マブラヴオルタネイティブ~~怪獣達の逆襲~~ 作:ユウキ003
希望作戦後、欧州で新たにボルギルス。東南アジアでカマキラス。ソビエトでラドンと言う新たな怪獣が続々と出現。各々がその力を振るいBETAを撃滅していった。一方で、どこかのハイヴで新たな敵が生まれようとしているのだった。
インファント島内部、コスモスベースにて。
その日、夕呼は研究室と兼用の自室でモナークから上がって来ていた怪獣に関する報告書に目を通していた。
「欧州のボルギルス。東南アジアのカマキラス。そしてソビエトのラドン。ここに来て一気に怪獣たちが現れて来たわね」
夕呼は、誰に言うでもなく呟きながらも、知人である芹沢経由で届いたモナークからの資料に目を通していた。
そこには戦場で確認された怪獣たちのスペックや能力が記載されていた。
『光線属種のレーザーを吸収して自分の力に変えるボルギルス。完全な光学迷彩を獲得したカマキラス。ヘリコプター並みの旋回性能を持つ、戦闘機並みの飛行速度を有するラドン』
「……はっきり言って、どれも人間の持つ力を超えた存在よねぇ」
夕呼はそう呟くと手にした資料を机の上に放った。ちなみに、なぜ夕呼の元に怪獣の報告書が届いているのかと言うと、それを夕呼自身が望んだからである。
現在彼女は、オルタネイティブ4の本来の計画と並行して新型兵器の開発も行っている。そして今、怪獣のデータを求める理由。それは『怪獣の力の模倣』を目指しているからである。
より正確に言えば、怪獣の驚異的な力の一部でも良いから人類の技術で再現できないか?と考えているのである。例えばキングギドラの引力光線。あれは相手の防御力を無視した攻撃が出来るのだ。真似る事が出来れば突撃級の生体装甲を貫いて攻撃が出来る。しかし、人知を超えた怪獣たちの力を真似るなど常人の頭では到底不可能だ。だからこそ夕呼もまた色々行き詰っていたのだ。
というか、夕呼は兵器開発に関してそこまでの知識と経験があるわけではないのでもっぱらゼアに頼ってしまう。だが、本来の第4計画の方にもリソースを割かなくてはならないので、うまくいっていないのが現状だった。
「ハァ、もうこんな時間?ちょっと何か食べて来ようかしら」
彼女は時計を見て12時を過ぎている事に気づき、リフレッシュをする意味でも一度部屋を出て食堂に向かおうとした。だが、部屋を出た直後…
「おや?香月博士」
「ッ」
不意に、背後から男性に声をかけられた夕呼は『まさか?』と思いながら振り返った。そして相手を理解するなり、彼女は眉をひそめた。
「どういう事かしら?『あなた』が来るなんて一言も聞いてないし、アポを取ったなんて話も聞いてないんだけど?」
そこに立っていたのは男だった。しかしただの男ではない。彼の名は『鎧衣 左近(さこん)』。帝国の情報省外務二課長という立場にいる男だ。そして、情報省とは言わば諜報機関。更に付け加えるのなら、この左近という男は諜報の世界ではそこそこ名の知れた存在だ。
そんな男が許可も無くこのコスモスベースに居るという事は、色々疑わしい事だ。だからこそ夕呼は眉をひそめた。
「これは失礼。しかし私の方も少々込み入った事情がありましてね。失礼とは思いましたが、アポなしで来させていただきます」
「……こっちはその事情とやらに興味が無いんだけど。まぁ良いわ。単刀直入に聞くけど要件は?あなたの事だから下らない理由でこんな場所に来るとは思えないんだけど?」
「いやいや。そんな事はありませんよ。私も男ですからねぇ。超古代文明コスモスの残した基地、というのは興味を惹かれる存在です。……まぁ、確かにおっしゃる通り基地を見るのはついで、といった所ですが」
「そう。で、何をしにこんな場所へ?」
「実は、香月博士にある人物を預かってほしいのですよ」
「人を預かるですって?ここは託児所じゃないし私も保育士じゃないの。そう言うのなら他所に行って欲しいんだけど?」
