マブラヴオルタネイティブ~~怪獣達の逆襲~~ 作:ユウキ003
帝国は今、BETAの侵略を受け、遂には関東圏
までその存在が迫っていた。
米軍の撤退。佐渡島ハイヴの建造。
そして、バラゴンとガーディーの消滅。
それは人々に対して大きな絶望となった。
そして、最もダメージが大きかったのは、
唯依達だった。
あの戦いの後、帰還した彼女達は皆無言で、
その頬には泣きはらした涙の痕が残った
ままだった。気力を失っている、と言う
表現が似合いそうな事態となり、隊長
である佳織は、彼女達を一時的に前線から
下げられないか、上層部と掛け合った。
上官として、今のまま前線に行けば
確実に死んでしまいそうな彼女達を
見ていられなかったのだ。
そして、以外にも彼女の提案は受諾された。
もちろん彼女の進言と、唯依達の状況を
哀れんだから、等では無い。
一つはモナークの人間である芹沢が日本政府
を通じて、『怪獣と初めて接触し、剰え心を
通わせた彼女達には相応の価値があり、
怪獣との対立を避ける意味でも彼女達を
無駄死にさせるのは得策ではない』、と言う
旨を斯衛軍上層部に伝えた事。
更に五摂家の1人であり、唯依の従妹叔母に
当る『崇宰 恭子』が、芹沢の言葉に
価値があると判断した結果、こちらに対して
色々口添えをした事が大きかった。
結果、唯依達はバラゴンやガーディーを
失った失意のまま、首都機能を仙台に移転
するために、避難民の護衛、と言う事で
前線を離れて一度北部へと向かうのだった。
そして、そんな避難民を追うように、BETA
は迫りつつあった。
1999年1月。年も明けて新年だというのに、
誰もがそれを祝う事など、出来ないのであった。
某所、海底。
一片の光も挿さない深海の奥底で、静かに
眠っていた『巨獣』が目を覚ました。
目覚めた巨獣は、彼は、遙か遠方を見つめる。
そしてそこに跋扈する、異星起源種達の気配
を察知する。
『グルルルッ』
彼は、静かに唸ると、ゆっくりと歩き出した。
『ゴアァァァァァァァァァッ!!!』
漆黒の深海に響き渡る巨獣の咆哮。
それはまるで、開戦を告げる鐘の音の
ように、暗い海へと響き渡る。
そして巨獣、『怪獣王ゴジラ』は、
その足を進める。
この星を食い荒らす存在を、破壊するために。
その視線の先にあるのは、極東の島国、帝国。
彼は歩みを進める。そこにいる敵を、
倒す為に。
そして、彼が向かう視線の先にある帝国の
都市、横浜。今そこで、4人の少年少女が、
必死に走っていた。
「走れ!『武』っ!『純夏』っ!『優子』っ!」
先頭を走る黒髪の少年。その後ろを、茶髪の
少年と、朱色の髪と大きな黄色いリボンが
特徴的な少女。更に黒髪ショートヘアの少女が
続いている。
彼等は、先頭を走る少年、『榊 陽男(はるお)』に続き、
『白銀 武』、『鑑 純夏』、『谷 優子』は
息を切らしながらも必死に走っていた。
4人は、この横浜の街で育った幼馴染みだ。
腐れ縁で、何をするにも4人一緒だった。
だが、今は住み慣れた街を捨て、必死に走っていた。
BETA襲来の警報を受け、彼等は家族とともに
逃げ出した。
だが、逃げる人混みの中で、それぞれの家族
とは離れ離れになってしまった。それでも
彼等は走る。逃げた先で、家族と会える。
