげるギドラ。安芸は『ちょっと待っててくれよな!』というと、他の4人と共に岩陰でガサゴソと物音をさせながら何かの準備をしていた。

 

そして数分後。岩陰から出てきた彼女達の姿は、変わっていた。

 

来た時の私服ではなく、白と赤の服装、『巫女服』を纏った5人。その手には鈴が握られていた。

 

そして5人はギドラの前に横一列で並ぶ。

 

「これまで、ギドラにはたくさん世話になってきたよな」

そう言って、安芸が鈴を掲げる。

 

「だからこれは私達からのお礼」

続いて和泉が鈴を掲げる。

 

「皆で一緒に考えて練習して、頑張ったんだ」

更に志摩子が鈴を掲げる。

 

「まだまだ拙い所があるかもしれませんが」

上総が鈴を掲げる。

 

「それでも、どうか見て下さい。私達の舞を」

そして、唯依が鈴を掲げる。

 

『『『『『シャンッ!』』』』』

 

鈴の音が洞窟の中に中に鳴り響き、そして彼女達の舞は始まった。ゆったりした動きのまま5人が動き回り、時折鈴の音が洞窟に響く。

 

キングギドラは、それを静かに見守っていた。

シャン、シャンと鈴を鳴らしながら5人は舞う。

 

もちろん、本格的な練習をした訳ではない。衛士としての本分をこなす合間に集まって練習した程度だ。だから動きも所々ぎこちない。

 

それでも、彼女達の『想い』は。キングギドラという戦友に確かに届いた。

 

 

『『『『『シャンッ』』』』』

 

そして最後、鈴を一斉に鳴らした所で唯依たちは動きを止めた。

 

『『キュルアァァァ』』

するとギドラが満足そうに喉を鳴らす。

 

でも、贈り物は舞だけではなかった。志摩子と和泉が作ってきた、デフォルメされたギドラのぬいぐるみが、洞窟の隅、平たい石の上に置かれる。もちろん、濡れたりしないようケースに覆われた状態で、だが。

 

更に、記念写真にと安芸が持ってきていたカメラで5人とキングギドラの写真を撮った。

 

そして、唯依達は最後にギドラの頭を撫でると洞窟を後にした。

 

 

それから数日後。唯依は正式に斯衛軍のホワイトファングスへ異動となり、荷物をまとめて迎えに来た斯衛軍衛士の運転する車に彼女は乗り込んだ。そして唯依は上総たちに見送られながら、Gフォース基地を後にした。

 

そして、唯依はそのまま車の中で揺られていた。しかし唯依は徐に、首から下げていたネックレスを取り出す。ネックレスの先には丸い中くらいのケースが付いており、中を開けるとそこにはキングギドラの鱗の欠片が収められていた。

 

鱗の欠片を見つめた後、それをしまうと唯依はポケットの中から一枚の写真を取り出した。

 

そこには、キングギドラの3本の首と唯依達5人が描かれていた。それはあの日、洞窟で撮られた写真だ。

 

「いってきます」

 

そして唯依は、遠くに居る戦友、ギドラに語りかけるように小さく呟きながら笑みを浮かべた。

 

 

そして遠く離れたギドラの眠る洞窟の中。

 

その一角にあるデフォルメされたギドラのぬいぐるみ。

 

その隣に、唯依の持つ物と同じ写真を収めた写真立てが飾られていたのだった。

 

 

例え今は道を別つとしても、いつかまた、共に戦う事を信じて。唯依は己の道を進むのだった。

 

     第14話 END




今更ですが、唯依は京都防衛戦で友人である上総たちを失っていないので、原作に比べてかなり精神的余裕があります。

次回こそ、新怪獣を出す予定です。しかも複数出そうかなって考えてます。
感想や評価、お待ちしてます。

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