「まぁまぁそう言わずに。それに、預かるとは言いましたがおそらく博士のお力になれる人物だと思いますよ?」
『ピクッ』
夕呼は鎧衣の言葉に眉をわずかに動かした。
「私の力になれる人物って、どういう事?」
「時に香月博士は、少し前にソビエトから帝国に亡命未遂騒ぎがあったのをご存じですかな?」
「えぇ。一応は。ソビエトから帝国に亡命しようとした技術者を乗せた船が、帝国の領海内部で撃沈された話でしょ?領海侵犯だと非難する帝国と、技術漏洩を防ぐためと主張するソビエトが揉めてた話は今も覚えてるわ。……で?それがどう関係してくるのかしら?」
「実はその亡命者というのは、生きているのですよ。撃沈された船は囮という奴です。実際、帝国海軍が動いた事もあってソビエトは遺体の確認までは出来ませんでしたからな」
「……まさかその密かに生きていた亡命者をここで預かれ、って事じゃないでしょうね?」
「いいえ。まさにその通りです」
夕呼の言葉に、左近は笑みを浮かべたまま頷く。
「ハァ。良い?ここに部外者を匿うほどの余裕は無いの。ただでさえ計画の関係でどこにスパイやら何やらが居るか分からないのに、部外者をここに住まわせる事なんて無理に近いのよ」
「おっしゃる事は最もなのですが、何分本人がここへの定住を強く希望しておりましてなぁ」
「はぁ?ここへの定住って。理由は?」
「それが、毎日女神と男神に謁見し祈りをささげるため、などと申しております」
「……は?」
夕呼が左近の言葉を理解できないのも無理はない。それほどまでに予想外な理由だったからだ。
「ち、ちょっと待ちなさい。何よ女神と男神って。そんなのここには……」
居ない、と言いかけた夕呼。そんな彼女の脳裏にふとよぎったのが、モスラとバトラだった。
「ねぇ、もしかしてその人物って……」
「えぇ。お察しの通りだと思いますが、狂信的なタイタニスト、怪獣教の信者です」
「ハァ」
左近の言葉に夕呼はため息をついた。まぁ、実際ため息をつきたいだろう。なにせ熱狂的な信者は何を引き起こすか分からない。BETA恭順派が良い例だ。それを身近に置いておきたいとは思えないのも無理はない。特に夕呼の場合、彼女はパンドラボックスを秘匿しているのだ。下手に人が増えれば、その情報が外に漏れて戦争の火種になりかねないのだ。
「そんなのを受け入れられる訳ないでしょ?悪いけど、ここに入れる訳にはいかないわ」
と、夕呼が言うと左近は笑みを浮かべたまま何も言わない。それを見て夕呼は一拍間をおいてから『まさか』と思った。
「もしかして、もうここに連れてきてるの?」
「えぇ。しかもCP将校の方にお願いして、本人曰く『聖堂』に向かわれましたよ。少々強引に、ですが」
「ッ!ったく何を勝手にっ!」
そう言って夕呼は左近を放って歩き出した。のだが……。
「何で付いてくるのかしら?」
「なに、私は『彼』の保護者みたいな者ですから」
「全く……!人の許可も無く赤の他人を軍事基地に連れてきて目を放しておいて何が保護者よっ……!」
「いやはや、これは面目ない」
そう言って謝罪しているが、全く悪びれる様子が無い事が夕呼にとって更に腹立たしかった。
が、今はそうも言ってられないので彼女は不本意ながら左近と共にモスラとバトラの元に向かった。そして、モスラとバトラの住まいとも言える基地最深部にたどり着くと……。
「あぁ、今日は実に素晴らしい。この目で女神モスラと男神バトラのご尊顔を拝する事が出来ようとは……!」
良い歳の男が、床に膝をつき笑みを浮かべながら泣いていたのだ。中年の眼鏡を掛けた細身の男性が泣いているさまは些かシュールだった。その傍では、案内役をさせられてた遥が若干引いていた。モスラとバトラも、珍客に困っているのか彼の方を見つめたまま殆ど固まっているだ。
そして、男は泣きながら手を合わせ何かをぶつぶつと呟いている。その隙に、夕呼は遥に声をかけた。
