【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第11話 実行委員を決めよう!

「えー、LHRの時間だ。今日は修学旅行の実行委員を決めようと思うので、決めてくれ」

 

 そう言って我らが担任は教壇から降り、教室の隅っこに椅子を持って行ってそこに座って寝てしまった。

 

 六時間目、LHRの時間。修学旅行の実行委員を決めるこの時間、普段の俺なら「早く誰か立候補しろよ」と思いながら日葵を見つめていただろうが、今回は違う。

 すぐに手を挙げて立候補すると、俺のことだ。どうせみんなから「何か変なこと考えてるんじゃないか?」と疑われるに決まっている。ここは少し待って、みんなから「早く誰か立候補しろよ」という空気が流れだしてから立候補する。これで完璧だ。

 

「はい! 実行委員つったら俺しかいなくね?」

 

 バカが現れた。

 バカの名前は井原蓮。俺と千里が付き合っていると勘違いされる原因となったあの日、俺たちのあれこれを目撃して、あろうことかクラスに広めやがった極悪人。そうだ、こいつ目立ちたがり屋でバカでバカだった。どうする? ここで俺が立候補したら、あのバカと一緒に実行委員になってしまう。

 

 いや、でもバカだし俺の言うこと素直に聞いてくれるだろ。めっちゃバカだし。

 

「んじゃ、俺も」

 

 やれやれ、誰もやりたくないなら仕方ないな。あくまでそういう雰囲気を醸し出しつつ手を挙げる。井原が「お、恭弥と一緒にできんのか! 楽しそうじゃん!」とバカみたいに喜んでいるが、俺はお前と楽しくやるつもりなんて毛頭ないし、むしろ立候補を取り下げてくれとすら思っている。

 まぁでも、これですんなり決まっただろ。話し合いは終わりだと実行委員らしく締めにかかろうとすると、誰かがぽつりと声を漏らした。

 

「バカと氷室にやらせていいのか……?」

 

 漏らしたその声は、クラス全員を巻き込むように伝播していく。

 

「そうだ、バカと氷室にやらせたらどうなるかわからない」

「バカはともかく、氷室くんがやばくない?」

「うん。絶対バカを裏で操って好き勝手する」

「まともな人とならともかく、バカと組ませたらダメだな」

 

 俺と井原の評価が抜群に悪いことを忘れていた。いや、井原というより俺の評判が悪いんだろう。井原はバカだがいいやつで、友だちも多くクラスのムードメーカー的存在。対して俺はクズ。信頼なんてあってないようなもんだ。

 このままじゃマズい。俺が実行委員になれない可能性が濃厚になってきた。クソ、バカが立候補しなきゃ俺が先に手を挙げて、とりあえず俺だけ実行委員決定みたいな流れにできたのに。

 

 少し離れた席にいる千里を見る。千里は俺と目が合った後、仕方ないなと言わんばかりにため息を吐いて、美しく手を挙げた。

 

「──僕と一緒なら、大丈夫じゃない?」

 

 流石だぜ親友。一体何をする気かは知らないが、あとは任せておけば大丈夫だろう。千里は頭が回るから、なんとか俺を実行委員にしてくれるはずだ。

 

「織部くんがいるなら安心ね!」

「んじゃあバカと織部でいいか?」

「え、でも織部くんと氷室くんって付き合ってるんでしょ? 一緒にさせてあげようよ」

「織部もそれ目的で手を挙げたんだろうしな!」

「ふっ、それならこの俺様も身を引かざるを得ない……! あとは頼んだぜ!」

 

 あーあ。そういや俺と千里付き合ってることになってんだった。日葵の勘違いが解けたから油断してた。そうじゃん。俺たち普通に付き合ってることになってんじゃん。やりにくいじゃん。修学旅行って学年単位だから当然実行委員は他のクラスとも話し合うから、他のクラスからも「やっぱり二人は……」って思われるじゃん。

 これ以上の被害拡大は避けたい。あくまで俺の目的は文化祭で千里との交際を否定しつつ日葵に告白すること。そのためにはじわじわと「あいつら付き合ってないんじゃね?」という疑問を拡大させていくのが重要だ。

 

 頼むぞ千里。俺たちが付き合ってないと言いつつ、俺を実行委員へと導いてくれ!