きっと生きている。再会出来る。
そんな淡い希望を抱きながら、彼等は
走る事しか出来なかった。
だが……。
『ドドドドドドドドッ!』
そんな彼等の必死の逃走を嘲笑うように、
BETAの先鋒、突撃級の群れが、時速
170キロで離れた所から4人の方へ向かってくる。
轟く進撃音に、4人は足を止めて振り返って
しまう。そして向かってくるBETAの群れを
目にしてしまう。
そして、純夏と優子の表情が、一気に青ざめる。
突撃級と人間の足では、勝負にもならない。
すぐに追いつかれ、踏み潰されるだろう。
そんな絶望感から、純夏と優子はその場に
崩れ落ちるように膝を突いてしまった。
「ッ!?純夏!優子も立つんだっ!逃げるぞ!」
咄嗟に声を掛ける陽男。しかし、2人とも動かない。
「くっ!武っ!純夏を頼む!俺は優子をっ!」
「お、おぉっ!」
陽男と武は、それぞれ優子と純夏を立たせると
その手を引いて走り出した。
『クソッ!クソォッ!』
陽男は、頭の中で全てを罵る。
自分達の生まれ育った街を蹂躙するBETAを。
それを押さえ込めない人類の、軍隊の無力さを。
そして何よりも。ただ逃げる事しか出来ない
自分自身の『弱さ』を。
「チクショォォォォォォォォッ!!!!!」
怒り、悲しみ、憎しみ。負の感情を
織り交ぜて、彼は叫ぶ。
一方、防衛戦の指揮所には萩閣の姿があった。
彼は現場から上がる悲痛な報告に顔を
しかめている。
『……彼等がいなければ、やはり人類は
この程度だと言うのか』
彼等、とはつまり、バラゴンやガーディーの
事である。そして、現在において唯一生存
が確認されているバランは、佐渡島ハイヴが
建造されると、そこから日本海を渡って
上陸してくるBETAに対して、ほぼ
かかりっきりで戦っている。そのため、
今現在において、バランの助力は得られて
いない。
『クソッ。こうなれば、もはや悪魔でも
何でも良い。あの憎きBETA共を、
滅ぼせるのならっ!』
目を覆いたくなるような現状に、彼は
そんな事を考えてしまう。
と、その時。
「き、緊急連絡!」
萩閣や周囲の佐官たちの耳に飛び込んでくる
その言葉。不意に萩閣は、いつぞやの、
光州作戦の時のようなデジャブを感じた。
そして、それはその通りであった。
「東京湾に未知の巨大不明生物出現!」
「何だと!?まさかBETAが地下を
侵攻してきたのか!?」
突然の報告に佐官の1人が叫ぶ。BETAは
希に、地下を侵攻してくる事がある。
なのでそれを疑うのも無理は無い。
「いえっ!現場からの報告では、BETA
ではない模様!」
「何?では怪獣か?で、大きさは?
まさかバランか?」
彼等がまず真っ先に疑ったのはバランだ。
「しょ、少々お待ちを。今確認を」
通信士は、そう言って通信でやり取りを
するが……。
「……え?」
彼は、通信の内容を疑った。
「どうした!何を呆けている!
早く報告せんかっ!」
その様子に苛立った様子の佐官が声を
荒らげた。
そして、通信士は、顔を青ざめさせ
ながら答えた。
「と、東京湾に出現した生物の体高は、
さ、300メートルを超える模様」
「…………は?」
彼の言葉に、萩閣は疑問符を浮かべた。そして
彼はすぐさまその通信士の傍に駆け寄った。
「本当に300メートルを超えているのか?
