マブラヴオルタネイティブ~~怪獣達の逆襲~~ 作:ユウキ003
時は少しばかり遡り、某日。Gフォースに所属している上総たちは、ある日広報活動に追われていた。広報活動を苦手としながらも、任務としてしぶしぶこれに応じる彼女達。しかし、ギドラの存在を政治的に利用しようとする政府に彼女達は怒り心頭だった。だが、龍神の姫巫女と言われる彼女達でも、それを覆すことは出来ず、内心歯がみしながらも任務を行っていた。だが、そんな平和な帝国から離れた場所で、新たな脅威が生まれつつあった。
~~~またしても時は遡り~~~
2000年のアメリカ、ネバダのグルームレイクにある基地。そこはアメリカの戦術機開発における最大規模の基地で『エリア51』とも言われている。
そこに一人の青年がいた。彼の名は『ユウヤ・ブリッジス』。
そして、彼もまた、『怪獣』と関わる事になる一人の人間だった。
「っつ」
ある夜、ユウヤは不機嫌そうな表情で、左頬を赤くしながら基地内をブラついていた。
ユウヤは先ほどまで基地に所属する同僚の衛士と、酒に酔って喧嘩をしたばかりだ。頭を冷やしてこい、と上官に言われたのだが、こうしてあてどなく基地の中をブラつくばかりだ。しかしここはネバダ。冬の夜は寒く、その冷たさが、赤く腫れた頬に突き刺さる。
「ちっ」
それに舌打ちするユウヤ。何か気を紛らわせる物は無いかとポケットの中を探っていると……。
「あ?これって……」
ポケットの中にあったのは、ハーモニカだった。それは、喧嘩の現場になったバーを出るときに。
「はいユウヤ。これ」
「あ?何だよこれ」
今のユウヤの彼女でもある『シャロン・エイム』がこっそり渡してくれたものだ。
「音楽ってストレス発散に良いのよ?試して見たら?」
と、そう言って渡されたものだった。
戻って現在。
「ハーモニカ、ねぇ」
ユウヤは気怠げに息を吐きながら、それを吹き始めるユウヤ。しかし経験などない楽器の演奏に彼は四苦八苦してた。
「ちっ!このっ!」
そこに来て、ユウヤのプライドの高さが顔をのぞかせた。それから練習する事数十分。
「へっ、これでど~だ」
一応、そこそこは吹けるようになったユウヤ。そのまま基地内をぶらぶらしながらハーモニカの練習をしていると……。
『……ァァァンッ』
「ん?」
ユウヤの耳に、聞きなれない声が聞こえて来た。彼は、何だ?と周囲を見回し歩き出した。しばらくすると……。
『…アァァンッ』
「っ、こっちか?」
先ほどよりはっきりと聞こえ始めた声に導かれるように、ユウヤは歩みを進める。やがて彼は一つの大きな建物を見つけた。
「ここは、確か資材倉庫のはずじゃ?」
その建物は、ユウヤの知る限り戦術機の武器の予備パーツや弾薬、開発資材などを保管しておく『唯の倉庫』のはずだった。
『キュアァァァンッ』
「ッ……!?」
しかし、その倉庫の中から聞こえるのは機械の駆動音でも人の声でも無い。それに戸惑い、ユウヤは咄嗟に身構えてしまった。
彼は鋭い視線で目の前の倉庫を見つめている。その時ふと、彼は近くのドアが目に入った。ユウヤはゴクリと喉を鳴らし、ゆっくりとドアに近づきドアノブを捻った。
『ガチャリ』
すると音を立ててドアが開く。
『施錠されてないだと?まさか、誰かが侵入したのか?』
ユウヤはドアを開け、中をのぞき込む。中は薄暗く、分かるのは建物の見た目通りかなり広いと言う事だけだ。ユウヤは静かに中へと足を踏み入れる。そして、ユウヤは偶々入り口近くにあった鉄パイプを手に、明かりのスイッチを探すために壁に手を突きながら歩いて行く。
『スイッチは……。っと、これか?』
歩いていると、ユウヤは暗がりの壁に何かを発見した。そして、それを押した。すると……。
『パッ!パパパッ!』
ユウヤの考え通りそれは明かりのスイッチだった。建物内部にある照明が次々と点灯していくが……。