 

「はは。僕たち付き合ってないんだけど……うん。僕と恭弥なら息もあってるし、恭弥を止められるのは僕しかいないから」

「ヒュー! それで付き合ってないなんて嘘だろ!」

「氷室くん! 織部くんを泣かせちゃだめだよ!」

「なぁ、ホントに織部って男なのか?」

「バカ。氷室の前では女になるんだよ」

 

 なるわけねぇだろ。

 

 つか千里も何余計な言葉足しちゃってんの? 息もあってるのは本当で、俺を止められるのは千里しかいないってのもあってるけど、そんなこと言ったらノリのいいクラスメイトは騒ぐに決まってんだろ。まったく、親友だから許すけどな。

 

 千里の惚気(と思っている)クラスメイトが千里を囃し立て、大盛り上がりしているのを呆れて眺めていると、俺の肩を後ろから誰かが叩いた。

 振り向くと、朝日。そういや後ろの席だったなと思いながらぼんやりしていると、朝日がこっそり耳打ちしてきた。

 

「ちょっと、このまんまじゃ勘違い加速するわよ? 何か言った方がいいんじゃない?」

「んー、そうか。ノリいいから絶対この勢い止まんねぇもんな」

「うん。あんたはどうでもいいけど、このままだと織部くんがかわいそうだから」

 

 俺はどうでもいいのかよ。

 

 なんて言いつつ、朝日が俺と千里を心配してくれたのはわかってる。朝日はいいやつだ。俺と同じクズのにおいがするけど、いいやつであることは間違いない。だって日葵の親友だし、日葵の見る目が間違っているわけがない。

 そんな朝日の心配を有難く受け取って、俺はこの現状を収めるべく「おいおい」と言ってから、

 

「俺たちが付き合ってるわけないだろ? なぁ千里」

「うん、恭弥」

「こんなに可愛らしく『恭弥』って言うのに付き合ってないわけないでしょ!」

「織部が可愛いから付き合ってるのは間違いねぇ!」

「氷室くんさいてー。あとで謝っておきなよ?」

「なぁ朝日。これは俺が悪いと思うか?」

「織部くんが悪いわね」

 

 余計なことを言わず千里に話を振って、千里が俺の名前を呼んだだけでこれだ。俺まったく悪くないだろ。朝日も珍しく千里の方が悪いっていうくらいだ。これは確実に千里が可愛いのが悪い。っていうか千里、下の名前で呼んでるの俺だけだから余計に悪いんだよ。そりゃ疑われるわ。

 あと、やっぱり俺と千里が付き合ってたら千里は女役に見えるのね。別に、男同士が付き合ったとしても女役とか必要ないと思うんだけどなぁ。

 

「いや、だから違うんだって! 僕と恭弥は付き合ってないんだって!」

「あ、織部くん赤くなってる!」

「マジじゃん! かわいー!」

「世界一可愛いんじゃね?」

「織部くんの可愛さは世界一!」

 

 確かに千里の顔は赤くなってる。でもあれ恥ずかしいんじゃなくてただ単にブチギレてるだけだぞ。あいつ、あんな顔してるのに可愛いとか言われんの嫌いだからな。俺とか朝日とか、ある程度仲よかったら全然許してくれるけど、あんまり喋ったことのないやつから言われるとムカついて仕方ないってこの前言ってた。慣れろや。

 千里がクラスメイトから一斉に『かわいい攻撃』を受け、ブチギレそうになりながらも俺に視線を送ってくる。なんとかしてくれ、ってことだろう。ただ俺はこれ以上何か言うと俺と千里が付き合っているという勘違いが確信に変えられそうなので、無視することにした。

 

 しかし。千里をあっさり見捨てた俺とは違い、ある人物が叫び、クラスに静寂をもたらした。

 

「いい加減にしなさい!!」

 

 机を勢い良く叩いて立ち上がり、憤怒の表情を浮かべた朝日である。

 そうか、こいつ千里のことも友だちだって思ってて、そんな千里が嫌な目に遭ってるから庇ってくれるんだな。やっぱりいいやつだ。千里をあっさり見捨てた俺とは段違いにいいやつだ。きっと、友だちが嫌な目に遭うのが許せないんだろう。

 

「世界一可愛いのは日葵に決まってるでしょ!!」

「光莉!?」

 

