「俺はここで寝ないからな!」
「でも今から千里追いかけても部屋入れてくれへんで」
「ほかの部屋って言っても聖さんとゆりちゃんのとこだし……」
「恭弥のご両親はセックス中だし。諦めなさい」
「懸念も含めると2/3セックスじゃねぇか。どうなってんだ」
流石に中学生には手は出さないだろうけど……。というか春乃、この状況にしたかったから薫を千里と二人きりにしたのか? 人の妹をなんだと思ってんだ。あと人の親友もなんだと思ってんだ。見事に二人ともつられて俺が大ピンチになってるけど。ほんとあいつらいい加減にしろよ。俺のことも考えてくれよ!
何が大ピンチかって、男一人に女の子三人っていう状況がまずピンチ。そしてその全員が俺に好意を寄せてくれてるってのもピンチ。ピンチのワンツーパンチ。ははは。
「くっ、お、男はオオカミなんだぞ! ちょっと気を許したら食べちゃ」
「ん?」
「あ。召し上がれ」
俺が男らしく腕まくりしながら襲うジェスチャーをとった瞬間、春乃のイケメンスマイルに正面から粉砕された。抱いてほしいメーターが視認できるなら、今の俺はマックスを突き抜けて天を貫き、一瞬で火星に到達して生活すら始めていただろう。微笑むだけで俺の抱いてほしいメーターに火星で生活させるとは、なんてやつなんだ。俺にもそれを習得させてほしい。
まぁもともとイケメンだから必要ないんだけどな。ふっ。今日も俺のイケメンさをしらしめてしまったぜ。さっき春乃に敗北宣言したのは気にしないでほしい。
「ってか、俺が寝るベッドがないじゃん。こりゃ無理だわ。俺寝れないわ」
「床で寝なさいよ」
「あ、そこは誰かが一緒に寝るとかで大騒ぎするんじゃないんですね……」
「ゆ、床はかわいそうだから、私のベッドで一緒に寝る???」
「大騒ぎしたそうな子がおるわ」
日葵と一緒のベッドで……? 俺変なことしない自信ないぞ。ドキドキして一睡もできない自信はある。っつーかそれは光莉と寝ても春乃と寝ても一緒だ。こんな魅力的な女の子と一緒のベッドで、変なこともせず安眠できる男なんてこの世に一人も存在しない。メスの千里ですらオスと化す。
だから、なんとしてでも回避しなければならない。考えらえる選択肢としては、ベッドが空いている聖さんとゆりちゃんのところに行くか、いろいろ怖い両親のところに行くかのどちらかだ。
なんて考えていると、着信音。スマホを見ると、父さんからだった。もしや俺の状況を見越して部屋にきていいっていうやつか!? 流石父さん。息子のことならなんでもわかってるんだな!
「もしもし!」
『俺と母さんは朝まで大盛り上がりだ』
「二度と俺に話しかけるな」
怒りに支配された俺は乱暴に電話を切って、連絡先から父さんを削除した。なんで電話してきやがったんだあいつ。息子にそんなこと言うか普通? 俺だってもう高二なんだから気ぃ遣って部屋に行こうとすら思わねぇわ。あのジジイ薫にも同じ連絡してたら縁切ってやる。
こうなったらもう聖さんとゆりちゃんの部屋しかない。ちょっとドキドキしながら聖さんに電話する。
『もしもし?』
「聖さん。色々あってそっちの部屋で寝かしちゃくれませんか」
『あら、いいの? 頂いちゃっても』
「失礼します」
だめだあの人。あの人からしたら俺でも男の子なんだ。あのまま乗せられて行っちゃってたら頂かれちゃってて千里と兄弟になるところだった。いや、将来的には兄弟になるんだけども、まさかお互いの姉妹と一緒になるなんて親友が過ぎる。
望みは絶たれた。流石に千里に連絡するなんていう無粋なことはできないし、薫もまた然り。ということは俺は今日ここで寝なきゃいけないってことで。
「ソファだ! ソファにしよう! な? お互い譲るべきところがあると思うんだ」
「床よ」
「お前は頼むから一緒に寝よって可愛いこと言ってくれ」
「一緒に寝よ?」
「いーや! 俺はソファで寝る!」
「言ってやったんだから一緒に寝なさいよ」
「わがままやなぁ。一緒に寝るのもいやで床で寝るのも嫌って」
「床で寝たくないのは普通だと思うよ?」
いや、床で寝るのもありな気がしてきた。一番ダメなのは一緒のベッドで寝る事だから、それを回避できるならどこでもいいってところもある。それにソファで寝てたらもしかしたら誰かがソファにきて、朝起きたら一緒に寝てましたみたいなことになりかねない。だったら床で寝れば、流石に女の子だから床で寝たくないだろうし、そんなこともなくなるだろう。
つまり、光莉はそのことも考えて床を推奨してくれていた……? なんてやつだ。俺に日葵がいなかったら間違いなく惚れてたぜ。今度遊び半分でハニーって呼んでやろうと思ったけど絶対地獄になるからやめておこう。
「わかった。なら俺は床で寝る」
「え? だめだよ恭弥。ゆっくりちゃんと休まないと、明日危ないよ?」
「俺天才だから大丈夫だろ。それに床も柔らかい気がしてるし」
「硬いで」
「事実を淡々と告げるな」
んなことわかってんだよ。絨毯の上で寝ても元々の床が硬いから絶対背中痛いし、腰も痛むし、明日の海で痛い目に遭うことはわかってる。でも女の子と一緒に寝る方が痛い目見るに決まってるんだよ。
「クッションつなげて寝れば大丈夫だろ。そうと決まればおやすみだ! ほら自分のベッドに行けー!! あれ? なんで光莉と春乃は俺にぴったりくっついてるの?」
「さっき一緒に寝よって言ったじゃない」
「チャンスやと思って」
行けー!! と言ったときに広げた両腕をかいくぐり、光莉と春乃が俺にぴとりとくっついた。正直夜に可愛い女の子にぴとりとくっつかれたら俺も俺で俺だから、俺が俺になって俺になる。は?
