「誰のカツオが一番よく焼けてると思う!!!!!???」
「うるさい」
「あ、はい」
なんていう一幕もあり。
ご飯を食べ終えた俺たちは、挙式体験ができる場所へ向かっていた。いくらなんでもうるさいはないと思うんだよな。うるさいは。
ただまぁおいしそうにご飯を食べる日葵が可愛かったからよしとしよう。日葵のためならいくらでも払える。でも日葵は「ちゃんと自分のために使って!」って言うんだろう。遠慮なく高いもの食べたくせに、ちゃんとそういうのを気にする子なんだ。
「兄貴。ちなみにドレスって誰でも着れるの?」
「おう。誰が着ますーって予約は別に必要なかった」
「そか」
薫がちょっとうきうきしてるのも可愛い。薫も女の子だから、ウエディングドレス着たいんだろうな。ふふふ。俺と一緒に写真撮ろうねぇ???
「着るたびお金かかったりしない?」
「しないしない。体験料だけ払えばいいってさ」
「ん。よかった」
日葵もうきうきしてる。かわいい。うきうき日葵かわいい。
……そういえばさ。俺の勘違いじゃなきゃ中列三人組は俺のことが好きで、今から向かうところは挙式体験ができて、つまり修羅場というか地獄というかなんというかじゃね? 今気づいちゃったよ。「私が恭弥と撮るの!」ってことにならないかな。自意識過剰かもしれないけどならなくはない。
それなら俺がタキシードを着なければいいのか。それだったら俺が写真を撮られることはないし、三人が喧嘩することもない。全員で一緒に撮るっていう超絶間男みたいなこともしなくてすむ。名案すぎる。天才か? 俺は。天才だったわ。
「お兄様は誰と撮るんですか?」
「千里」
「君、やっぱり僕と結婚したかったのか。ごめんね。僕には薫ちゃんがいるから」
「やっぱり織部くんのことが好きなんだ……」
「まぁ別に驚きはないわよ」
「恭弥くんと千里やしなぁ」
「兄貴……」
「違うんだ……違うんだよ……」
だってここで女の子選んだら選ばれなかった女の子が出てくるわけじゃん? 俺にそんな決断できるわけないじゃん? だったら千里しかないじゃん?
なんて言ってても、いつか選ばなきゃいけない日がくる。そもそも選ぶ選ばないが俺の早とちりかもしれないが、心の準備はしておいた方がいいだろう。あいつらのことだから、いつか俺を逃すまいと答えさせる場所を用意してくるだろうし。
あーあ。そうなったら千里が助けにきてくんないかな。「やっぱり僕は恭弥と一緒にいたいんだ!」って言って。そうすりゃうやむやになって、俺から心が離れて……いや、それは失礼すぎるな。俺を好きになってくれたなら、誠実に真正面から答えないと。あー!!!!! 難しいよぉ!!!!!!!
「兄貴が行こうって言ったんだからね」
「早めに止めてくれよ……」
「自分の状況、もうちょっとよく考えなよ」
「身に染みてる」
俺にだけ聞こえる声で話しかけてくる薫に、申し訳なくなって頭を下げる。薫は昔から俺のお相手を気にしてたからなぁ。薫からすれば日葵がいいんだろうけど、薫は俺が好きになった相手なら間違いないって思ってくれてるし。薫も大概ブラコンだよな。薫が俺のこと好きで嬉しいぞ?
「でも、せっかくドレス着るなら男女で撮りたいですよね……」
「!!! そっ、そうだよね! 男女で撮りたいよね!!」
「はぁんっ! 私の意見に日葵様が賛同して下さった……むりしぬ」
「ゆり。もう喋らないで」
ほんとに。色んな意味で。
ゆりちゃんの発言で俺の逃げ場がどんどんなくなっていく。聖さんもバックミラー越しに俺を見てにこにこしてるし。あの人こういう青春というか、ピンク色なこと大好きなんだよな。ったく、自分に相手がいないからって俺たちを肴にしないでほしいぜ。
スマホに通知がきた。聖さんから『搾り取ってあげようか?』というメッセージ。俺は力強く頷いた。
「でもこの中に男の子一人しかおらんから、めっちゃ浮気してるみたいに見えてまうんちゃう?」
「おいまて。今僕を数から外した理由を教えてもらおうか」
「私、別に千里が男の子やないって言うた覚えないで」
「僕をいじめて楽しいか!! ふん!! 僕は薫ちゃんとしか撮らないからな!! 君は今僕と撮る唯一のチャンスを逃したんだ!!」
「いらんけど」
「姉さん。雨降ってるからワイパーやらないと」
「千里が泣いてるのよ」
いくら好きな子じゃないとしても、女の子からはっきり「いらん」って言われたら傷つくよな……しかもその前にはっきり男扱いされてないし。春乃最近心開いてきてくれたのか、遠慮なくなってきて嬉しいけどあたりめちゃくちゃ強いな。かなり芯食た攻撃してくるじゃん。俺も気を付けよう。
「そ、それでさ。恭弥は誰と撮りたいの?」
気を付けるべきは春乃じゃなかった。
