「ねぇ、途中から記憶がないんだけど、私変なこと言ってなかった?」
「大丈夫よ。日葵は可愛いから」
「あの、変なこと言ってなかった?」
「ほら見てみてこの写真。よぉ撮れてるわ」
「恭弥。私変なこと言ってなかった?」
「ところでゆりちゃん。具合の方はどうだ?」
「ゆりはさっき写真みてくたばったよ」
くたばるって言い方しちゃだめでしょ。
あの後。喧嘩しないようにしながら全員で写真を撮り、忌々しいことに千里もタキシードに着替えて薫と写真を撮り、おねだりするかのように俺をちらちら見る日葵の視線に気づかないフリをしつつ、タキシードを着た春乃にノリノリで腕を組まれてスマホで写真を撮られ、愕然とした日葵の背中を光莉が押す一幕もあったりしつつ。
「あ」
「どうしたの兄貴」
「そういやカメラマンの人に、雑誌とかは勘弁してくださいねって言うの忘れてた」
「あー。まぁ許可なく載せることないでしょ」
「ん? そういえばうまいことノせられてオッケーしちゃった気がするな……」
「千里。今何か言ったか?」
「大丈夫。未来の僕の命の心配をしただけさ」
今すぐ殺してやろうかと思ったが、本当に載ると決まったわけじゃないから今は勘弁しておいてやろうと、自分自身の寛大さにもはや驚きすら覚えていると、光莉が振り向いて気の毒そうに目を伏せながら、
「あの人から名刺貰ったの。あげるわ」
「ん? そういや俺も貰った、な……」
思い出したかのように名刺を取り出すと、『白鳥
「ちなみに私らは断ったから、載るとしたら恭弥くんと千里だけやな」
「せっかく最近勘違いがマシになってきたのに……タキシードとドレスで写真ってもう確実じゃん……」
「恭弥が僕を抱き上げるからだめなんだ」
「テメェが許可するからだろうが!!」
「……どうしよう。恭弥と織部くんのことだから、ここからうっかり芸能界デビューとかしちゃったり……」
「ないない。人間性が問題ありすぎて芸能界から『うちはゴミ箱じゃありません』って言われるに決まってるわよ」
「は? 俺の人間性に問題あるはずはないだろブタ。胸だけぶくぶく太るしかできねぇからそんなくだらねぇ発想しかできねぇんじゃねぇの?」
「今問題が露呈したで」
こんなこと千里と光莉にしか言わないもん! 多分。実はあまり自信がない。仲良くなったらうっかり言っちゃうかも。もちろん言う相手は選ぶけど、そもそもこういうこと言う時点で人間性が終わってるのか?
いや、そんなことはないはずだ。人間性が本気で終わってるやつは友だちができない。俺には千里っていう親友がいるし……あれ? 俺友だち少なくね? 男友だちってあと井原くらいじゃね? うそじゃん。
「恭弥くん。これからどうする?」
「ホテルに行きましょう聖さん。あ、食材買いに行きましょう」
「おい!! 姉さんが満更でもない顔してるぞ!! ぶっ殺してやる!!」
「千里が手を下すまでもないわよ」
「いや、違うんです。あのね。マジで。男になればわかるって!! お姉さんからの『これからどうする?』の破壊力!!」
聖さんみたいな美人に「これからどうする?」って聞かれてホテルって答えない男がどこにいるんだ? あんなこと聞かれたら誰でも火照るに決まってるのに! ふふふ。
「恭弥がえっちなのはいつものことだし……聖さんが織部くん似なのが気になるけど」
「別に千里にぶつけられない情欲を聖さんにならぶつけられるって考えてねぇぞ日葵。お前は脳内一番ピンク過ぎて飛んだ発想するから怖いんだよ」
「し、しないもん! 恭弥がえっちすぎるのがいけないんだよ!」
「襲う一歩手前のやつのセリフやん」
「私もよく日葵に対して言ってたわね」
「犯罪者が懐かしんどんちゃうぞ」
俺がえっちすぎる……? 確かに人目を気にしない下品な発言はしてたけど、そんなにえっちかな。試しに薫に聞いてみると、「妹にそんなこと聞くな」と目で言われ、薫の向こう側から「めちゃくちゃえっちです……」とかすれた声でゆりちゃんに言われた。まだ寝てていいよ。無理しなくていいんだよ。
でもそうか。好きな人ってえっちに見えるもんな。俺もずっと日葵のことえっちだと思ってたし、光莉はそんなこと関係なくおっぱいがえっちだし、春乃はすらっとしてて綺麗でえっちだし、聖さんはもうなんか、サキュバスみたいなえっちさがあるし。織部家どうにかしろよほんと。エロの擬人化が両親なの?
