「王様ゲームしない? 王様ゲーム。どうしてもいやらしいことがしたいの」
「お前もうちょっと欲望隠せ」
「あら、光莉ちゃん。私といやらしいこと、してみる?」
「よしよし、怖かったねー」
何をしようかと全員でボードゲームを見ていると、光莉が「いやらしいことをしたい」と言い出した。俺も賛成だけど、流石に薫がいる前でそんなことできない。かと思えば聖さんがいやらしい雰囲気を醸し出して光莉を撃沈。聖さんのいやらしオーラに討ち滅ぼされた光莉は泣きながら日葵に慰められていた。俺も撃沈してください。
「これとかどう? 『イト』!」
「イト? なんだそれ」
「1~100の数字が書かれたカードが1枚ずつ配られて、テーマに沿ってその数字を表現して、小さい順から並べられたら成功、みたいな」
「例えば『強い動物』がテーマで、自分が持ってる数字が『90』ならうずらってこと?」
「千里がうずらをめっちゃ強いって思ってるならそれで合ってるで」
なるほどね。価値観のずれを楽しむゲームってことか。俺たちまともな人たちばっかだから、案外すんなりいくんじゃねぇの? 何人か輪を乱しそうなやついるけどな。今それが露呈した千里とか、まだいやらしいことをしたがってる光莉とか。
「とりあえずやってみるか。薫とゆりちゃんもそれでいいか?」
「うん。いいよ」
「えぇ!? 私も一緒にやっていいんですか!!!!!!???? それは私も一緒にやっていいってことですか!!!!!????」
「せっかく一緒に遊びに来てるんだから、一緒にしよ?」
「ぁ」
「日葵ねーさん! 迂闊に優しくしないで!」
一瞬ゆりちゃんが灰になった気がしたが、薫が肩を掴んで引き留めたことでなんとか現世にとどまった。わかる。日葵の『一緒にしよ?』を正面からくらったらそうなるよな。灰になってもいいやって思っちゃうよな。ハイになるし。うふふ。
春乃が箱を開け、カードを配っていく。当然数字を言わずに表現して小さい順に並べることが目的なので、自分以外には見せない。春乃が1枚ずつ全員に配ると、お題カードをそっとめくった。
「『かわいいもの』やって」
「『日葵』」
「『うんち』」
「100と1が自首してきたね」
光莉が日葵、俺がうんちと答えると、一瞬で俺と光莉がみんなの輪から外されてしまった。俺は光莉と目を合わせて首を傾げる。いや、光莉が100を持ってることは間違いない。なんなら光莉は『100』って言ってたし。でも俺は1じゃないんだよ。
「可愛いもの……『男の子』、とか?」
「姉さんが持ってる数字によっては、僕は姉さんと縁を切ることを考えなきゃいけない」
「犯罪行為はせんやろから大丈夫やろ。ちなみに私は『ゴールデンレトリバー』」
「私は『ネザーランドドワーフ』かなぁ」
「犬とかうさぎとかって言わずに微妙な違いをつけてきてるね」
今のところ出てるのは『日葵』、『うんち』、『男の子』、『ゴールデンレトリバー』、『ネザーランドドワーフ』。かわいいものしか出てきてないな。全員60以上はある……あ、あれだぞ? 聖さん基準で考えて『男の子』をかわいいって言ってるんだぞ? 俺は別にかわいいなんて思ってないからな。だからそんな目で見てくるな光莉。俺がうっかり変な性癖になっちゃったらどうするんだ。
「私は『寝起きの兄貴』」
「私は『雲』です!」
「僕は『しそ』かな」
「薫ちゃんから見た寝起きの恭弥かぁ」
「薫ちゃんブラコンなとこあるし高そうな気もするけど、そこんとこどうなん? 恭弥くん」
「悲しいことに多分20から30あたりだと思う」
自分で言うのもなんだが、薫は俺のことを慕ってくれている。けどそれは別に俺がカッコいいからとかじゃなくて、ただ単に俺が薫の兄貴だからであって、だから薫は俺に対してかわいいとかカッコいいとか、客観的に見て「そうだろうな」って感じることはあっても、薫自身が思うことはない。漫画アニメに出てくるようなブラコンじゃないんだよな、薫は。ちょっと怪しいけど。
「千里の『しそ』は多分20から30あたりね。寝起きの恭弥くんと同じくらい」
「じゃあ恭弥の方が下か」
「千里。お前は俺をしそより下だと思ってるのか?」
「カッコいいとかなら恭弥の方が上だろうけど、かわいいだからね」
「確かにな?」
「どっちにしろ葉っぱに負けてんのよあんた。恥ずかしいと思わないの?」
そういえばそうじゃん。何が基準であろうと俺が葉っぱに負けてることには変わりないじゃん。でもいいか。しそおいしいし。しそ残すやつ信じられないんだよな。普通においしいし、内臓が綺麗になっていく感じするし。あくまで感じだけど。
「あんた食べた方がいいわよ。心汚いし」
「一緒に食べようぜ」
「えっ、う、うん……」
「光莉が乙女の顔してるけど、一体どこがツボやったん?」
「光莉って可愛いとこあるから、一緒ってだけで嬉しいんだよ」