「うっ」
彼は突如明るくなった室内に、目を背けるように下を向いた。そして数回瞬きをした後、視線を戻したのだが……。
「なっ!?」
ユウヤは、驚愕の表情を浮かべた。
それもそのはずだ。
今、彼の眼前には巨大な檻があった。巨大な部屋の大半を占めるその檻。だが問題は檻の中身だ。
そこには、『青い巨鳥』が横たわり眠っていた。
青い体。赤い鶏冠。黄色い嘴を持つ巨鳥が横たわっていた。
「何だこいつっ!?まさかBETAっ!?」
最前線から遠く離れた米国で育った衛士の中には、BETAをその目で見た事が無い者も多い。ユウヤも例に漏れず、実物のBETAを目にしたことが無い。だから目の前の存在をBETAか?!と疑っても仕方が無い。
すると……。
『キュゥゥゥン?』
ユウヤの声に気づいたのか、眠っていた巨鳥が目を覚ました。
「ッ!?」
それに息を呑むユウヤ。すると、周囲を見回していた巨鳥がユウヤに気づいてそちらに目を向けてきた。
視線が交差するユウヤと巨鳥。ユウヤは目の前の存在に圧倒され、冷や汗を流しながらも声を上げる事なく、固まってしまっていた。
『キュゥゥゥ?』
しかし目の前の巨鳥は、真夜中の来客を見つめるばかりで、威嚇したり怯えたりする事も無く、ただ来客、ユウヤを見つめながら首をかしげていた。
しかし、肝心のユウヤは内心戸惑いを隠せないで居た。
『な、何だこいつは!?BETA、なのか!?にや、にしたって大きい!?要塞級クラスかっ!?まさか新種っ!?それを米軍が捕まえてたのか!?』
知識と経験の無さ故か、目の前の巨鳥がBETAなのではと考え、恐れ戦くユウヤ。
と、その時。
「おいっ!そこで何をしているっ!」
突如声が掛けられた。ユウヤがそちらを向くと、そこに立っていたのは完全武装の警備員が数人と白衣姿の、如何にも研究員と思われる風体の男が数人だった。しかも警備員たちは手にしたサブマシンガンをユウヤに向けている。
慌ててユウヤは両手をホールドアップする。
「貴様、どうやってここに入った!?ここは関係者以外立ち入り禁止区画だぞっ!」
「い、いや偶々だっ!偶々あそこのドアが開いてたから入っただけだっ!大体、ここは公式にはただの倉庫だったはずだろっ!?何なんだこのデカブツはっ!?」
「貴様が知る必要は無いっ!」
警備員達は、ユウヤの言葉にそう怒鳴り返すとすぐさま彼の背後に回り込み、床に倒して押さえ付けてしまった。
「ぐっ!?何すんだっ!」
「大人しくしろっ!貴様を拘束するっ!」
咄嗟に声を荒らげるユウヤ。だがそれも空しく、警備員の1人が手錠を取り出した。
『クソッ、最悪だっ!』
彼は内心悪態を付く。
と、その時。
『キュアァァァァァンッ!キュアァァァァァンッ!』
「ッ!?これは……!?」
突如として巨鳥が声を上げた。それに戸惑い、研究員や警備員達の視線が動きを止めそちらを向く。
『キュアァァァァンッ!キュアァァァァァンッ!』
巨鳥は、まるで『止めて』と言わんばかりの表情で何度も鳴いている。
「まさか、『リドリアス』が彼に反応しているのか?」
『ッ、リドリアス?』
ポツリと研究員が呟いた単語に、ユウヤは反応する。
「今まで人に反応することはあったが、まさかこれほどとは……!」
と、ブツブツと研究員が何かを喋っていると……。
「おいっ!何してる!?」
「ッ、スヴェン大尉ッ!?」
1人の男が現れた。それは『リック・スヴェン』大尉。ユウヤの直属の上司に当る男だ。
その後、スヴェンの取りなしもあった事やユウヤの供述通り、ドアが施錠されていなかった事から管理の方に問題があった事などが露呈し、結果的にユウヤはおとがめ無しとなった。
翌日。ユウヤはスヴェンの部屋に呼び出されていた。
「ブリッジス少尉。……お前は、あの鳥を見たな?」