「ちょっと。何でここに部外者を連れ込んだのよ」
「う、す、すみません。でもすごい血走った目で強引に迫られて。どうしようもなくて」
そう語る遥は今にも泣きそうだった。
すると……。
「ミスターマエロフ。お祈りも大事ですが、この基地の責任者をお連れしました。彼女に話があるのではありませんかな?」
「ん?おぉ、そうであった」
左近の言葉を聞き、男、アレキエフ・マエロフは立ち上がり夕呼の方へと歩み寄ってきた。
「はじめまして、ミスコーヅキ。話は彼から聞いている。私はアレキエフ・マエロフ。元ソビエトの技術者だ」
「……はじめまして。で、早速だけど本題に入って良いかしら。あなた、ここに定住したいと言ったそうね」
「如何にも。私はここへの定住を強く希望している」
「……なら教えてあげる。ここは国連軍の最重要計画の基地なの。おいそれと部外者を入れる事は不可能。理解していただけたかしら?」
「それに関しては十分承知している。オルタネイティブ4、であろう?しかし私も自分の使命がある。おいそれと引き下がる気は無い」
「使命ですって?それは何かしら?……ここから何か情報を持ち出して、祖国に戻る事かしら?」
夕呼は、マエロフの真意が分からない事から挑発の意味も込めてそう問いかけた。のだが……。
「祖国へ何かを持ち帰る、だと?ふ、はははははははっ!」
マエロフは突然笑い始めたのだ。これには夕呼や近くにいた遥も戸惑う。
「もはや私に愛国心などと呼べる物は存在しないっ!あるのは、この世の神々、怪獣たちの助けとなるためにわが命を費やす使命のみっ!我が命、我が技術っ!それらを駆使して神々の助けとなる事っ!それが私の運命っ!私の道っ!この命を神々に捧げるのが、私の本懐っ!もはやソビエトなどと言う祖国に興味は無いっ!」
マエロフは、狂気的な笑みを浮かべながらそう言い切った。更に……。
「あの日、私は主神ゴジラの力を前にして、思い知ったのだよ。人間の持つ力など、神々の前には無力。もはや我々人類は霊長類などではない。怪獣たちこそが、この星の真の霊長類なのだっ!そして私は理解したっ!神は彼らなのだとっ!そんな彼らの役に立てるという現実っ!それは我ら矮小なる人類において最高の栄誉ではなかろうかっ!なればこそっ!この命、この技術っ!私は全てを神に捧げるのみだぁっ!あははははははははっ!」
狂ったように笑みを浮かべるマエロフに、夕呼たちは狂気を感じて僅かに後ずさった。しかし数秒すれば、マエロフは平静に戻った。
「あぁ、失礼。どうしても神々の事を語ると熱くなってしまうのでね。失礼した」
「い、いえ」
夕呼はマエロフに対して、冷静を装いながらそう呟く事しか出来なかった。そして夕呼は、マエロフの狂気的な一面を見た事から彼を定住させる気は無かった。だが……。
「「面白い方がいらっしゃったようですね」」
そこに声が響いた。夕呼と遥、左近、マエロフが声の方へ視線を向けると、そこには宙に浮く小さな円盤に乗ったコスモスの2人と、2人の護衛なのか孝之と慎二が立っていた。
「お、おぉっ!ま、まさかあなた方は、コスモスっ!女神モスラと男神バトラの巫女っ!?」
「「はい。私達はそのような存在と言っても良いでしょう」」
と、コスモスが肯定しながら頷くと、マエロフは咄嗟にその場に膝をついた。
「お初にお目にかかります巫女様。我が名はアレキエフ・マエロフ。矮小なわが身で、御身の前に立つことお許しください」
「「いいえ。どうかお気になさらず、顔を上げてください」」
「お二人がそう言われるのであれば。失礼いたします」
そう言って立ち上がるマエロフ。ちなみにだが、今の彼の頭の中の序列形式は、『自分=人類<コスモス<怪獣』という形になっており、一番上に怪獣が居て、その下にコスモス。さらにその下に自分を含めた人類がいるという形になっている。