聞き間違いじゃないのか?」
「い、いえっ!確かに報告では300メートル
を超えるとっ!」
「で、奴の侵攻ルートは?」
「は、はいっ!現在巨大不明生物は、横浜市の
本牧埠頭より上陸しつつありとの事です!」
「その映像は出せるか?」
「はい。やってみますっ!」
萩閣の指示に答え、通信士は近くを航行する
帝国軍の艦船が捉えた映像を、データリンクで
取得し、モニターに映し出した。
『『『『ザワザワッ!!!』』』』
それだけで、司令部内はざわめきに包まれた。
「……デカい」
周囲に映る建物と比較し、更にアンギラスを
目撃した事もある萩閣でさえも、驚きから
そう呟いてしまうほど、その生物は、ゴジラ
とは強大な存在だったのだ。
『ゴアァァァァァァッ!!!』
埠頭から上陸したゴジラは、咆哮を上げると
その巨体で足下の建物を粉砕しながら、
ノシノシと静かに、しかし着実に足を進める。
そして、映像を食い入るように見つめていた
者達の中で、萩閣が一番に我に返った。
「おいっ!あの巨大不明生物の侵攻ルート
を調べろっ!それと、戦闘中の各部隊に
怪獣出現の連絡っ!加えて奴に対して
攻撃を控えるように通達っ!急げっ!」
咄嗟に周囲に指示を出す萩閣。それを受けて
通信士達が慌ただしく動き出した。
すぐに全部隊に帝国陸軍司令部から情報が
伝わっていく。そして、そんな中でゴジラの
侵攻ルートが割り出された。いや、実際
には割り出す必要も無かったのだ。
「か、怪獣は真っ直ぐ、BETA群へ
向かっていますっ!」
「ッ、やはりか」
報告に、静かに頷く萩閣。
『奴らは本能的にBETAを攻撃するようだ。
だとすれば当然、BETA群に向かっていく
だろう。だが、本当に奴1匹でBETA群
を退けられるのか?今のBETA群の数は、
京都防衛戦の比ではない。……大丈夫
なのか?』
と、萩閣は疑っていた。ゴジラの勝利を。
まぁそれも無理は無い。彼の耳にも、バラゴン
とガーディー消滅の話は届いていた。
彼は怪獣という存在が不滅の怪物ではないと、
理解している。つまりBETAが怪獣に勝つ
可能性も0ではない。そう彼は考えている。
それ故に、ゴジラの勝利を疑ってしまう。
だが、その疑問はすぐさま吹き飛ばされる
結果となった。ゴジラがあと少しでBETA群
と接触するか、と言う時。
「怪獣が移動を停止しましたっ!」
「っ、何?」
突如聞こえた通信士の声に、萩閣はモニターに
目を向けた。見ると、確かにゴジラが市街地の
ど真ん中で足を止めていた。
『何故止まった?』と、萩閣が考えた直後。
「か、怪獣の体内に高エネルギー反応!
加えて背部の背鰭のような部位の放電を
確認っ!」
「ッ!?何だと!?」
萩閣は驚きながらも、瞬時に背鰭の放電が
攻撃の予備動作ではないかと考える。
「おいっ!アイツのエネルギーを計測出来るか!」
彼はすぐに通信士に指示を出した。少しでも
ゴジラのデータを得るためだ。そして指示を
受けた彼はすぐにキーボードを叩くが……。
「け、計測不能!ダメですっ!エネルギー量が
巨大すぎて、ここの機器では計測出来ません!」
通信士から届く悲鳴じみた報告に、萩閣だけ
でなく他の誰もが冷や汗を流す。
「怪獣の頭部にエネルギーの収束を確認っ!」
次いで上がった報告に、誰もがモニターへと
視線を向けた。
そして……。
『ドシュゥゥゥゥゥンッ!!!』
その口元から放たれた光。青白い閃光。
そしてそれは、真っ直ぐ横浜へと到達しつつ
あるBETAの先鋒、突撃級の群れを捉え……。
『ドォォォォォォォォォンッ!!!』
着弾、爆発。
『『『『ジュォォォォォォォォォォッ!!!』』』』
そしてその圧倒的な熱量でもって、突撃級
の群れを蒸発させてしまった。だが、それだけ
ではなく、ゴジラは光線、『熱線』の照射を
続けながら右から左へと首を振ってBETAの
群れの大半を、蒸発させてしまった。
だが、蒸発したのはBETAだけではない。
破壊されかけていた街並みも。そこで戦って
いた戦術機や部隊も。そして、逃げ遅れて
いた人々も。その圧倒的な熱量でもって、
焼き払ってしまった。
そしてその直後、ゴジラの熱線の余波として
発生する電磁波障害によって司令室の
モニターはブラックアウトしてしまった。
「ッ!?どうなっている!?映像は!?」
「わ、分かりませんっ!電波障害が発生して
居る模様!」
「前線との通信は!?データリンクはどうした!」
「一部は辛うじて機能していますが、例の怪獣
の地点に近い部隊ほど障害の影響が強い模様!」
「ッ!?まさか、奴がこの状況を引き起こして
いると言うのか!?」
文字通り、『まさか』の考えに戸惑う萩閣。
生物が軍の通信を妨害するほどの電磁波を
出すなど、前代未聞だ。BETAでさえ、これまで
そのような事はしてこなかったのに、だ。
『格が、格が違いすぎる。これまで俺が見てきた
怪獣よりも。ずっと』
彼がこれまで見てきた怪獣、アンギラスや
バラゴン、ガーディー、バランと言った怪獣たち。
だが、今回現れたゴジラは正しく『別格』。
比較のしようが無いほどに圧倒的な力を
持つ存在だった。
それでも何とか、ゴジラからかなり離れた
場所にいた戦術機のカメラが捉えた映像が
回されてきて、司令部のモニターに
映し出された。
そして彼等は気づく。残存BETAが全て
ゴジラに向かっている事に。
その数は、10万を軽く超える規模だ。
地を埋め尽くすほどのBETAが全て、
たった1体の獣に向かっていく。
だが……。
『バチバチィッ!』
再びゴジラの背鰭が放電する。
「ッ!?再び怪獣に高エネルギー反応!