「はい。確かに見ましたが、何なんですかアイツは?まさか、新種のBETAとか?」
「いや。あいつは『怪獣』だ。お前も怪獣くらいは知ってるだろ?」
「え、えぇまぁ。最近になって見つかった、変な力を持った化け物の事ですよね?」
「そうだ。そして、あの鳥、『リドリアス』もその怪獣の1匹だ」
「ッ。じゃあ米軍は怪獣を捕獲してたんですか!?」
「あぁ。だが、何時どこで捕獲されたのかは、俺も詳しくは知らん。分かっているのは、アイツにリドリアスという名前が与えられていること。比較的温厚で、学者連中は『友好巨鳥』なんて呼んでる事。アイツが、温かい所が好きなのでここに居る事くらいだ。今はあぁして、カゴの中の鳥って訳だ」
「温かい所が好きって、だからこのグルームレイクに?」
「そうらしい。……この基地でリドリアスの存在を知っているのは最低でも部隊長クラスでなければならない」
「それで、下っ端の俺達には知らされてなかった、って事ですか?」
そう、吐き捨てるように呟くユウヤ。
「そう腐るな。……ただでさえ、近年は世界各地で怪獣を擁護する主張が騒がれてる。そんな中で米軍が怪獣を捕獲し実験材料にしてたなんて知られれば、世間に格好の批判材料を与える事になる。特にメディア共は大衆受けする記事のネタを求めて奔走してるんだ。それをみすみす提供してやる気は無い、ってのが上の決定だ。お前が知らないのも無理は無い。それに、あんなデカいのがすぐ身近に居たってしれたら、大体の奴は騒ぐだろ?だから騒がれて情報漏洩しないように一部の人間しかリドリアスの事は知らされてなかったんだ」
「……そうっすか」
「とにかく。リドリアスの事は今のところ大半の奴らが知らない事だ。お前も、不用意に他人へ漏らすなよ。……話は以上だ。下がってよし」
「はっ。失礼しますっ」
そう言ってユウヤはスヴェンの部屋を後にした。
だが、それから数日後。事件は起こった。
その日、ユウヤは部隊の仲間と共にとある機体の配備計画に関わっていた。その名を『ラプター配備計画』と言う。
現在、世界各地では第3世代戦術機の開発が盛んにおこなわれている。帝国の不知火や欧州のタイフーンやラファールなど、既に実機が戦線に投入されている。そんな中で米国が開発しているのは、『F-22A ラプター』という名前の第3世代戦術機だ。このラプターは、本来対BETA戦闘では不要と思われるステルス性能を付与されている。
そう、ラプターは『戦術機と戦う事を想定した戦術機』なのだ。この設計思想もまた、米国が対BETA戦後、地球で発生すると考えている資源争奪戦で他国と戦う場合、勝るためにという考えの元に生まれたのだ。
BETA大戦の終結も見えぬまま、このような機体を作る事は『捕らぬ狸の皮算用』と言わずして何という。しかし、米国の要人たちに言わせれば、それは『将来性を見据えた物』なのだ。彼らは勝利を確信している。『自分達ならばBETAに勝てる』と。そのための切り札がG弾なのだ。
そして大戦終了後、人と人の戦いに勝つために、こうしてラプターを開発していたのだ。
だが、開発されたラプターをいきなり実戦配備できるわけではない。今、基地ではユウヤのようなテストパイロットたちによる試験運用をして、問題点の洗い出しとそれの改善。そう言ったダメ出しをしてから、更に実戦配備型と言われるようなタイプになって初めて実戦に投入される。
そして今、ユウヤ達はそのラプターを改善するために色々とテストを行っていたのだ。
そして、今日も今日とてユウヤと、同僚の『レオン・クゼ』はラプターに乗り込み、データを取るためのチェイサー、2機の『F-15E ストライクイーグル』にはシャロンと隊長のスヴェンが乗り込んでいる。
そしてデータ採取を終え、基地に戻ろうかという時だった。
『ゴースト小隊へっ!こちらHQ!緊急連絡っ!』
