「当たり前のようにゆりちゃんが死んだわけだけども」
「日葵ねーさん……」
「違うもん! あの、その、春乃がくれたから、せっかくだから着たいなって!」
「ちなみに光莉も嘘みたいに鼻血出して死んだぞ」
「あれは完全にコメディの住人やから大丈夫やろ」
日葵に上着を着せて、細心の注意を払いながら海にやってきた。
到着した瞬間、光莉が鼻息を荒くしながら「悪さをするのはこの上着か!」と言って日葵の上着をはぎ取り、「ウワー!!!!!!!!!!!」と言って鼻血を出しながら3メートルくらい飛んでいった。完全にコメディの住人である。
綺麗な海の近くに赤い海を作る光莉、一方その頃ゆりちゃんは普通に死んだ。「清楚美少女えちえち水着核爆弾……」と言いながら幸せそうな顔で息を引き取ったのは記憶に新しい。あの子生きてる時間の方が短いんじゃねぇの?
「ん-。思ったより日葵がえっちすぎたわ。見てみ恭弥くん。そこら中の男がめっちゃ見てくるで」
「はい! シャバダバシャバダバ一等賞! シャバダバシャバダバ一等賞!」
白目をむき、舌を限界まで伸ばして両腕両脚をばたつかせながら叫んでそこら中を走り回ると、日葵たちに寄せられていた視線が一切なくなった。
「これでどうだ」
「スマートって言葉覚えた方がええで」
「僕は気持ちの悪い兄に幻滅した薫ちゃんと遊んでくるね」
「日葵ねーさんと一緒にいるから、千里ちゃんはキショゴミと遊んでて」
「おい薫。今もしかしてお兄ちゃんのことをキショゴミって呼んでなかったか?」
俺の疑問に対し、薫は舌をべっと出して日葵を連れて行ってしまった。元々薫が日葵と遊びたいって言って計画したから仕方ないけど、せっかく俺が男どもの視線から守ってやったのに薄情なやつである。
千里も好きな子と海で遊べないとなってがっかりしてるかと思いきや、「ABBCEDDCFG……」とABCの歌に合わせて海にいる女性の胸を査定している。面白そうだったので千里の肩を叩き、血の海に倒れている光莉を指した。
「……H???」
「嘘だろ?」
「ほんとほんと。HでH」
「千里。私の方見たらぶっ殺すで」
「極A」
血の海に死体が増えた。見たら殺すって言われてたのに……。
薫が日葵を連れて行って、いつの間にかゆりちゃんが復活してそれに合流し、血の海に千里と光莉が沈んで、俺と春乃の二人になったところでふと大人三人組がいないことに気が付く。
「そういやうちの親と聖さんは?」
「えーっと、ん-、恭弥くんのご両親は頑張りすぎたとかで、聖さんは男漁り」
ほら、と指さす春乃に従ってそっちの方に目を向けると、男たちを椅子とひじ掛けと飲み物置きと自動食べ物運びにしている聖さんがいた。あれ男漁りってよりただ男を奴隷にして楽しんでるだけだろ。まったく羨ましい。俺も聖さんの足置きにさせろ。
まぁあれは別に注意しなくてもいいだろう。聖さんは彼女持ちに手を出すような人じゃないから全員独り身だろうし、聖さんにあんなことされて、もしくはあんなことできて喜ばない男がいるはずがない。逆にあれを止めたら俺が殺される。
「よし、じゃあ俺たちも海行くか」
「光莉と千里はほっといてええの?」
「どうせ海に行くって言ったら元気になるだろ」
「まぁそこに海があれば元気になるわよね」
「さぁいこう。海が僕らを待ってる」
「リビングデッド……」
綺麗さっぱり血の海も消え失せ、千里と光莉が復活した。さっきの量を見る限り出血多量で死ぬ量だったけど、この二人なら大丈夫だろう。殺しても死なないようなやつらだし。
「今薫に近づいたら俺がめっちゃ引かれそうだから、近づかないように遊ぶか」
「情けない兄貴だね。僕は薫ちゃんに近づこうと思う」
「それは日葵に近づくってこと???」
「さぁこの四人でできる遊びを考えよう」
「情けないメスやな」
情けないからメスなんだろ。と喉まで出てきたから気持ち悪くてそのまま言ってしまうと、千里は顔を赤くしてぷるぷる震えて怒り始めてしまった。ただただ可愛いだけなのでうふふと笑いながら光莉と春乃の三人で和やかに千里を見ていると、千里が憤慨して一人で海へと走っていってしまう。
ナンパされはじめた。
「あーあ……」
「言わんこっちゃない」
「面白そうだからこのまま犯されるの待ってみる?」
「お前は悪魔か」
いかにも金髪で「俺たちチャラいですよ」と見た目でアピールしてくるお兄さんにナンパされる千里。遠目から見ても泣きそうになっていてもう見てられない。なんであんなに可哀そうなんだあいつ。あいつだって好きであんな顔と体と匂いに生まれてきたわけじゃないんだぞ。あいつだって男らしくしたいんだぞ!