攻撃、来ますっ!」
「ッ!?またあれを撃つのか!?」
オペレーターの報告を危機、萩閣はモニター
を食い入るように見つめる。
だが、彼の予想は裏切られた。
『ゴアァァァァァァァァァッ!!!』
放たれたのは、咆哮。
だが、ただの咆哮ではない。それは
共振効果によって物体を破壊、粉砕する
『超振動波攻撃』だった。
この攻撃を受け、BETAの10万以上の
BETAの大半。約5万匹の個体がバラバラに
砕け散った。大量の飛び散ったBETAの体液
がBETAの同族や周辺を汚す。
それでもBETAは進撃をやめない。
だが、それは無謀な進撃に他ならない。
そして、三度ゴジラの背鰭が放電する。
ゴジラはグルル、と唸りながらもその体を
捻り、そしてその巨大な尻尾を振り抜いた。
直後、振り抜かれた尻尾の先から巨大な
プラズマのカッターが放たれた。
『『『『『『ドドドドドドドドッ!!!』』』』』』
放たれたプラズマのカッターは、全てを
切断する。
突撃級の装甲だろうが、要塞級の巨体
だろうが。街だろうが何だろうが。
全てを切り裂き、切り伏せる。
そして、今の一刀が残っていた全ての
BETAを切り裂き、吹き飛ばした。
直後、戦場はこれまでの喧噪が嘘のように
シンと静まりかえった。生き残っていた
者達はモニターや戦術機のカメラ越しに、
ただただ巨大なる獣、ゴジラを見つめる事
しか出来なかった。
『ゴアァァァァァァァッ!!!』
そして、ゴジラは勝ち鬨を誇示するかのように、
一度咆哮を上げると、踵を返し、東京湾へと
消えていった。
その様子を、陸軍司令部で見ていた萩閣や他
の将官、佐官たち。しかし、BETAを退けた
と言うのに、彼等は誰も喜ぶ事など出来なかった。
ただただ、現れた存在の強大さに恐れおののく
事しか出来なかった。
『格が、違いする。我々人類とも、BETAとも、
他の怪獣達とも。あれこそ正に、『化け物』だ』
そして歴戦の将である萩閣でさえも、恐れと
畏怖から、ただただ海へと帰っていくゴジラ
を、モニター越しに見つめる事しか出来なかった
のだった。
だが、誰もが呆然とする中でただ1人、
ゴジラの背を睨み付けている者がいた。
それが、陽男だ。
時は少し遡り……。
武と陽男は、必死に走っていた。純夏と優子の
手を引いて、息を切らし汗と涙を流しながらも
必死に走っていた。
『ゴアァァァァァァァッ!!!』
「「「「ッ!!?」」」」
だが、そんな彼、彼女達の耳に届いた咆哮。
その咆哮に、彼等は立ち止まり俯いていた
純夏と優子も顔を上げ、咆哮の主へと視線
を向けた。
「何、あれ」
ポツリと呟く優子。他の3人も、ただ呆然と
ゴジラを見上げている。かなり離れた場所に
居ると言うのに、見上げる程巨大なゴジラの
その巨体。
と、その時。ゴジラの背鰭が放電を始めた。
『ッ!?』
陽男はそれを見て、悪寒を覚えた。
『あれは危険だ』。そう本能が彼に訴えかけた。
そして彼はすぐさま周囲を見回し、コンビニを
見つけた。
「皆こっちだっ!隠れるぞっ!」
彼は優子の手を引き、閉じたままのコンビニの
自動ドアのガラスを蹴破った。
「武っ!早くっ!」
「お、おぉっ!」
陽男に一拍遅れながらも武が純夏を連れて続く。
そして店内に入った陽男は、カウンターの傍に
あった倒れそうな物を退かしている。
と、その時、外で強烈な光が瞬いた。
「ッ!?伏せろぉっ!」
陽男は叫ぶと、咄嗟に優子の上に覆い被さり、
それを見た武も、純夏を護るように抱きしめた。
直後。
『ドォォォォォォォォンッ!!!!』
遠くで聞こえる熱線の着弾音。そして一拍の
間の後、『ゴォォォォォッ!』と凄まじい
爆風が吹き荒れ、コンビニや商品棚が
ガタガタと揺れる。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
悲鳴を上げる純夏。
大きな揺れの中で、必死の彼女達を護ろうと
その体を抱きしめる陽男と武。