突如として4人の元へ通信が届いた。
「こちらゴースト1。どうした?何があった?」
「基地施設内部より突如として怪獣が出現っ!資材用倉庫一つを破壊して飛び立ったっ!そちらに向かっているっ!警戒しろっ!」
『ッ!?なんだと!?』
ユウヤはこの通信を聞いた時、脳裏にリドリアスの姿を思い浮かべた。
『まさか、あいつが脱走したのか?にしたって何だってこっちにっ!?』
彼はすぐさま状況を整理する。今のラプターは武装らしい武装を持っていない。
「ちっ!」
彼は舌打ちをするとすぐさま他の3人に通信を繋げた。
「隊長っ!隊長は2人と下がって下さいっ!俺が囮になって時間を稼ぎますっ!」
「えっ!?ユウヤっ?!」
「お前何を勝手にっ!」
ユウヤの言葉にシャロンが戸惑い、レオンが声を荒らげた。
「うるせぇっ!どのみち俺達にまともな武装は無いんだろうがっ!だったら1人が囮になるしかねぇだろっ!かといって、隊長とシャロンはイーグル。で、俺とお前はラプターっ!性能を考えればどっちが囮になった方が良いか、分かるだろうがっ!」
「うっ」
ユウヤの言葉にレオンは一瞬言葉を詰まらせる。
ユウヤの言うとおり、まともな武装が無い中、4機で立ち向かっても相手は怪獣。全滅させられる可能性はある。だったら1機が囮になって残りを逃がすのは合理的な判断だ。
「分かった。ゴースト2、俺達は下がる。だがこれだけは言っておく。死ぬなよ」
「了解っ」
ユウヤはスヴェンの言葉にそう返すと、3機から離れて飛び出した。
『当たり前だ。こんな所で死ねるかっ!俺はもっとっ!もっとっ!』
ユウヤは歯を食いしばりながら前に出る。そして、数秒してその姿をカメラが捉えた。リドリアスだ。背中の翼を広げたリドリアスが真っ直ぐユウヤの方に向かって来た。
「来やがれ鳥野郎っ!こっちだっ!」
ユウヤはマイクをオンにして叫ぶと、すぐさま方向転換して基地から離れるように飛んだ。
『キュアァァァァンッ!』
すると、それを追うようにリドリアスがユウヤのラプターを追いかけ始めた。
『食いついたっ!落とせるもんなら、落として見やがれっ!』
ユウヤは更に高度を下げ、眼下に見える渓谷へと向かった。そこは戦術機のタイムアタックに使われているコースだ。渓谷は、翼を広げたリドリアスでは降りる事が出来ない。しかも渓谷内部はかなり入り組んでいるので、ユウヤはここでリドリアスを撒こうとも考えていた。
だが……。
「クソッ!?」
彼は悪態を付きながら網膜投影画像を注視する。現在、渓谷を駆け抜けるラプターの真上を、マッハ2の飛行速度を持つリドリアスが悠々と付いてくる。
渓谷内部で速度が出ないラプターでは、何も無い上空を飛べるリドリアスを撒くことが出来なかったのだ。そして、それ故に焦りが生まれる。
「ッ!?やべっ!」
ラプターがついに渓谷の行き止まりにたどり着いてしまった。慌てて着陸し振り返るが……。
『ズズンッ』
そこに降り立ったリドリアス。
「クソッ!」
ユウヤはラプターを後ずさりさせるが、すぐ後ろは断崖絶壁の崖。今から飛び上がろうとしても、戦術機より巨大なリドリアスに掴まれて終わりなのは、ユウヤでも分かる。かといって、リドリアスの脇をすり抜けられるほど渓谷は大きくない。
文字通り、万事休すかと思われた。……だが、そもそもユウヤの前提が間違っていたのだ。
『キュルルルゥ』
リドリアスは、まるで『楽しかった』と言わんばかりに小さく喉を鳴らす。
「ッ。何だ?こいつ」
まるで襲ってくる気が無いリドリアスに、ユウヤは肩すかしを食らったようだった。
すると、リドリアスはもう一度鳴くと翼を広げて飛び上がった。そして上空を旋回し、眼下のユウヤのラプターに向かって更にもう一度鳴くと、基地の方へと戻っていってしまった。
それを、訳が分からず呆然と見送る事しか出来ないユウヤ。
