聖さんを呼んで飯を食いに行くことになり、車中。
運転席に聖さん、助手席に千里、その後ろに光莉、日葵、春乃、その後ろに俺、薫、ゆりちゃんで座って、ちょっと狭いなと思いつつも薫と久しぶりの……久しぶりでもない密着ができて喜び、俺は薫に蔑んだ目で見られていた。いいじゃん。お兄ちゃん嬉しいんだから。
この位置になったのは偶然でも何でもなく、千里を薫の隣にするわけにもいかず、かといって薫以外の女の子の隣にするわけにもいかないから助手席。そして俺はまぁなんやかんや色々あるから、薫以外の女の子と隣になるとごちゃごちゃぐちゃぐちゃするのでこうなった。仕方ない。
「へたれ」
「お兄ちゃんを責めるのはやめてもらおうか」
「お兄様と仲良さげな薫ちゃん可愛さの頂点……私は昇天しないように耐えきろうと挑戦……」
「ゆりちゃんが薫ちゃんの可愛さに思わず韻踏んでるやん」
「ラップって可愛い方の勝ちだから、恭弥は死になさい」
「俺はラップしてないし命を懸けた覚えもない」
「男らしくないわね」
「勝手に男らしさを横暴に測ってくんじゃねぇよ」
俺は薫に抱きついてるゆりちゃんっていうげきかわ和み光景を見るので忙しいんだから。妹と妹と仲良しの可愛い女の子ってこんなにも目の保養になるんだな。なんだろう、いやらしい気持ちが一切わいてこない。視界の端で光莉のおっぱいが揺れたけどそんなの気にならない。ぶるんぶるん。薫は可愛いなぁ。
「日葵ー。恭弥が私のおっぱいを見てくるの」
「恭弥?」
「違う! 僕も見てた!」
「なんで千里は死にに来たん?」
「面白いかと思って……」
「千里。あとでお話ね」
「あ、そうですか」
千里が意気揚々と参戦しにきて自爆した。お前何がしたかったんだ。バックミラーめちゃくちゃ見てるなって思ってたから見てるのはわかってたけど、わざわざ言わなきゃよかったのに。
いや、待てよ。千里のことだから、俺からターゲットを逸らすためにわざと名乗り出てくれたのか? 流石親友。この恩は一生忘れないぜ。
「恭弥、光莉のおっぱい見てたの?」
「全然逸れてねぇじゃん」
「だって逸らしてないもの」
「お前のおっぱいの話じゃねぇんだよ」
日葵が俺以外を意識していない。嬉しいけど嬉しくない。光莉もわざわざ日葵にチクらなくてもいいのに。なんで? 日葵にそんなことをバラして何が楽しいんだ。いくら俺をボコボコにするのが楽しいからって、精神的にもボコボコにしなくていいじゃないか!
どうしよう。日葵はこうなったら納得するまで引き下がらない。どうにかして俺が光莉のおっぱいを見ていなかったってことにするか、光莉のおっぱいを見ていた正当な理由を考えるしかない。ただ、見てたってなるとどう考えてもアウトだからここは見ていなかったってことにしよう。
「おいおい日葵。俺が光莉のおっぱいを見ていただって? そんなことあるはずないだろ」
「はいぶるんぶるん」
光莉が腕でおっぱいをさせて上下にぶるんぶるん。は? 見るだろ。
「見てるじゃん」
「おいテメェ卑怯だぞ!! ちったぁ淑女らしく振舞おうとは思わねぇのか!?」
「あら、きらい?」
「好きです!!!!!!」
「これやから男は……」
「あら、春乃もやってみればいいじゃない。あ、できないのか。ぷぷぷー。女を持って生まれなかった人は不憫、あ、ごめんなさい。冗談じゃない。ね? 旅行先なんだから楽しくしましょうよ助けて日葵!」
「今のは光莉が悪い」
「あぁ……」
心なしか車の動きが早くなった気がする。人一人分の体重が消えたからだろうか。胸にもすごい重りついてたしな。
……あいつ、なんでいつも春乃をいじるんだろう。どうせ殺されるに決まってるのに。どうにかして優位性を保ちたいんだろうか。人間の醜い部分が出てるな。いやだいやだ。
というかいくら俺相手だからってやっていいことと悪いことがある。そんなおっぱい支えてぶるんぶるんなんて好きな男に対してやることじゃないだろ。もっとさ、こうさ。好きな相手だからこその恥じらいとかあるもんじゃん。なんでそんなに恥じらいないんだよ。って言ったらどうせ光莉は「喜んで欲しいから」って言うに決まってるんだ。あと面白いから。
「兄貴。お金ってどうするの?」
「父さんからカード預かってる。カード使えなくてもいいように現金も」
「うちのどこからそんなお金が出てくるの?」
「色々成功したんじゃねぇの。まぁ俺の両親だから何も不思議じゃないな」