それからも更に2回。超振動波攻撃とプラズマ
カッターの攻撃による振動と爆風が収まった頃、
武と陽男は、純夏と優子の手を引いてコンビニ
の外へとでた。
そして、彼等は絶句した。
遠方に見える彼等の住み慣れた街は、
ゴジラの攻撃によって壊滅し瓦礫の山と
なっていた。
そして、その瓦礫の山の上に立ち咆哮するゴジラ。
勝ち鬨の咆哮を上げたゴジラは、踵を返して
海へと向かっていく。だが、そんな中で陽男は
静かに拳を握りしめる。
彼の目に映るのは、破壊された故郷の街並み。
そして彼の中で、怒りが沸き起こる。
BETAに対する怒り。
ゴジラに対する怒り。
そして、無力な自分への怒り。
陽男は憤怒の表情を浮かべながら涙を流し、
海へと帰って行くゴジラの背中を、いつまでも
睨み付けるのだった。
一方その頃、芹沢は仙台でゴジラ出現の
報告を聞いていた。
「ありがとう。もう休んでくれ」
「はい」
返事をして出て行く部下を見送った後、
彼は部屋の窓から見える外へ視線を向けた。
「とうとう、『彼』までもが参戦してきたか」
ポツリと呟く芹沢。そして彼は更に一言。
「始まる。ここからが、本当の変化だ」
遠くを見つめながらそう呟いたのだった。
ゴジラの出現によって、BETAは一時的に
退けられた。しかし、その圧倒的な破壊力に
帝国政府は警戒心を強め、いつぞやの時の
ように会議に萩閣を招集していた。彼が一番、
怪獣を目にしているから、と言う理由でだ。
「……正直に申し上げれば、あいつは
別格です」
「どう言う意味かね?中将」
「文字通りです。これまで出現が確認された
アンギラスやバラゴン、ガーディー、
バランなどと比較しても、いえ。もはや
比較のしようが無いほど奴は強力です。
例えば、あくまでも私個人の認識ですが、
これまで出現した怪獣は『単独でBETAの
軍勢とやりあえる存在』です。しかし奴の
場合は、『単独でハイヴ攻略も可能な存在』
だと考えています」
そんな彼の発言に、周囲はざわめいた。
「中将、それは本気かね?ハイヴはBETAの
巣窟だぞ」
「そうだ。若いハイヴでも内部には数万以上の
BETAの存在が予想される。加えて、
大陸のハイヴの殆どが『フェイズ4』まで
巨大化している以上、内包されている
BETAの数はハイヴ一つでも10万以上。
下手をすれば20万以上の可能性もあるっ」
一人目の発言に、同意するような事を言う
政治家の一人。
余談だが、ハイヴの発展具合などの目安として
『フェイズ』という表現がある。そして現在に
おいて世界にある大凡のハイヴはフェイズ4。
今現在、宇宙より落下し全てのハイヴの元と
なった、言わば始まりのハイヴである
『喀什(カシュガル)ハイヴ』はフェイズ6である。
「それを高々一匹の獣如きが……!」
「奴は、たった3回の攻撃で数万のBETAを
退けています」
政治家の言葉を制する萩閣。彼はその言葉に、
呻きながら黙り込んでしまった。
「戦闘の様子を収めた映像データを解析した
所、奴の体内エネルギー量は最低でも500
ギガワット以上だろうと想定されています。
そして、1ギガワットは100万キロワット。
加えて100万キロワットという数値は、
原発1基分とされています。……つまり、
単純計算でも奴のエネルギー総量は原発の
500基分に相当する事。加えてこの解析結果に
ついて専門家は、『目標のエネルギー量が
大きすぎるためこれくらいしか予測できない。
下手をすればテラワットクラスの
エネルギー量を保有している可能性も
ある』、と指摘しています。もはや、
奴は生物と定義して良いのかさえ
怪しい存在です」
「むぅ。……それで、中将。君の意見を
聞きたいのだが。奴に対して我々は
どのような対策を取れば良いのかね?」
「……軍人としての立場にあるまじき
発言かもしれませんが、奴に対しては
『何もするべきではない』と私は考えます」
「ッ!?何をするべきではない、だと!?