「ユウヤッ!ユウヤ大丈夫っ!?」
そこに響くシャロンからの通信。更にスヴェンやレオンからも通信が届くのだが、ユウヤは呆然としながら空返事を返す事しか出来ないのだった。
その後、リドリアスは基地の方へと向かった。当然基地の戦術機部隊などが迎撃に上がった。しかし、基地内部の研究者たちから『貴重なサンプルだから無闇に攻撃するな』、と指示が飛んできた。『それどころじゃないだろっ!?』と部隊の衛士が怒鳴り合っていると、リドリアスが基地に戻ってきてしまった。基地内なので、不用意に銃火器を使えない、と戸惑う戦術機部隊だったが、リドリアスはそんな彼等を一瞥すると、何と元の格納庫の中へと戻り、眠りについてしまったのだ。
これに困惑したのは戦術機部隊の衛士たちだった。突然基地内部から現れた怪獣が、脱走したかと思えば、普通に戻ってきたのだ。彼等が困惑するのも無理は無い。
で結局、訳が分からない衛士達は基地の研究者たちに訳を説明するように詰め寄った。
その後は基地側から衛士達にリドリアスの事が説明された。更に……。
「アイツの脱走はどう説明するつもりだ?」
説明が為された後、スヴェンが研究者達に問いかけた。
研究者たちは、その答えとして『ストレスが溜まっていたための行動だろう』と答えた。彼等曰く、長い間倉庫の中で閉じ込められてストレスが溜まっていたリドリアスは、その翼を広げて空を飛びたいがために脱走。しかし基地を巣と考えているのか、空を飛びストレスが軽減されたため、帰巣本能によって巣である基地に戻ってきたのだろう、と言う事だった。
その後、結局リドリアスの存在は基地の全員が知る事になった。最初は怪獣というリドリアスの存在に懐疑的な者も多かった。
が、しかし……。
「リドリアス」
ある日の事。すっかりリドリアスの巣となった元偽装格納庫にシャロンが訪れて居た。
「キュルルルゥ」
彼女の来訪を、喉を鳴らして喜ぶリドリアス。そしてリドリアスが嘴を近づけると、シャロンはそれを愛おしそうに撫でる。
「リドリアスは今日も元気ねぇ」
そう言って、シャロンはリドリアスを撫でながら笑みを浮かべていた。その後、彼女が去った後も女性衛士や男性衛士達がリドリアスの元を訪れていた。
軍事基地でもあるこの基地では癒やしになる存在など滅多に無い。その代替として男女が夜を共にしたり、酒を飲んだり、と言うのが現状だ。そんな中で現れたリドリアスは、普段は大人しく最近では戦術機と共に空を飛ぶ事もある。
友好巨鳥と言われるリドリアスだけあって、彼は訪れる人間達に好意的に接していた。
そして、そんなリドリアスの元によく足を運んでいたのが、ユウヤだった。
彼は部隊内でも浮いている存在なのだ。実は、ユウヤとレオンは日米混血の、日系アメリカ人だ。レオンはその事に誇りを持っているが、ユウヤは対照的に過去の経験などから、自らに流れる日本人としての血を嫌悪しており、それが帝国への嫌悪にも繋がっている。更に、部隊内ではその出生から来る差別に対して、拳で応じる事もあって喧嘩沙汰は絶えない。普段の、ユウヤ自身の周囲を鑑みない行動や発言のせいで敵は多いのだ。
そんなユウヤにとって、部隊内ではこれと言った居場所は無い。だからこそ、時間を持て余した時、ユウヤはこうしてリドリアスの元へ足を運ぶようになった。
そして、いつぞやシャロンより貰ったハーモニカを吹く。そうすると、リドリアスは静かにユウヤの演奏を聴き、それが終わると嬉しそうに鳴く。
そうやって、言葉を交わさずとも共に居る時間を過ごしていたユウヤとリドリアス。
ユウヤにとって、周囲の人間と接することは得意ではなかったし、むしろ苦手だった。自意識が強い彼にとって、周囲の人間は時に敵とも言える者だったからだ。