何かを期待するように俺を見てくる日葵が超絶可愛いが、この場でそれは答えられない。俺の中では答えが決まってるようなもんだが、どうしても二人の顔がちらついて答えられない。この二人に対する感情がなんなのか俺にはわからないから、こんな中途半端な状態で答えを出すようなことはしたくないんだ。でも、誰とも撮りたくないって言うわけにもいかない。だったら千里って言えばって思ったが、それは女の子と撮りたくないって言ってるのと同じことだ。
「……女の子同士で撮りたい!!!!! 日葵と撮りたい!!!!! それ以外譲らない!!!!!!」
「わ、ちょっ、光莉!?」
「ぶっ、こらっ! 暴れんな!!」
俺がどうしようと頭を悩ませていると、光莉が暴れ始めた。両腕両脚をばたつかせて喚き散らす。どうしたんだろうとぽかんとしていると、光莉が一瞬こっちを見て指を一本立てた。
あぁ、『貸し一』ってことね。はいはい。
「……いーい女」
「薫がそれ言うのかよ」
「私惚れちゃいそうになった」
わかる。
「私、教会って初めてきたかも!!」
「ほえー。めっちゃ綺麗やなぁ」
「海の近くにあるからすっごく素敵!! さぁ日葵、私と結婚しましょう!」
「あはは! いや!」
「え……」
「朝日さんが崩れ去った……」
「得意なんだよこいつ。崩れ去るの」
瓦礫になった光莉を放置して、手続きを済ませに行く。ここは普通に式場としても機能してるらしいが、頻度で言えば体験の方が高く、教会の近くに大きめの小屋が二つあり、そこで男女それぞれ着替えたり、髪をセットしたり、スタイリストさんが色々してくれるらしい。「女性7名ですか? やりますね!」と職員の若いお兄さんに言われたので、「あれ男なんです」と千里を指して言ったら、「????????????????」と初めて宇宙を見た人みたいな反応をしていた。
「支払い済ましてきたから、着替えに行こう」
「あら、私もいいの?」
「どうぞどうぞ。聖さんに着てもらうウエディングドレスが羨ましいです」
「ふふふ。あとで包んであげよっか?」
「え!!!!??? いいんですか!!!!!????」
「恭弥。僕とあそこの小屋でいいことしよう」
「あ、お兄さん。今から一人死ぬので料金安くしてもらえません?」
してくれないらしい。しくしく。
女性陣と別れ、男性用の小屋に入る。小屋の中は右側の壁一面が鏡で、左側に新郎が着るような服がずらりと並んで、中央正面の壁に試着室が5つほど並んでいた。服が並んでいるところをよく見れば、ウエディングドレスがあるのも見える。
「こっちにもウエディングドレスあるんですね」
「男性の方に着て頂くこともあるので」
「だってよ」
「僕は着ないぞ」
「着たら一万円あげる」
「さぁお兄さん。僕に似合うドレスを教えて下さい」
「え、あの……いいんですか?」
「あぁ。そいつが脱ぐところ見たらめちゃくちゃえっちなんで、着方とかは教えてやってください」
千里のことだから着方を教えてもらえれば一人でできる……そもそもドレスって一人で着れるもんなのか? 無理だったら俺が手伝えばいいか。お兄さんに手伝わせたらお兄さんの性癖を歪めちゃうからだめ。今でさえちらちら千里のこと見てるのに。
……もし千里が襲われたら俺が助けないと。
「彼氏様……お客様はどうされます?」
「面白そうなんで一緒に撮りたいんですよね。お願いしてもいいですか?」
「やっぱり」
やっぱり?
何か気になる一言を残して、お兄さんは俺に合うものを探しに行ってくれたのか、服の森の奥へと消えていった。千里は他のお兄さんに連れられてドレスの方へ行ったので、もしかしたらひどいことをされているかもしれない。まぁ、こういうところで働いてる人なら優しいイメージあるし、襲うことはないだろう。多分。
「お客様、失礼ですが皆様ご友人で?」
「はい。ちょっと旅行にきてるんですよ」
「へー! みなさんお綺麗ですよね。お客様もカッコいいですし、どなたかとカップルなのかと」
一人で暇していると、女性の職員さんが話しかけてくれた。よかった。こういうところに一人だと何していいかわからないんだよな。俺が勝手にタキシードの方に行ったら汚しちゃいそうで怖いし。
「カップルじゃないですね。友だち以上恋人未満って感じです」
「あら、じゃあ今日はお目当ての子と撮っちゃう感じですか?」
「はは。それが俺へたれなんで、さっきの千里っていう男の子と一緒に撮って終わりにしようかと思ってます」
「あぁ! そっちの方!」
そっちの方?
「むふふ! でしたら私も気合い入れて探しますよ! お客様カッコいいしスタイルもいいのでやりがいがあります!」
「いや、あの、ちょっと」
「それでは!」
「そっちの方ってどういうことですか???」
お姉さんが行ってしまった。……。
なんか、またややこしいことになりそうな気がする。窓から見えた、ごついカメラを持った人を見つけてなんとなくそう思った。