つまりとんでもなくとんでもない。俺は同じ体勢のままなんとか逃げようとちょこちょこ動くが、光莉は俺との無意識化の意思疎通で、春乃は持ち前の身体能力でぴったりくっついてくる。お前ら急速に距離縮めすぎだろ。俺が煮え切らないから実力行使しにきたの? それ正解。
「ふ、二人とも! 不埒! 不潔! すぐに恭弥から離れなさい!」
「あら。ちょっと冷房効きすぎてるからあったまろうと思っただけよ」
「そーそー。恭弥くんも寒そうにしとったし」
「助けて日葵!」
「ほら! 恭弥も助けてって言ってる! ほらおいで恭弥」
「布団開けて自分の隣にこさせようとしてる人に言われても……」
「欲望丸出しの日葵も好きよ。でも譲らない」
変な汗出てきた。夏だからかな? 違うな。女の子が俺を取り合ってくれてるっていうすごい幸せな状況だけど、同時にすごい気まずくてかなりマズい状況に冷や汗をかいてるんだ。どうしようこれ。俺が床で寝るってなっても光莉が怪力でベッドに引き上げてきそうな気がした。これは俺が外に出て砂浜で星を見ながら眠るのが一番いいんじゃないか? そんな気がしてきた。そうすればみんな平和で終わる。
「春乃。恭弥が砂浜で星を見ながら寝ようとしてるから絶対に放しちゃだめよ」
「おっけー!」
「お前恐ろしいってほんと。なんで俺の考えてることがわかるの?」
「砂浜で星を見ながら寝たいって顔に達筆で書いてあったわ」
「達筆なら悪い気はしねぇな……」
こいつの俺との以心伝心レベルがものすごすぎる。俺の考えてることをピンポイントで当ててくるから油断ならないどころの騒ぎじゃない。こいつの前じゃ迂闊に変なことを考えられねぇじゃねぇか。試しに考えてみよう。やーいおっぱいがデカくて態度もデカいクズ女。時々見せる乙女が可愛くて好印象だぞー。
「……」
「? 光莉どうしたの? くっついてて暑くなった?」
「ほんまや、赤くなってる。無理はしたらあかんで?」
「うそだろ」
思わず呟いた俺を不思議そうに見てくる日葵と春乃になんでもないと答えつつ、戦慄する。流れも何もなく、ただ考えたことなのに理解できるって、こいつ俺と脳が繋がってるとしか思えない。もしかして俺と光莉のファンタジーな物語が始まっちゃう? ダブル主人公で戦う物語がスタートしちゃう? ヒロインは日葵? それとも春乃? それとも千里?
いや、流石に偶然だろう。光莉はちょくちょく俺の考えてることを口にして正解してきやがるが、俺と光莉がちょっと似てるからちょっと考えればわかることなんだろうし。偶然にしろ必然にしろ気にしないことにしよう。
そんなことより、今の状況をどうにかしないといけない。三人の女の子を回避して一人で寝る方法はないか。無理だ。俺の優秀な頭脳をもってしても、可愛い三人の女の子に勝てるビジョンが見えない。
俺がそうして絶望している時、俺のスマホから着信音が聞こえてきた。春乃に腕が触れるのを少し気にしながらスマホを取り出すと、画面には千里。
「もしもし! 千里!? どうした千里! 愛してるぜ千里!」
『わ。どうせ困ってるだろうなって思って連絡したけど、ほんとに困ってそうだね』
「おいお前ら。千里から電話きたから一旦離れてくれ。千里の声は集中して聞くっていう決まりがあるんだ。これを破ると死ぬ」
「みてみて。おっぱい」
「むひょひょー!」
「恭弥くんが死んでまう……」
『恭弥。今薫ちゃんを送り届けて君を迎えに行こうとしたんだけど、もしかしていらない?』
「いる! いるから! ほんと愛してる! 俺と結婚してくれ!」
『またいつかね』
ふふ、と笑って千里は電話を切った。流石千里。俺のことをわかってくれてる。薫との時間じゃなくて俺を優先してくれるなんて、申し訳ないけどめっちゃ助かった。
「いやぁ、今から千里が迎えに来てくれるらしい。悪いな。一緒に寝られなくて」
「……恭弥、行っちゃうの?」
「行かないよォ??? 日葵とずっと一緒にいたいって思ってたん、だ~!」
「ここで部屋に入ってきた千里に感想を聞いてみようと思います」
「野垂れ死ね」
「以上千里からでした。おやすみな千里」
日葵が可愛すぎて溶けてる間に千里がきたらしい。俺は慌てて千里に追いついて、縋りついてなんとか許してもらった。ありがとう。今度お詫びにメスにしてやるよ。