だがリドリアスは時に彼の愚痴を聞き、心配そうな声を上げる。あるときは共に空を飛んだ事もある。
リドリアスにとって、彼がどこでどう生まれようが関係無かった。なぜなら、リドリアスにとって、ユウヤを含めた全員が『1人の人間』だったからだ。出生も階級も性別も関係無く、同じように接するその姿は、奇しくもかつて、ユウヤを混血と蔑んだ人間達と正反対だった。
それ故に、部隊に居場所のないユウヤはリドリアスの傍に居た方が落ち着けたのだ。
更にある日の事だった。ユウヤが1人、訓練で飛んでいるとリドリアスが傍にやってきたのだ。
「……お前、飛ぶのが好きなのか?」
ふと、通じないと分かっていてもユウヤはスピーカーを通してそう問いかけてしまった。すると……。
『キュルルルッ!』
頷くようにリドリアスが喉を鳴らすのだった。
「そうか」
その答えにユウヤはそれだけ呟く。その後、ユウヤはこれまで以上にリドリアスの元へ足を運んではハーモニカを吹くようになった。リドリアスも、ユウヤがやってくると嬉しそうに鳴いていた。奇しくも、部隊の中で居場所のなかったユウヤが落ち着けるのは、人ならざる怪獣、リドリアスの傍だったのだ。
だが、そんな日々を繰り返していたある日。事故が起きてしまった。
ここ最近になって、ラプターの配備に関して懐疑的な話が持ち上がっていた。ラプターはその性能のため、1機当りのコストはかなりのものなのだ。そのため、懐疑論に端を発する開発予算の減少。それにともなう運用テストも遅れが出始めていた。
そして2000年8月。
開発予算の減少、運用テストの遅れ。それらはユウヤ達に『焦り』としてのし掛かった。このままではラプターの配備計画が頓挫する恐れがある。だからこそ、渓谷での機動性をテストする時、ユウヤは良い記録を叩きだそうと必死だった。
通常プランを無視した高速機動を続けるユウヤのラプター。それをチェイサーとして追いかけるスヴェンのストライクイーグル。スヴェンはレオンのラプターとシャロンのストライクイーグルを下げさせ、自分がユウヤの後を追った。
その時だった。
「あんのバカッ!」
レオンはコクピットの中でスタンドプレーをするユウヤを罵っていた。と、その時。
「えっ?」
シャロンがレーダーを見て何かが近づいてくるのに気づいた。
何かが高速で近づいてきた。戦術機の速度ではない。慌ててカメラを動かしたその時、2人の傍を大きな影が通り過ぎていった。それは……。
「なっ!?リドリアスッ!?」
「ッ!?なんでアイツがここにっ!?」
それは基地にいるはずのリドリアスだった。2人はその出現に、ただ驚く事しか出来なかった。
そして、事件は発生した。
ユウヤは一瞬、後ろを走るスヴェンのイーグルに気を取られてしまった。気づいた時には崖が迫っていた。ユウヤはそれを、舌打ちをしながら見事に回避した。
だが、崖のすぐ近くで跳躍ユニットを吹かしたせいかは分からない。元々風化し脆くなっていたのかもしれない。だが、確実に崖崩れが発生した。
「ッ!?」
瓦礫がスヴェンのイーグルの道を遮るように降り注ぐ。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?!」
スヴェンはそれを避けきる事が出来ず、瓦礫のシャワーへと突進してしまった。
と、その時。
『キュアァァァァァァァァンッ!!!』
すんでの所で、リドリアスが滑り込んできたのだ。
そしてリドリアスとスヴェンの乗るイーグルは、瓦礫の中に消えていった。
「ッ!?大尉っ!」
それを後ろから追いついたレオンが見ていて、声を荒らげた。ユウヤもラプターの高度を上げ滞空し振り返る。
3人は、まさか、と考えてしまった。と、その時。
『ゴガァァァァァンッ!!!』