「「お話はゼアを通して聞いていました。ここへの定住をお考えのようですね?」」
「はいっ。女神モスラと男神バトラへ日々の祈りを捧げるため。そしてそんな神々のお役に立つ為に、ここへの定住を希望いたします。聞けばこちらには、巨大な生産設備があるとか。神々への日々の祈りを捧げる事が出来、且つ神々への助力となれる兵器を作るのに適したここ以上の環境はありません。故に、不肖アレキエフ・マエロフはこの地への定住を希望致します」
彼の言葉に、夕呼も遥も、更に孝之や慎二も難しい顔をする。
しかし、肝心なコスモスは笑みを浮かべたままだ。
「「そうですか。時に、あなたにとって怪獣とはどのような存在ですか?」」
「はっ。私にとって怪獣はすなわち神っ!この世界に君臨された真なる霊長類っ!そして矮小なるわが身が仕えるに値する、君主のような存在と捉えております」
「では、あなたは怪獣のためにならば命をも投げ出せると?」
「はっ!既に我が身、我が命、我が魂を神たる怪獣に捧げる覚悟は出来ております。必要とあらば、我が命、贄として彼らに差し出す覚悟は当に出来ておりまする」
そんな言葉に、夕呼たちはマエロフの狂信的な一面を見た気がした。しかしそれでもコスモスは動じない。
「貴方の怪獣に対する気持ちは分かりました」
「ですが勘違いしないでください。モスラもバトラも、この星に生きる命を守る守護神のような存在。無為に命が奪われるのを嫌います」
「「だからこそ、その命を無駄にする事なくモスラとバトラの助けになってあげてください」」
「ッ!?コスモス様っ!それはどういう……!?」
と、マエロフが問いかけようとした時。
『キュアァァァァァァァッ!』
『キュガァァァァァァァッ!』
モスラとバトラの咆哮が響き渡った。
「モスラとバトラにもあなたの思いが、純粋に怪獣たちの役に立ちたいと言う思いが届いたようです」
「彼らが言っています。『自分達の力になってほしい』と」
と、コスモスの2人が言うと……。
「あぁ、あぁっ!女神モスラよっ!男神バトラよっ!喜んでっ!喜んでお二方の力となるために不肖マエロフっ!邁進してまいりますっ!」
マエロフは涙を流しながら笑みを浮かべ、手を合わせながら叫んだ。
しかしそれに驚いたのは夕呼だ。彼女は静かにコスモスの傍に歩み寄る。
「ちょっと良いの?確かにここはあなた達の基地だから、あなた達が良いと言うのなら反対はしないけど、あの男は狂信的な男よ?」
「確かに、傍目にはそう見えるでしょう」
「ですが彼の、怪獣の役に立ちたいという思いは本物だと私達2人とゼアが判断しました」
「ッ、ゼアが?」
「はい。だからこそ彼をここへ受け入れても良いと考えています。あわよくば、あの箱の事を伝えても良いとも考えています」
「ッ……!?本気?」
夕呼が驚くのも無理はない。あの箱とはつまり、パンドラボックスの事だ。
「「はい。例え狂信的に見えても、あの人の信じる心は本物です」」
コスモスの2人は、夕呼を真っすぐ見つめながら語った。
やがて……。
「ハァ。分かったわ。あなた達2人とゼア、それにモスラとバトラが認めたのに今更私達が反対しても意味なさそうだし。涼宮」
「あ、は、はいっ」
「悪いけど、大至急その男の部屋を用意させて。とりあえず空き部屋の一つに表札でもつけとけばいいから」
「よろしいのですか?」
と、そこへ孝之が心配そうに声をかけて来た。まぁ実際あんな狂信的な男を基地に入れるのに不安を覚えるのはおかしくない。が……。
「本来の所有者が良いって言っているのよ?例え今の私達が基地の運用を仕切ってるとは言え、彼女たちが許可したのを私達が突っぱねてもね。ここは、コスモスたちの言葉を信じましょう。それに、余計な事で対立して時間を無為に消費したくないの。分かった?」
「はい。分かりました」
やはりまだ完全に納得出来た、と言う訳にはいかないが孝之もある程度は納得した様子だった。