面白いから一生あのままでいてほしい。
「ちょっとすんません。この子俺のなんで、手ェ出さないでくれます?」
「恭弥ぁ……」
「あっ、す、すんません。お兄さんの彼女さんでしたか。ははは……」
千里の手を引いて抱き寄せ、お兄さんを睨みながら言うと、お兄さんは冷や汗を流しながら退散した。千里を狙うなら俺くらいカッコよくなってから出直せ。あと俺くらい頭おかしくなってから出直せ。それでも無理だから。
「あんたさ。あんたさ……うーん。なんかね。私の時と違くない???」
「だからさ。千里と光莉じゃ違うじゃん。千里は一人だったら確実に持っていかれるけど、光莉は一人でも相手をなぎ倒せるだろ」
「恭弥くん。光莉も女の子なんやからそんなん言うもんちゃうで」
「信頼の証だったのね。ならいいわ」
「ええんかい」
俺の腕の中でほっと息を吐く千里を撫でながら、「怖かったねー」と言うと小さく頷いた。この可愛い生き物は俺のものです。誰にもあげません。
あとで聖さんに挨拶しにいかなきゃ……。
「千里が傷心のままだと海で溺れ死ぬから、日葵と薫とゆりちゃんに喜んでもらえるような砂の建造物作らね?」
「今から私が全裸になるから、砂で固めなさい」
「なんでそれで喜ぶと思ったん?」
「こいつ頭おかしいんだよ。言ってやるな」
光莉に伸ばしていた手を下ろして肩を竦める。危ない。ノリノリで光莉を脱がすところだった。合法的に光莉の裸が見れるからって調子に乗るところだった。そうだよな。おかしいよな。俺も一瞬いいアイデアだと思ったけどおかしいんだよな。光莉の砂の像(中に本人アリ)は男しか喜ばない。というか砂がいらない。
「ん-、せっかく近くに水場があるし、村でも作るか」
「村?」
「設計図は書き終わったよ」
「設計図?」
「ちょっと。私と日葵の愛の巣が設計図にないんだけど」
「それはいらんやろ」
俺たちの村を作ろうプロジェクトが着々と進行していき、困惑していた春乃が光莉の『愛の巣がない』というクレームにだけしっかり反応した。それなら大丈夫だ。春乃は頭が回るし適応力高いし、すぐに村を作るのに手を貸してくれるだろう。
海から道を作るように掘っていって、水路を作って川に見立てる。もうこれだけで村っぽい。あとは周囲に砂の家を建てれば完成だ。なんか水着の上から砂を塗りたくってるバカ女がいるけどそれは無視して俺も砂を塗りたくろう。
「千里千里。あの日葵大好きなバカ二人は、あれでほんまに喜んでくれると思ってるん?」
「いや、思ってないと思うよ。でもあれをしてたら、夏野さんが慌てて二人の砂を崩しにきてくれるでしょ? だから合法的に触れてもらえるんだ」
「あー! 千里が私たちの最高でクールな計画をばらしたー!」
「いや! まだ日葵たちにはバレてない! 戻ってくる前に早く塗りたくるぞ!」
「そうね。でも自分じゃ体全部に塗れないから、恭弥が塗ってくれない?」
「待てや! 海で特殊プレイ始めようとしてんちゃうぞ!」
「大丈夫だよ。恭弥はいやらしいものに耐性がないから、もう菩薩になってる」
誘惑に負けてしまいそうだった俺は、心を無にして菩薩になった。ゆりちゃんにこっそり教えてもらったんだ。心を無にすれば、何事も冷静に見えて光莉のおっぱいが大きい。ん? 春乃の腕と脚が綺麗? ん? 千里の体のラインがセクシー? ん?
冷静に周りのえっちなところが見えてくるだけだった。余計ダメじゃん。ゆりちゃんあてになんねぇな。あんなぶっ倒れてる子に頼ったのが間違いだった。俺にこれ教えてくれた時も結局ぶっ倒れたし。
「それにしても体についた砂が気持ち悪いわね。海に行きましょう」
「そうだな。ったく気色ワリィ。なんだってこんなに砂がついてんだ?」
「びっくりした目で僕を見ないでよ岸さん。あの二人が意味のある行動をするわけないし、自分の行動をいちいち覚えてるわけないじゃないか」
ごちゃごちゃうるさい千里を放置して、光莉と走って海に飛び込んだ。光莉のジャンプの仕方がもう猿みたいに豪快だったのは気にしないでおこう。あんたね。女の子としての恥じらい持った方がいいよ。千里なら内股になってきゃって感じで飛び込んでたぞ。
「フゥー!! キモチィ!!」
「光莉。自分が女の子だって自覚をもっと持て」
「あぁん! 気持ちぃ!」
「なんてこと言うんだお前は!!」
「何やってるの二人とも……」
「嬌声が聞こえた思たら光莉か。ならええわ。……?」
「そういや日葵たちどこ行ったんだろうな。俺たちがこんだけ騒いでもこないなんて」
毒され始めた春乃が首を傾げて困惑しているうちに、その事実に気づかないよう話題を変える。その事実に気づいちゃうと自分がとてつもなく低い位置まで落ちてしまった気がしちゃうからな。俺は気遣いができる男なんだ。
ただ、適当に話題を変えたわけでもない。日葵なら俺たちがこんだけ騒いでたら自分だけ仲間外れにされた気がして寂しくて近寄ってくるだろうに、なんでこないのか不思議に思ってたところだ。俺と同じくらい日葵を理解している光莉も「たしかに」と頷いて周りを見て、俺と同じところを見て固まった。千里も同じところを見て固まっており、春乃も同じところを見て「あーあ」と誰かを可哀そうに思っているかのようなため息。
俺たちの視線の先では、男どもに声を掛けられる日葵たちの姿があった。
「殺さんようになー」
俺たち三人には春乃の声は聞こえておらず、三人で水面を走って男どもをぶちのめしに向かった。