 許せないのはそこかよ。

 違ったわ。こいつ、千里が嫌な目に遭ってるのが許せないんじゃなくて、『世界一可愛いのが千里』って言われてるのが許せないだけだわ。日葵大好きだもんな。日葵可愛いもんな。俺も世界一可愛いと思う。

 でも立ち上がってから「やっちゃった……」みたいな目で俺を見てんじゃねぇよ。絶対助けねぇからな。

 

「朝日さん? 確かに夏野さんは可愛いけど……」

「びっくりした。光莉ちゃん結構おとなしいイメージあったから」

 

 そういやこいつ外面はそんな感じだったな。気色悪いったらありゃしねぇ。

 

「ん? ちょっと待て。そういやこの前新聞で訂正されてたけど、朝日さんと夏野さんが付き合ってる、みたいな……」

「あ! そういうこと!? 実はあれ間違いじゃなくて、本当に付き合ってるみたいな!」

「マジかよ! 美男同士と美女同士で付き合うって、お前ら少子高齢化に貢献してんじゃねぇよ!」

 

 そして、朝日の余計な言葉で『日葵と朝日が付き合っている疑惑』がまた浮上する。朝日も朝日でほとんど日葵と一緒にいて他のやつらとはあまり一緒にいないという俺にとっての千里タイプ。日葵と付き合っていると言われても違和感がないことが、クラスメイトの興味に火をつけていた。

 

 流石にマズいと思った朝日が俺に顔を近づけてきて、耳打ち。「くすぐったい」と顔を赤くしてはしゃげば速攻でビンタ。お前、俺の頬は簡単に殴っていいもんじゃないんだぞ?

 

「どうしよう氷室……」

「知らねぇよ」

「ちょっと! 今まで私たちがあんたのことどうにかしてあげてたんだから、今回はあんたがなんとかしなさいよ!」

「俺も今ちょっとびっくりしてんだよ。なんで俺が何もやらかさずに、お前らが何かやらかしてんだよ。自分のポジションわきまえろよ」

「うっさいわね! 日葵は可愛いんだから仕方ないでしょ!」

「確かに……。たく、今回は日葵の可愛さに免じて助けてやるが、お前自身でどうにかさせるからな?」

 

 日葵と朝日が付き合っていないということを証明するためには、『朝日が男を好き』、もしくは『日葵が男を好き』と証明する必要がある。当然日葵に負担をかけるわけにはいかないので、ここは朝日に頑張ってもらうことにしよう。

 

「待て待て。それはこの前の新聞で間違いでしたって言われただろ? 第一、朝日には好きな男がいるんだよ」

「氷室くんがまた嘘ついてる」

「嘘つきは氷室の始まりって言われるくらい嘘つきなんだから、誰がお前の言うことなんか信じるかよ」

「ほんとだって。なぁ朝日?」

「え、えぇ!?」

 

 珍しく顔を赤くして慌てる朝日に内心ほくそ笑む。ざまぁみやがれ。俺が綺麗さっぱり気持ちよく助けると思ったのか? 今まで殴られた分、お前には恥をかいてもらう。ククク、自分と日葵が付き合っていることを否定するためには俺の話に乗るしかない。さぁどうする?

 

「い、いるわよ。いるわよ!!」

「えー、嘘! 誰!?」

「どうしよう、もしかして俺かも」

「いや俺だろ!」

「俺に決まってる!」

「わちきに決まってる!」

 

 なんか一人称がめちゃくちゃ個性的なやついたぞ。あとで友だちになろうかな……。

 しっかしこう見てみると、やっぱり朝日って男子人気すごいんだな。男子のほとんどが期待してるし。

 まぁ朝日は外面完璧で、自分のきつい口調を気にしておしとやかにするくらい人の目を気にする可愛らしい一面もある。その可愛らしさは嘘じゃなくて、本当に持っている朝日自身の可愛らしさだろう。顔もいい、おっぱいも大きい、クズだけどいいやつ、おっぱいも大きい。おっぱいが大きいから、おっぱいが大きいだろう。

 途中からおっぱいに脳を支配されてしまった。つまり何が言いたいかっていうと、朝日は男子の人気が出て当たり前のやつだってことだ。そんな朝日の好きなやつがいるって言われたら、食いつくのが年頃男女ってもんだろう。これで俺と千里が付き合っているということも、日葵と朝日が付き合っているっていうことも自然と忘れ去られるに違いない。