こうして、ソビエトの技術者、アレキエフ・マエロフがコスモスベースで生活する事になったのだった。
だが、左近が帰る時。
「言っとくけど、これで情報省に貸し一つだからね?いつか利子もきっちり揃えて返してもらうから、覚悟しておきなさいよ?」
と、夕呼が左近を睨みつけながら語っていた。
「はい。上の者にしっかり伝えておきますとも。では……」
そう言って、左近は去って行った。それを見送った夕呼は深いため息をついた。そして彼女は今もモスラ達に祈りを捧げるマエロフを見て、もう一度、深い、深~~~いため息をついたのだった。
それから数日が経過し、マエロフはコスモスベースで生活するようになった。しかし彼は色々、他の面々と違った。まず、朝の礼拝と称して彼が聖堂と呼ぶモスラとバトラの部屋へ行って祈りを捧げる所から始まり、昼と夜にも基地内の教会で2体の像に祈りを捧げている。それが毎日だ。基地に居る衛士や兵士たちは、そんなマエロフに積極的に声をかけようとはせず、むしろ腫物を扱うような態度で接していた。一方でマエロフも彼らと積極的に仲を深める気は無い様子だった。
そんなある日。
「失礼するわよ」
夕呼が彼の部屋を訪れた。
「む?これは司令。私に何か御用でしょうか?」
「えぇ。コスモスがあなたに用があるそうよ」
「何とっ!?巫女様がっ!ならばすぐにっ!」
「落ち着きなさい。こっちよ」
そう言って歩き出す夕呼に、マエロフは興奮した様子で続いた。そして二人はそのまま轟天号へとやってきた。
「これは、なぜ轟天号に?ここに巫女様がいらっしゃるのか?」
「えぇ。だから黙って付いてきなさい」
そう言って歩き、夕呼はマエロフを轟天号の艦長室へと彼を連れて来た。現在、この艦長室に入れるのは夕呼とコスモス。あとは芹沢くらいだ。入り口には網膜と指紋をスキャンするスキャナーがあり、コスモス以外はこのスキャナーにデータを登録しなければならない。そしてその登録にもコスモスとゼアの許可が必要なのだ。つまり、2人とゼアの許可の無い者は艦長室に入る事すら許されない。
今はマエロフに対してゼアからゲストとして仮の許可のような物が下りているから入れるのだ。
そして、中に入ればそこにはコスモスの2人が待っていた。
「「お待ちしていました、マエロフさん」」
「はっ。不肖マエロフ。お呼びとの事でしたので参上いたしました。それで、私に用との事でしたが?」
「「はい。実は、貴方にある権限を与えようと考えています」」
「ある権限、ですか?」
と、マエロフが首をかしげていると、夕呼は2人の傍に置かれた箱、パンドラボックスの傍に立った。
「この2人があなたに与えるって言っているのは、こいつへのアクセス権よ」
「その箱は?ただの箱にしか見えないが?」
「「それは、パンドラボックス。私達コスモスのありとあらゆる技術を収めた箱です」」
「ッ!?では、私がこれまで閲覧した資料室にあったデータは!?」
「あれは重要度の低い技術データよ。私も、何度かこれの中にアクセスして情報を閲覧した事があるけど、あそこのデータとは比べ物にならないわよ。そして、今現在このパンドラボックスの存在は秘匿されてる。今のところ、これの存在を知っているのは私と、あなた。それと以前ここに来た事のあるモナークの芹沢博士の3人だけ」
「そ、それで、なぜ私にアクセス権を?」
「「それは、あなたならこのパンドラボックスのデータを使って、さらなる力を生み出せるのではと考えたからです」」
「ッ!?わ、私がっ!?」
「はい。夕呼さんからお話は聞きました。マエロフさんは、以前兵器の開発に関わっていた技術者だと」
「そんなあなたなら、このパンドラボックスの中にある技術を生かせると私達は考えました」
「で、ではっ!」
「「はい。このパンドラボックスの中にある知識と、あなたの技術を生かして。どうかモスラとバトラの助けとなる力を生み出してください」」