「なんかそのお金の出所怖いんやけど」
俺に言われても。ただ両親の稼ぎがいいのは事実だし、俺もちょこちょこ手伝ってるし、これくらいの金が出てもまぁおかしくはないかな……くらいは思える。心配は心配だけど。両親が大丈夫だって思って金使ってるんだから、息子である俺が遠慮する必要はないとは思ってるから遠慮なく使うけどな。
「すぅーはぁーすぅーはっ!!!??」
「ところでゆりちゃんは何してるんだ?」
「美男美女が多すぎて、私の匂い嗅いで落ち着こうとして失敗してる図」
「そんなことしたら興奮するに決まってるのにね」
「千里の興奮とゆりちゃんの興奮を同じベクトルで捉えるなよ?」
「結構同じやと思うけどな」
ちんちんあるのとないのとじゃ全然違うだろ。男と女ってのはそういうもんだ。
でも、ゆりちゃんは心配していたほど死んでいない。死んでるっちゃ死んでるんだけど、まだ耐えている方だろう。聞くところによると、薫と一緒にトレーニングをしていたみたいだ。曰く、薫が撮ってきた俺たちの写真を眺めたり、録音した俺たちの声を聞きながら寝たり。楽しむために努力してきてくれたらしい。トレーニング方法が変態のそれだが、俺たちからすれば普通だから何の問題もない。
「でもゆりちゃん水着姿とか大丈夫なのか?」
「そうよ。日葵の水着姿なんて私がイチコロに決まってるじゃない」
「あれ、いま光莉の話だったっけ……?」
「ゆりちゃんの話やで」
「あっ! せっかく私が日葵の脳を破壊して好き勝手しようと思ってたのに、何してるのよ春乃!」
「おい大犯罪者。今すぐ車から降りろ」
「あ? やんのか」
「ひぇ……」
ガンを飛ばされた俺は縮こまり「こわーい」と薫に抱きつくと、「離れろ」と一蹴された。仮にもお兄ちゃんに向かって離れろって、たくましく育ってくれて俺は嬉しい。でもできればもっと優しい言葉をかけてくれると嬉しいな。ほら、お兄ちゃん大好きとか、お兄ちゃんと結婚したいとか、お兄ちゃんイケメンとか。は? キショ。
「わ、みてみて! ぞうさんみたいな雲!」
「何?」
「なんだって?」
「よく見せてみなさい?」
「日葵。変態が三匹くらいおるけど、私が掃除しとくから気にせんといてな」
「まだ何も言ってないじゃないか!」
「そうだぞ! ぞうさんみたいな雲が気になっただけだ!」
「そうよそうよ! ぞうさんみたいな雲を見てる日葵が気になっただけじゃない!」
「有罪」
「千里、俺たちはセーフだぜ」
「ふっ、口を滑らせるなんて馬鹿だね」
「千里?」
「兄貴?」
「「ふぅ……」」
光莉は春乃に睨まれ、俺は薫に睨まれ、千里は聖さんに睨まれ。参ったな。薫は直接的に殺してはこないが、俺に精神的なダメージを与えるのがものすごくうまい。だって「兄貴きらい」って言われたら一撃で俺は死んでしまうんだから。薫から嫌いって言われるのは背中にナイフ突き刺されるよりも痛いし辛い。どうかこれから先一回も言わないで欲しい。多分無理。でも薫が俺を本気で嫌いにならないって知ってるから全然大丈夫。
「兄貴きらい」
「恭弥が死んじゃった……」
「私が日葵にきらいって言われるようなものだしね。無理もないわ」
「いいなぁ恭弥。僕なんて今姉さんが運転してて制裁できないから、たまりにたまった制裁が降りてから降り注ぐっていうのに」
「制裁されるようなことせんかったらええやん」
「それができたら恭弥と親友なんてやってないよ」
「俺の親友であることがおかしいみたいに言うな」
「あ、生き返った」
ふぅ、危なかったぜ。心構えをしていなければ一瞬で死ぬところだった。薫の隣で日葵の後ろで死ねるなら本望ってやつだが、まだ俺には死ねない理由がある。薫の花嫁姿を見てからじゃないと死ねない。でも見たら悲しさと嫉妬と怒りで死ぬ。は? 俺の未来は真っ暗か?
いいこと考えた。いっそ千里も花嫁にすればいいんだ。そうすれば男にとられたわけじゃないからダメージも少なくて済む。こうなったら近くの花嫁体験ができる式場を予約しておこう。予行演習だ。ふふふ。千里もまさか花嫁にされるとは思っていまい。
「兄貴。そこ行ったらどうなるかって考えたりしないの?」
「? なにが」
「ん-ん。べつに」
薫が「仕方ないやつだなぁ」と言わんばかりに俺を呆れた目で見てきた。なんだなんだ。もしかして「そこに言ったら兄貴と結婚したくなっちゃうからだめ!」ってか? ふふふ。俺が気持ち悪すぎて吐き気がしてきたな。