「聖さん。さっきの回答ですけど、俺たちが泊まるやらしくないホテルの近くに大型のスーパーあるんです。中に市場とかあるらしいんで、そこで色々買っちゃいましょう」
「やらしいホテルは行かなくていいの?」
「ビンビン!!」
「最低のタイミングで最低の効果音口に出すなや」
「あんたほんとクズね。見直したわ」
「あれ……?」
「ほんとに。相手が姉さんじゃなきゃ勲章ものだった」
「はるのはるの。恭弥が二人から評価されてる理由はなに……?」
「全員クズやからやろ」
いや、あの、たったとかだといやらしすぎるかなと思って。そもそも言わなきゃいいじゃんとかそういうことは言われなくてもわかってる。言われなくてもわかっててもやっちゃうのが俺なんだ。これが俺です。どうぞよろしく。
しかし、どうするか。両親は適当にどっかで食べてくるだろうから、八人分を俺が作る……できないこともないか。そんなに同時調理できる器具があるのか不安だけど、なんとかなるだろう。
「兄貴」
「んー? どちたのかなー?」
「ぶち転がすぞ。私も手伝うね」
「まじ? 相変わらず最高の妹だな。ところで今めちゃくちゃ下品で怖い言葉使わなかった?」
「気のせいじゃない? おにーちゃん」
「でへぇー」
「きも……」
どうやら薫も手伝ってくれるらしいので、単純計算で一人四人分作ればいいんだ。これはめちゃくちゃ楽。そして天国。薫と一緒にご飯作れるってめちゃくちゃ嬉しいじゃん。これは、はりきっちゃおう、っかな?
「どうした日葵」
「……えーっと、そのぉ。なんといいますか。私も一緒にー、なんて」
「あー。でもキッチン狭いからな。千里外に吊るすか」
「君は論理的思考力を学んだ方がいい。何の解決にもなってないじゃないか」
「俺がお前を吊るすからキッチン一人分空くだろ」
「なるほどね? 僕の負けだ」
「なんで吊るされることに対しての抵抗がゼロなん?」
はっ、とした表情のバカな千里は無視して日葵を見ると、むすっとして俺を見ている。なんでかな、なんて首を傾げるほど俺はバカじゃない。多分俺と一緒にキッチンに立ちたいって思ってくれていたからだろう。でもさ。無理じゃん。俺この前日葵と一緒にキッチンに立ったら面白いくらい一瞬で皿落とした男だぜ? 指全部切り落としても気づかないくらいのことはやらかす自信がある。前菜として俺の指のソテーを提供する自信もある。
「兄貴。ちがうじゃん」
「いやいや薫。わかるじゃん」
「ん-。それなら私が邪魔しないようにサポートするから、それならいい?」
「薫はいい嫁になるよ……」
「日葵ねーさん。三人で一緒につくろ」
「!!!!!!!! うん!!!!!!!!」
「わ、うるさくてかわいい。子宮が大至急孕めって言ってるわ」
「下品な上におもろないぞ」
光莉の気持ちもわかる。めっちゃくちゃ嬉しそうににこーって笑って大きく頷くなんて可愛さの化身だろ。日本が可愛さで偉さを決めるのであれば、日葵は内閣総理大臣になっていただろう。ちなみに薫も内閣総理大臣。あぁー。国会にいる日葵と薫を想像したら可愛すぎて脳が三つに増えちゃったぁ。
なんか今俺が怖いこと言った気がしたけど気にしない方向で。式場で結構時間を使ったのか、空が赤くなっている。海の近くだと空も綺麗で、街の方とは比べ物にならないほど透き通っているような気がした。気がするだけ。そもそも俺は空なんてあんまり見ない。
「どうせならデザートとかも食べたいわね。ホイップクリーム買いましょう」
「日葵に塗りたくって舐めようとしてんちゃうぞ」
「なんでわかったみたいな顔してるけど、朝日さんのこと知ってる人ならみんなわかると思うよ」
「えー。じゃあ日葵。私がクリーム口に入れるから、舌絡め合いましょう」
「なんでそれなら妥協すると思ったの……?」
「薫。ホイップクリーム買うととんでもないことになるから絶対買わないぞ」
「兄貴もちょっと期待してたでしょ」
「Huh??????」
俺が? 何を? 期待してたって? 別にクリーム塗りたくるのがものすごくえっちだとか、舌絡め合うのがものすごくえっちだとか何も思ってないけど? 変なこと考えないで欲しいな。俺は純粋無垢でそっち方面のことは何もわからない好青年なんだから。
「ったく、光莉はほんとにしょうがないやつだな。ところでバターとかは欲しくないか?」
「いいわね」
「いいわねちゃうぞゴミ。どうせならストレートにいやらしいことせぇや。なんでちょっとマニアックな方に行くん?」
「えぇー!? バターがいやらしいことなの??? わたしぃ、お料理に使うかと思ってぇ、いいわねって言ったんだけどぉ」
「朝日さんの猫なで声って果てしなくきもいね」
「似合ってないよ光莉」
「薫見てくれ。鳥肌立ちすぎて産毛が全部抜けた」
「え、きも」
「あれ? もしかして今私が損した形?」
煽ろうと思って慣れないことするから悪いんだよ。お前猫被ってると違和感すごいんだから。