そんなコスモスの言葉にマエロフは……。
「ははぁっ!このアレキエフ・マエロフッ!必ずや神々、モスラとバトラの支えとなる兵器を生み出して御覧に入れましょうっ!」
その場で膝をついて涙を浮かべ歓喜の表情でそう答えた。
「「期待していますよ。マエロフさん」」
「はっ!その期待に沿えるよう、邁進していく所存でありますっ!」
こうして、新たにマエロフはパンドラボックスへのアクセス権を獲得したのだった。その後、マエロフはすぐにパンドラボックス内部、無数の本棚が並ぶ電子空間へと向かいある程度の情報を引き出すと、急ぎ足で艦長室を飛び出した。
『あぁ素晴らしいっ!先史文明の技術が私にインスピレーションを齎してくれるっ!早く戻らなければぁっ!』などと叫びながら彼は轟天号を出て行った。夕呼は、下手にパンドラボックスの情報を外部に漏らさないか心配で、再び長~~~いため息をついたのだった。
それから約2か月後。2001年2月。
「ミスコーヅキっ!」
「ちょっ!?な、何よっ!?」
ある日、自室で夕呼が仕事をしているとマエロフがいきなり入ってきて彼女は戸惑った。しかもマエロフは、数日は徹夜をしたのか目元に隈が出来ていたし目も血走っていた。更には身だしなみを整える時間も削って開発でもしていたのか、無精ひげまで生えている始末だ。
「すまないが今すぐ基地の外にある演習場と衛士数人を貸してほしいっ!彼らに試してもらいたい兵器の試作機が完成したのだっ!」
「え?完成したって、あれからまだ2か月しか経ってないんじゃ……」
「何を言うっ!まだではないっ!もう2か月だっ!これほど長い間、巫女様たちをお待たせしてしまった自分の無力さに憤りを感じているくらいだっ!しかし出来上がった試作機も所詮は『雛型』。くっ!私にもっと才能と技術、体力があればっ!」
「はいはい。アンタが悔やんでるのはよくわかったから。とりあえず一度寝て休んで、身だしなみを整えて後食事も取ってきなさい。その間に準備とかしとくから」
「すまないミスコーヅキッ!では頼むぞっ!」
そう言ってマエロフは、徹夜の影響かハイテンションのまま部屋を後にした。
それから数時間後。基地の外、インファント島の一部を開墾して作られた演習場に、夕呼とマエロフ。更にコスモス。基地の整備兵や、みちる達と言った衛士たちが集まっていた。そんな彼らの視線の先にあるのは、サイズ的に戦術機の5分の1程度の大きさの白いロボットが数機、起立していた。
「それでマエロフ博士?これは?」
と、夕呼が直接マエロフに問いかけた。
「あぁ。では説明を始めさせてもらう。この機体は、私の持つ戦術機開発などで得られた知識や技術と、このコスモスベースに保管されていた技術を掛け合わせて作った、次世代兵器の元となる兵器。その試作機だ。一応機体名として、『機動戦闘服タイプ01』。君たちの祖国、帝国風に言えば『01式』と言った所だろう。まぁ、私はもっぱらパワードスーツと呼称しているが」
「成程。で、こいつの武装は?」
「このパワードスーツは今も言ったように、あくまでも次世代機の元となる基礎のような機体だ。なので武装は最小限だ。とはいえ、両腕に一門ずつレールガン、つまり電磁投射砲を装備している」
「ッ。それはまた、凄い物を取り付けたわね」
と、夕呼は呆れとも驚嘆とも取れる感想を漏らした。そもそもレールガンとは、従来の火薬による爆発の力で銃弾を撃ちだすのではなく、電磁力とその反発力を生かして弾頭を射出する武器だ。しかしその使用には莫大なエネルギーが必要になるため、戦術機サイズでの採用は現時点では不可能。そもそもまだ試作実験機のレベルだった。
だが、現在においてみちる達が携行している拳銃は、パンドラボックスの技術を元に生産された小型のレールガンなのだ。ただ、やはり小型であるため貫徹能力は一般的な拳銃と比べても上回っているが、だからと言って一丁で大砲クラスの威力があるわけではない。
