【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第10話 朝の作戦室

「何も大丈夫じゃないんだけど?」

「何がですか?」

「あぁいいわよつづちゃん。どうせくだらない内容だから」

「恭弥の話を真面目に聞くくらいなら、音声認識アプリと一時間会話する方が有意義だよ」

 

 お前らの中での俺に対する好感度どうなってんの?

 

 ゴールデンウィークが開けて三日目。あの日、カラオケで「学校でも話したい」と言っていた日葵。当然俺はうきうきしながら登校し、さぁ話しかけてくれと日葵を見ると、絶対に目を逸らされる。話しかけてくれる様子も何もなく、昨日今日と過ごしてしまった。

 俺、日葵と距離縮まったと思ったんだけど、なぜか元通りになってしまった。

 

「さて、そこでお前らに俺と日葵がスムーズに会話できるような作戦を考えてほしい」

「氷室先輩から話しかけたらいいんじゃないですか?」

「正論ね。この話は終わりよ」

「そういえばこの前僕が歩いていた時、目の前に石ころが転がっていたんだ。どう思う?」

「千里、それは俺の話が転がる石ころよりも内容で劣るって言いたいのか?」

 

 千里は俺を無視して、「ほら、これがその写真」と言って朝日とつづちゃんに見せていた。なんで撮ってんだこいつ。ふざけて言っただけじゃなくてもしかして本気で石ころが気になったのか?

 ……日葵日葵と言いすぎたかもしれない。もう少し千里に構うようにしよう。俺以上におかしくなられたら手に負えない。

 

「こういうのって女の子は勇気出せないんですから、男の人から声をかけてあげないと」

「つづちゃん。唯一俺の相談に乗ってくれているところ申し訳ないが、それは無理だ」

「恥ずかしいからとか言うんでしょ?」

「そう言うってわかってるから聞く気起きないんだよね」

 

 どうやら千里と朝日は俺のことを理解しすぎているが故に無視していたらしい。そう思えば気分がいい気もしなくもないが、それは俺のことを『無視した方がいい存在』だと思っていることということに気づき、二人に対してあっかんべーをしておいた。

 

「先輩、えっと、その、気持ち悪いですよ?」

「せめて言いよどむことなくさらっと言ってくれ」

 

 気を遣われると余計に傷つく。おいそこの二人、爆笑するな。つづちゃんは年下だから許してるが、お前らが失礼なこと言ったら足の二本や三本折るからな? ちなみに、足は三本もない。

 そんな俺を軽く見ている二人も、流石に俺の親友と日葵の親友と言うべきか。拗ね始めた俺を見かねて、俺の相談に乗り始めてくれた。

 

「恥ずかしいっていうのは仕方ないけど、あの日の会話を聞いていた限り進歩したのは間違いないよ」

「そうね。勘違いもなくなったみたいだし、あとはどっちかが勇気を出せばいいだけの話じゃない。気長に行きましょ」

「そうだな。いつ日葵から話しかけてくれるんだろうなぁ」

「先輩って清々しいくらい男らしくないですよね」

 

 うるせぇよ。

 

 新聞部に突撃したあの日から、俺たちの輪に入ってきたつづちゃんだが、驚くほどになじんでいた。俺と千里と朝日は頭がおかしいからつるんでいてもなんら問題はないんだが、つづちゃんはただのいい子。たまに容赦ない言葉をぶつけてくるだけの常識人。もちろんクズでもなんでもない。

 ただ、「俺たちと一緒にいて頭おかしくならないのか?」と聞いた時、「おもしろいので!」と返してきたので、つづちゃんは頭がおかしい片鱗を覗かせている。

 まぁ今のところは唯一の常識人であり、俺の癒しでもある。好き勝手攻撃してくる千里と朝日と違って、俺を気遣ってくれてまさにいい後輩。

 

「こらつづちゃん。恭弥だってたまには、すっごくたまにはいいところあるんだよ?」

「あ、いただきました」

 

 俺の肩を撫でながらフォローする千里という画を、つづちゃんは一瞬でカメラに収めにこにこ笑顔。やっぱりまともじゃねぇやこいつ。いくら俺が「ネタにしてもいい」って言ったとしても、ちょっとくらい遠慮するだろ。てかしてくれよ。今俺と千里の日常が新聞のコーナーと化してるんだぞ? 何コーナー化してるの?

