「ひっっっろ」
「いや、その、なんていうか……お金ほんとに大丈夫なのかな」
ホテルに到着し、部屋割りは俺と千里、両親、日葵と光莉と春乃、薫とゆりちゃんと聖さん。父さんが「おーしゃんびゅーというやつだぞ!!!!!」と元気いっぱいだったのでどんなとこかと思えば、結構すごいところだった。
オーシャンビューというだけあって、海側に壁は一切なくガラス張り。そこから見渡す限りの海が見えて、白い砂浜も見える。多分あそこが海水浴場だろう。バルコニーに出ると更にはっきり海が一望できて、バルコニーにはジャグジー付きの小さめの温泉と小さなプールがあり、控え目な屋根の下に可愛らしいテーブルとベンチが置かれてある。
室内はバルコニー側にクィーンサイズのベッドが二つ、少し離れてガラスの四角いテーブルを囲むようにソファが並べられている。すべて青と白をベースとした色で、床はクリーム色の大理石。カウンターが大理石になっているキッチンの近くには、木製の白いテーブルが置かれてある。
「なぁ千里。俺の両親は今日死ぬかもしれない」
「一泊どれくらいするんだろうこれ……食事はついてないって言ってたから、十万は超えないと思うけど……」
多分七万か五万かそれくらいだろう。二人でそれくらいの値段だとすると、今回は両親、俺、千里、日葵、光莉、春乃、薫、ゆりちゃん、聖さんだから二十万以上はかかってる。頑張りすぎだろうちの両親。金には困ってないって言ってももう少し控え目にというか、日葵の誕生日に合わせたせいで日葵がめちゃくちゃ遠慮しちゃいそうだな。
「……まぁ、荷物置こう。値段考えて楽しめなくなっても仕方ねぇし」
「そうだね。ところでホテルの人が僕たちをまるでカップルを見るような目で見てたことには気づいた?」
「そこにゴムが置いてある」
「幸いここは沈める場所に困らないね」
「旅行先で殺人だけはやめてくれ」
どこぞの名探偵が現れても困るし、いやまぁ俺たちなら推理モノを一瞬でギャグに染め上げる自信はあるけど、殺人は殺人。千里が逮捕されて聖さんが『千里が逮捕される』っていう事実に興奮しておしまいだ。あと俺はこんな広い部屋を一人で使うことになる。寂しすぎないか?
「あとで日葵たちの部屋にも行ってみるか。三人だとまた違うかもしれないし」
「そうだね。僕は薫ちゃんの部屋に行ってみようかな。いやらしい意味はないけど姉さんに連絡してゆりちゃんを連れだしてもらおう」
「おい、その手に持ったゴムはどういうつもりだ?」
「えへへ……」
「死ぬ覚悟、よしと見た」
「は? 恭弥が怖すぎて一瞬でゴムをゴミにしたのが見えなかったのか?」
「ちょっとだけ抜いただろ」
「今日は恭弥の体を舐めて綺麗にすればいい?」
「お。わかってるじゃねぇか」
「今の部分だけを録音した」
「足でも舐めましょうか?」
「君が興奮しちゃうから遠慮しとくよ」
流石の俺でも千里の足を舐めて興奮はしねぇよ。しないよな? うん。俺の俺も興奮しないって言ってる。ちょっと自信なさげだったけど、男友だちに欲情するなんてありえない。いくら千里が女の子みたいっていうどころか完璧に女の子にしか見えないからって、いざそういうことができるかと言われれば話は別だ。でも念の為みんなに夜はこの部屋に入ってこないように言っておこうと思う。変な意味はないよ???
「飯食うところはこのホテルの近くにあるし、なんなら食材買うところもあるって言ってたよな」
「自由行動だー! って言ってたね。あれ十中八九恭弥のお父さんとお母さんが自由行動したいからだと思うけど」
「聖さんが『どこかに行くときは私に言ってね』って言ってくれた時、俺恥ずかしくて死んだ」
「死にそうになったっていうのはよく聞くけど、本当に死ぬのは君くらいだ」
だってさ、一番の大人なのに『自由行動だー!』って肩ぶん回して、大学生の聖さんがめちゃくちゃ大人してるんだぜ? 息子として恥ずかしいったらないだろ。こんなとこ用意してくれてるだけで何も言えないっちゃ言えないんだけどさ。薫も恥ずかしそうにしててゆりちゃんによしよしされてたし。ゆりちゃんって薫に対してだけはちょっとマシなんだよな。やっぱり一年間一緒にいたから、ちょっとは耐性ついてるんだろうか。
荷物の整理を終えて、いざ日葵たちのところに行こうと思ったその時。ドアをノックする音が聞こえた。この規則正しく控え目なノックの音は日葵!
