「そういえば薫ちゃんとゆりちゃんも一緒に入るのかなぁ」
「どうだろうな。薫は俺と一緒に入りたくないだろうし、ゆりちゃんは一緒に入ったら死ぬだろうし」
「薫ちゃんは恭弥となら平気だとおもうよ?」
部屋に戻って、色々準備をしながら、更にふらつく千里の介護をしながらゆったり話す。
薫が俺と一緒にお風呂なんて、聞いただけでぶち殺されるに決まってる。薫は俺のことを慕ってくれてるというかもうだいちゅきだが、それとこれとは話が別だ。俺も薫と一緒にお風呂ってめっちゃ気まずいし、どうすればいいのかわからない。というかそれはつまり千里と薫が一緒のお風呂に入るってことだから、千里が薫をめちゃくちゃ見るところを見なきゃいけないわけで、ということは俺が千里をぶち殺さなきゃいけないってことか。
酔ってるし今のうちに殺しとこうかな?
「……あー、あー。いや、やめとこう」
「なにが?」
「なにも」
少し善性が働いて千里と薫だけで入らせてもいいかもなと思ったが、その場合俺は男一人で女の子に囲まれる天国のようで地獄の空間に放り込まれることになる。そうなったら俺はおしまいだ。緊張と興奮と興奮で興奮してしまう。
修学旅行の時はお風呂に入ろう! って感じで入ってなかったから、あの時とはドキドキ度合いが違う。水着を着てるとしても俺の精神がぽっきり折れる。だからせめて同じ男が同じ空間にほし……。
千里がいたとしても一緒じゃね? だってめちゃめちゃ色っぽいぞこいつ。
「おふろたのしみだねぇ。のぼせないようにしなきゃ」
「今の千里わかりやすいから、なんかあったら俺がなんとかするって」
「へへ。ありがと」
しかもめちゃめちゃ可愛いぞこいつ。だめだ。千里を拠り所にしてたら一瞬で理性が崩壊してしまう。むしろ薫も一緒に入ってくれた方がいいかもしれない。ゆりちゃんにもそうだが、見ても興奮しない子がいた方が安心感がある。千里マジでどうなってんだこいつ。男のくせに男を興奮させてんじゃねぇよ。
「身内しかいないし、下だけでいいかな?」
「ふざけてんのか?」
「気にするの恭弥だけだよ……」
結果的に全員気にするんだよ。お前が上着てなかったら俺が見ちゃうし、千里を見ちゃってる俺を他の人が見ちゃうし、間接的に全員見ちゃうんだよ。頼むから着てくれ。胸無くて下ついてる女の子って言っても過言じゃないんだから。
西洋風の内装とは違い、館内着として用意されていた浴衣を持ち、下着やバスタオルを袋に入れて、自然と千里と腕を組んで部屋を出る。こいつ介護慣れしてきやがった。熱い体と赤い顔と柔らかい体が近くにあるってだけで俺の理性が殺されかけてるってのに、安心しきった顔で「えへへー」って寄りかかってきやがって。甘え上戸か? 最高じゃねぇか。
すれ違う大人からは温かい目で見られ、同年代くらいの人からは羨ましそうな、または嫉妬した目で見られながら廊下を歩き、日葵たちの部屋へ向かう。そうだよな。千里って見た目女の子にしか見えないから、ただのカップルにしか見えないよな。どうしよう。これで次戻った時にまたゴム置いてたら。俺使っちゃうかもしんない。ゴムハメるだけハメて気を落ち着かせるかもしれない。
流石にそんなことをしたら友情に亀裂が入るのでやめておこうと思う。ふっ、俺が理性的すぎて怖いぜ。
「ひーまーりーちゃん! あーそーぼ!!」
「すーみーれーちゃん! あーそーぼ!!」
理性的な人間らしく、日葵たちの部屋の前で大声で日葵を呼ぶと、千里も乗っかって薫を呼んだ。すると中から慌てたような足音が二つ聞こえて、勢いよくドアが開く。
「恥ずかしいから! 早く中入って!」
「酔ってる千里ちゃんならまだしも、兄貴が先にってどういう……まって。なんかしてきた?」
「シてねぇよ」
シてきたようにしか見えないってこと? 確かに千里、体重のほとんどを俺に預けてるけど。完全にデレデレ彼女のそれになってるけど。
薫のせいで日葵からの疑いの眼差しも強くなったため、逃げるように二人の間を抜けて部屋に入る。そして振り向いた。
「水着着てんじゃん」
「先に着替えておいた方がいいかなーって思って! ど、どう?」
「……かわいいけど、言うの普通に照れるから聞かないでくれ」
「兄貴が言わないからじゃん。男らしくない」
「へへー。薫ちゃんいっつも可愛いけど、水着姿も可愛いね。似合ってる」
「……」
薫が照れて黙ってしまった。かわいい。
日葵は修学旅行の時に着ていた水着と同じで、ってことはまだ春乃はプレゼントしてないってことか。どうせなら海で見てもらおうってことだろう。楽しいことが好きな春乃らしい。
薫は深い緑の水着で、がばっと胸が開いた三角ビキニ。おいおい。お兄ちゃんそんな刺激的な格好していいなんて言ってませんけど? おかげで千里がデレデレしちゃうじゃん。日葵も千里の視線から薫を守ってるし。でもそうすると千里が日葵を見ることになるから、つまり俺が千里の目を潰せばいいってわけだな?