 

「おい千里。あんまり撮影に協力するようなことはするなよ」

「ごめんごめん。ちょっと、自分が新聞のコーナーになってるっていうのが気分よくて」

「織部くんってゴミと負けず劣らずよね」

「今俺のことナチュラルにゴミって言わなかった?」

「いくらゴミがゴミだからってゴミ呼ばわりしないわよ」

「ゴミ呼ばわりしながら言ってんじぇねぇか」

 

 俺朝日に嫌われすぎじゃね? なんかしたっけ。失礼な行動失礼な言動失礼な思考、それくらいしか心当たりがない。うん、千里に対してやってることの方がひどいから、まだ嫌われる要素はないはずだ。そもそもひどいことすんなって話だが、口と体が勝手に動いて脳が勝手に考えてる。つまりこれは俺のせいじゃない。

 

「んー、でも確かに私と話してる時でも氷室を気にしてるのはめちゃくちゃムカつくし氷室を殺したいくらいだから、どうにかした方がいいかも」

「千里、すぐにどうにかしよう」

「織部先輩。少し泳がせましょう!」

「ごめん恭弥。悩んだんだけど、泳がせることにしたよ」

「即答してたしつまりお前は俺に死んでほしいって思ってるんだな?」

 

 千里とつづちゃんは少し似ていて、『面白い方』に物事を転がそうとするクセがある。俺はいつか千里がつづちゃんを利用して、新聞を通して学校を支配しようとしないかが心配だ。千里ならやりかねない。いや、千里ならやってくれる。

 

 何を期待してるんだ? 俺。

 

「どのみち氷室は殺すとして、どうしましょっか」

「俺は何のために頑張ればいいんだ? どっちみち死ぬじゃん」

「いっそのことまず朝日先輩をオトすっていうのはどうですか?」

「つづちゃん」

「はいっ!」

「朝日さん。年下を脅すのはよくないよ」

「名前呼んだだけよ?」

「お前に名前を呼ばれるってことがどんだけ辛いことか理解した方がいい」

 

 足を踏まれそうな気配がしたので、俺の足があった位置に千里の足を持っていって、朝日に千里の足を踏ませた。隣で悶絶する千里。気分がよくなって笑っていると、頬に千里の張り手が飛んできた。被害者増やしただけじゃねぇか。

 

「つづちゃん。氷室は叩かれて悦ぶタイプの変態だって新聞に書いておいて」

「おいふざけんな! 俺はいたってノーマルな趣向の変態だって書いとけよ!」

「変態はいいんですね……」

「おい。朝日さんは僕を踏んだことを、恭弥は朝日さんに僕の足を踏ませたことを謝ってもらおうか」

「ごめん」

「ごめん」

「よし」

 

 俺たちは素直なのである。よく考えれば千里に張り手されてるし謝り損じゃね? と思ったが、先に悪いことをしたのは俺なのでここは仕方なく謝ってやることにしよう。多分謝り損って口にしたらまた殴られるし。

 

「あれ、私って氷室に踏まされただけだから悪く無くない? 謝り損じゃない」

「それもそうだね」

「俺も張り手されたから謝り損じゃね?」

 

 また張り手が飛んできた。おかしい。朝日が許されたなら俺も許されていいはずなのに。めちゃくちゃ手加減してくれてるからそこまで痛くないけど、これはおかしい。だって俺は朝日に暴言吐いて、朝日が踏もうとしてきたから身代わりに千里を選んだだけなのに。

 

 完全に俺が悪い。

 