いや、『お前も心が汚いから一緒に食べようぜ』って意味だったんだけど、何? それを理解したうえで一緒ってのが勝っちゃったの? お前時々本気で可愛いのやめてくれない? なんだかんだ一番ダメージデカいんだよ。そんで俺からちょっと離れるんじゃねぇよ。『近くにいると恥ずかしいから離れちゃお』じゃねぇんだよ。
「次は、うーん、『雲』? ゆりちゃんにとって雲がどんくらい可愛いかわからへんけど」
「それくらいだと思いますよ。ゆりが高い数字持ってるなら絶対人物名出しますし」
「70以上なら全部薫ちゃんって言っちゃう!」
「ゲームが破綻するからやめて」
そうなったらもう言い方で高いか低いか当てるしかないもんな。「薫ちゃん」なら70で、「薫ちゃん……♡」なら90。「薫ちゃん」って言って死んだら100。ゆりちゃんに100は引かせないようにしよう。死ぬから。
今のところ順番的には『寝起きの俺』、『しそ』、『雲』か。俺が一番下ってのが納得いかないが、薫基準だしまぁ仕方ない。俺は薫のやることならなんでも許してしまう性格の持ち主なんだ。
「次は……えーっと、聖さん。『男の子』ってどんくらい可愛いと思ってます?」
「岸さん、聞かないでくれ。ここは僕の信じたい気持ちを優先してここに『男の子』を入れてくれないか」
「多分『雲』が50あたりで『ゴールデンレトリバー』と『ネザーランドドワーフ』が70とか80とかだろうからな」
「『男の子』が70とか80とか行くとちょっとヤバイ人に見えちゃうものね」
なんか犯罪の香りがするんだよ、聖さんの場合。男の子からしたらどうぞ犯罪してくださいって感じだろうけど、千里からしたらやめてほしいことこの上ないだろう。実の姉がまさかショタコンかもしれないなんて。ちくしょう、俺がもっと若けりゃなぁ。
でももっと若かったら日葵は俺のことを弟としか思ってくれなかっただろうから、これでよかったんだ。俺のことを弟扱いしてくれる日葵も見てみたい気もするけど……俺が小さかったら光莉もおっぱい飲ませてくれたかもしれないし……。
「あっ、ち、違うんだ光莉!!」
「? なにが? 別に『もし俺がもっと遅く生まれてたら、みんなが目いっぱい甘やかしてくれて光莉はおっぱいも飲ませてくれてたかもしれない』って考えてたことが違うって?」
「光莉! 恭弥がそんなこと考えるわけないでしょ!」
「ひ、日葵の言う通りだぞ! 俺がそんな変なこと考えるわけないだろ!」
「ちなみに飲ませてあげてたわよ」
「実は俺今3歳なんだよ」
「3歳の恭弥……」
「なんか流れ弾で変な妄想に入った子おるで」
この中で3歳の俺を知ってるのは日葵と薫くらい。3歳つっても今とそんなに変わらない。それは嘘。3歳の頃の俺は可愛すぎて誘拐されかける度に頭がおかしいって判明してしまって放置されることが何度もあった。失礼すぎだろあの誘拐犯ども。ムカついたから犯人の特徴を絵にして警察に提出してやったわ。
ていうか今更だけど、俺の住んでる町異様に誘拐犯多くね? ヤバいだろ。日葵と薫が被害に遭わなかったのが奇跡みたいなもんじゃん。
「うーん、ほな主観やけど、次は『ゴールデンレトリバー』で次は『ネザーランドドワーフ』っぽいなぁ」
「一番人気のうさぎだっけ? それを持ってくるってことは結構高いってことだよね」
「おいちょっと待て。うんちをスルーしてねぇか?」
「……まさかとは思うけど、うんちをここに入れるつもり?」
俺と光莉は強く頷いた。俺も冗談でうんちが高い数字だって言うわけない。本気でうんちが高い数字だって言ってるんだ。
「恭弥の感覚がおかしいのはいつものことだとして、え、『男の子』より上なの?」
「個人の感覚の話だから別におかしな話じゃねぇだろ」
「限度があるやろ。『うんち』が『男の子』より上って、かつての自分より上って言うてるようなもんやで?」
「いやでも考えてみなさいよ。『うんこ』なら低いけど、『うんち』は可愛いじゃない」
「言ってることはわからなくもないけど」
「わかるんだ……」
流石千里。クズは考えてることが違うぜ。ただこのままだと俺に巻き添えを喰らって千里と光莉までもが変な目で見られてしまうので、一世一代のスピーチをお見舞いしようと思う。
「いいか。『うんこ』は確かに下品だが、『うんち』っていうのは子どもとか子どもっぽい女の子とかが言ってそうな感じがある。つまり『うんち』には『子ども』と『子どもっぽい女の子』っていう付加価値があるんだ。これを踏まえたうえで今一度『うんち』の位置を考え直してほしい」
「……ほな『男の子』の上にしてみよか」
結果、下から『寝起きの俺』、『しそ』、『雲』、『うんち』、『ゴールデンレトリバー』、『ネザーランドドワーフ』、『男の子』、『日葵』だった。笑ってる聖さんが怖かったのでみんな俺のせいにしてきたけど、いや、やべぇってあの人。今すぐどうにかした方がいいって。なぁ千里!
千里が死んだ目をしていた。そっとしておこうと思う。