そして実際、夕呼も『すごい物』と評した訳だが、だからと言って威力が凄まじい訳ではない。
「で、口径と計算上の威力は?」
「うむ。レールガンの口径は20ミリ。戦術機が持つ突撃砲の36ミリ機関砲と同程度の威力を持つ。ただし、レールガンの加速度を持っているので貫徹能力に関しては突撃砲を上回っている」
と、説明をしていると……。
「あの~」
近くにいた水月が挙手した。
「どうしてレールガンだと突撃砲より貫徹力が上回ってるんですか?」
「あぁ、その事か。簡単に説明してしまうと、火薬を用いた銃火器はその火薬の爆発で弾頭を射出する。しかしこの撃発の際、エネルギーの大半が熱エネルギーに変換されてしまう。そのため、火薬を用いた射出方式は君たちが思っているよりも無駄が多いのだよ」
「それはつまり、撃ちだす力の大半が熱になってしまうから、ですか?」
「そうだ。そう言う意味では火薬式の射出方式は、火薬の爆発力を十分に生かし切れていないと言う訳だ。対してレールガン、つまり電磁投射砲は大小の差があれど、弾頭を加速させるという意味では火薬式にも勝る。そしてそれは、銃弾の速度にも影響する。速度が早ければそれだけ貫徹能力に影響するという事だ。そのため、口径は従来の突撃砲より小さくとも同程度の威力を出す事が出来る、と言う訳だよ」
と、マエロフは水月に説明するが、肝心の彼女や周囲の孝之達。更に美冴や祷子までもが、どこかぽか~んとしていた。
いや、まぁ普段からマエロフの狂気的な一面を見ていたからこそだった。何故なら今のマエロフは、普通の技術者に見えてしまうからだ。普段とのギャップに驚いている衛士たち。
「さて、では次は試運転だ。頼むぞ諸君」
「「「りょ、了解っ」」」
マエロフが声をかけると、今回試運転をするパイロットに指名された水月、孝之、慎二の3人が返事をし、それぞれ割り振られていたパワードスーツに乗り込んだ。
ちなみに、既に3人はこのパワードスーツの操縦方法を学んでいた。その方法、というのが人工知能であるゼアと特殊なベルトを介して繋がり、電脳空間でラーニングを行う、という物だった。
しかも、僅か数秒である程度のラーニングを終えてしまったのだから、夕呼は驚き、マエロフはゼアの力を褒めたたえた。
と、まぁそんな事もありつつ、パワードスーツに乗り込んだ3人はマエロフの指示を受けながら見事それを操作してみせた。そのパワードスーツの性能自体は、決して高い物ではなかった。しかしレールガンと言う新機軸の武器を採用している事。更に土木建設用に精密な作業が出来るマニュピレーターを備えていた事。短距離とはいえ飛行や跳躍が出来る事は水月たちの操作で判明した。夕呼はこれを、戦場の第一線での使用は出来ずとも、後方での作業やその護衛。戦車級や『兵士(ソルジャー)級』、『闘士(ウォリアー)級』と言った、小型種のBETAを狭い空間内などで殲滅するのに使えるのでは?と提案し、早速試作機とそのデータを国連軍に提供すると言ったのだ。マエロフの方は、それに対して『巫女様たちやゼアが許可を出せば構わない』、と言ってOKを出した。
しかし、先ほどマエロフが言ったようにこのパワードスーツ自体は所詮、雛型。まだまだ試作機や実験機のような存在だ。
その後、マエロフはこのパワードスーツをベースに新型機を開発するのだが、それはもう少し先のお話。
そして更には、その新型機、漆黒の翼を持つ機動兵器。猛禽類の名を持つ兵器を扱う4人の少年少女がこの場所へやってくるのも、もう少し先のお話。
第16話 END
って事で、新兵器登場フラグです。あと、最後の4人は、多分分かると思いますが原作主人公たちの事です。
次回は、もう少しオリジナルの話にする予定です。更にその次は、もしかしたらトータル・イクリプスの話になるかもしれません。
感想や評価、お待ちしてます。