「ちょっと待っててくれ日葵。今開ける」
「なんでわかるの?」
「ふふ。なんでだと思う?」
「キショこわ……」
失礼がすぎる。
どう見ても豪華な黒いドアを開けると、予想通りそこには日葵がいた。後ろには光莉と春乃がいて、光莉は「よ」と手を小さく上げて、春乃は「さっきぶりー!」と腕をぶんぶん振っている。
「荷物の整理終わった?」
「おう。ちょうど終わってそっちに行こうかと思ってた」
「よかった。入ってもいい?」
「いいぞー」
「恭弥と千里の愛の巣だって考えるとちょっと遠慮しちゃうわね……」
「ゴムは捨てたぞ」
「あ、やっぱ勘違いされてたんや」
やっぱり全員気づいてたのか。まぁ明らかにホテルの人の目がすっごい生暖かかったし。にしても部屋入った瞬間に置くんじゃなくて、夜に俺たちが部屋を開けてる時に置いてくれとは思った。俺たち真昼間から開戦するような節操なしだと思われてるのか? そもそも開戦はしないんだけども。
「わ。やっぱり広い!」
「二人部屋でもこんなに広いのね……」
「そっちの部屋はどんなのだったんだ?」
「大体一緒やけど、バルコニーの方に洞窟つきの温泉あったで」
「洞窟」
このホテルは何を目指してるんだ……? 洞窟のある部屋なんて聞いたことないぞ。前に北海道へ家族旅行行ったときに洞窟のある温泉は入ったことあるけど、部屋に洞窟って。めちゃくちゃテンション上がるじゃん。
「俺たちのところにも洞窟ほしかったなぁ」
「? なら来たらいいじゃない。一緒に入りましょうよ」
「えぇ!? 何言ってるの光莉! い、一緒になんてダメだよ!!」
「水着着ればいいんじゃない? 別に初めてじゃないんだし」
「恭弥恭弥。別に初めてじゃないんだしって興奮しない?」
「光莉。『別に初めてじゃないんだしって興奮しない?』って言ってるバカがいるぞ」
「やりやがったな」
旅行先で殺人事件が発生し、ただまぁいつものことなので誰も触れることなく。日葵は「あ、うん、そういうこと……」と顔を真っ赤にしながら胸を撫でおろし、春乃は「みんなで温泉入るの楽しそうやなぁ」とにこにこしている。春乃はいつもよりテンション高い、というよりうきうきして可愛らしく見えるから、旅行でテンション上がるタイプか。イケメンのくせに可愛いとこ見せてんじゃねぇよ。
「結構広かったし、その時になったら薫ちゃんとゆりちゃんと聖さんも呼ぶ?」
「大丈夫か? ゆりちゃん死ぬだろ」
「目隠ししたらええやろ」
「せっかくのオーシャンビューなのに……」
「せっかくのオーシャンビューは私と日葵だけのものにしましょう。さぁ死んでいいわよあんたたち」
「一人すでに死んでるぞ」
「まったく、僕を殺すなんてひどいじゃないか」
「恭弥くんと千里って異常にタフやんな」
光莉のおかげっていうか光莉のせいだろ。俺たちが何度光莉に殺されたと思ってるんだ? ちょっとやそっとじゃ殺され切れないぞ。えへん。
しかし、それくらいの大人数入っても大丈夫なくらい広いのか。ってなると宿泊料金もっと高そうだよな……。大丈夫かな。これから先の晩飯がめちゃくちゃ質素になってたりしないだろうか。
「さて、これからどうしましょうか。とりあえずお昼食べに行く?」
「だな。薫たちにも声かけるか」
「移動手段は……」
「姉さんの車なら七人まで乗れるから心配いらないよ」
「よかった。うちの両親を恨むところだった」
「こんなところに泊まらせてくれるんだから、これ以上は期待しすぎだよ」
流石日葵天使。さすひまてん。SHT。まぁ多分俺も日葵の立場なら同じことを思うだろう。俺は息子だから両親に対して何やってんだよと思ってしまうが、ここに泊まらせてくれる時点で大分ありがたい。普段仕事して疲れてるだろうから、こういうときくらいは二人でゆっくりしてもらうのも悪くないだろう。
「じゃあなんか適当にうまそうなとこ調べてから行くか」
「私海鮮食べたい!」
「さぁあんたたち。海鮮に行くわよ」
「力で押し通すのやめへん? や、ええけど」
「せっかく海が見えるんだし、そういうの食べたいよね」
「んじゃあ海鮮系でうまそうな店探すか」
海鮮っていくら食べても飽きないんだよなぁ肉はほんとにそんな量いらないけど、海鮮はいっぱい欲しくなる。スーパーとかで買うと時々とんでもなくクサいやつあるから、こういうとこでおいしいものをいっぱい食べておかないとな。