「あ、あれいいんじゃない? 今日の六時間目、来月の修学旅行実行委員を二人決めるでしょ?」

「あぁ、あのうちの担任が仕切んのめんどくせぇから生徒にやらせようってことで考えだしたやつな?」

「先輩先輩。それって記事にしちゃだめですか?」

「あの人結構適当なところあるからそれで楽なところもあるんだよ。だから記事にすんのはやめてくれ」

「あの人を記事にしようって思ったら教師として適当すぎて、辞任させられるかもしれないわね」

 

 一年の頃も担任だったのに名前すら覚えていない俺たちの担任は、水曜日六時間目のLHR(ロングホームルーム)の時間。いわゆる学級会のような時間として設けられているこの時間に、先生は一切何もしない。「適当にやっておいてくれ」と一言言ってだらけ始める。もうほぼ休み時間と一緒だ。

 学級委員も「お前とお前」と適当に決めて、体育祭で誰がどの競技に出るかという話し合いも「適当に決めてくれ」。真面目な生徒が「私たちばかりに任せないでください!」と抗議すれば、「だってお前ら、教師が仕切ったら仕切ったで文句言うじゃん。めんどくせーじゃん。生徒の自主性を重んじてるっていうことにしてくれ」。

 

 そのくせ、俺と千里が付き合っているという情報は家族に伝えるというクソっぷりである。伝えなきゃいけないことを伝えずに、伝えなくていいことを伝えるってどういうことだよ。しかもなんであんな先生が女子人気いいんだよ。あれダークでクールとかじゃなくてただクズなだけだぞ? クズなら俺でよくね?

 

「あれ、恭弥がやればいいんじゃない?」

「日葵と一緒に? 氷室が立候補したとしても、日葵が立候補できるとは思えないんだけど」

「お話を聞いてる限り恥ずかしがり屋さんですもんね」

「……実行委員になって、班行動の時間を作って、その班を男女混合にすればいいってことか」

「その通り」

「時々、あんたらが通じ合いすぎて怖いわ」

「そうですか? 素敵だと思いますけど」

 

 ネタとして素敵ってことだろ。カメラで俺らのこと撮ってんの見えてんだぞ?

 

 そうか、そういうことか。話す機会がないなら、話す勇気がないなら無理やり話せる機会を作ればいい。あの時千里と朝日が俺と日葵を一緒の部屋にぶち込んだ時のように。

 そして今回はあの時みたいにいきなりやられるわけじゃない、俺がその場を用意する。つまり、話す機会をいくつも作り出すことが容易ってわけだ。今のはげきうまジョーク。

 

「それに、恭弥がなれなかったとしても僕か朝日さんが……僕がなればいい」

「織部くん。今なんで私を選択肢から抜いたの?」

「朝日先輩が夏野先輩のこと好きだから、自分と一緒になるように修学旅行をいじくるんじゃないかって思ったんじゃないですか?」

「当たり前じゃない。修学旅行なんて私と日葵がペアで、あとはその他有象無象で行動すればいいのよ」

「さてはお前クズだろ。まったく、同じ人間だとは思えないぜ」

「少なくとも恭弥と朝日さんは同じ種族だよ」

 

 千里の襟首をつかんで前のめりにさせ、そこをすかさず朝日がビンタする。

 まったく、俺たちが同じ種族? どこをどう見たらそう思えるんだ。確かに今息ぴったりだったけど、同じ種族では断じてない。同じクズだが朝日の方がひどい。もしかしたら朝日のクズさ加減の前じゃ俺のクズも霞むかもしれないほどだ。

 

「んー、でもあれだな。実行委員って放課後残んなきゃいけねぇんだろ? めんどくせぇな」

「……そうだね。でも夏野さんと一緒にいられるようにするなら、頑張るしかないんじゃない?」

「私たちもできるだけあんたが実行委員になるようにするから、頑張んなさいよ」

「もしなれなかったとしても、私が新聞で情報操作しましょうか?」

「つづちゃん。君将来犯罪とかするなよ?」

 

 可愛らしく首を傾げるつづちゃんに、「心配なさそうだな」と納得して頷いた。


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