 

「うー……」

 

 気づけば教室は静まり返っており、立ち上がっている朝日にクラス全員の視線が注がれている。

 朝日は顔を赤くして、俺を睨んでいた。ハハハ。クラスメイトの前じゃお前は借りてきた猫。俺を罵倒することもできなければ、殴ることもできない。つまり俺が完全優位に立っている。朝日に注目が集まって自由に動けない今、俺は無敵だ。多分この後朝日に殴り殺されるけど、仕返しできるところで仕返ししておかないとな。

 

「ひ、光莉!」

 

 ガタン、と大きな音を立てて椅子が転がり、勢いよく立ち上がって静寂を打ち破ったのは、日葵。

 朝日に注がれていた視線は、自然と日葵へと吸い込まれる。

 

「無理に言う必要ないよ。好きっていう大事な気持ちは自分の中にちゃんとしまって、ほんとうに信頼できる相手、伝えたい相手に伝えるものだから」

 

 クラスの何人かは綺麗すぎる日葵の言葉と姿に死んでいった。かくいう俺もその死人の一人、いや筆頭であり、今後の人生を改めようと決意しているところである。

 

「日葵……」

 

 朝日はそんな日葵の光にあてられて、頬が緩まないように必死になっている。はた目からはわからないが、今まさに顔の筋肉と格闘しているところだろう。俺も日葵が大好きだからわかる。アレは耐えられないよな。耐えるのきついよな。俺は、俺だけはお前の味方だ。頑張れ。

 

「……でも今庇ったのって、嘘でも自分の彼女が他の男好きだって言ってほしくないからじゃね?」

 

 しかし心がないやつはいるもので、どうしても日葵と朝日が付き合ってるっていうことにしたいらしい。俺は今日、あいつを殺すために鬼になろうと思う。日葵とえっちするっていうゴールは遠のくが、これも日葵、ついでに朝日のためだ。千里にも手伝ってもらって、俺は千里と地獄に落ちよう。

 

 再び広がり始めた疑惑を終わらせるために、立ち上がろうと足に力を籠める。これはもうノリのよさで片付けられるもんじゃない。ただのゴシップ大好き人間どもだ。一度ぶっ飛ばしてやらないとわからないんだ、こういうやつらは。

 

「──教師として言わせてもらうが」

 

 俺の決意に割り込んで、教室の隅で眠っていた先生が低く、渋い声でクラス全員を黙らせる。お前が教師として何か言うことあんのかとツッコみたい俺を含めたクラス全員はなぜか、言葉を発せないでいた。

 

「人の色恋、興味あんのはわかるがあんまり突っついてやるな。夏野も言ってたが、そういう大事な気持ちは言いふらすもんじゃない」

 

 立ち上がり、ゆっくり歩いて教壇に立つ。

 

「あったかく見守ってやりゃあいい。囃し立てて成り行きで出来上がった恋は恋じゃない。……ま、朝日の好きな男が気になるなら、ちょっと待ってりゃすぐ答えはわかんだろ」

 

 先生は、小さく優しく微笑んだ。

 

「朝日ほどの女の子なら、どんな男でもすぐに振り向くだろうからな」

 

 きゃー! というほとんどの女子の黄色い声。自分から注目が外れたことで俺に制裁を加える朝日。肩を竦める千里、ほっとする日葵。

 先生らしいところあるじゃん。と感心していたのも束の間、「じゃあ実行委員はクラス委員にやってもらうか。そっちのが無難だろ」と言って俺は実行委員の地位から蹴り落とされた。

 

 最初っからそう言えや。あのクソ教師、自分がいいとこ持っていける場面がくるまで待ってやがったな? 俺は騙されねぇぞ。なぜならあの教師からは、俺と同じクズのにおいがする。

 朝日に顔面を机にこすりつけられながら先生に恨みを晴らすべく先生の名前を聞くと、「は? それはあれよ……そういえば名前聞いたことないわね」と謎に包まれた答えが返ってきた。

 

 なんかのうさんくさいネット記事で見たが、女の子は男のミステリアスな部分も好きらしい。俺も名前非公開にしようかな?

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