瓦礫の山を粉砕してその下から現れた姿があった。それはリドリアスだった。しかもその腕には器用にスヴェンのイーグルが握られていた。まるでイーグルを守るように、リドリアスは両腕をイーグルの背中に回していた。
しかし、瓦礫を受けた影響か、翼は所々負傷していた。
「大尉っ!無事ですかっ!?大尉っ!」
レオンが通信機に向かってまくし立てる。
「あ、あぁ。何とか、な」
そこに帰ってきたスヴェンの言葉に、3人は安堵した。
その後、試験は中止。リドリアスはユウヤ達4人に付き添われながらも帰還。だが、翼の傷もあってしばらくは安静にさせよう、と言うのが研究者たちの意見だった。更にリドリアスが飛び出したことに関しては、研究者たちは首をかしげた。一部では『リドリアスの第六感では』と言い出す始末だった。
一方で、衛士達もリドリアスが無事な事に安堵していた。しかし、リドリアスが傷を負った事に関する怒りが、ユウヤに向けられたのだ。
事故から数日したある日の事だった。
「惨めだなブリッジス」
「あ?」
食堂でユウヤが食事を取っていると、普段から因縁のある衛士の1人がそう言って声を掛けてきたのだ。
「試験の最中、上官が死にかけるは。その尻拭いでリドリアスが負傷するわっ!何がエースだっ!笑わせるなこの死神野郎がっ!」
「何だとテメェっ!」
相手の言葉に、手が出て喧嘩になるユウヤ。そして、殴り殴られ、頬を赤くしながらもユウヤはリドリアスの元を訪れた。
事故の後からユウヤがここを訪れるのは、初めての事だった。
『キュルッ?キュルルゥッ』
リドリアスはユウヤに気づくとリドリアスは嬉しそうに喉を鳴らした。しかし、ユウヤの頬が赤いことに気づくと、心配そうにオロオロし始めた。
だが……。
「……何でだ?」
『キュルゥ?』
ユウヤの小さな言葉に、リドリアスは戸惑い首をかしげる。
すると……。
「なんでお前はそんな平然としてられるんだよっ!俺のせいで怪我したかもしれねぇんだぞっ!」
声を張り上げるユウヤ。幸い、今ここには彼とリドリアスしかいない。
『キュルルゥ』
するとリドリアスは、まるで『ごめんね』と言わんばかりに目を伏せ悲しそうな声を上げる。
「ッ!?……そうじゃねぇ。……そうじゃねぇだろっ!」
だが、それが却ってユウヤの心を逆なでしてしまった。
今のユウヤには、リドリアスに対して謝罪したい想いがあった。奇しくも、今現在ユウヤが最も信頼出来る相手に上げられるのが、リドリアスだった。裏表の無いリドリアスだからこそ、ユウヤはあの事件の前まで、少しずつリドリアスに心を開きかけていた。
だが、ここに来て事故でリドリアスに迷惑を掛けてしまった。だから、いっそリドリアスが怒ってくれれば良かった。ユウヤはそう思っていたのだ。
だが、返ってきた反応は全くの正反対だった。だからこそ、彼は声を荒らげてしまう。
しかしそれも逆効果だった。リドリアスはますます目を伏せてしまう。
そして、結局。
「クソッ……!」
怒りと謝罪したい思いがない交ぜになってグチャグチャになった心をどうしようも出来なくなったユウヤは、悪態を付いてその場を後にしてしまった。
そして、それ以降ユウヤがリドリアスの元を訪れる事は無かった。
それからしばらくして、ユウヤはネバダを離れてしまった。『XFJ計画』というものを参加するためにだ。
果たして、ユウヤとリドリアスはこれからどうなるのか。
そして、ユウヤを待ち受ける出会いとは。
それはまだ、ユウヤ自身には分からない事だった。
ユウヤ・ブリッジス。彼もまた、1人の人間として怪獣と関わり始めたのだった。
第18話 END
って事で、ユウヤと関わりのある怪獣として出てきたのはコスモス怪獣の『リドリアス』でした。コスモスからはもう1匹くらい引っ張ってくる予定ですが、確定ではないのでその辺りはよろしくお願いします。
次回からは第17話と繋がると思います。
感想や評価、お待ちしてます。