「? どしたの、恭弥」
「なにも???」
目を潰そうと千里の顔に手を伸ばすと、潤んだ目をきゅるんとさせて俺を見てきやがった。クソ、酔ってるから鈍くなってやがるこいつ。いつもなら瞬時に目を潰されるって気づいて転がって逃げ回ってなんだかんだで光莉に殺されるのに。ずるくね? いっつもメスでクズなのに、酔うとクズな部分が引っ込んでただひたすらに可愛くなるって。光莉もこうなってくれ。なんであいつ全然酔ってねぇんだよ。
「ちなみにゆりちゃんは?」
「なんとか目隠しして耐えてる」
「風呂入れずにぶっ倒れるのはかわいそうだからな。よかった。えっっっっっ」
薫を見ながら歩いてたから気づかなかった。前を見ると、そこにはえちえち集団がいた。いや、えちえち集団が現れた。
光莉はイメージカラーのオレンジの水着で、言うまでもなくばいんばいん。俺に気づくと少し恥ずかしそうにしながらも「遅いわよノロマクズ。いくら這いずり回るしか移動手段がないとはいえ遅すぎるのよ死んだ方がいいんじゃない?」と可愛らしい憎まれ口を、可愛らしくねぇよなんだテメェ負けてもいいからやってやらァ!!
「ん? ありゃりゃ。千里まだふらふらやん」
「あら、ほんとね。大丈夫? お風呂入れそ?」
しかしそんな俺の怒りはえちえちの風神雷神を見ることにより吹き飛んでいった。
セクシーダイナマイトボディの聖さんは紐でマイクロで黒。セクシースレンダーボディの春乃はお腹と背中がぱっくり空いているレオタードのような水着で白。二人ともどこで売ってるんですかそれ。二人の間で可愛らしいピンクの水着着てるゆりちゃんが「えちえちおーらをかんじるよぉ……」って死にかけてるじゃねぇか。やめてやれよ。
あぁいいなぁ千里。俺も聖さんに優しく「お風呂入れそ?」って聞いてほしい。俺も酒飲もうかな???
「わ、ねえさんすごいの着てるね」
「お姉さんって感じがしていいかなーって思って。どう? 恭弥くん」
「お姉さんって呼べば奴隷にしてくれるって聞こえたんですが?」
「残念やけど言うてないで」
「ていうか春乃もなんだよその水着。似合ってるけど刺激的すぎじゃね?」
「ん-? んふふ。そやろ。誰かさんと違って胸無いから、こういう勝負の仕方のがええかなーって思って」
「おい。今私のことを胸にだけ頼ったパワーガールって言いやしなかったか?」
「パワーガールぴったりじゃん」
春乃に知らしめるように胸を押し付けながら光莉が乱入し、聖さんを見て「えっっっっっっ」と言って何かを飲み込んだ。そうだよな。えっろって言っちゃったら女として負けを認めることになるもんな。でもお前色気では圧倒的に負けてるぞ。
「お、おにおにおにいさま。なんかいま私の周りにすごいのが集まってきてませんか」
「絶対目隠し外しちゃだめだぞ。多分死ぬ」
「……お聞きしますが、目の前に楽園があるとわかっていてそれを見ないバカがどこにいると思います?」
武士のような覚悟を持ち、ゆりちゃんは目隠しに手をかけた。今死んでもいいから、楽園とも言える光景を目に焼き付けようと思ったんだろう。それなら止めはしない。俺もゆりちゃんと同じ立場だったら同じことをしただろうから。ゆりちゃん。君の名はこの地に刻ませてもらおう。
しかし、そんなゆりちゃんの覚悟を阻む者がいた。目隠しに手をかけたゆりちゃんの両手を、二人の人物が片方ずつ掴んで抑えた。
「こーら。だめでしょ? 目隠し取っちゃったら、すごーいお姉さんがいっぱいいるのよ?」
「ゆりちゃんとも一緒にお風呂入りたいし、今は我慢して。な?」
言って、優しくそっと目隠しを戻す聖さんと春乃。光莉は俺の後ろに隠れて「あれが『殺し』なのね……」と恐れおののいて、日葵は「ほあぁぁあああ」と色っぽい雰囲気に顔を赤くし、薫はシンプルにゆりちゃんの心配をしていた。わかる。だってあんなことされたら水着姿見なくても気絶しそうだし。
「あ、あが、あががががが」
「ゆ、ゆりちゃん大丈夫か!」
「しっ、兄貴話しかけないで! 今ゆりが心の整理してるから!」
「いやでもめっちゃ痙攣してるし口から泡が」
「大丈夫。楽しい思い出と引き換えに命をつないでるだけ」
「ゆりちゃんってなんでそんな悲しい生き物なんだ?」
ちなみに薫曰く、楽しい思い出っていうのは街中で見た綺麗な人とかその程度のものらしい。俺たちみたいなのは強烈すぎて忘れられないんだとか。じゃあ理屈で言えば俺たちとずっと一緒に過ごして、さらに外に出さなかったら死ぬってことか。
……ちゃんと気にしておいてあげよう。薫の親友だし。なんか俺の友だちっぽい個性してるけど。