奴の攻撃が、我が帝国軍に被害を与え、
町を破壊し、人々を殺し、そして
『放射能汚染』だぞ!?奴の現れた場所は
高濃度の放射能汚染を受けてもはや
人の住める場所ではないのだっ!
国土を汚されたと言うのに、それでも
何もするべきでは無いと言うのか!
中将っ!」
萩閣の言葉に、将官の一人が声を荒らげた。
「……仰ることは最もだ。だが、もし仮に
奴の怒りを買えば、我々はBETAに
滅ぼされるよりも先に奴に滅ぼされる
でしょう。……それほどまでに、奴は
強い」
そう呟く萩閣に、声を荒らげていた将官は
舌打ちをするのだった。
結局、ゴジラに対する対応については現時点で
保留となり、最低限、出現したとしても攻撃は
避けるようにとの通達が各軍各部隊に伝えられた。
だが、彼等にとって、数日後にはゴジラの
事などどうでもよくなってしまった。
なぜなら、横浜でハイヴの建造が
始まってしまったからだ。
加えて、高濃度の放射能汚染が発生している
ため不用意には軍を接近させられない事
から、帝国軍はハイヴ建造を、指をくわえて
見ている事しか出来なかった。
それ故に、帝国内部ではゴジラに対する
反発心が強く根付きつつあった。
しかし、このゴジラ侵攻によって結果的に
とある少年と少女は、命を繋げた。
少年は、大切な人を守れずに無残な最後を
遂げるはずだった未来を。
少女は、目の前で愛する人を失い、BETAに
陵辱されるはずだった未来を。
それぞれ回避し、未来へと命を繋げた。
それは、ゴジラも意図せずの事であった。
だがそれでもゴジラは、怪獣王は、
少年と少女の、最悪な未来をぶっ壊した
のだった。
第5話 END
って事でゴジラ登場です。戦闘シーンは、短めです。
あと念のため言っておくと、本作のゴジラは
怪獣惑星などの『アニゴジ三部作』で登場した
ゴジラ・アースです。BETAにも単独で、且つ
余裕で勝てるゴジラ様、って事で色々ヤバい
アース様をチョイスしました。ハルオ達が
出てきたのも、そこ関連です。
あと、メタい事を言ってしまうと、ハルオの
立場は芹沢と逆です。
芹沢は『怪獣と共にBETAを倒す』というスタンス。
陽男は『怪獣もBETAも倒す』というスタンス。
言わば、芹沢は怪獣寄りの主人公。
対する陽男は怪獣アンチの主人公。って感じです。
登場怪獣の紹介
『ゴジラ(ゴジラ・アース)』
初出・ゴジラ(1954)
言わずと知れた怪獣王。本作では姿形、能力は
ゴジラ怪獣惑星から始まる、アニメ映画3部作
に準拠している。数多のゴジラの中でも、
(アニメ映画内で)ぶっちぎりで一番多く人間
を殺したヤベー奴。その単位は数十億人。
本作における最強の存在。